1,479 / 1,566
【新婚旅行編】最終日:であれば、教えて差し上げなければ
しおりを挟む
良い知らせであると分かったのであろう。誰かは分からぬが、ホッと息を吐いた。
「このまま魔力の乱れがなければ、たとえ罪を犯した人間が増えようとも我らの国に穢れが発生することは二度とないであろう」
「とはいえ油断は禁物じゃ。今は良くても、今後不測の事態が起こってしまうとも限らん。無論、その為の対策はすでに取っておるがの」
「大樹の魔力量、魔力の流れの測定。それから、大樹の衰えを少しでも防ぐべく、兵士数人で直に魔力の供給を行っておる」
「では、レダ殿が居なかったのは」
「うむ。大樹の件と共に、以前穢れていた大地の様子を数人の部下と共に見に行ってもらっておるのだ。午後には帰ってくるであろうが」
バアルは納得したように小さく頷いたが、彼の膝の上に座るアオイ殿は何やら不安そうである。愛らしい顔から笑顔が消えてしまっておる。
「アオイ殿」
「はい」
「気になることがあれば、何でも聞いてくれて構わぬぞ」
促せば、アオイ殿の表情が僅かに和らいだ。それじゃあ、と遠慮がちに尋ねてくる。
「……毎日、行っているんですか? その魔力の供給って」
「うむ」
頷けば、アオイ殿の表情が忽ちくしゃりと歪んだ。致し方がないことである。魔力を渡すということは、自身の体力を削るということ。その量によっては、渡す側の方が命を削りかねない。不安なのであろうな。
「なに、心配することはない。その日、特に調子が良いものを派遣しておるし、供給する魔力量自体も皆の負担にならない程度に抑えておる」
「そもそもですが、我らが神が遺された大樹のお陰で一部の人間様の反乱は一切起きなくなりました。ですから、その為の毎日の見回りも必要無くなりました故」
私の言葉にすかさずレタリーが付け加えても、アオイ殿の不安を完全には拭えていないようだ。まだ、その細い眉は下がったまま。表情も曇り空のまま。
こればかりは、バアルが宥めるように彼の背を撫でたところでも効果は薄いようである。
これは、確かな意見とデータを元に更に言葉を重ねるより他はない。
「兵士達から意見を募ったが、寧ろ遠征が楽になったとのことだ」
「え……」
「元々、彼らに向かってもらっていた先は穢れの侵食が進んでおった土地であるからな。そちらへと向かう際の魔力量の消費に比べれば、大樹への魔力供給は微々たるものである。どうだ? 多少は胸のつかえがおりたかな?」
「はい……」
納得は出来た。安心もした。だが、まだ何やらモヤッとするといったところであろうか。優しい彼のことだ。何か自分が力になれることはないだろうかと考えておるのであろう。
であれば、教えて差し上げなければ。すでに十分に皆の力になれていると。
「ああ、そうであった、そうであった。このような意見もあったな」
「……どんな意見か、お聞きしても?」
「うむ」
遠慮がちに尋ねてきた彼に頷いてから、私は微笑みかけた。
「アオイ殿の焼き菓子が恋しいと」
「っ、」
「どうやら、皆、貴殿の差し入れに随分と元気をもらっておったようであるぞ?」
目を丸くして息を呑んだかと思えば、表情を明るく輝かせる。しかし、満面な喜びを見せてくれたのは束の間で、すぐさま照れが混じっていった。
コロコロと表情を変えているアオイ殿をバアルは得意気に微笑みながら見つめ、羽をはためかせる。
「アオイ様の焼き菓子は美味しいですもんねっ」
これまた得意気に、自信満々に、そして無邪気に。グリムがその小さな鼻を鳴らしながら言い放ったことで、微笑ましい表情が見えなくなってしまった。バアルの胸元に顔を寄せながら縮こまってしまわれた。真っ赤な耳は隠せてはいなかったが。
「このまま魔力の乱れがなければ、たとえ罪を犯した人間が増えようとも我らの国に穢れが発生することは二度とないであろう」
「とはいえ油断は禁物じゃ。今は良くても、今後不測の事態が起こってしまうとも限らん。無論、その為の対策はすでに取っておるがの」
「大樹の魔力量、魔力の流れの測定。それから、大樹の衰えを少しでも防ぐべく、兵士数人で直に魔力の供給を行っておる」
「では、レダ殿が居なかったのは」
「うむ。大樹の件と共に、以前穢れていた大地の様子を数人の部下と共に見に行ってもらっておるのだ。午後には帰ってくるであろうが」
バアルは納得したように小さく頷いたが、彼の膝の上に座るアオイ殿は何やら不安そうである。愛らしい顔から笑顔が消えてしまっておる。
「アオイ殿」
「はい」
「気になることがあれば、何でも聞いてくれて構わぬぞ」
促せば、アオイ殿の表情が僅かに和らいだ。それじゃあ、と遠慮がちに尋ねてくる。
「……毎日、行っているんですか? その魔力の供給って」
「うむ」
頷けば、アオイ殿の表情が忽ちくしゃりと歪んだ。致し方がないことである。魔力を渡すということは、自身の体力を削るということ。その量によっては、渡す側の方が命を削りかねない。不安なのであろうな。
「なに、心配することはない。その日、特に調子が良いものを派遣しておるし、供給する魔力量自体も皆の負担にならない程度に抑えておる」
「そもそもですが、我らが神が遺された大樹のお陰で一部の人間様の反乱は一切起きなくなりました。ですから、その為の毎日の見回りも必要無くなりました故」
私の言葉にすかさずレタリーが付け加えても、アオイ殿の不安を完全には拭えていないようだ。まだ、その細い眉は下がったまま。表情も曇り空のまま。
こればかりは、バアルが宥めるように彼の背を撫でたところでも効果は薄いようである。
これは、確かな意見とデータを元に更に言葉を重ねるより他はない。
「兵士達から意見を募ったが、寧ろ遠征が楽になったとのことだ」
「え……」
「元々、彼らに向かってもらっていた先は穢れの侵食が進んでおった土地であるからな。そちらへと向かう際の魔力量の消費に比べれば、大樹への魔力供給は微々たるものである。どうだ? 多少は胸のつかえがおりたかな?」
「はい……」
納得は出来た。安心もした。だが、まだ何やらモヤッとするといったところであろうか。優しい彼のことだ。何か自分が力になれることはないだろうかと考えておるのであろう。
であれば、教えて差し上げなければ。すでに十分に皆の力になれていると。
「ああ、そうであった、そうであった。このような意見もあったな」
「……どんな意見か、お聞きしても?」
「うむ」
遠慮がちに尋ねてきた彼に頷いてから、私は微笑みかけた。
「アオイ殿の焼き菓子が恋しいと」
「っ、」
「どうやら、皆、貴殿の差し入れに随分と元気をもらっておったようであるぞ?」
目を丸くして息を呑んだかと思えば、表情を明るく輝かせる。しかし、満面な喜びを見せてくれたのは束の間で、すぐさま照れが混じっていった。
コロコロと表情を変えているアオイ殿をバアルは得意気に微笑みながら見つめ、羽をはためかせる。
「アオイ様の焼き菓子は美味しいですもんねっ」
これまた得意気に、自信満々に、そして無邪気に。グリムがその小さな鼻を鳴らしながら言い放ったことで、微笑ましい表情が見えなくなってしまった。バアルの胸元に顔を寄せながら縮こまってしまわれた。真っ赤な耳は隠せてはいなかったが。
8
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる