【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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全然見えない、俺に触りたくて仕方がないっていう風には

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 主導権っていうのは普通、握りさえすれば優位に働くもんだろう?

 例えば自分の言葉や、行動一つで相手を振り回したりとか、な。

 そういう風にある程度は、その人の、握った方の思う通りになるもんなんじゃないかって漠然と思っていた。思っていたんだが……



 綿毛みたいにふわふわのタオルが、俺の肌を伝う水分を拭っていく。

 ほんの少しでも擦ってはいけないと思っているのだろうか。慎重に、そっと押しつけている。

 そんな、優し過ぎる手の持ち主である悪魔の彼、バアルさんの目つきは、真剣そのもの。ピリピリとした様子は、彼の特徴である触覚と羽にも現れている。

 カッチリと撫でつけられた、オールバックの生え際辺りに生えている二本。そして背中で広がっている半透明の羽。それらは、どちらも警戒したり威嚇している時の動物の耳や尻尾みたく、ピンっと立っているんだからな。

 別に、そんな繊細なもんじゃないんだから、気を遣わなくてもいいのになぁ……

 そう思いつつも、ひどく優しい彼の手つきに、つい、浮かんでしまう。

 もしかして……それだけ大事にしてもらえてるってこと、なのかな? などと、完全に自惚れきった考えが。

 急に全身が、カッと熱くなる。どころか、とっさに彼から顔を背けてしまっていた。

 明らかに挙動不審な俺の行動に、あえて触れないでいてくれているのか、それとも全く気にも留めていないのか。バアルさんはマイペースだ。

 至って普通に「少し、腕を伸ばしていただけませんか?」と耳障りのいい低音で尋ねてくる。

 なんだか、また、俺ばっかりが空回っているみたい。ますます顔が熱くなっていく。

 おまけに彼ときたら、相変わらず俺のことを子供扱いしてくるのだ。

 そっぽを向いたまま、彼の言う通りに身体を動かす俺の頭を、撫で回してくるのだ。いい子いい子と褒めるように。たちが悪い。

 とはいえ、俺もどうしようもないのだが。なんせ彼からのスキンシップを、単純に嬉しいと感じている……だけじゃない。

 もっとして欲しいと強請るみたいに、温かい彼の掌に、擦り寄ってしまっているのだから。

「失礼致します」

 さっきよりも近くに聞こえた彼の柔らかい声に、釣られて顔を向ける。目の前が白一色に染まった。

 それがタオルなのだと認識出来た頃には、すでに頭に巻かれ始めていた。しずくが滴る俺の髪を、覆うように。

 いなくなった白の代わりに、黒のベストとネクタイが。少し見上げた先には、綺麗に整えられた白い髭が似合う、彼の整った顔が。

 きゅっと引き結ばれた唇が、いつも穏やかな笑みばかりが浮かんでいる口元が、視界に映り、見入ってしまっていた。何故か、瞬きすら忘れてしまうほどに。

 ぶしつけな視線を向けすぎていれば、気づかない訳がない。元々、敏い彼なら尚更だ。

 宝石みたいに美しい緑色の瞳。いくつもの六角形のレンズで構成された複眼が、俺を捉え、ゆるりと細められていく。

「ふふ……今しばらくお待ちください」

 ずっと見ちゃってたのに、不快そうな素振りなんて一つも見せずに、ふわりと微笑みかけてくれる。途端に胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

 何だか気持ちも、おかしい。妙に、そわそわし始めている。なにか別のことを考えよう。落ち着かせる為にも。

 頭は、すっかり茹だってしまっていた。風呂上がり……以外にも理由はありそう。

 万全には程遠い状態で、無理矢理捻ったせいだろう。少し前の、彼の言葉が思い出されてしまった。

 やれ、俺の唇を奪いたいだの、スキンシップでは済まないだの。恋愛未経験者の俺にとっては、刺激が強すぎる台詞達に、心臓が激しく高鳴り出す。今なら顔の熱だけで、茶の一つでも沸かせてしまえそう。

 気持ちが落ち着かないままなどころか、脈拍の急上昇まで加わってしまうとは。余計に事態が悪化の一途をたどってしまった。バカなのか、俺は。

 一人で勝手に眉をしかめたり、顔を熱くしたりなんかしていれば、淡々と作業を続ける彼の行動に向ける意識なんて、一欠片も残っている訳がない。

 今現在、俺が身につけている唯一の布である水着。その最後の砦を、長い指から勢いよくずり下ろされて、初めて気づく有り様だ。

「ひょえっ!?」

 今回ばかりは、完全に剥かれた。

 生まれたままの自分の姿を、両親にしか見られていないであろう場所を、意識しまくってる彼に見られてしまった。

 そう思い、反射的に甲高い悲鳴を上げてしまっていたのが。俺の早とちりだったらしい。

 いつの間にか俺の全身は、真っ白なバスローブにすっぽり包まれていた。

 そして、バッチリガードしてくれていた。跪き、黒のハーフパンツを抜き取ろうとしている、彼の視線から。

「アオイ様。まずは、右足からお願いしてもよろしいでしょうか?」

「あ…………はい」

 そりゃそうだ。最初だって、脱がす前に、わざわざバスタオルを巻いてくれたんだからさ。

 ちゃんと、配慮してくれているに決まってるよな。とゆーか、なんで今の今まで気がつかなかったんだ?

 着させてもらっている時に、感触で分かったハズだろ? とうとう感覚までバカになったってのか?

 あまりの自分の情けなさに、衝動に駆られそうになる。

 今すぐにでもこの場から逃げ出して、ふかふかのベッドに潜り込んでしまいたい。けれども堪えた。俺を待ってくれている、優しい彼の為に。

 肩に手を置いてから、言われた通りに足を上げる。バアルさんは慣れた手つきで、俺の着替えを手伝ってくれている。まだ二回目なんだけどな。

 ……ホントに、俺のことを、そういう目で見てくれてるのかな。

 全然、見えないんだけど。触りたくて仕方がないけど、必死に我慢しているっていう風には。

 ……俺も、そのうち慣れちゃうのかな。恥ずかしく思うことも、ドキドキすることもなくなっちゃうんだろうか。

 平然とした彼の顔を見ている内に、そんな考えに行き着いてしまった。胸の中で、渦を巻き始めたモヤモヤを、頭を振って振り払った。
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