【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】最終日:たまたまだ、たまたまに決まって

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 思い至った、一番納得がいく答えを述べれば、バアルは動きを止めた。ああ、なんだ。やっぱり、お腹が空いていただけだったのか。

「何か、頼もうか? ルームサービス。何が食べたい?」

「……しょうか」

「ん?」

 おずおずと首元から離れていく。

 額を寄せて、見つめてきた眼差しはまたしても寂しそうに細められていて。俺の心を甘く擽ってきた。

 もう分かった。分かりました。この後に何を強請られてしまうかなんてさ。

「まだ、今暫く……もう少しだけ……このまま……駄目でしょうか? 甘えさせては頂けないでしょうか?」

「っ、うぅ……」

「アオイ……」

「もう……」

「アオイ……っ」

 額に口付けただけで、ぱあっと明るくなっていく表情に胸の奥が擽ったくなる。喜びが込み上げてしまう。幸せだなって、満たされていく。

 ホントにズルい人だ。あの目で見つめられてしまうと俺が断れないって分かっているクセに。

 窓からの日差しを受けて淡く輝いている羽が、花咲くように大きく広がっていく。腕だけでなく、羽からも抱き締められようとしているみたい。鏡のような光沢を持つ4枚が、バアルごと俺を包み込んでいく。まるで水中で目を開けたかのような。羽越しに見えている周囲の景色がボヤけて見えた。

 左右に揺れている触角は、まるでわんこの尻尾のよう。こうもあからさまなご機嫌っぷりを見せられてしまうと何も言えなくなってしまう。ただただ、バアルが満足してもらえるまで甘やかしてあげたくなって。

「ん……?」

 ただ擦り寄ってきてくれていただけの胸元から感じた淡い感覚。確かに背筋を甘く撫でていってしまった感覚に胸がざわつく。

 もしかして、さっきいっぱい噛まれちゃったから? 意識しちゃってたから?

 どうしようと焦っている間も、バアルは甘え続けて暮れている。それに関しては一向に構わない。寧ろ、もっと甘えて欲しい。欲しいんだけれども。

 やっぱり淡い感覚も、再びもたらされてしまっていた。でも、まだ偶然かも。いや、そうに違いない。たまたまだ。たまたまに決まっている。バアルの鼻先や唇が、たまたま俺の弱いところを掠めてしまっているだけで。

「あっ……ぅ……」

 それにしては、的確なような? あそこにばっかり触れてきているような? おまけに服越しとはいえ、唇で食まれてしまっていて。

「ば、バアル……んっ……ちょっ、な、なに? どうしたの?」

 流石にこれ以上は。幅の広い肩を掴むと、バアルはあっさり止めてくれた。俺の腰を抱き寄せる腕の力はそのままに、真っ直ぐな眼差しで見上げてくる。

「……甘えさせて頂いているだけですが?」

「へ?」

 その一言と、顔を赤く染めながらもしれっとした表情に気付く。どうやら確信犯だったらしい。

 堂々と開き直ってきたバアルは、もう話はついたとばかり。羽をはためかせながら、いそいそと俺の胸元へとまた顔を寄せてくる。

 そればかりか、手の動きまでもが妖しくなってきた。ズボン越しに尾てい骨を撫でてくる指先の絶妙な力加減に、また背中を淡い感覚が撫でていく。腰がそわそわ揺れてしまう。

「ん、ぅ……えっと……じゃあ、もしかしなくても……そっちの意味でもってこと?」

「……駄目でしょうか?」

 分かってて聞いてるよね?

 出かかっていた言葉を寸前で飲み込む。言ったところで結果は同じ。敵わないのだから。寂しそうに見つめてくる眼差しには。

「いいよ……バアルの好きにして……」

 しょんぼりとしている顔を両手で包みこんで口付けた。心の中ではとっくに勝ち誇っていただろうに、ほんのりと赤く染まっていく頬に悔しかった気持ちが少しだけ和らいでいく。何だかいい気分だ。

 耳元でベッドが軋む音がした。少し下にあった緑の眼差しが、いつの間にやら俺を見下ろしている。引き締まった長身が俺に影を落としている。

 チェックアウトって何時だったっけ。まぁ、バアルのことだ。ちゃんとその辺は考えていてくれるよな。それに、いざとなったらコルテが事前に教えてくれるかも。

 唯一気になっていた事柄を自分勝手に処理してから、熱のこもった瞳に微笑みかけた。今にも俺の首元へと食らいついてきそうな彼へと手を伸ばす。

「ん……」

 無遠慮にのしかかってきた愛しい重みを抱き締める。勢いよく首元に食い込んできた鋭い熱さが、瞬く間に頭の芯まで痺れさせていく。

 反射的に彼の背中を引っ掻くように布地に爪を立ててしまっていた。大きく広がっていた羽がどこか嬉しそうにはためく。首元で小さく笑う気配がした。
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