【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
385 / 1,566

そういう趣味でもあるのだろうか?

しおりを挟む
 まずは緑の部分。なんの抵抗もなく掬えた氷の口溶けは雪のよう。含んだ途端に溶けていってしまう。残ったのは、甘いメロンの風味とスッキリとした冷たさだけ。

「うわっ……スゴい、ふわふわ……すぐになくなっちゃいますね。ちょっと多いかな、って思ってたけど、あっさり食べられちゃいそう」

「はい。軽い口溶けも大変美味しく存じますが、果物をそのまま味わっているような贅沢感が堪りませんね」

 赤く染まった氷を上品に口に含み、瞳を細めたバアルさん。彼の評した通り、いかにも着色料を使ってます! なシロップとは違う。果汁100%って感じだ。トッピングにも、ふんだんに果肉を使ってるのにな。

 これで銀貨五枚。五百円なんだから驚きだ。普通のシロップだけのかき氷でも二百円はしてたけどな。俺の居た世界では。

「赤は、やっぱりイチゴでしたか? 俺のはメロンでしたけど」

「ええ、どうぞ」

 流石、優しさの化身であるバアルさん。すでに準備万端だった。

 赤いところ、くれませんか? と俺が強請るよりも早く、赤い氷をキレイに盛った匙が差し出される。おまけに生クリームを添えて。

「いただきます……んっ……」

 生クリームと果物。ただでさえ相性抜群なのに、相方はショートケーキでお馴染みのイチゴだ。美味しくない訳がない。

 甘さ控えめの生クリームと、甘いんだけれど程よい酸味があるイチゴの果汁が相まって、上品なイチゴミルクをいただいている感じだ。

「甘酸っぱくて美味しいですね!」

「ええ、全く。喜んで頂けて何よりです」

 バアルさんは小さく頷いて、目尻のシワを深くした。

 メロンもいいけれど、イチゴもいい。やっぱり違うのにしてもらって正解だったな。まだまだ、あと四種類の味を二人で楽しめてしまうんだから。

「あ、俺のもどうぞ」

 お返しに俺もバニラアイスを削って乗せてから、メロンの部分を掬う。見た目は完全にクリームソーダだな。炭酸は入っていないけど。

「ありがとうございます」

 しなやかな指で、頬にかかっている艷やかな髪を耳にかけてから、小さく口を開く。

 バアルさんは、かき氷を食べているだけだ。なのに……何だかドキドキしてしまう。

 串焼きの時は、大きく開いた口から鋭い歯が覗いていて、ワイルドでカッコよかった。

 今度は真逆だ。キレイで色っぽい。伏せられた銀糸のように美しい睫毛や、目尻に刻まれた大人なシワ、清潔感のある渋いお髭も相まって。

 もしかして……俺って、そういう趣味があったのかな? 人が食べてるのを見るのが好きっていうヤツ。

 でも、グリムさんやクロウさん、ヨミ様達の時とは違うよな。俺が作ったお菓子や料理を食べてくれるのを見ていても、ほっこりするだけだし。

 そりゃあ食べてもらう前は、お口に合うかな? とか、喜んでもらえるかな? ってドキドキはするけどさ。

 いや、でも、ほっこりしている時点で好き、なのかな? そもそもお菓子作りにハマったのも、バアルさんや皆さんに喜んでもらえて嬉しかったからだし。やっぱり俺、そういう趣味が?

「……アオイ様?」

「ひゃいっ」

 しまった。完全に考えに浸ってしまっていた。目の前にいてくれている、バアルさんをそっちのけで。

 俺を見つめる緑の瞳には心配、そして寂しさが滲んでいた。弾んでいた触覚は力なく下がり、大きく広がっていた羽も弱々しく縮んでしまっている。あんなに賑やかだったのに。

「……いかがなさいましたか?」

「あ、えっと……その……」

 この期に及んで言い淀んでしまったせいだ。鮮やかな緑がますます暗く沈んでいってしまう。

 今更だろう。取り繕ってどうする。これまで散々みっともない姿を晒してきたじゃないか。彼の前で、鼻水が出てしまうくらい泣きじゃくったのだって、一回や二回じゃないだろ。

 バアルさんの寂しさを拭う方が先だろうが。

「すみません、俺、また見惚れちゃってて……それで、好きなのかなって……バアルさんが食べてるところを見るのが……」

 目を伏せた俺を待っていたのは、暫しの沈黙。たった数秒そこらだったと思うんだが、俺にはとてつもなく長く感じた。

 潤っていたハズの喉が乾いていく。熱くて仕方がない頬に、不意に触れてきた柔らかくて冷たい感触。バアルさんの白い手が、優しく撫でてくれていた。

 うっとり微笑んで、淡い光を帯びた羽をはためかせている。いつもより低く、囁やくような声は、蕩けるように甘かった。

「ふふ、大変嬉しく存じます。それほどまでにアオイ様が、私のことを愛していらっしゃるなんて……」

「……へ? そりゃあ、バアルさんのことは、俺、大好きですけど? あ、愛してますし……」

 つい、疑問形で返してしまっていた。当たり前なことを言われたもんだから。

 頼もしい幅広の肩が、僅かに跳ねる。ご機嫌そうに揺れていた触覚も。鍛え上げられた筋肉のラインがカッコいい首が、ほんのり染まっていく。

 少し顔を逸してからした咳払いが、何だか妙にわざとらしい。照れてくれているのだろうか。

「……食べている御姿がお好き、という気持ちには、その方への愛情が含まれているといいます」

「……愛情」

「ええ、私めも貴方様が美味しそうに召し上がっているご様子を、幸せそうな笑顔を拝見していると、大変心が満たされていくのを感じます故」

「バアルさんも、ですか?」

 お揃いだったのは、何もそれだけじゃなかったみたい。

「はい。アオイ様が、私のお側で嬉しそうに笑って下さると、私も大変嬉しく存じますので」

 花が咲くように微笑む彼が、輝いて見える。

 あふれてしまいそうだ。胸を満たす喜びが、彼のことが好きって気持ちが。

「ですから、また可愛らしい笑顔を見せて頂けませんか?」

 差し出されたのは、スプーンいっぱいに盛られたオレンジ。ふわりと香った甘さ以上に蕩けるように微笑む緑の瞳が、期待に揺れていた。

「は、はい! 喜んで! あ、バアルさんも俺に見せて下さいねっ!!」

「ええ、是非、お好きなだけご覧になって下さい」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

処理中です...