【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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俺と一緒だなって思ったから

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 戻った室内の中央には、バアルさんが術で出してくれた調理場がシャンデリアの明かりを受けて銀色に輝いていた。

 二人で使うには十分な広さの調理テーブル、いつもお世話になっている大きなオーブン。

 背の高い冷蔵庫には、卵、生クリーム、フルーツ、チョコレート等々……多種多様な食材で満たされている。必要そうな物をとにかく全部詰め込みましたっ! て感じだ。

 勿論、調理テーブルの上には、小麦粉の類や砂糖等の調味料一式に、多種多様な調理器具。ソファー前のテーブルには、カラフルラブリーなラッピングセットが揃えられている。準備万端過ぎて、頭の中に勝利確定BGMが流れてきそうだ。

「わぁー……スゴいですね!」

 キラキラ輝かせながら、キョロキョロ部屋を見回していた薄紫色の瞳が、ふと俺を見つめる。

「ところでアオイ様、どんなチョコレートのお菓子を作るんですか?」

 こてんと細い首を傾け、尋ねてくる声色は、いかにも興味津々といった感じで明るく弾んでいた。

「ガトーショコラを作ろうかなって思ってます……は、ハート型の……」

 自分で言ったくせに、顔が一気に熱くなる。

 でも、やっぱり……好きな人に贈るんだから、大本命なんだからさ……普通な丸より、ハートだろう。おあつらえ向きに、型もあるんだしさ。

 ズラリと並んだ調理器具の隅っこにある、丸、星、花、ハートのカップケーキ用の紙型へと手を伸ばす。グリムさんに見えるように差し出せば、キラキラしていた瞳の輝きがさらに増していった。

「すっごくいいと思います! ハート型! 可愛いですもんね!」

 眩しい笑顔で同意してくれるグリムさんに続けて、俺の側でぴるぴる飛んでいたコルテが、ピカピカと緑に輝く。俺の前でぱっと取り出した、彼専用の小さなスケッチブックには「喜ぶよ! きっと!」と心強いメッセージが書かれていた。

 二人からの温かい言葉に、自分でも分かるくらい頬が勝手に緩んでしまう。

「あ、ありがとうございます……コルテもありがとう」

「えへへ……それで、そのガトーショコラっていうのは、どうやって作るんですか?」

「スヴェンさんのレシピによると、混ぜた生地を型に入れて焼くだけ、みたいです」

 元々、俺がバレンタインを思い出す切っ掛けだった、お手軽焼き菓子レシピによると……湯煎で溶かしたチョコに卵黄や薄力粉、メレンゲを加えて混ぜた生地をオーブンで15分から20分焼くだけ。

 簡単、早い、でも本格的! という、まだまだ焼き菓子初心者な俺にとってはメリットしかないチョコケーキなんだ。

 これならバアルさんが居なくても失敗しないだろうし、時間に余裕があるからデコレーションやラッピングに力を入れることが出来るだろう。

「……簡単そうですね。それなら僕でも作れるかも……」

「え? グリムさんも、一緒に作るんじゃないんですか?」

「ふぇ? い、いいんですか? 僕もご一緒して……」

 驚いたように俺を見つめるグリムさんの白い頬が、ほんのり染まっていく。そわそわと細い身体を落ち着きなく揺らす彼の瞳は、期待に満ちていた。

「いいも何も、一緒に作るもんだと思ってました。クロウさんの為に」

「あ、ぇ? な、何で分かったんですか? 僕がクロウに、バレンタインのプレゼントしたいなって思ってるって……」

 今度はボンッと湯気が出そうなくらいに、薄いピンクに染まった頬が一気に真っ赤になってしまった。

 よっぽど意外だったらしい。動揺が目に見えて分かる。小さな手は胸の前でわたわた動いてるし、大きな瞳は右往左往と泳ぎまくっているしな。

「それは……その、俺と一緒だなって思いましたから……バレンタインの話をした時のグリムさん……大切な人のことを、考えてるなって……」

 頭の中に、ふと蘇る。

 この前「お揃いなんですよ!」と幸せそうに頬をふにゃりと綻ばせ、俺とバアルさんに見せてくれた銀の輪のネックレスを、細い指で撫でながら。

『大切な人へ想いを伝える日……ですか』

 小さく呟き、はにかんでいたグリムさんの姿が。

 その時だ。俺と一緒だなって……俺が指輪を通して、バアルさんのことを考えてるのと一緒だなって……そう、思ったんだ。

 少し前の重いものとは違う、背中が擽ったくなる沈黙に室内が包まれる。何か、俺、うっかり余計なことを言ったんじゃないか?

 言い出しっぺの俺まで何故か恥ずかしくなり、互いに真っ赤な顔を突き合わせ、固まってしまっている時。突如、目覚まし時計のように甲高いベルの音が、俺達の鼓膜を揺らした。

「ひょわっ」

「ふわっ」

 息ぴったりな悲鳴を重ねてしまっただけでなく、ハッと同時に音の方へ顔を向けていた。

 俺達の視線の先にはふわふわと浮かぶ緑の粒が、コルテが、どこか心配そうに俺達をくりくりとした小さな目で見つめている。彼がおずおずと掲げたスケッチブックには「時間、大丈夫?」と書かれていた。

「そ、そうだね、急がないと……ありがとうコルテ! と、とにかく一緒に作りましょう! ね! バアルさん達、待たせちゃってるし……俺、グリムさん達やヨミ様達の分も作るつもりなんで……」

 気がつけば、握手を求めるように差し出していた手を、顔を真っ赤にしたままのグリムさんが勢いよく握ってくれる。

「は、はい! よろしくお願いします……って僕達の分も作ってくれるんですか?」

「はい。ただ皆さんの分は、星型にしますけど……ハート型は……バアルさんだけの、特別……なので……」

「特別……」

 噛み締めるように繰り返す、薄紫色の眼差しは……やっぱりクロウさんを見ているんだろう。柔らかく細められた丸い瞳に、キラキラと淡い光が揺らめいて見えたんだ。

「グリムさんも、クロウさんに使います? ハート型……」

「は、はいっ……使いたい、です……」

「…………ふふっ」

 つい、吹き出してしまっていた。互いに手を握ったまま、再びそわそわしてしまっていた自分達が、何だかスゴく可笑しくて。

 釣られたんだろう。グリムさんもクスクス笑う。しばらく笑い合ってから、はつらつとした声を上げ、グリムさんが拳を握った。

「じゃあ、僕はお花型にしますね! アオイ様とバアル様の分!」

「ありがとうございます。一緒に頑張りましょうね」

「はいっ!」

 互いにエプロンと三角巾をつけ合った後。気合を入れるべく、えいえいおーと一緒に拳を高く突き上げる。調理テーブルに向き合った俺達を、緑のポンポンを持ったコルテが見守っていた。
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