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とある兵士達と秘密の最終会議(前編)
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宵闇に包まれた城外は、昼の賑やかさとは打って変わって穏やかな静寂が満ち始めている。
ふと、雲泥の差だなぁと思ってしまった。静けさだけは一緒だが違いすぎる。呼吸をすることさえ憚れるような、この室内に漂う重々しい空気とは。
改めて見ても異様な光景だ。呑気にきょろきょろ見回すことは出来ねぇが……視界に映っている範囲だけでも十分。
必要最低限の品のいい調度品によって飾られた広い室内。そのど真ん中を支配している大きなテーブルを、大の男六人で囲む様は。
もし、同じ隊の2人も加わっていたらと思うと変な汗が背中に伝う。幸い彼らは別棟の夜の警備にあたっている為、今晩は欠席だが。
それにしたって、皆、真剣過ぎやしないか? 気持ちは分かるが……殺気まであふれ出させちまうこともないだろうに。
同僚らのは……まぁ、問題ない。が、ヨミ様と団長殿のは本気でマズい。
しっかり気合いを入れておかねぇと、不意にあんな鬼気迫る形相で睨みつけられちまったら……うっかり心臓が止まっちまいそうだ。
議長席の位置で腕を組み、真っ黒な羽を大きく広げ、仁王立ちしていたヨミ様の鋭い瞳がスッと開く。
夕焼けよりも赤い瞳が俺らをぐるりと睨めつけてから、口を開いた。
「これより『バアルとアオイ殿に城下町デートを心ゆくまで楽しんでもらおうっ』最終会議を始める!」
通りのいい低音が高らかに発した宣言に、野太い掛け声が続く。防音用の魔術障壁が小刻みに揺れ、ビリビリと悲鳴を上げるほどの。
にしても相変わらず長いな、この作戦名。分かりやすいっちゃ分かりやすいけどよ。
「明日は、お買い物をされるとのことですが……明確な行き先は判明したのでしょうか?」
アイコンタクトでヨミ様から了承をもらった団長殿が、広げられた城下町の地図を眺めながら尋ねる。
ガタイのいい身体を乗り出した弾みで、軍服の胸元を彩っているいくつもの勲章が、鈴のような音色を立てた。
……うむ、と小さく頷いたヨミ様が、黒い手袋に包まれたしなやかな指を弾いて鳴らす。
すると東エリアにある繁華街の大通りに赤い線が引かれていき、いくつかの箇所に丸が付けられていった。
「アオイ殿の友人であるグリムとクロウ、それからバアルの従者であるコルテからの情報が、そちらのサロメとシアンが直接アオイ殿から聞き出した証言と一致した。故に、まず間違いはないだろう」
……なんというか、ムズ痒いったらありゃしねぇ。
威厳に満ちあふれた低音で名指しされてから「二人ともよくやった」とお褒めの言葉をいただいて。団長殿からは微笑みかけられ、同僚らからは羨望と悔しさの混じった視線を注がれて。ヨミ様と団長殿の御前だってのに、頭を掻きたくなっちまう。
ヤツも俺と似たような気分なのだろう。どこか落ち着かない様子で白銀の耳を揺らしながら、ヤツらしい礼儀正しいお辞儀をしていた。
後頭部に伸びかけていた手を抑え、ヤツに倣って頭を下げる。
心の中で、別に聞き出したわけじゃねぇんだけどなぁ……とぼやいていた俺の頭の中には、日が落ちる前のお二人方とのやり取りが思い出されていた。
きっかけは、服装だった。城の本館へと通じる扉の前で警備をしていた俺達の方へと、ゆったり歩み寄ってこられたお二人の。
先ず目を惹かれたのは、バアル様の装いだ。少し明るめの紺色のスーツに茶色の巻きスカーフ。
新鮮だ……俺や同僚らは勿論、団長殿だってバアル様が黒の執事服以外の格好をしているところを見たことはなかっただろう。家族並みに身近であろうヨミ様やサタン様はあるのかもしれないが。
つい不躾に見つめてしまっていた視線は、自然と移っていた。お洒落に着こなすバアル様と手を繋ぎ、優しくエスコートされているアオイ様へと。
いつも可愛らしいなぁとは思っていたが、こちらもまた磨きがかかっている。
首元に上品なリボンのついた、深い緑のケープマントにすっぽりと身を包まれたお姿は、澄んだ琥珀色の瞳とも相まってとても愛らしい。
愛らしいんだが、やっぱり心配になるな……華奢過ぎて。同色の膝上丈のズボンから伸びた足はか細く、軽く握っただけで折れてしまいそうだ。そんな繊細というか儚げなところもアオイ様の魅力の1つなんだろうが。
「……今日は、一段とキマってますね。似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます」
黙ったまま見ているだけってのも変だろうと声をかける。
ぽっと染まってから、ふにゃりと綻んだ頬につられて、俺の表情筋まで緩んでしまっていた。半透明の羽をはためかせ、そうでしょうとも、と言わんばかりに小さく頷いているバアル様のご様子にも。
「その……明日、俺達……城下町に出掛けるんですけど……」
「デートですか、楽しみですね」
「はいっ!」
バアル様と俺を交互に見上げながら、おずおずと話された内容に……ああ、ついに明日か、と引き締めかけていた気持ちが、ほんの数秒後に緩んでしまった。
食い気味に返ってきた明るく弾んだ声と、瞳をキラキラ輝かせた満面の笑顔に……とっても楽しみですっ!! という気持ちがあふれていたからだ。
本当にバアル様のことが大好きなんだなぁ……
しみじみ思っていると、すぐ近くで悶えるような短く小さなうめき声がした。
見なくても分かる。お二方のことが大好きで仕方がないヤツが、心に一撃をもらっちまったんだろう。この前みたく、ボロボロと嬉し泣きしてなきゃいいんだが。
「そ、それで……バアルさんに服、選んでもらって……」
「ああ、もしかして……今着てるのですか?」
「はい。試着のつもりだったんですけど……なんか、すぐ脱ぐのが勿体無くなっちゃって……」
「成る程。そのお気持ち分かりますよ」
友人の様子を確認する間もなく会話は続く。
まぁ、大丈夫だろう。はにかんで微笑むアオイ様の「バアルさんの服は、俺が選んだんです……」と言葉の後に、また元気よく悶えていたからな。
それにしても、これはどうしたもんだろう? 別に俺は、読心術の心得がある訳じゃない。
そんな俺でもはっきり分かるし、伝わってきちまう。そわそわと小柄な身体を揺らしながら、ほんのり頬を染め、輝く星々を閉じ込めたような瞳で見つめてくるアオイ様の、もっと話を聞いて欲しいっていうお気持ちが。
だが、折角これからお散歩に出かけられるんだろうに、これ以上引き止めてしまうのはよくないんじゃないか?
……やはり、ここは旦那様に確認を取るべきだろうと視線を向ければすぐさま、お願い致しますと言わんばかりに綺麗な会釈で返されてしまった。
「……ところで、明日はどちらへお出掛けするんですか?」
「東エリアです。ちょうど大通りに気になるお店がいくつかあって……」
そうして、とても嬉しそうに話すアオイ様を微笑ましく思いながら相槌を打っている内に、お二人のデートの予定を全て知ることになったんだが……店の正確な場所までは分からなかった。洒落た店には疎いんだよな。
ただ、ヤツの方はなんとなく分かっていたらしかった。念の為、より詳しいという同僚に確認を取ってから団長殿に報告したんだ。ほらやっぱり、別に聞き出した訳じゃねぇよな。
ふと、雲泥の差だなぁと思ってしまった。静けさだけは一緒だが違いすぎる。呼吸をすることさえ憚れるような、この室内に漂う重々しい空気とは。
改めて見ても異様な光景だ。呑気にきょろきょろ見回すことは出来ねぇが……視界に映っている範囲だけでも十分。
必要最低限の品のいい調度品によって飾られた広い室内。そのど真ん中を支配している大きなテーブルを、大の男六人で囲む様は。
もし、同じ隊の2人も加わっていたらと思うと変な汗が背中に伝う。幸い彼らは別棟の夜の警備にあたっている為、今晩は欠席だが。
それにしたって、皆、真剣過ぎやしないか? 気持ちは分かるが……殺気まであふれ出させちまうこともないだろうに。
同僚らのは……まぁ、問題ない。が、ヨミ様と団長殿のは本気でマズい。
しっかり気合いを入れておかねぇと、不意にあんな鬼気迫る形相で睨みつけられちまったら……うっかり心臓が止まっちまいそうだ。
議長席の位置で腕を組み、真っ黒な羽を大きく広げ、仁王立ちしていたヨミ様の鋭い瞳がスッと開く。
夕焼けよりも赤い瞳が俺らをぐるりと睨めつけてから、口を開いた。
「これより『バアルとアオイ殿に城下町デートを心ゆくまで楽しんでもらおうっ』最終会議を始める!」
通りのいい低音が高らかに発した宣言に、野太い掛け声が続く。防音用の魔術障壁が小刻みに揺れ、ビリビリと悲鳴を上げるほどの。
にしても相変わらず長いな、この作戦名。分かりやすいっちゃ分かりやすいけどよ。
「明日は、お買い物をされるとのことですが……明確な行き先は判明したのでしょうか?」
アイコンタクトでヨミ様から了承をもらった団長殿が、広げられた城下町の地図を眺めながら尋ねる。
ガタイのいい身体を乗り出した弾みで、軍服の胸元を彩っているいくつもの勲章が、鈴のような音色を立てた。
……うむ、と小さく頷いたヨミ様が、黒い手袋に包まれたしなやかな指を弾いて鳴らす。
すると東エリアにある繁華街の大通りに赤い線が引かれていき、いくつかの箇所に丸が付けられていった。
「アオイ殿の友人であるグリムとクロウ、それからバアルの従者であるコルテからの情報が、そちらのサロメとシアンが直接アオイ殿から聞き出した証言と一致した。故に、まず間違いはないだろう」
……なんというか、ムズ痒いったらありゃしねぇ。
威厳に満ちあふれた低音で名指しされてから「二人ともよくやった」とお褒めの言葉をいただいて。団長殿からは微笑みかけられ、同僚らからは羨望と悔しさの混じった視線を注がれて。ヨミ様と団長殿の御前だってのに、頭を掻きたくなっちまう。
ヤツも俺と似たような気分なのだろう。どこか落ち着かない様子で白銀の耳を揺らしながら、ヤツらしい礼儀正しいお辞儀をしていた。
後頭部に伸びかけていた手を抑え、ヤツに倣って頭を下げる。
心の中で、別に聞き出したわけじゃねぇんだけどなぁ……とぼやいていた俺の頭の中には、日が落ちる前のお二人方とのやり取りが思い出されていた。
きっかけは、服装だった。城の本館へと通じる扉の前で警備をしていた俺達の方へと、ゆったり歩み寄ってこられたお二人の。
先ず目を惹かれたのは、バアル様の装いだ。少し明るめの紺色のスーツに茶色の巻きスカーフ。
新鮮だ……俺や同僚らは勿論、団長殿だってバアル様が黒の執事服以外の格好をしているところを見たことはなかっただろう。家族並みに身近であろうヨミ様やサタン様はあるのかもしれないが。
つい不躾に見つめてしまっていた視線は、自然と移っていた。お洒落に着こなすバアル様と手を繋ぎ、優しくエスコートされているアオイ様へと。
いつも可愛らしいなぁとは思っていたが、こちらもまた磨きがかかっている。
首元に上品なリボンのついた、深い緑のケープマントにすっぽりと身を包まれたお姿は、澄んだ琥珀色の瞳とも相まってとても愛らしい。
愛らしいんだが、やっぱり心配になるな……華奢過ぎて。同色の膝上丈のズボンから伸びた足はか細く、軽く握っただけで折れてしまいそうだ。そんな繊細というか儚げなところもアオイ様の魅力の1つなんだろうが。
「……今日は、一段とキマってますね。似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます」
黙ったまま見ているだけってのも変だろうと声をかける。
ぽっと染まってから、ふにゃりと綻んだ頬につられて、俺の表情筋まで緩んでしまっていた。半透明の羽をはためかせ、そうでしょうとも、と言わんばかりに小さく頷いているバアル様のご様子にも。
「その……明日、俺達……城下町に出掛けるんですけど……」
「デートですか、楽しみですね」
「はいっ!」
バアル様と俺を交互に見上げながら、おずおずと話された内容に……ああ、ついに明日か、と引き締めかけていた気持ちが、ほんの数秒後に緩んでしまった。
食い気味に返ってきた明るく弾んだ声と、瞳をキラキラ輝かせた満面の笑顔に……とっても楽しみですっ!! という気持ちがあふれていたからだ。
本当にバアル様のことが大好きなんだなぁ……
しみじみ思っていると、すぐ近くで悶えるような短く小さなうめき声がした。
見なくても分かる。お二方のことが大好きで仕方がないヤツが、心に一撃をもらっちまったんだろう。この前みたく、ボロボロと嬉し泣きしてなきゃいいんだが。
「そ、それで……バアルさんに服、選んでもらって……」
「ああ、もしかして……今着てるのですか?」
「はい。試着のつもりだったんですけど……なんか、すぐ脱ぐのが勿体無くなっちゃって……」
「成る程。そのお気持ち分かりますよ」
友人の様子を確認する間もなく会話は続く。
まぁ、大丈夫だろう。はにかんで微笑むアオイ様の「バアルさんの服は、俺が選んだんです……」と言葉の後に、また元気よく悶えていたからな。
それにしても、これはどうしたもんだろう? 別に俺は、読心術の心得がある訳じゃない。
そんな俺でもはっきり分かるし、伝わってきちまう。そわそわと小柄な身体を揺らしながら、ほんのり頬を染め、輝く星々を閉じ込めたような瞳で見つめてくるアオイ様の、もっと話を聞いて欲しいっていうお気持ちが。
だが、折角これからお散歩に出かけられるんだろうに、これ以上引き止めてしまうのはよくないんじゃないか?
……やはり、ここは旦那様に確認を取るべきだろうと視線を向ければすぐさま、お願い致しますと言わんばかりに綺麗な会釈で返されてしまった。
「……ところで、明日はどちらへお出掛けするんですか?」
「東エリアです。ちょうど大通りに気になるお店がいくつかあって……」
そうして、とても嬉しそうに話すアオイ様を微笑ましく思いながら相槌を打っている内に、お二人のデートの予定を全て知ることになったんだが……店の正確な場所までは分からなかった。洒落た店には疎いんだよな。
ただ、ヤツの方はなんとなく分かっていたらしかった。念の為、より詳しいという同僚に確認を取ってから団長殿に報告したんだ。ほらやっぱり、別に聞き出した訳じゃねぇよな。
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