【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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もしかして……今までがおかしかったんだろうか

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「私が、アオイ様の服を……アオイ様が、私の服を……ですか?」

「は、はい……」

 ますます、慌てていらっしゃる。触覚は忙しなく揺れ、透き通った羽も落ち着きなくはためきっぱなしだ。

 瞳を彷徨わせながら何度目かの深呼吸。バアルさんは最後に軽く咳払いをしてから、意を決したように俺を見つめた。そっと握られた、ひと回り大きな手が熱い。

「今一度、ご確認しますが……毎日、入浴の際は……お互いの服を、ぬ、脱がせ合っていた……ということでしょうか?」

「は、はぃ……あ、でも、全裸じゃないですよ! ちゃんと水着は着てますから!」

 言い放ったそれは、後々、冷静に考えれば考えるほど、大したフォローになっていない主張だった。着てりゃあいいってもんじゃないのにな。その前に、問題があるってのにな。

 けれども俺は気づかない。気づく訳がない。だってもう、当たり前のことになっていたんだから。常にドキドキしっぱなしなのは、習慣になった今となっても変わらないんだけどさ。

「因みに……その水着は、ご自身で着られていたのでしょうか?」

「え? 俺のはバアルさんが着させてくれて、バアルさんのは俺が着させていただいてましたけど?」

 あっけらかんと答えた俺に対して、ますますおろおろするバアルさん。触覚と羽も大騒ぎだ。ぶんぶん、ばたばたとスゴく賑やかになっていらっしゃる。

 色気漂う喉仏が、また上下する。問おうか問うまいか、と薄く開いては閉じてを繰り返していた口。自然な艶のある唇から戸惑いがちに紡がれた声は、少し震えていた。

「……つ、つまりは……下着もお互いに……という認識で宜しいのでしょうか?」

「はい。パンツも…………あっ」

 そう指摘されて、ようやくだった。

 もしかして……今までが、おかしかったんだろうか。着替える時は、いつもバアルさんが率先して、嬉しそうにしてくれていたもんだから。喜んでくれるならって……俺も普通に受け入れちゃっていたんだけどさ。

 何とも言えない沈黙。背中が擽ったくて仕方がない空気に耐えきれず、俺は口を開いた。

「……や、止めましょうか。俺、あっち向いてるんで、その間に」

「いえ、致しましょう」

 言い終わる前に遮られ、背を向けようとした肩をそっと掴まれる。振り向けば、真っ直ぐな瞳とかち合った。

「え、でも……」

「……貴方様とのいつもを……私も致したく存じます。それに今晩、御身に触れさせて頂く予行練習にもな……いえ、失言でした。お忘れ下さい」

 ほんのり頬を染めて、白く長い睫毛を伏せる。濁した言葉の続きは気になるけれど、それよりも心配の方が圧倒的に勝っていた。

「大丈夫ですか? ムリ、してません?」

 ひと回り大きな手から恭しく左手を取られた。さらに包み込むように甲に乗せられた手。白く長い指先が、手首から指先の方に向かってゆるりと撫でていく。

 辿り着いた、薬指のつけ根で輝く彼と揃いの銀の輪。捻じれたS字の光沢をなぞる瞳の優しさに、心臓が大きく跳ねた。

「アオイ様は今朝……嫌な訳がない、と私に仰って下さりましたよね? 私のことが変わらず好きだから、と」

「は、はい。バアルさんはバアルさんですし。バアルさんから……その、触れてもらえるの……好き、ですから……」

「私も、同じ気持ちです」

 射抜くような緑の眼差しに、高鳴りっぱなしの鼓動がますます騒がしくなる。

「貴方に触れたいと、触れさせて頂きたいと思っております。貴方様に心の底から焦がれております……ですので」

「じゃあ……します?」

 妙に乾いた喉から振り絞り、尋ねる。静かに頷いた彼は、その引き締まった首すらも赤く染まっていた。
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