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バアルさんのは、本命ですから
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「ふふ、ありがとうございます」
それはそれは嬉しそうに綻んだ形のいい唇に、またしても心を鷲掴みにされてしまう。
……ダメだ。このままじゃあ、また俺ばっかりときめかされて終わってしまう。
とにもかくにも落ち着こうと密かに深呼吸を繰り返していた俺に、バアルさんが尋ねてきた。
「ところで、アオイ様。そちらの紙袋に入っていた、花型と星型のガトーショコラは……」
淡い光を帯びた羽が心なしか、そわそわとはためいて見えるのは気のせいだろうか。
彼の視線の先には紙袋があった。さっき持ってもらった時に、見えたんだろうな。中身が。
「ああ、お花の方はグリムさんが、俺とバアルさんの為に作ってくれた友チョコです。星の方は、後でお散歩の時に親衛隊の皆さんとレダさん達に、日頃のお世話になっているのでそのお礼に渡そうかなって……」
「左様でございましたか。そう言えば、ヨミ様やクロウさんに渡してらっしゃったものも星型でしたね」
納得したように小さく頷いて、頬を優しく撫でてくれてから、俺を横抱きの形で抱き直す。
パステルカラーの緑色のチョコペンと、細かく砕いたピスタチオでデコレーションした、俺としては渾身の出来であるハート型のガトーショコラ。それらが三つ収まった透明な箱が、テーブルの上から音もなく浮かび上がり、俺の手元へそっと下りてきた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ……因みにですが、アオイ様」
「はい、何でしょう?」
細められた瞳からは温かい光が消えていた。代わりに宿っていた、妖しい光に魅入られたからだろうか。ぞくぞくとした淡い感覚がぶわりと込み上げ、背中を撫でていく。
すっかり釘付けになってしまっていた俺の頬に、いつもより熱い彼の手が添えられた。指先で目尻をゆるゆる撫でながら、彼が問う。
「私の分だけ、ハート型……ということに、何か特別な意味が込められていると……期待しても宜しいのでしょうか?」
「ひゃ、ひゃい……ございます……バアルさんのは、その、本命……ですから……」
誰でもいいから褒めて欲しい。艷やかに微笑む唇が囁く甘さを含んだ低音に、またしてもあっさり口が腑抜けてしまったけれど。ちゃんと想いだけは、伝えることが出来たんだからさ。
ただ、バアルさん的には足りなかったらしい。
「本命、ですか……具体的には、どのような意味なのでしょう?」
輪郭をなぞるように、目元から顎へと向かって細く長い指を滑らせ、持ち上げ、満面の笑みで小首を傾げたんだ。
……確信犯だ。流石の俺でも分かるぞ、これは。
いやでも待てよ……逆にチャンスかもしれないな。ここで俺がバシッと決められたら、バアルさんにときめいてもらえるかも……よしっ!
「そ、それは、好きってことです! 俺が、バアルさんの……バアルのことが、大好きだか……んうっ」
瞬きをする間もなかった。気がつけば、一気に距離を詰められ、塞がれていた。
「ん、ふ……んん……」
噛みつかれるように感じたのは最初だけで、後はひたすらに優しく、甘やかすように何度も食まれた。
少しでも応えたくて、広い背中に腕を回す。だけど、上手く力が入らなくて。ただ縋りついただけになってしまった。
心が満たされていくにつれ、徐々に視界が滲んでいく。ちゃんと息は出来てるハズなのに、何だか頭までぼんやり霞んできた時だ。小さなリップ音を最後に柔らかい唇が離れていく。
「んぅ……は、ぁ……」
重ねたままの額が熱い。名残惜しそうに鼻先を擦り寄せてくる彼の頬はほんのり染まり、宝石のように煌めく緑の瞳はうっすらと涙の膜に包まれていた。
「申し訳ございません……貴方様のあまりの愛らしさに、込み上げる衝動を堪えることが叶いませんでした」
「……い、いえ……嬉しかったですよ、スゴく……」
一応、成功したんだよな? いや、しただろう。だって……キスしてもらえたんだからさ。
ただでさえ、彼との触れ合いに蕩けていた脳みそにプラスで、目的達成による浮かれた熱が加わったせいだ。
「あ、あの……食べてくれませんか?」
主語が、抜けてしまっていた。
きょとんと見開いた瞳を前に、自分の発した言葉をふと振り返る。そこで、ようやく誤解を招きかねない発言だと気付く。
……まぁ、時間帯さえ適切なら、誤解してもらっても全然構わないし、むしろ大歓迎なんだけどさ……って何を考えているんだ、俺は。
「あぅ……その……ガトーショコラ! コルテのお陰で、まだ出来立てなんです!」
「ふふ、では、後で彼にお礼を言わなければなりませんね」
「はい!」
気を取り直して、透明な箱からガトーショコラを一つ取り出す。緩やかな笑みを描いた唇に、ハート型のケーキをそっと近づけた。
「バアルさん……どうぞ」
「いただきます」
好きな人に、手作りを食べてもらえる。この瞬間が、一番緊張する。嬉しいのに不安になってしまう。ちゃんと味見もしたし、してもらったのに。
かぷりとハートが食まれ、白い頬がもくもく動く。激しく高鳴る自分の音しか聞こえなくなってちるせいかな。見惚れるくらいキレイな所作が、スローモーションみたいに見えたんだ。
「アオイ様」
欠片も残さず、キレイにガトーショコラを食べ終えた口が囁く。
「は、はい……」
大きな手が重なって、そっと繋がれる。真っ直ぐに俺を見つめる鮮やかな緑の瞳が、ゆるりと細められた。
「とても美味しかったですよ……貴方様の作るお菓子はいつも温かく、優しい甘さで私の心を満たしてくれる……中でもこちらは格別でした」
「……あ、ありがとう、ございます」
泣きそうだ。喜びに満ちあふれた唇が紡ぐ言葉に胸が震え、熱くなっていく。
「お礼を申し上げるのは、私の方でございます。ありがとう、アオイ……愛しております」
「っ……ぁ……お、俺も……すき……好き、です……」
今度こそダメだった。
あふれてこぼれて、止まらない。涙腺どころか口まで壊れてしまったんだろうか。ひたすら繰り返してしまっていたんだ。好きだと、貴方のことが好きなんだと。
穏やかに微笑むバアルさんが、宥めるような優しいキスを、額に、目尻に、頬に送ってくれる。俺が落ち着くまで何度も、何度も。
ようやく涙が止まった頃「ご一緒に頂きませんか?」と誘われて、食べさせ合ったガトーショコラは、やっぱり甘くて美味しくて……また目の奥が熱くなってしまったんだ。
それはそれは嬉しそうに綻んだ形のいい唇に、またしても心を鷲掴みにされてしまう。
……ダメだ。このままじゃあ、また俺ばっかりときめかされて終わってしまう。
とにもかくにも落ち着こうと密かに深呼吸を繰り返していた俺に、バアルさんが尋ねてきた。
「ところで、アオイ様。そちらの紙袋に入っていた、花型と星型のガトーショコラは……」
淡い光を帯びた羽が心なしか、そわそわとはためいて見えるのは気のせいだろうか。
彼の視線の先には紙袋があった。さっき持ってもらった時に、見えたんだろうな。中身が。
「ああ、お花の方はグリムさんが、俺とバアルさんの為に作ってくれた友チョコです。星の方は、後でお散歩の時に親衛隊の皆さんとレダさん達に、日頃のお世話になっているのでそのお礼に渡そうかなって……」
「左様でございましたか。そう言えば、ヨミ様やクロウさんに渡してらっしゃったものも星型でしたね」
納得したように小さく頷いて、頬を優しく撫でてくれてから、俺を横抱きの形で抱き直す。
パステルカラーの緑色のチョコペンと、細かく砕いたピスタチオでデコレーションした、俺としては渾身の出来であるハート型のガトーショコラ。それらが三つ収まった透明な箱が、テーブルの上から音もなく浮かび上がり、俺の手元へそっと下りてきた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ……因みにですが、アオイ様」
「はい、何でしょう?」
細められた瞳からは温かい光が消えていた。代わりに宿っていた、妖しい光に魅入られたからだろうか。ぞくぞくとした淡い感覚がぶわりと込み上げ、背中を撫でていく。
すっかり釘付けになってしまっていた俺の頬に、いつもより熱い彼の手が添えられた。指先で目尻をゆるゆる撫でながら、彼が問う。
「私の分だけ、ハート型……ということに、何か特別な意味が込められていると……期待しても宜しいのでしょうか?」
「ひゃ、ひゃい……ございます……バアルさんのは、その、本命……ですから……」
誰でもいいから褒めて欲しい。艷やかに微笑む唇が囁く甘さを含んだ低音に、またしてもあっさり口が腑抜けてしまったけれど。ちゃんと想いだけは、伝えることが出来たんだからさ。
ただ、バアルさん的には足りなかったらしい。
「本命、ですか……具体的には、どのような意味なのでしょう?」
輪郭をなぞるように、目元から顎へと向かって細く長い指を滑らせ、持ち上げ、満面の笑みで小首を傾げたんだ。
……確信犯だ。流石の俺でも分かるぞ、これは。
いやでも待てよ……逆にチャンスかもしれないな。ここで俺がバシッと決められたら、バアルさんにときめいてもらえるかも……よしっ!
「そ、それは、好きってことです! 俺が、バアルさんの……バアルのことが、大好きだか……んうっ」
瞬きをする間もなかった。気がつけば、一気に距離を詰められ、塞がれていた。
「ん、ふ……んん……」
噛みつかれるように感じたのは最初だけで、後はひたすらに優しく、甘やかすように何度も食まれた。
少しでも応えたくて、広い背中に腕を回す。だけど、上手く力が入らなくて。ただ縋りついただけになってしまった。
心が満たされていくにつれ、徐々に視界が滲んでいく。ちゃんと息は出来てるハズなのに、何だか頭までぼんやり霞んできた時だ。小さなリップ音を最後に柔らかい唇が離れていく。
「んぅ……は、ぁ……」
重ねたままの額が熱い。名残惜しそうに鼻先を擦り寄せてくる彼の頬はほんのり染まり、宝石のように煌めく緑の瞳はうっすらと涙の膜に包まれていた。
「申し訳ございません……貴方様のあまりの愛らしさに、込み上げる衝動を堪えることが叶いませんでした」
「……い、いえ……嬉しかったですよ、スゴく……」
一応、成功したんだよな? いや、しただろう。だって……キスしてもらえたんだからさ。
ただでさえ、彼との触れ合いに蕩けていた脳みそにプラスで、目的達成による浮かれた熱が加わったせいだ。
「あ、あの……食べてくれませんか?」
主語が、抜けてしまっていた。
きょとんと見開いた瞳を前に、自分の発した言葉をふと振り返る。そこで、ようやく誤解を招きかねない発言だと気付く。
……まぁ、時間帯さえ適切なら、誤解してもらっても全然構わないし、むしろ大歓迎なんだけどさ……って何を考えているんだ、俺は。
「あぅ……その……ガトーショコラ! コルテのお陰で、まだ出来立てなんです!」
「ふふ、では、後で彼にお礼を言わなければなりませんね」
「はい!」
気を取り直して、透明な箱からガトーショコラを一つ取り出す。緩やかな笑みを描いた唇に、ハート型のケーキをそっと近づけた。
「バアルさん……どうぞ」
「いただきます」
好きな人に、手作りを食べてもらえる。この瞬間が、一番緊張する。嬉しいのに不安になってしまう。ちゃんと味見もしたし、してもらったのに。
かぷりとハートが食まれ、白い頬がもくもく動く。激しく高鳴る自分の音しか聞こえなくなってちるせいかな。見惚れるくらいキレイな所作が、スローモーションみたいに見えたんだ。
「アオイ様」
欠片も残さず、キレイにガトーショコラを食べ終えた口が囁く。
「は、はい……」
大きな手が重なって、そっと繋がれる。真っ直ぐに俺を見つめる鮮やかな緑の瞳が、ゆるりと細められた。
「とても美味しかったですよ……貴方様の作るお菓子はいつも温かく、優しい甘さで私の心を満たしてくれる……中でもこちらは格別でした」
「……あ、ありがとう、ございます」
泣きそうだ。喜びに満ちあふれた唇が紡ぐ言葉に胸が震え、熱くなっていく。
「お礼を申し上げるのは、私の方でございます。ありがとう、アオイ……愛しております」
「っ……ぁ……お、俺も……すき……好き、です……」
今度こそダメだった。
あふれてこぼれて、止まらない。涙腺どころか口まで壊れてしまったんだろうか。ひたすら繰り返してしまっていたんだ。好きだと、貴方のことが好きなんだと。
穏やかに微笑むバアルさんが、宥めるような優しいキスを、額に、目尻に、頬に送ってくれる。俺が落ち着くまで何度も、何度も。
ようやく涙が止まった頃「ご一緒に頂きませんか?」と誘われて、食べさせ合ったガトーショコラは、やっぱり甘くて美味しくて……また目の奥が熱くなってしまったんだ。
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