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彼もまた、彼の中で
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周囲を白一色に染めていた鮮烈な輝きが、静かに収まってく。でも、まだチカチカする。反射的に瞼を閉じていたってのにさ。
ようやくはっきりしてきた視界に映った彼の姿。優しい目元や頬骨のラインに刻まれたカッコいいシワ、緩やかな笑みの形を描く口元にたくわえられた渋い髭。
「……バアルさん」
俺のよく知る彼なのに、どこか懐かしくて……急に目の奥が熱くなっていく。胸の奥底から、言葉にならない想いが込み上げてくる。
ただただ見つめるだけの俺に、白い手袋に覆われた手が差し出された。宝石よりも美しい、鮮やかな緑の眼差しが微笑んだ。
「アオイ様……カツレツパーティは、いつに致しましょうか?」
耳心地のいい低音が紡いでくれた、些細だけれど大切な彼との約束。
忘れてないんだ……消えてないんだ……
さっきまでいた、ほんの少しの間だけ俺と過ごした、まっさらなバアルさん。若返り、俺との日々を忘れてしまっていたけれど……もう一度、俺のことを好きになってくれた彼。
彼も生きているんだ。俺にしてくれた宣言通りに、ちゃんと彼の中で。
解った瞬間、もうあふれ出てしまっていた。堪えられなかったんだ。笑って頂けませんかって、さっきお願いされたばかりなのにな。
「アオイ様っ」
優しい風と戯れていた額の触覚がびくっと跳ね、背中にある半透明な羽が慌てたようにはためき出す。
穏やかな笑顔がたちまち萎んでいってしまう。俺のせいだ。いきなり俺が泣き出したから。
すかさず黒い執事服の胸元から取り出されたハンカチーフ。スベスベした心地のいい生地が、滲んだ目元を、濡れた頬を、壊れ物にでも扱うように拭ってくれた。
「申し訳ございません、近頃の私めは、誠に不甲斐ない……愛する貴方様を泣かせてばかりでございますね……」
優しい手つきで俺の背を宥めてくれている、彼の銀糸みたいに美しい睫毛が伏せられる。
謝る必要なんてないのに。ただ俺が、最近特に泣き虫になってしまっているだけなのに。
「っ……そんな、バアルさんは……悪く、ないです……俺が……俺が……ごめんなさ」
不意に重なった柔らかい体温。甘やかすような口づけに飲み込まれた言葉は意味を成さない音へと、震える声は上擦った吐息へと、瞬く間に塗り替えられていく。
「ふ……ん、んっ……ぁ……」
触れ合う度に満たされていく。頭が、心が、バアルさんでいっぱいになっていく。
嬉しくて、ふわふわして、温かくて……心地いい。
すっかり虜になった俺は、催促してしまっていた。引き締まった首に腕を絡め、優しく触れてくれている彼の唇に、自分から押しつけていたんだ。
高鳴り続けている鼓動の音に、不意に金属が軋むような鈍い音が混じる。俺が彼に寄りかかってしまったからだ。前のめりに、体重をかけて。
追いかけるみたいに続けてぽすりと軽い音。クッションだった。俺達を支えてくれている、背もたれの蔦模様がおしゃれなベンチ。少し固い席に敷いてくれていた内の一つが、石造りの地面に転がっていた。
……あ、と思ったのは一瞬だった。瞬く間に意識の外へと溶けていく。止まない、止める気もない触れ合いに、すぐにまたバアルさんしか見えなくなった。
俺だけを映してくれている鮮やかな緑が、うっそり細められる。上唇を甘く食んでくれてから、離れていってしまった柔らかい微笑みが、涙の跡が残る頬に優しく触れてくれた。続けて滲んだ目元にも。
わざとらしくリップ音を鳴らした唇が、悪戯っぽく微笑んだ。
「概ね止まりましたが……まだ少し滲んでおりますね」
促すみたいに見つめてくる、熱のこもった眼差し。誘ってくれているみたいに頬を撫でる、しなやかな指。
……強請ってもいいんだろうか。
「……そう、ですね……じゃ、じゃあ……もう一回……お願いしても、いい……ですか?」
ぱあっと明るくなり、微笑んだ。少し見上げた先にある彫りの深い顔が、若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳が。
「ええ、貴方様のお望みのままに……」
少しだけ離れていた俺達の距離がまた、ゆっくりと近づいていく。熱い吐息が口に触れたかと思えば、すぐに混じってどちらのものか分からなくなった。
「バアルさ……んむ……ん、ふ……」
……溺れてしまう。触れ合った部分から伝わってくる熱に、全身を包み込んでくれる落ち着くハーブの香りに。
でも、足りない…………まだ……足りないな……
もっと彼とくっつきたくて、首に回していた手を緩めて下ろす。代わりに広い背中に腕を回そうとして先を越された。
長い腕から軽々と抱き抱えられ、向き合う形で逞しいお膝の上に乗せてもらえたんだ。ほんのちょっぴり離れてしまった形のいい唇に、蕩けるような笑みが浮かぶ。
「ご要望に、お応え出来たでしょうか?」
ようやくはっきりしてきた視界に映った彼の姿。優しい目元や頬骨のラインに刻まれたカッコいいシワ、緩やかな笑みの形を描く口元にたくわえられた渋い髭。
「……バアルさん」
俺のよく知る彼なのに、どこか懐かしくて……急に目の奥が熱くなっていく。胸の奥底から、言葉にならない想いが込み上げてくる。
ただただ見つめるだけの俺に、白い手袋に覆われた手が差し出された。宝石よりも美しい、鮮やかな緑の眼差しが微笑んだ。
「アオイ様……カツレツパーティは、いつに致しましょうか?」
耳心地のいい低音が紡いでくれた、些細だけれど大切な彼との約束。
忘れてないんだ……消えてないんだ……
さっきまでいた、ほんの少しの間だけ俺と過ごした、まっさらなバアルさん。若返り、俺との日々を忘れてしまっていたけれど……もう一度、俺のことを好きになってくれた彼。
彼も生きているんだ。俺にしてくれた宣言通りに、ちゃんと彼の中で。
解った瞬間、もうあふれ出てしまっていた。堪えられなかったんだ。笑って頂けませんかって、さっきお願いされたばかりなのにな。
「アオイ様っ」
優しい風と戯れていた額の触覚がびくっと跳ね、背中にある半透明な羽が慌てたようにはためき出す。
穏やかな笑顔がたちまち萎んでいってしまう。俺のせいだ。いきなり俺が泣き出したから。
すかさず黒い執事服の胸元から取り出されたハンカチーフ。スベスベした心地のいい生地が、滲んだ目元を、濡れた頬を、壊れ物にでも扱うように拭ってくれた。
「申し訳ございません、近頃の私めは、誠に不甲斐ない……愛する貴方様を泣かせてばかりでございますね……」
優しい手つきで俺の背を宥めてくれている、彼の銀糸みたいに美しい睫毛が伏せられる。
謝る必要なんてないのに。ただ俺が、最近特に泣き虫になってしまっているだけなのに。
「っ……そんな、バアルさんは……悪く、ないです……俺が……俺が……ごめんなさ」
不意に重なった柔らかい体温。甘やかすような口づけに飲み込まれた言葉は意味を成さない音へと、震える声は上擦った吐息へと、瞬く間に塗り替えられていく。
「ふ……ん、んっ……ぁ……」
触れ合う度に満たされていく。頭が、心が、バアルさんでいっぱいになっていく。
嬉しくて、ふわふわして、温かくて……心地いい。
すっかり虜になった俺は、催促してしまっていた。引き締まった首に腕を絡め、優しく触れてくれている彼の唇に、自分から押しつけていたんだ。
高鳴り続けている鼓動の音に、不意に金属が軋むような鈍い音が混じる。俺が彼に寄りかかってしまったからだ。前のめりに、体重をかけて。
追いかけるみたいに続けてぽすりと軽い音。クッションだった。俺達を支えてくれている、背もたれの蔦模様がおしゃれなベンチ。少し固い席に敷いてくれていた内の一つが、石造りの地面に転がっていた。
……あ、と思ったのは一瞬だった。瞬く間に意識の外へと溶けていく。止まない、止める気もない触れ合いに、すぐにまたバアルさんしか見えなくなった。
俺だけを映してくれている鮮やかな緑が、うっそり細められる。上唇を甘く食んでくれてから、離れていってしまった柔らかい微笑みが、涙の跡が残る頬に優しく触れてくれた。続けて滲んだ目元にも。
わざとらしくリップ音を鳴らした唇が、悪戯っぽく微笑んだ。
「概ね止まりましたが……まだ少し滲んでおりますね」
促すみたいに見つめてくる、熱のこもった眼差し。誘ってくれているみたいに頬を撫でる、しなやかな指。
……強請ってもいいんだろうか。
「……そう、ですね……じゃ、じゃあ……もう一回……お願いしても、いい……ですか?」
ぱあっと明るくなり、微笑んだ。少し見上げた先にある彫りの深い顔が、若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳が。
「ええ、貴方様のお望みのままに……」
少しだけ離れていた俺達の距離がまた、ゆっくりと近づいていく。熱い吐息が口に触れたかと思えば、すぐに混じってどちらのものか分からなくなった。
「バアルさ……んむ……ん、ふ……」
……溺れてしまう。触れ合った部分から伝わってくる熱に、全身を包み込んでくれる落ち着くハーブの香りに。
でも、足りない…………まだ……足りないな……
もっと彼とくっつきたくて、首に回していた手を緩めて下ろす。代わりに広い背中に腕を回そうとして先を越された。
長い腕から軽々と抱き抱えられ、向き合う形で逞しいお膝の上に乗せてもらえたんだ。ほんのちょっぴり離れてしまった形のいい唇に、蕩けるような笑みが浮かぶ。
「ご要望に、お応え出来たでしょうか?」
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