【完結】俺の愛が世界を救うってマジ?

白井のわ

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光と影が、共に歩める可能性

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 拮抗していた。三対一、数では圧倒的に上回っている。おまけにあちらは手負いの身だ。

 だというのに気を抜けば押し負けそうになる。仲間の身に危機が迫る。息継ぎをする間すら与えてくれない猛攻に、緑山達は徐々に追い詰められようとしていた。

「ッ……馬鹿力にも、程があるでしょ……」

 鋭く弾かれた槍から伝わる振動に、腕を震わせた黄川が舌打ちをする。

 耳を塞ぎたくなるような雄叫びを上げ、鎚矛を振るう鎧兜。暴れ狂う獣と化した男の一撃が、体勢を崩した黄川に迫る。

「緑山、合わせてくれ!」

「はいっ!」

 彼の危機にすかさず飛び込んできた赤と緑。間に割り入った赤く輝く大剣が、緑に輝く斧槍が振り下ろされた重い打撃を受け止め、押し返す。

 後退った鎧兜に、噛み締めた歯の隙間から安堵の息を漏らしたのもつかの間だった。

「くっ、マズいぞ……皆!」

 鎚矛の先に集い始める闇。レン達を襲った黒い太陽が再び形成されようとしている。背筋をざわりと走った悪寒に赤木が仲間達へ呼びかけるも一足遅かった。

 放たれた黒い輝きが、白銀を纏う三人を飲み込むように影を落とす。

 そして、声すら上げられず光の爆発に巻き込まれた。



 薄闇に響く高笑い。

 一人立ち尽くす鎧兜の胸元に青い閃光が刺さる。驚く間もなく光輝く赤、黄、緑の刃が続けて突き立てられていく。

「な……ぜ……?」

「今度は間に合いましたね」

「ああ、君のお陰だ。レン」

 男は己の目を疑った。それも当然のハズだ。確かに感じた手応え。だというのに神の守護者達は一人も傷を負っていない。

 それどころか増えている。

 青と黒、眼鏡をかけた青年と、神子を抱き抱えた自分の息子。同じ邪神の守護者である彼が白銀の鎧を纏っていたのだから。

「馬鹿な……」

 光と影は互いに必要とし合うが、決して相容れぬもの。それが男の一族に伝わる教えだった。

 だがどうだ? 守護者達を守り抜いたであろう黒く輝く光の翼。息子が纏う力には、光と影が共存している。

「こんなこと、起こる訳が……」

「起こしたじゃないか」

 見通されたみたいだった。

「彼等が示してくれたじゃないか、光と影が共に歩める可能性を。だから、どうかボク達に協力してくれないか? 世界を貴方の大事な人を救う為に」

 白衣の男が言葉を重ねる。手を差し伸べてくる。彼の傍らで神の守護者達が、息子が、神子が頷く。

 ずっと心の何処かで願っていた光景だった。出会うには遅過ぎた、希望の光だった。

「……三百年もの間私は耐えたのだぞ? それを今更何を偉そうに。全ては貴様達が招いた結果だろう? 愛を、喜びを、幸せを分かち合い……光の力を高める役割を忘れた挙げ句、絶えず争いを繰り返し、奪い合い……悲しみで、怒りで、苦しみで影の力を増長させ……邪神の下僕等という影を生み出すまでに至った、愚かな貴様達のな!」

 枯れたと思っていた涙が頬を伝う。ずっと溜め込み、飲み込んでいた感情が喉の奥から溢れ出す。

「何をしてくれた!? 貴様達は世界を汚してることにも気づかずに、ただのうのうと暮らしていただけではないか! 私達は民を犠牲にしてまで、神子を……セレネを柱にしてまで影と光の均衡を保ってきたというのに!」

 何故もっと早く……もっと早く彼等に出会えていれば……胸を掻きむしりたくなる悔恨が、憤りが邪魔をした。歩み寄ることを、その手を取ることを。

「もう沢山だ! 私は民を、セレネを取り戻す! その結果邪神が蘇ろうと、世界が滅びようと知ったことか!!」

「そんなこと、セレネさんは望んでなんかいません!」

 いつの間にか己を見上げていた瞳。知ったような彼の言葉が、彼女に似た真っ直ぐな輝きが余計に苛立ちを募らせた。

「何が分かる!? 貴様ごときに彼女の気持ちが」

「声を聞いたんです」

 透き通るような声に思わず惹かれるように耳を傾けていた。

「泣いてました……ブライさんを、貴方を止めて欲しいって……約束したんでしょう? 共に世界を守るって……今は離れ離れになっても、いつか必ず巡り会えるから悲しむことはないんだって」

 瞬く間に消えていくのが分かった。尽きることなく燃え盛っていた怒りが。

「何故、貴様が私の名を……何故、彼女との約束を? 本当に……彼女が?」

 気がつけば伸ばしていた。震える手を彼女に繋がる唯一のよすがに。小さな手から包み込むように握り締められ、微笑みかけられる。

「頼まれたんです。貴方を助けて欲しいって……キョウヤさんのことも」

「そうか……私は、何てことを……」

「まだ間に合います。俺達と一緒に探しましょう? 邪神を復活させずに、セレネさん達を助けられる方法を」

「っ……」

 握り返し、何度も頷き、言葉にならない感謝を伝える。ようやくこの場に居る全員の心が一つの目標に向かって進み始めていく。その矢先だった。

 祭壇の頂上に祀られていた黒い炎が揺らめく。その上の空間が割れていく。割れた硝子のようにヒビの入った景色から、影と似た虚ろな腕が何本も伸びてくる。

「何? アレ……」

「まさか、邪神が?」

「そんな、まだ愛の輝石を捧げていないのに……」

 呆然と呟く黄川、鋭く瞳を細め大剣を構える赤木、同じく自分の獲物を握り直したものの動揺を隠しきれていない緑山。彼等に答えを示すようにブライが静かに語り始める。

「怒り、悲しみ、苦しみ……負の感情が影の力を高め、邪神の糧となる。私は人々を影に変えることで世界を恐怖で染め、それらを捧げてきた。あと一歩まで来ていたのだろう。輝石が無くとも、蘇られる程にまで」

 言い終えたブライは、繋がれたままの温もりを優しく手放した。疑問と心配の混じった眼差しを向けるレンに、胸に手を当て恭しく頭を下げる。鎚矛を手に、自分の過ちへと向き直った。

「父上? 何を……」

「私が時間を稼ごう。光の神子よ……愛の輝石に祈りなさい。それは純粋な想いの結晶、いわば光の力そのもの。影の力を弱め、崩れた光と影の均衡を戻すことが出来る。そなたの祈りと合わさることで邪神を封印することが出来る筈だ」

「でも、それじゃあセレネさん達が……」

「……今は叶わぬとも、いずれ必ず会えるだろう。そなた達が居るのだから。そのいつかの為にも先ずは世界を守らなければ……済まなかったな」

 振り返ることはなかった。

 ひび割れた宙から溢れ出す闇へと一目散に駆けていく。信じていたのだろう。その身を盾にし彼等を守ること……それが己が出来る唯一の贖罪だと。
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