【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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俺達の今後は全て、俺次第

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「よろしければ、もう一曲お付き合いいただけませんか? コルテも、まだ弾き足りないようですので」

 俺達の周りを飛んでいた小さな彼が、先程とは一転して、今度は陽気な曲を奏で始める。

「はいっ……お願いします」

 弾むようなリズムに合わせ、手を取り合いくるくる踊る俺達。その直ぐ側で、緑色にキラキラと瞬くコルテが、楽しそうに飛び回っていた。


 初めての彼とのダンスは楽しくて。もう一曲、もう一曲と。気がつけば、いい汗をかくほどに、夢中で踊り続けてしまっていた。

 そんな時だ。彼から「風邪を引いてしまうと、いけませんから」と「お召し物を着替えるついでに、湯浴みで汗を流しませんか?」と提案されたのは。

 二つ返事でそれに乗った、少し前の俺は思ってもみなかっただろう。

 まさか着替えから身体を洗うまで全て、彼に手伝ってもらうことになるなんてさ。


「でも……なんだかんだ言っても別に、悪い気はしないから困るんだよなぁ……」

 柔らかいスポンジで、丁寧に余すことなく肌を磨かれた後、ミルクみたいな優しい香りのするお湯に浸からされている。

 すっかり寛いでしまっていた俺の耳に、静かにクスクスと笑う声が届いた。

「ご満足いただけたようで、何よりでございます」

 見上げた先で、バアルさんが嬉しそうに目尻を下げる。そうして、綺麗な角度のついたお辞儀を俺の前で披露した。

「……今、俺、声に出てました?」

「はい。悪い気はしないから困ってしまうと」

 知らず知らずの内に、心の声を口に出してしまっていたとは。

 湯加減は丁度良かったのに、全身がカッと熱くなってしまう。下手したら、逆上せてしまいそう。

「そう、仰ってくださるということは……これからもお手伝いさせていただいても構わない、ということでしょうか?」

「それは……その……」

 俺の目線に合わせ跪く彼の表情は、何故か期待に満ち溢れていた。

 キラキラと輝く瞳に、目は口ほどに物を言うってこういうことなんだなぁ……と。つい現実逃避をするように、頭の隅っこの方でぼんやり思い浮かべていた。

「……バアルさんが喜んでくれるんだったら、俺も嬉しいんで……ただ」

「なんでしょう?」

「その……一緒には、入ってくれないのかなって……」

 驚いたように大きく見開かれた緑色に、今更ながら自分が、とんでもないことを口にしていたことに気づく。

「あっ、いや、別に変な意味じゃなくてですね? 裸の付き合いというか、なんというか……」

 焦りやら、恥ずかしさやらで、とっ散らかってしまった頭では出来るわけがなかった。胸に渦巻いていた、もやもやした寂しさのようなものを上手く言葉にすることも。突拍子もない発言のフォローすらも。

「これも軽いスキンシップの内かなって……そう、思って……だから……」

 徐々に気持ちが俯いていく。一緒に声まで、しぼんでいってしまっていた。

「お気持ちは大変嬉しいのですが……」

 穏やかな低音から紡がれるやんわりとした断りに、胸の奥がズキリと痛んだ。

 自分のことは棚に上げておいて、なんで勝手に傷ついているんだ。俺は。

 彼の方から距離を詰められると戸惑って、優しい彼の待ってくれるって言葉に甘えているくせに。なんなんだよ、ホント……

「軽いスキンシップでは、済まなくなってしまいますので」

「へ?」

 たった一言で簡単に吹き飛んでしまっていた。

 今まで知らなかった己の身勝手さに、自分で自分をなじっていた、ウジウジしていた気持ちなんて、あっという間だった。

 考えていたものとは、180度違っていた理由に頭がついていかない。ただ間の抜けた声だけが、口からこぼれてしまっていた。

「今は、業務と思うことで、未熟な己を律することが出来ております、ですが……」

 そんな俺の状態なんてお構いなしに、淡々と彼は続ける。恥ずかしがる様子なんて一切ない。

「この老骨めも、一人の男でございます。仕事着を脱いでしまえば、貴方様に触れたいという誘惑に堪えられ……」

 わざわざ言わなくてもいい、彼自身の本音まで。つまびらかに口にしてくる。

「っ……もういいです! 分かりましたから……」

 つい、止める為とはいえ、大きな声を上げてしまっていた。

「左様でございますか……」

 残念そうな響きを含んだ声色に、キツい言い方をしてしまったのだろうか? という不安がよぎったのは、ほんの一瞬だけ。

「では、この件につきましても、貴方様の心の準備が出来ましたら、また仰ってくださいね」

 ニコリと微笑む彼の口から発せられた、とんでもない主導権の譲渡。その意味を理解した途端に、顔が火照っていくのを感じる。

 それは、つまり……俺が一言「いいよ」と言えば、すぐにでも、彼はそういう風に俺に触れてきてくれるというわけで。

 キスも、それより先のことも、全ては俺の気持ち次第というわけで。

「あ、ぅ……少し…………時間を、ください」

「ええ、勿論。いつまでも、お待ち致します」

 とても楽しそうに細められた緑の視線。柔らかくも熱いそれから逃げるように、両手で顔を覆う。

 またしても、子供っぽいことをしてしまった俺の頭を、大きな手が撫で回してくれた。あやすみたいに、よしよしと。
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