【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
297 / 1,566

いつもの挨拶を貴方と

しおりを挟む
「えっと……じゃあ、バアルさんの身体も魔力も特に問題は無くて、記憶も身体も魔力が回復すれば自然に戻る……ってことでいいんですよね」

「はい。左様でございます」

 改めて、現状を整理してからの最終確認。彼のお膝の上にお邪魔させてもらい尋ねた俺に頷きながら、髪を梳くように撫でてくれる。

 ……自然にってことは、当分このままなんだろうな。でも、特に支障は無いだろう。

 だって、変わらず俺のことを……す、好きでいてくれているんだし。俺にとって、最大の懸念事項が解消されているんだ。他に何の問題が有るっていうんだろう。いや、ないな。全然。

 俺達を包み込むように照らし、真っ白なシーツへ重なった影を浮かばせている日差し。さっきよりも少し明るくなった室内で、ぽつりと小さな疑問が落ちる。

「……ところでアオイ様、将来の私と貴方様が日頃どのようにお過ごしか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

 そう尋ねる彼の瞳はキラキラ輝き、美しく透き通った羽はそわそわはためいていた。いかにも興味津々って感じで。

 確かに、気にはなるよな。同じ立場だったら、俺だって聞いてみたいし。

「はい、勿論」

 即座に返せば、ますますぱぁっと瞳が、笑顔が眩しくなる。やっぱりかわいい。ついつい頬がだらしなく緩んでしまう。

 大切にしまっている宝物を並べていくように、頭の中でバアルさんとの幸せな日々を思い返す。

 ……お散歩してますとか、コルテの演奏に合わせて踊ってますとか。色々あるけれど……やっぱり一から順に、の方がいいだろうな。

 そう思い、とある日のことを例に伝えようとして。

「えっと……起きたら先ず朝の挨拶に……き」

 出だしっから躓いた。地面にめり込むレベルで、思いっきり。

「……挨拶に、なんでしょう?」

 ゆるりと俺の頬を撫でたかと思えば、わざとらしく小首を傾げ、微笑む。明らかに楽しんでいらっしゃる。触覚は弾むように揺れているし。羽なんか、もうぱったぱただ。

 ……これは、絶対分かっているやつだ。分かってて言わせようとしているやつだ。違いない。

 ……ちょっぴり意地悪なところも、察しの良さも。若い時からすでにご健在だったんだな。

 とはいえ、朝することなんて限られているしな。おまけにニ文字の内の半分を言ってしまっているからな。仕方がない。

「そ、その……き、キスを……してもらってます……」

「……アオイ様からは、して頂けてはいなかったのでしょうか?」

 ……まさか、すかさず追い打ちをかけられるなんて。こっちは、あっさり白旗を上げたっていうのに。

 寂しそうな声色だけでも十分だった。

 なのに額を合わせ、切なく細められた瞳でじっと見つめながら、高い鼻を擦り寄せてくるんだ。ただでさえ、きゅうきゅう締め付けられている胸が、今度はドキドキはしゃぎ始めちゃったじゃないか。

「アオイ様……」

 止めと言わんばかりにもう一声。さらには縋るような眼差しを向けられてしまえば、あっという間だった。固く閉じていたハズの口が、いとも容易く緩んでしまう。

「っ……し、してますよ! 毎朝!! そりゃあ、最初の内は、歯をぶつけちゃったりしてましたけど、それなりに俺だって上手く出来るように……あっ」

 込み上げた衝動のまま捲し立てたせいだ。完全に余計なことまで言ってしまっていた。墓穴だ。前方後円墳を余裕で建てられるくらいに立派な墓穴を掘ったかもしれない。

 口を押さえたところでもう遅い。すでに出ていった言葉達は、帰ってきやしないんだから。

「……左様でございましたか」

 静かにクスクスと微笑む彼は、大変ご満悦そうだ。触覚も羽もゆらゆら、ぱたぱた動いている。

「因みにですが、そのご挨拶……私めから、貴方様に……させて頂いても?」

 口調はおずおずとしてはいるものの、姿勢は完全に前のめりだ。さり気なく俺の腰に腕を回し、しなやかな指で顎を持ち上げ、俺の許可が下りるのを今か今かと待っていらっしゃる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

処理中です...