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夜闇のような室内にて、解ける疑問
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大量の紙袋を手品のようにぱぱっと消した、もとい術でしまったバアルさん。フリーになった、ひと回り大きな手を握れば、目尻のシワを深めて握り返してくれた。
「さあ、今度こそバアルさんの番ですよ」
何処に連れて行ってくれるつもりなんだろうか。期待に高鳴っている胸に、ちょっぴり過る不安。隅っこに滲んでいたモヤモヤが少し広がってしまう。
「……はい……左様で、ございますね……」
なんせ、歯切れが悪いのだ。それに、何だか俺より不安そう。珍しく合わせてくれない瞳は伏せられ、凛々しい眉毛も下がってしまっている。
繋いだ手が冷たい。震えが伝わってくる。もしかして、緊張……してるのかな?
何でかは分からない。でも、とにかく今は、バアルさんの憂いを拭うのが先だ。柔らかい声色を心がけ、微笑みかけてみる。
「……心配しなくても大丈夫ですよ。俺、何処にだってお供しますからね」
しょんぼりしかけていた触覚が、ぴょこんと弾む。やっと映してくれた鮮やかな緑の瞳に、淡い光が宿った。
「……誠でございますか?」
「はいっ、勿論! バアルさんの行きたいところが、俺の行きたいところですから」
「……ありがとうございます」
少しは気を楽にしてもらえたんだろうか? 止まりかけていた彼の足取りが軽くなる。
目的地は、まだ秘密らしい。でも、いいんだ。バアルさんの横顔に穏やかな笑顔が戻ったんだから。
ほどなくして辿り着いた、彼が俺を連れて来たかった場所。そこは、美術の教科書にでも載っていそうな見た目をした建物だった。
元々は真っ白だったんだろう。高くそびえ立つ大きな外壁は、ほんのりベージュ色に。いくつも並んだ柱も、長年佇んでいたような風格を漂わせている。
正直、外見だけでは、どんな場所なのかサッパリだ。分かるのは、なんかデカい建物だなってことだけ。それどころか、見れば見るほど疑問が湧いてきてしまう。大きな屋根の上、左右の端っこには、それぞれコウモリの羽を生やした馬の像が、シャチホコみたいに建てられているしさ。
「参りましょうか」
「は、はい」
男らしい引き締まった腕にエスコートしてもらい、扉へと続く石段を上っていく。
見た目通り、中も広い。そんでもって、何だかお洒落だ。高い天井には、螺旋状にぐるぐると伸びたシャンデリアが。お足元は、お城の廊下に敷かれているような、濃い赤の絨毯に覆われている。
賑わいも中々だ。手を繋ぎ、あるいは腕を組みながら、皆さん正面の大きな扉へと向かっている。気のせいか、恋人同士っぽい方々が多いような。
「もしかして……劇場、ですか?」
何のミュージカルかは忘れたが、連れて行ってもらった劇場と雰囲気が近い気がする。厳かな空気とか、人は多いのに静かな感じとか。
「違いますが……此方も、十分リラックスして楽しめるかと」
ニアピンだったみたい。座って何かを鑑賞する場所らしい。となると、俺が思い浮かぶ候補は映画館くらいしか。美術館や博物館は見て回るもんだしなぁ。
「二名様ですね?」
扉の側に居たスタッフさん。黒いスーツに身を包み、目鼻立ちがはっきりしている男性が、柔和な笑みで俺達に尋ねてくる。鳥の翼だろう。両腕から生えている灰色の羽には、黒いまだら模様が浮かんでいた。
「はい」
丁寧に会釈をしたバアルさんが、お財布を取り出す。数枚の金貨と交換で手渡されたのは二枚のチケット。やっぱり、映画館かな?
バアルさんが懐へとしまう様をしげしげ眺めていると、何やら視線が。スタッフさんが、俺の頭の天辺から爪先までを、じっくり見つめていた。
もしや、ドレスコードってヤツか? いやでも、それなりに整った服は着ているつもりなんだけど。なんせ、バアルさんが選んでくれたんだしさ。
「お席へご案内いたしましょうか?」
ご案内? わざわざ? いくら広くても、チケットに座席の番号が書いてあるんだろうから、迷わないだろうに。
「いえ、彼は私が連れて行きますので」
「畏まりました。黄色く輝いているお席が、空席になっております。御用の際は、壁に掛けられているベルにてお呼び下さい」
黄色く輝いているお席? あれ、指定席とかじゃないんだ。っていうか、輝くって? 中はやっぱり暗いのかな? でも、それじゃあ邪魔じゃない? 映画見る時にさ。
頭の中は、はてなマークでいっぱいだ。バアルさんは、訳知りって感じだけど。
お足元にお気をつけて、ごゆっくりお過ごし下さい、と頭を深く下げたスタッフさん。彼に向かって再び会釈で返した柔らかい眼差しが、俺を見つめる。
「えっと……バアル、さん?」
「失礼致します」
「ひょわっ」
ますます俺は困惑した。
だって無理もないだろう。繋いだ手を離されたかと思えば、横抱きの形で抱き上げられたんだからさ。
「ば、ばばバアルさん? 嬉しいですけど……人みゃっ」
アワアワしていた口を塞がれた。立てた人差し指を、ちょんと押しつけられて。静かにと、小さな子供に注意するみたいに。
笑顔のスタッフさんが見守る中、バアルさんは平然と微笑んでいる。
どこか艷やかな光を宿した眼差しに見つめられ、小躍りしかけていた鼓動が激しさを増す。緩やかなラインを描く唇が、薄く開いた。
「……私の首に腕を回して下さい」
俺にだけにしか聞こえない囁やきだった。なのに、低いトーンがお腹の奥にまで響いてきて、背筋に淡い感覚が走ってしまう。
指先は、情けなく震えてしまっていた。なんなら、もう腰砕けになっているかもしれない。でも俺は、伸ばした腕を彼の白い首へ絡めていたんだ。ふらふらと引き寄せられているみたいに。
「……そう、いい子ですね」
大きな手が俺の頭をよしよし褒めてくれる。優しく微笑んでくれてから、スラリと伸びた足を扉へと踏み出した。
自動ドアみたいに、勝手に開いた扉が俺達を招く。夜のように暗い室内へ入って、ようやくだった。湧きまくっていた疑問が解けたのは。
「さあ、今度こそバアルさんの番ですよ」
何処に連れて行ってくれるつもりなんだろうか。期待に高鳴っている胸に、ちょっぴり過る不安。隅っこに滲んでいたモヤモヤが少し広がってしまう。
「……はい……左様で、ございますね……」
なんせ、歯切れが悪いのだ。それに、何だか俺より不安そう。珍しく合わせてくれない瞳は伏せられ、凛々しい眉毛も下がってしまっている。
繋いだ手が冷たい。震えが伝わってくる。もしかして、緊張……してるのかな?
何でかは分からない。でも、とにかく今は、バアルさんの憂いを拭うのが先だ。柔らかい声色を心がけ、微笑みかけてみる。
「……心配しなくても大丈夫ですよ。俺、何処にだってお供しますからね」
しょんぼりしかけていた触覚が、ぴょこんと弾む。やっと映してくれた鮮やかな緑の瞳に、淡い光が宿った。
「……誠でございますか?」
「はいっ、勿論! バアルさんの行きたいところが、俺の行きたいところですから」
「……ありがとうございます」
少しは気を楽にしてもらえたんだろうか? 止まりかけていた彼の足取りが軽くなる。
目的地は、まだ秘密らしい。でも、いいんだ。バアルさんの横顔に穏やかな笑顔が戻ったんだから。
ほどなくして辿り着いた、彼が俺を連れて来たかった場所。そこは、美術の教科書にでも載っていそうな見た目をした建物だった。
元々は真っ白だったんだろう。高くそびえ立つ大きな外壁は、ほんのりベージュ色に。いくつも並んだ柱も、長年佇んでいたような風格を漂わせている。
正直、外見だけでは、どんな場所なのかサッパリだ。分かるのは、なんかデカい建物だなってことだけ。それどころか、見れば見るほど疑問が湧いてきてしまう。大きな屋根の上、左右の端っこには、それぞれコウモリの羽を生やした馬の像が、シャチホコみたいに建てられているしさ。
「参りましょうか」
「は、はい」
男らしい引き締まった腕にエスコートしてもらい、扉へと続く石段を上っていく。
見た目通り、中も広い。そんでもって、何だかお洒落だ。高い天井には、螺旋状にぐるぐると伸びたシャンデリアが。お足元は、お城の廊下に敷かれているような、濃い赤の絨毯に覆われている。
賑わいも中々だ。手を繋ぎ、あるいは腕を組みながら、皆さん正面の大きな扉へと向かっている。気のせいか、恋人同士っぽい方々が多いような。
「もしかして……劇場、ですか?」
何のミュージカルかは忘れたが、連れて行ってもらった劇場と雰囲気が近い気がする。厳かな空気とか、人は多いのに静かな感じとか。
「違いますが……此方も、十分リラックスして楽しめるかと」
ニアピンだったみたい。座って何かを鑑賞する場所らしい。となると、俺が思い浮かぶ候補は映画館くらいしか。美術館や博物館は見て回るもんだしなぁ。
「二名様ですね?」
扉の側に居たスタッフさん。黒いスーツに身を包み、目鼻立ちがはっきりしている男性が、柔和な笑みで俺達に尋ねてくる。鳥の翼だろう。両腕から生えている灰色の羽には、黒いまだら模様が浮かんでいた。
「はい」
丁寧に会釈をしたバアルさんが、お財布を取り出す。数枚の金貨と交換で手渡されたのは二枚のチケット。やっぱり、映画館かな?
バアルさんが懐へとしまう様をしげしげ眺めていると、何やら視線が。スタッフさんが、俺の頭の天辺から爪先までを、じっくり見つめていた。
もしや、ドレスコードってヤツか? いやでも、それなりに整った服は着ているつもりなんだけど。なんせ、バアルさんが選んでくれたんだしさ。
「お席へご案内いたしましょうか?」
ご案内? わざわざ? いくら広くても、チケットに座席の番号が書いてあるんだろうから、迷わないだろうに。
「いえ、彼は私が連れて行きますので」
「畏まりました。黄色く輝いているお席が、空席になっております。御用の際は、壁に掛けられているベルにてお呼び下さい」
黄色く輝いているお席? あれ、指定席とかじゃないんだ。っていうか、輝くって? 中はやっぱり暗いのかな? でも、それじゃあ邪魔じゃない? 映画見る時にさ。
頭の中は、はてなマークでいっぱいだ。バアルさんは、訳知りって感じだけど。
お足元にお気をつけて、ごゆっくりお過ごし下さい、と頭を深く下げたスタッフさん。彼に向かって再び会釈で返した柔らかい眼差しが、俺を見つめる。
「えっと……バアル、さん?」
「失礼致します」
「ひょわっ」
ますます俺は困惑した。
だって無理もないだろう。繋いだ手を離されたかと思えば、横抱きの形で抱き上げられたんだからさ。
「ば、ばばバアルさん? 嬉しいですけど……人みゃっ」
アワアワしていた口を塞がれた。立てた人差し指を、ちょんと押しつけられて。静かにと、小さな子供に注意するみたいに。
笑顔のスタッフさんが見守る中、バアルさんは平然と微笑んでいる。
どこか艷やかな光を宿した眼差しに見つめられ、小躍りしかけていた鼓動が激しさを増す。緩やかなラインを描く唇が、薄く開いた。
「……私の首に腕を回して下さい」
俺にだけにしか聞こえない囁やきだった。なのに、低いトーンがお腹の奥にまで響いてきて、背筋に淡い感覚が走ってしまう。
指先は、情けなく震えてしまっていた。なんなら、もう腰砕けになっているかもしれない。でも俺は、伸ばした腕を彼の白い首へ絡めていたんだ。ふらふらと引き寄せられているみたいに。
「……そう、いい子ですね」
大きな手が俺の頭をよしよし褒めてくれる。優しく微笑んでくれてから、スラリと伸びた足を扉へと踏み出した。
自動ドアみたいに、勝手に開いた扉が俺達を招く。夜のように暗い室内へ入って、ようやくだった。湧きまくっていた疑問が解けたのは。
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