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思いも寄らない嫉妬の対象
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伸ばしてかざした左手の、指の隙間から透き通った青が覗く。こんな空模様を朗らかって言うんだっけ。まるで、今の俺の気持ちを代弁してくれているみたいだ。
薬指の根元で陽の光を受け、キラキラと輝く銀色の輪に心が弾む。いや、気持ちだけじゃない。
隙きあらば、足は自然とスキップを踏もうとするし、表情筋に至っては随分前からゆるっゆるに下がってしまっている。
このままじゃ、そのうちとろんと落っこちてしまうんじゃないだろうか。美味し過ぎる比喩表現ではなく、物理的に。
まぁ、仮にそうなったとしても、どうってことはない。今の俺は無敵だからな。何でかって? そりゃあ勿論、好きな人とのお揃いを身に着けているからさ。
レンガの道を彼と二人、肩を並べて歩む。筋肉質な腕に優しく腰を抱き寄せられ、エスコートしてもらいながら。
カラフルな建物が並ぶ大通りは、変わらず活気に満ちていた。時々行き交う方々からの、ちらちらとした視線を感じるのは、間違いなく俺のせいだろう。
だって、つい見ちゃうだろ? 自分の左手を眺めながらニヤけ顔で、定期的にスキップする男がいたらさ。俺だって多分、いや絶対ニ度見する。
おまけに優しい彼が合わせてくれるもんだから尚更だ。二人三脚しているみたいに、歩幅を合わせてくれるだけじゃない。全く同じタイミングで軽やかに、俺のスキップに付き合ってくれている。
ホントに器用だ。でもまぁ、彼……バアルさんなら出来て当然なのかもしれない。普段、一緒にダンスをする時も、完璧なリードで俺を導いてくれているしな。
ぼんやりと思考を飛ばしていると、くすくすと小さく笑う声が耳に届く。つられて少し見上げれば、若葉よりも鮮やかな緑の瞳とかち合った。
俺を捉えた途端にゆるりと細められ、整えられた白い髭が素敵な口元に柔らかい笑みが浮かぶ。
「ご機嫌そうで何よりです」
「はいっ絶好調です!」
これ以上ないくらいに浮かれまくっていたせいだ。つい、食い気味に答えてしまっていた。
驚かせてしまったんだろう。宝石のように煌めく瞳を縁取る、白く長い睫毛がぱちぱち瞬いている。
「あ、すいません……突然大きな声、出しちゃって」
「いえ……ふふ、お気になさらず。斯様にお元気でしたらますます申し分ございません」
また笑われてしまった。一気にボッと熱くなった頬を、撫でていく風が心地いい。
どこか上機嫌に揺れる額の触覚と一緒に、緩く後ろに撫でつけられている白い髪がふわりと靡く。
つい、見惚れてしまっていた。艷やかな髪の表面に光の輪が浮かぶ様に。紺のスーツを纏う引き締まった長身を彩るように、背中から生えた半透明の羽が淡い光を帯びる様に。
……キレイだ。スゴく月並みな言葉だって分かってはいるけれど。頭の天辺から爪先まで、彼を形作る全ての造形が、完璧にカッコよくて美しい。
いや勿論、気配り上手で優し過ぎるところも。ここに来てからずっと俺の側に居てくれて、包み込んでくれている温かさも全部素敵で…………好き、なんだけどさ。
いつの間にか顔だけじゃなく、胸の奥までじんわり熱くなっていた俺に向かって、細く長い指が伸びてくる。
ゆるりと頬を撫でてくれる手つきの優しさに、つい自分からひと回り大きな手に擦り寄ってしまっていた。
「私めも大変心が弾んでおります。幸せそうに微笑むアオイ様を、お側で拝見出来て……」
「……バアルさん」
「ただ、一言……宜しいでしょうか? 水を差すようで大変心苦しいのですが……」
穏やかな笑みばかりを湛えていた形のいい唇が、どこか困ったように歪む。照れて、いるんだろうか……いや、照れてるんだなきっと。
その証拠に、彼の滑らかな白い頬はほんのり染まっているし。そんでもって、指先もさっきから落ち着きなく、巻きスカーフの表面を上下に行ったり来たりしているしな。
「いえ、そんな……何でしょう?」
口ではそう尋ねたものの……もう、この時点で俺は謝る気満々だった。100%疑わなかったからだ。先程のはしゃぎっぷりに関して物申されるのだと。
だから、何を言われたのか分からなかった。繋がらなかったんだ、全然。まぁ、言ってもらえた言葉自体にも、俺にとってはバツグンの破壊力が有ったから余計にな。
「……構っては、頂けないでしょうか」
大きく跳ねた鼓動音が脳全体に響き渡り、思わず足が止まっていた。おずおずと切り出してきた照れくさそうな低音と、そっと繋がれた手の熱さに再び顔に熱が集まっていく。
「……へ?」
カッコいい彼からのかわいい申し出に、心臓を撃ち抜かれたせいだ。ごめんなさいの形で開こうとしていた口から、間抜けな音が漏れていた。でも、彼は止まらない。
寂しそうに細められた瞳にぽかんとしている俺を映したまま、つらつらと心ときめくお願いを紡ぎ続けていく。
「貴方様に想い焦がれるこの老骨めにどうか御慈悲を、その美しい琥珀色の瞳に……私めを映して頂けないでしょうか?」
「……ふぇ?」
ちょ、ちょっと待って欲しい。一旦、整理させてくれ。今、この人、何て言った?
映して欲しいって……見て欲しいって……こと、だよな。そんでもって俺は、今の今までずっと彼とのペアリングばっか見ていた訳で……てことは、その……
嫉妬、してくれてたってことなのか? ……指輪に……
「え、あ……ぅ……」
辿り着いてしまった結論に、鮮やかな緑の瞳を曇らせてしまっていた理由に、ますます顔が熱くなる。
ぐるぐる回る思考回路は混乱を極めていた。いや、まさか……そんな、物になんて……と。そのせいだ。
そのまま受け止めれば良かったのに、確認したくなってしまった。もっと確実な言葉が欲しいな……って欲張ってしまったんだ。
「……あ、あの、その……つまり、寂しかったっ……てこと、ですか?」
「ええ、左様でございます」
「……ひぇ」
きっぱりと言い放った、彼の真っ直ぐな瞳は澄んでいた。曇りなんて一切ないほどに。
もう既に、どんどこお祭り騒ぎを始めていた胸の高鳴りは、ますます激しくなっていくことになる。続く彼の思いがけない言葉にときめかされて。
「……ですから、名前を呼んで頂けませんか? 私の顔を見て、手を繋いだまま」
ウソみたいだ。さっきまで堂々と胸を張って、至極真剣な表情で、寂しかったって力強く頷いていたのに。
絡めた指にきゅっと力を込めた彼の耳は真っ赤に染まり、俺を見つめる緑の瞳は照れくさそうにじんわり滲んでいる。
……ギャップがスゴい。普段は大人の色気満載で、カッコよくて頼りになる彼が甘えてくれるなんて……ホントにズルい。ズル過ぎる。
「……バアル」
当然、俺の口は動いていた。ただでさえ彼からのお願いには弱い俺だ。断る理由なんざある訳がない。なんなら連呼する勢いだった。だったんだが……
「はい。貴方様だけのバアルはここに」
ぱぁっと輝いた満面の笑みを間近でいただき、堪えられなかった。気持ちがあふれて、こぼれてしまったんだ。
「……好きぃ……」
ずるずると重力に従って膝から落ちていく俺の身体を、すかさず引き締まった長い腕が支えてくれる。
もう、分かっているハズなのに。バレてるハズなのに。へにゃへにゃになってる時点で、俺が喜びまくってるって。
なのに彼ときたら、満足そうに微笑んでから追い討ちをかけてくるもんだから、困ってしまう。
「ふふ、私も愛しておりますよ……アオイ」
ぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡り、身体からますます力が抜けていく。甘い響きを含んだ低音に耳を擽られ、妖しく光る眼差しに心を射抜かれて。
こうして無事に止めを刺された俺は、逞しい胸元にぽすりと収まった。またしても縋りつきながら、ほとんど抱き抱えられながら、進むことになってしまったんだ。バームクーヘン屋さんまでの道中を。
でもまぁ、万事オッケーだ。白い水晶のように透き通った羽をはためかせている彼が、スゴくご機嫌なのだから。
薬指の根元で陽の光を受け、キラキラと輝く銀色の輪に心が弾む。いや、気持ちだけじゃない。
隙きあらば、足は自然とスキップを踏もうとするし、表情筋に至っては随分前からゆるっゆるに下がってしまっている。
このままじゃ、そのうちとろんと落っこちてしまうんじゃないだろうか。美味し過ぎる比喩表現ではなく、物理的に。
まぁ、仮にそうなったとしても、どうってことはない。今の俺は無敵だからな。何でかって? そりゃあ勿論、好きな人とのお揃いを身に着けているからさ。
レンガの道を彼と二人、肩を並べて歩む。筋肉質な腕に優しく腰を抱き寄せられ、エスコートしてもらいながら。
カラフルな建物が並ぶ大通りは、変わらず活気に満ちていた。時々行き交う方々からの、ちらちらとした視線を感じるのは、間違いなく俺のせいだろう。
だって、つい見ちゃうだろ? 自分の左手を眺めながらニヤけ顔で、定期的にスキップする男がいたらさ。俺だって多分、いや絶対ニ度見する。
おまけに優しい彼が合わせてくれるもんだから尚更だ。二人三脚しているみたいに、歩幅を合わせてくれるだけじゃない。全く同じタイミングで軽やかに、俺のスキップに付き合ってくれている。
ホントに器用だ。でもまぁ、彼……バアルさんなら出来て当然なのかもしれない。普段、一緒にダンスをする時も、完璧なリードで俺を導いてくれているしな。
ぼんやりと思考を飛ばしていると、くすくすと小さく笑う声が耳に届く。つられて少し見上げれば、若葉よりも鮮やかな緑の瞳とかち合った。
俺を捉えた途端にゆるりと細められ、整えられた白い髭が素敵な口元に柔らかい笑みが浮かぶ。
「ご機嫌そうで何よりです」
「はいっ絶好調です!」
これ以上ないくらいに浮かれまくっていたせいだ。つい、食い気味に答えてしまっていた。
驚かせてしまったんだろう。宝石のように煌めく瞳を縁取る、白く長い睫毛がぱちぱち瞬いている。
「あ、すいません……突然大きな声、出しちゃって」
「いえ……ふふ、お気になさらず。斯様にお元気でしたらますます申し分ございません」
また笑われてしまった。一気にボッと熱くなった頬を、撫でていく風が心地いい。
どこか上機嫌に揺れる額の触覚と一緒に、緩く後ろに撫でつけられている白い髪がふわりと靡く。
つい、見惚れてしまっていた。艷やかな髪の表面に光の輪が浮かぶ様に。紺のスーツを纏う引き締まった長身を彩るように、背中から生えた半透明の羽が淡い光を帯びる様に。
……キレイだ。スゴく月並みな言葉だって分かってはいるけれど。頭の天辺から爪先まで、彼を形作る全ての造形が、完璧にカッコよくて美しい。
いや勿論、気配り上手で優し過ぎるところも。ここに来てからずっと俺の側に居てくれて、包み込んでくれている温かさも全部素敵で…………好き、なんだけどさ。
いつの間にか顔だけじゃなく、胸の奥までじんわり熱くなっていた俺に向かって、細く長い指が伸びてくる。
ゆるりと頬を撫でてくれる手つきの優しさに、つい自分からひと回り大きな手に擦り寄ってしまっていた。
「私めも大変心が弾んでおります。幸せそうに微笑むアオイ様を、お側で拝見出来て……」
「……バアルさん」
「ただ、一言……宜しいでしょうか? 水を差すようで大変心苦しいのですが……」
穏やかな笑みばかりを湛えていた形のいい唇が、どこか困ったように歪む。照れて、いるんだろうか……いや、照れてるんだなきっと。
その証拠に、彼の滑らかな白い頬はほんのり染まっているし。そんでもって、指先もさっきから落ち着きなく、巻きスカーフの表面を上下に行ったり来たりしているしな。
「いえ、そんな……何でしょう?」
口ではそう尋ねたものの……もう、この時点で俺は謝る気満々だった。100%疑わなかったからだ。先程のはしゃぎっぷりに関して物申されるのだと。
だから、何を言われたのか分からなかった。繋がらなかったんだ、全然。まぁ、言ってもらえた言葉自体にも、俺にとってはバツグンの破壊力が有ったから余計にな。
「……構っては、頂けないでしょうか」
大きく跳ねた鼓動音が脳全体に響き渡り、思わず足が止まっていた。おずおずと切り出してきた照れくさそうな低音と、そっと繋がれた手の熱さに再び顔に熱が集まっていく。
「……へ?」
カッコいい彼からのかわいい申し出に、心臓を撃ち抜かれたせいだ。ごめんなさいの形で開こうとしていた口から、間抜けな音が漏れていた。でも、彼は止まらない。
寂しそうに細められた瞳にぽかんとしている俺を映したまま、つらつらと心ときめくお願いを紡ぎ続けていく。
「貴方様に想い焦がれるこの老骨めにどうか御慈悲を、その美しい琥珀色の瞳に……私めを映して頂けないでしょうか?」
「……ふぇ?」
ちょ、ちょっと待って欲しい。一旦、整理させてくれ。今、この人、何て言った?
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嫉妬、してくれてたってことなのか? ……指輪に……
「え、あ……ぅ……」
辿り着いてしまった結論に、鮮やかな緑の瞳を曇らせてしまっていた理由に、ますます顔が熱くなる。
ぐるぐる回る思考回路は混乱を極めていた。いや、まさか……そんな、物になんて……と。そのせいだ。
そのまま受け止めれば良かったのに、確認したくなってしまった。もっと確実な言葉が欲しいな……って欲張ってしまったんだ。
「……あ、あの、その……つまり、寂しかったっ……てこと、ですか?」
「ええ、左様でございます」
「……ひぇ」
きっぱりと言い放った、彼の真っ直ぐな瞳は澄んでいた。曇りなんて一切ないほどに。
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ウソみたいだ。さっきまで堂々と胸を張って、至極真剣な表情で、寂しかったって力強く頷いていたのに。
絡めた指にきゅっと力を込めた彼の耳は真っ赤に染まり、俺を見つめる緑の瞳は照れくさそうにじんわり滲んでいる。
……ギャップがスゴい。普段は大人の色気満載で、カッコよくて頼りになる彼が甘えてくれるなんて……ホントにズルい。ズル過ぎる。
「……バアル」
当然、俺の口は動いていた。ただでさえ彼からのお願いには弱い俺だ。断る理由なんざある訳がない。なんなら連呼する勢いだった。だったんだが……
「はい。貴方様だけのバアルはここに」
ぱぁっと輝いた満面の笑みを間近でいただき、堪えられなかった。気持ちがあふれて、こぼれてしまったんだ。
「……好きぃ……」
ずるずると重力に従って膝から落ちていく俺の身体を、すかさず引き締まった長い腕が支えてくれる。
もう、分かっているハズなのに。バレてるハズなのに。へにゃへにゃになってる時点で、俺が喜びまくってるって。
なのに彼ときたら、満足そうに微笑んでから追い討ちをかけてくるもんだから、困ってしまう。
「ふふ、私も愛しておりますよ……アオイ」
ぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡り、身体からますます力が抜けていく。甘い響きを含んだ低音に耳を擽られ、妖しく光る眼差しに心を射抜かれて。
こうして無事に止めを刺された俺は、逞しい胸元にぽすりと収まった。またしても縋りつきながら、ほとんど抱き抱えられながら、進むことになってしまったんだ。バームクーヘン屋さんまでの道中を。
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