386 / 1,566
これはこれで良い思い出
しおりを挟む
オレンジは、色と同じでみかん味。薄いオレンジは、マンゴーだった。
俺の黄緑と黄色、キウイとレモンも交互に味わっている内に、顔が隠れるくらいに大きかった山は、ほとんど更地に。トッピングも、お互いに果肉を数個残すのみとなっていた。
もはや最初のお洒落な見た目は皆無。そんな手遅れな状態になって、ようやくだった。
「あっ……写真……」
俺の口元まで近づいていた匙。全部混ざってトロピカルなお味になってしまったかき氷を、運んでくれていた手がピタリと止まる。若葉を思わせる鮮やかな緑が、きょとんと瞬いた。
「? ……お写真が、どうか致しましたか?」
「そりゃあ、勿論バアルさんの写真ですよ! キレイなかき氷とツーショットの、カッコよくてかわいいバアルさん!!」
まさか、こんなに短い間隔で同じミスを犯すとは。バアルさんコレクションが潤うチャンスを逃すとは。
串焼きの時は、ついつい見惚れちゃってて撮れなかったから、かき氷の時こそ撮らせていただこうと思ってたのに。ヨミ様ともお土産と一緒に、共有するつもりだったのに。
前のデートでは、バアルさんがカメラマンだった。だから当然、投影石の中身はツーショット以外、俺ばっかりになった訳で。
だから今回は、バアルさんオンリーなお写真も! と意気込んでいたんだが。
肝心のかき氷が、これじゃあなぁ……
硝子の器に残されたかき氷は精々数口分。混ざっちゃってるから、グラデーションもなくなってしまっている。少し薄くなった緑色は変わらずキレイなのだが。
「ふむ、確かに……私としたことが、うっかりしておりました」
「へ?」
「見た目が映えるかき氷と可愛らしいアオイ様、素晴らしいシャッターチャンスはいくらでもあったというのに……目の前の貴方様が、あまりにも愛らしいものですから、すっかり心を奪われておりました」
「ふぇ……」
落ち込んでいた気持ちのグラフが、あっさり上を向いていくのが分かる。繋いだままの手が熱い。俺の顔も。
流れるように、嬉し過ぎる言葉を紡いでくれていた唇が微笑みかける。
ひと回り大きな手が俺の頬に添えられ、細く長い指が目尻を優しく撫でてくれた。薄いオレンジの氷を乗せたスプーンが、硝子の器の近くで浮いていた。自分の意志でもあるかのように。
「今から撮らせて頂いても、宜しいでしょうか? かき氷は、あまり残ってはおりませんが……貴方様の可憐な笑顔を本日の思い出として、私の心の中以外にも残しておきたいのです」
高鳴った胸が熱くなる。柔らかい声からの提案に、俺だけを熱心に見つめてくれる瞳の輝きに。
「は、はぃ……」
上擦ったどころか震えてしまっていた。どうにか絞り出したってのに。
そうだよな。大事なのは、バアルさんとの思い出を形にして残すこと。だったら、これはこれで良い思い出になるかもしれない。後で一緒に見て、こんなこともありましたねって、笑えるだろう。きっと。
大きな手が、俺の髪の毛を梳くように撫でてくれてから、懐を探る。触覚を揺らし、いそいそと取り出してきたのは緑色の投影石。手のひらにちょこんと収まっている水晶を見た瞬間、はたと気づく。
「……あっ、交代! 今回は交代させて下さいね! 俺だって、バアルさんの素敵な笑顔、いっぱい撮りたいんですからね!」
危ない、危ない。もう完全にバアルさんに撮ってもらう気満々だったな。
「……畏まりました」
バアルさんは頷いてはくれた。けれども、ちょっぴり複雑そうだ。少し拗ねたような表情が、暗に物語っている。常に私が、お側にいるのだから良いのでは? と。自分も俺の写真を撮る手前、呑み込んでくれたみたいだが。
……あんまり、撮ったお写真ばかりに夢中にならないようにしないとな。嫉妬してくれるのは、嬉しくて堪らないんだけど。
俺の黄緑と黄色、キウイとレモンも交互に味わっている内に、顔が隠れるくらいに大きかった山は、ほとんど更地に。トッピングも、お互いに果肉を数個残すのみとなっていた。
もはや最初のお洒落な見た目は皆無。そんな手遅れな状態になって、ようやくだった。
「あっ……写真……」
俺の口元まで近づいていた匙。全部混ざってトロピカルなお味になってしまったかき氷を、運んでくれていた手がピタリと止まる。若葉を思わせる鮮やかな緑が、きょとんと瞬いた。
「? ……お写真が、どうか致しましたか?」
「そりゃあ、勿論バアルさんの写真ですよ! キレイなかき氷とツーショットの、カッコよくてかわいいバアルさん!!」
まさか、こんなに短い間隔で同じミスを犯すとは。バアルさんコレクションが潤うチャンスを逃すとは。
串焼きの時は、ついつい見惚れちゃってて撮れなかったから、かき氷の時こそ撮らせていただこうと思ってたのに。ヨミ様ともお土産と一緒に、共有するつもりだったのに。
前のデートでは、バアルさんがカメラマンだった。だから当然、投影石の中身はツーショット以外、俺ばっかりになった訳で。
だから今回は、バアルさんオンリーなお写真も! と意気込んでいたんだが。
肝心のかき氷が、これじゃあなぁ……
硝子の器に残されたかき氷は精々数口分。混ざっちゃってるから、グラデーションもなくなってしまっている。少し薄くなった緑色は変わらずキレイなのだが。
「ふむ、確かに……私としたことが、うっかりしておりました」
「へ?」
「見た目が映えるかき氷と可愛らしいアオイ様、素晴らしいシャッターチャンスはいくらでもあったというのに……目の前の貴方様が、あまりにも愛らしいものですから、すっかり心を奪われておりました」
「ふぇ……」
落ち込んでいた気持ちのグラフが、あっさり上を向いていくのが分かる。繋いだままの手が熱い。俺の顔も。
流れるように、嬉し過ぎる言葉を紡いでくれていた唇が微笑みかける。
ひと回り大きな手が俺の頬に添えられ、細く長い指が目尻を優しく撫でてくれた。薄いオレンジの氷を乗せたスプーンが、硝子の器の近くで浮いていた。自分の意志でもあるかのように。
「今から撮らせて頂いても、宜しいでしょうか? かき氷は、あまり残ってはおりませんが……貴方様の可憐な笑顔を本日の思い出として、私の心の中以外にも残しておきたいのです」
高鳴った胸が熱くなる。柔らかい声からの提案に、俺だけを熱心に見つめてくれる瞳の輝きに。
「は、はぃ……」
上擦ったどころか震えてしまっていた。どうにか絞り出したってのに。
そうだよな。大事なのは、バアルさんとの思い出を形にして残すこと。だったら、これはこれで良い思い出になるかもしれない。後で一緒に見て、こんなこともありましたねって、笑えるだろう。きっと。
大きな手が、俺の髪の毛を梳くように撫でてくれてから、懐を探る。触覚を揺らし、いそいそと取り出してきたのは緑色の投影石。手のひらにちょこんと収まっている水晶を見た瞬間、はたと気づく。
「……あっ、交代! 今回は交代させて下さいね! 俺だって、バアルさんの素敵な笑顔、いっぱい撮りたいんですからね!」
危ない、危ない。もう完全にバアルさんに撮ってもらう気満々だったな。
「……畏まりました」
バアルさんは頷いてはくれた。けれども、ちょっぴり複雑そうだ。少し拗ねたような表情が、暗に物語っている。常に私が、お側にいるのだから良いのでは? と。自分も俺の写真を撮る手前、呑み込んでくれたみたいだが。
……あんまり、撮ったお写真ばかりに夢中にならないようにしないとな。嫉妬してくれるのは、嬉しくて堪らないんだけど。
98
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる