413 / 1,566
圧倒的に弱すぎる、俺の意志が
しおりを挟む
「あ、ありがとうございまひゅ……」
「いえ」
「ば、バアルしゃんも、カッコいいでひゅっ」
「ありがとうございます、誠に嬉しく存じます」
お礼でひと噛み、お返しでふた噛み。だらしなく緩みまくっている口のせいだ。まったくもってスマートさの欠片もない。
それでもホントに嬉しそうに、バアルさんは微笑んでくれた。穏やかに綻んだ口元にたくわえた、清潔感漂う白いお髭が渋くてカッコいい。
引き締まった長い腕が、俺の腰を抱き寄せる。白い石で舗装された道。見た目はツルツルしているけれども、滑ることなく歩きやすい歩道を、彼が再びエスコートしてくれる。
歩幅の狭い俺に合わせてくれるバアルさん。薄灰色のズボンを纏う、スラリと伸びた長い足が踏み出す度に、同色のコートがひらひら舞う。夏の青空を思わせる爽やかな裏地が、チラチラ覗く。
服越しでも分かる、鍛え上げられ体躯。盛り上がるところは盛り上がり、引き締まるところは引き締まった長身を少し屈めて、バアルさんが尋ねた。
「ところで、何かお気に召したものはこざいましたか? どうか、ご遠慮なさらないで下さいね」
「えっと……特には」
見ていただけで、欲しくはない。そもそも今日はすでに彼からもらっているし。ショーウインドウに並ぶキラキラな品々が全て霞んでしまう、素敵な贈り物を。
少し視線を下げただけで、視界に入ってくれる淡い輝き。見つめるだけで、ニヤけそうになってしまう。彼の瞳にそっくりな鮮やかな緑のバラを。
それに、これからは念願のお品を選びにいくのだ。バアルさんとのお揃いになるのは、指輪になるのはまだ先だけどさ。
「左様でございましたか……」
銀糸のように美しい睫毛を伏せる彼は、あからさまに残念そうだ。
弾みかけていた声が小さくなり、揺れていた触覚は力なく下がっていく。大きく広がり、はためいていた羽もだ。見る影もない。しょぼしょぼと縮んでしまっていた。
財布を取り出そうとしていたんだろう。懐まで伸びていたけれど行き場を失った指先が、左胸で輝くオレンジのヒマワリを優しく撫でている。
気がつけば俺は口を開いていた。
「……俺、今スゴく幸せですよ」
「……アオイ様」
「とびきりの贈り物は、さっき頂きましたし……今からは……ふ、夫婦の証も……それに、俺、バアルさんが居てくれるだけで……ひょわっ」
馴染みのあるハーブの香りが鼻を擽ったかと思えば、抱き締められていた。
ここは人気のない細道でも、二人っきりになれる個室でもないのに。弁えないといけないのに。
うっかり広い背に腕を回しかけていた自分に待ったをかける。崩壊寸前の理性を総動員して、分厚い胸板を押し返そうとしたが、叶わなかった。
身体はもう屈していたのだ。心の方も、寸前だが。
それもそうだ。嬉しくて仕方がないんだから。俺だって、出来ることなら四六時中、バアルさんとくっついていたんだから。
とにかく俺ではどうしようもない。彼の方から離していただかなければ。スゴく心苦しいし、目茶苦茶名残惜しいが。
「バアルさん……」
「申し訳ございません……どうか御慈悲を……今暫くの間だけで構いませんので」
「はぃ……どうぞ、お好きなだけ……」
圧倒的に弱すぎる。俺の意志が。
いやでも仕方がないって。好きな人から寂しそうな声でお願いされたんだぞ? 好きにして下さいってなるだろう、普通。うん、これは仕方がない。仕方がないんだ。
苦し紛れな言い訳を頭の中で並べながら、俺は頼もしい背中に腕を回した。そして、ここぞとばかりに逞しい胸板に頬を寄せた。チラホラと周りから感じる微笑ましげな視線、背中が擽ったくなるそれらに気づかないフリをして。
「いえ」
「ば、バアルしゃんも、カッコいいでひゅっ」
「ありがとうございます、誠に嬉しく存じます」
お礼でひと噛み、お返しでふた噛み。だらしなく緩みまくっている口のせいだ。まったくもってスマートさの欠片もない。
それでもホントに嬉しそうに、バアルさんは微笑んでくれた。穏やかに綻んだ口元にたくわえた、清潔感漂う白いお髭が渋くてカッコいい。
引き締まった長い腕が、俺の腰を抱き寄せる。白い石で舗装された道。見た目はツルツルしているけれども、滑ることなく歩きやすい歩道を、彼が再びエスコートしてくれる。
歩幅の狭い俺に合わせてくれるバアルさん。薄灰色のズボンを纏う、スラリと伸びた長い足が踏み出す度に、同色のコートがひらひら舞う。夏の青空を思わせる爽やかな裏地が、チラチラ覗く。
服越しでも分かる、鍛え上げられ体躯。盛り上がるところは盛り上がり、引き締まるところは引き締まった長身を少し屈めて、バアルさんが尋ねた。
「ところで、何かお気に召したものはこざいましたか? どうか、ご遠慮なさらないで下さいね」
「えっと……特には」
見ていただけで、欲しくはない。そもそも今日はすでに彼からもらっているし。ショーウインドウに並ぶキラキラな品々が全て霞んでしまう、素敵な贈り物を。
少し視線を下げただけで、視界に入ってくれる淡い輝き。見つめるだけで、ニヤけそうになってしまう。彼の瞳にそっくりな鮮やかな緑のバラを。
それに、これからは念願のお品を選びにいくのだ。バアルさんとのお揃いになるのは、指輪になるのはまだ先だけどさ。
「左様でございましたか……」
銀糸のように美しい睫毛を伏せる彼は、あからさまに残念そうだ。
弾みかけていた声が小さくなり、揺れていた触覚は力なく下がっていく。大きく広がり、はためいていた羽もだ。見る影もない。しょぼしょぼと縮んでしまっていた。
財布を取り出そうとしていたんだろう。懐まで伸びていたけれど行き場を失った指先が、左胸で輝くオレンジのヒマワリを優しく撫でている。
気がつけば俺は口を開いていた。
「……俺、今スゴく幸せですよ」
「……アオイ様」
「とびきりの贈り物は、さっき頂きましたし……今からは……ふ、夫婦の証も……それに、俺、バアルさんが居てくれるだけで……ひょわっ」
馴染みのあるハーブの香りが鼻を擽ったかと思えば、抱き締められていた。
ここは人気のない細道でも、二人っきりになれる個室でもないのに。弁えないといけないのに。
うっかり広い背に腕を回しかけていた自分に待ったをかける。崩壊寸前の理性を総動員して、分厚い胸板を押し返そうとしたが、叶わなかった。
身体はもう屈していたのだ。心の方も、寸前だが。
それもそうだ。嬉しくて仕方がないんだから。俺だって、出来ることなら四六時中、バアルさんとくっついていたんだから。
とにかく俺ではどうしようもない。彼の方から離していただかなければ。スゴく心苦しいし、目茶苦茶名残惜しいが。
「バアルさん……」
「申し訳ございません……どうか御慈悲を……今暫くの間だけで構いませんので」
「はぃ……どうぞ、お好きなだけ……」
圧倒的に弱すぎる。俺の意志が。
いやでも仕方がないって。好きな人から寂しそうな声でお願いされたんだぞ? 好きにして下さいってなるだろう、普通。うん、これは仕方がない。仕方がないんだ。
苦し紛れな言い訳を頭の中で並べながら、俺は頼もしい背中に腕を回した。そして、ここぞとばかりに逞しい胸板に頬を寄せた。チラホラと周りから感じる微笑ましげな視線、背中が擽ったくなるそれらに気づかないフリをして。
83
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる