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とある死神のお礼
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綺麗な緑のリボンが結ばれた、甘い香りがする包み。
思いがけない、とても素敵なプレゼントに込められている気持ちは、僕にはもったいないくらい温かくて。真っ白な星を一口食べただけで、涙が止まらなくなってしまったんだ。
「……落ち着いたか?」
ごつごつした手が、僕の頭をぽん、ぽんと撫でてから、懐から取り出したハンカチを渡してくれる。
「……はい、ありがとう、ございます…………師匠」
「やれやれ、今日はやけに帰りが遅いと思えば……一人でクッキーを食べながら、ボロボロ泣いてるもんだから、何事かと思ったぞ?」
目元を拭う僕を見て、困ったように笑う師匠。
お城の中庭の隅にあるベンチ。お気に入りの場所に居た僕を、探しに来てくれた師匠。
僕が泣き止むまでずっと抱きしめてくれて、背中を撫で続けてくれていた師匠。
嬉しい気持ちと同じくらい、申し訳ない気持ちが湧いて、混ざって、また目の奥が熱くなってしまう。
「ごめんなさい……」
「まぁ、死神だって泣きたくなることもあるだろう。気にするな」
励ますように背中を軽く叩いた師匠は、そう僕に微笑みかけてから何も聞いてこなかった。
いつもそうだ。師匠は優しいから、待っていてくれる。僕がちゃんと言えるようになるまで。言いたくなるまで。
「あの、師匠……」
「……なんだ?」
ベンチに体格のいい身体を預け、長い足を組んでいる師匠が先を促す。僕らの前で咲き誇る、朝の日差しを受けてキラキラと輝く水晶の花に、視線を向けたまま。
「このクッキー……アオイ様から貰ったんです」
今朝、僕は、アオイ様達の部屋に、いつも通りお花を届けに行った。
その帰り際にバアル様から「此方、アオイ様から『作りすぎてしまったので、お裾分けです』とのことです」と渡された手作りのクッキー。
透明な袋の中で並ぶ白と茶色の星々には、魔術があまり得意でない僕でも分かるくらい、温かい魔力が込められていた。
人間であるアオイ様は、魔術に不慣れなハズだ。きっと無意識に、一生懸命な気持ちと一緒に込めてしまわれたんだろう。
だから、すぐ分かったんだ。クッキーから伝わってくるあの方の気持ちが。ありがとうって、喜んでくれるかなって、優しい想いが。
だから、すぐ分かったんだ。僕が受け取りやすいように、バアル様もアオイ様も優しい嘘をついてくれたんだって。
「そうか……良かったな」
「はい、とても嬉しかった……こんな素敵なものを僕が貰う資格なんて、本当はないけど……」
「そんなことないだろう」
キッパリと断言した師匠の金の瞳が僕を映し、細められる。
擦りすぎて少しひりひりする目元に、長い指が伸びてきて、そっと撫でてくれた。
「現に俺は知っているぞ? 毎朝どれだけお前が頑張って、花を探しに行っているのかを」
「……同じこと、言ってもらいました……バアル様からも」
あくまでこれは僕の償いで、自己満足でやっていること。なのに、バアル様は優しい微笑みを浮かべ「いつもありがとうございます」と現世のお花を受け取ってくれ、僕の代わりに飾ってくれているのだ。
そのご厚意だけでも僕は、みっともなくその場で、泣きじゃくりそうになってしまうのに。バアル様はこうも言ってくれた。
きっと大丈夫ですよと。お花を渡しているのが僕だって、アオイ様を間違って、現世から地獄に落としてしまった張本人だって分かっても。きっと、それでもアオイ様は、僕にありがとうって仰ってくださるでしょうって。
ですから、一度だけでもよろしいので、会って頂けないでしょうか? といつも僕を誘ってくださるんだ。
「だったら……いいんじゃないか? お会いしても」
向けられた柔らかい眼差しは、僕の心を全て見透かしているみたいで。
「クッキーのお礼も、しないといけないだろう?」
本当はお会いして改めて直接、謝罪と感謝を伝えたいのに勇気が出ない、弱虫な僕の背中を優しく支え、押そうとしてくれている。なのに。
「……それは、そう…………なんですけど……」
気がつけば僕は、真っ直ぐに見つめてくる金色から逃げて、俯いてしまっていたんだ。
ほとんど人影が見当たらない中庭が、余計に音が消えちゃったんじゃないかって、錯覚してしまいそうなくらい静かになる。
わだかまり続ける重たいなにかに、胸がつぶれそうになっていた僕の頭を、大きな手がわしゃわしゃと撫で回した。
「……まぁ、そっちについては今すぐじゃなくとも、お礼は用意した方がいいんじゃないか? 明日も持っていくんだろう?」
「は、はいっ……勿論」
「じゃあ、厨房に行くか。普通の飯ならまだしも、俺は洒落た菓子は専門外だからな」
その道のプロに相談するのが一番だ、と僕の手を引きながら、灰色のフードマントを翻し颯爽と歩き出す。
師匠の背中が、なんでかな? いつもより広く頼もしく見えて、また僕の視界は滲んでしまったんだ。
思いがけない、とても素敵なプレゼントに込められている気持ちは、僕にはもったいないくらい温かくて。真っ白な星を一口食べただけで、涙が止まらなくなってしまったんだ。
「……落ち着いたか?」
ごつごつした手が、僕の頭をぽん、ぽんと撫でてから、懐から取り出したハンカチを渡してくれる。
「……はい、ありがとう、ございます…………師匠」
「やれやれ、今日はやけに帰りが遅いと思えば……一人でクッキーを食べながら、ボロボロ泣いてるもんだから、何事かと思ったぞ?」
目元を拭う僕を見て、困ったように笑う師匠。
お城の中庭の隅にあるベンチ。お気に入りの場所に居た僕を、探しに来てくれた師匠。
僕が泣き止むまでずっと抱きしめてくれて、背中を撫で続けてくれていた師匠。
嬉しい気持ちと同じくらい、申し訳ない気持ちが湧いて、混ざって、また目の奥が熱くなってしまう。
「ごめんなさい……」
「まぁ、死神だって泣きたくなることもあるだろう。気にするな」
励ますように背中を軽く叩いた師匠は、そう僕に微笑みかけてから何も聞いてこなかった。
いつもそうだ。師匠は優しいから、待っていてくれる。僕がちゃんと言えるようになるまで。言いたくなるまで。
「あの、師匠……」
「……なんだ?」
ベンチに体格のいい身体を預け、長い足を組んでいる師匠が先を促す。僕らの前で咲き誇る、朝の日差しを受けてキラキラと輝く水晶の花に、視線を向けたまま。
「このクッキー……アオイ様から貰ったんです」
今朝、僕は、アオイ様達の部屋に、いつも通りお花を届けに行った。
その帰り際にバアル様から「此方、アオイ様から『作りすぎてしまったので、お裾分けです』とのことです」と渡された手作りのクッキー。
透明な袋の中で並ぶ白と茶色の星々には、魔術があまり得意でない僕でも分かるくらい、温かい魔力が込められていた。
人間であるアオイ様は、魔術に不慣れなハズだ。きっと無意識に、一生懸命な気持ちと一緒に込めてしまわれたんだろう。
だから、すぐ分かったんだ。クッキーから伝わってくるあの方の気持ちが。ありがとうって、喜んでくれるかなって、優しい想いが。
だから、すぐ分かったんだ。僕が受け取りやすいように、バアル様もアオイ様も優しい嘘をついてくれたんだって。
「そうか……良かったな」
「はい、とても嬉しかった……こんな素敵なものを僕が貰う資格なんて、本当はないけど……」
「そんなことないだろう」
キッパリと断言した師匠の金の瞳が僕を映し、細められる。
擦りすぎて少しひりひりする目元に、長い指が伸びてきて、そっと撫でてくれた。
「現に俺は知っているぞ? 毎朝どれだけお前が頑張って、花を探しに行っているのかを」
「……同じこと、言ってもらいました……バアル様からも」
あくまでこれは僕の償いで、自己満足でやっていること。なのに、バアル様は優しい微笑みを浮かべ「いつもありがとうございます」と現世のお花を受け取ってくれ、僕の代わりに飾ってくれているのだ。
そのご厚意だけでも僕は、みっともなくその場で、泣きじゃくりそうになってしまうのに。バアル様はこうも言ってくれた。
きっと大丈夫ですよと。お花を渡しているのが僕だって、アオイ様を間違って、現世から地獄に落としてしまった張本人だって分かっても。きっと、それでもアオイ様は、僕にありがとうって仰ってくださるでしょうって。
ですから、一度だけでもよろしいので、会って頂けないでしょうか? といつも僕を誘ってくださるんだ。
「だったら……いいんじゃないか? お会いしても」
向けられた柔らかい眼差しは、僕の心を全て見透かしているみたいで。
「クッキーのお礼も、しないといけないだろう?」
本当はお会いして改めて直接、謝罪と感謝を伝えたいのに勇気が出ない、弱虫な僕の背中を優しく支え、押そうとしてくれている。なのに。
「……それは、そう…………なんですけど……」
気がつけば僕は、真っ直ぐに見つめてくる金色から逃げて、俯いてしまっていたんだ。
ほとんど人影が見当たらない中庭が、余計に音が消えちゃったんじゃないかって、錯覚してしまいそうなくらい静かになる。
わだかまり続ける重たいなにかに、胸がつぶれそうになっていた僕の頭を、大きな手がわしゃわしゃと撫で回した。
「……まぁ、そっちについては今すぐじゃなくとも、お礼は用意した方がいいんじゃないか? 明日も持っていくんだろう?」
「は、はいっ……勿論」
「じゃあ、厨房に行くか。普通の飯ならまだしも、俺は洒落た菓子は専門外だからな」
その道のプロに相談するのが一番だ、と僕の手を引きながら、灰色のフードマントを翻し颯爽と歩き出す。
師匠の背中が、なんでかな? いつもより広く頼もしく見えて、また僕の視界は滲んでしまったんだ。
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