【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
298 / 1,566

何があっても変わらない想い

しおりを挟む
 ……キスしたいって、思ってくれているんだ……俺と。

 ……スゴく嬉しかったのに。蕩けるような微笑みと甘やかな声で、変わらず愛を囁いてくれただけでも。俺という存在を喜んで受け入れてくれただけでも、スゴく。

 なのに、彼は行動でも示してくれる。撫でてくれて、抱き締めてくれて、さらにはその先まで。今の彼なりに、俺を愛してくれようとしてくれている。

「……やはり……今の私とでは、お嫌でしょうか?」

 嬉しくて、嬉し過ぎて言葉にならなかったせいだ。彼の笑顔を曇らせてしまっていた。

 ……応えなければ、今の彼にも。伝えなければ、この胸を満たしてくれている温かさを。

 名残惜しそうに頬をひと撫でしてから、静かに離れていこうとしていた手を慌てて握る。緑の瞳が僅かに見開かれた。

「……そんなこと、ないです。イヤな訳がありません……好き、ですから」

 鮮やかな緑に星が瞬く。力なく縮んでいた羽が途端に広がり、白い日差しの中で淡く輝く。

「若返っても、俺のこと……覚えてなくても、俺がバアルさんのことを好きってことは……絶対に変わりませんから」

 ……そうだ。それだけは変わらない。何があっても、今みたいに彼が変わってしまったとしても、それだけは。

 握り締めてしまっていた手が繋がれる。優しく抱き寄せられて、遠のきかけていた俺達の距離が瞬く間に縮まった。

「アオイ様……」

「バアルさん……」

 徐々に視界を満たしていく柔らかい微笑み。宝石よりも美しい瞳に俺だけが映るこの瞬間。

 いつも、心臓が壊れそうなくらいに高鳴ってしまう。このひと時が永遠に続けばいいのにと願ってしまう。

 そっと目を閉じて、全てを彼に委ねようとしていた時だった。

「おはようっ!! バアル! アオイ殿!」

 けたたましい音を立て開け放たれたドアから、これまた賑やかな通りのいい声が飛び込むように入ってくる。まるで嵐だ。いつも通りっちゃ、いつも通りのご訪問なんだけれど。

 もはや、不思議に思わなくなってしまったイケメン特有の風。何処からともなく吹く爽やかな空気が、黒く艷やかな長髪をふわりと攫う。上に立つ者に相応しい、金糸に彩られた黒の片マントを靡かせる。

 しなやかな足を大きく動かし、ふかふかの絨毯の上を颯爽と歩み、あっという間に部屋の奥へと。俺達の前へとやってきてしまった。

「そなたら、体調に変わりはないであろ……」

 ご機嫌そうに細められた、真っ赤な瞳がきょとんと丸くなった。ベッドの上でぴったりと身を寄せ合い、口づけを交わす寸前だった俺達を捉えたことによって。

「ひょわ……」

 顔の中心へと一気に熱が集まっていく。思わず、飛び退くように離れようとしたが叶わなかった。腰に回っている筋肉質な腕に阻まれ、上半身を僅かに後ろへ反らすだけに終わってしまった。

 いや、終わらなかった。繋いだ手を引かれ、腰を抱き寄せられ、そのままキレイに収まってしまった。ぬいぐるみでも抱くように、長い腕の中へと俺を閉じ込め頬をぴたりとくっつけてきた彼が、眉間に僅かにシワを寄せる。

「……おはようございます、ヨミ様。本日もご機嫌麗しいようで何よりでございます」

 声はいつも通りだ。柔らかく、優しい波音の様に耳障りが良く、心地いい。聞くだけなら完璧だ。あからさまな不満を表した、への字に歪んだ口元さえ見なければ。

 打ち上げられた魚のごとく、ただただ口をぱくぱくさせている俺。そして、ヨミ様に対して珍しくあまり平静を装っていないバアルさんとを、交互に見つめていた赤の瞳が再び細められた。

「……はっはっは! ないようだな! バアルが若返っても仲良しさんで何よりだ! 邪魔したな!!」

 愉快で仕方がないと言いたげに笑う王様が、くるりと背を向け部屋を後にしようとする。

「あ、ちょっ……ヨミ様」

「よいよい、しばしの間ゆっくり二人で過ごすといい。グリムとクロウには私から言っておこう、朝の茶会は中止だと」

 相変わらずな面倒見の良さを発揮し、トントン拍子に話を進めていく。扇ぐようにひらひらと振っていた手を下ろし、振り向きざまに微笑んだ。

「……だが、何か有ればすぐに連絡するのだぞ?」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...