【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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バアルさんと、皆さんと違って……俺は、人間だから

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 恒例となりつつあるグッズの受け渡しを終えれば、次に始まるのはこれまた恒例のお土産話。

 テーブルの中心へ置かれたガラスドーム。その中で寄り添い合うように咲き誇る、緑のバラとオレンジのヒマワリ。それから隣のケースの中で淡く輝いている、緑とオレンジのバイカラーの魔宝石を肴に盛り上がっていく。

 真っ赤な瞳を輝かせながら、ヨミ様が身を乗り出してバアルさんに尋ねた。

「それでっ? アオイ殿は、そなたになんと返したのだ?」

「私めとずっと一緒に居て欲しいと……隣で笑っていて欲しいと仰って頂けました……」

「おおっ……なんともアオイ殿らしい……健気で愛らしいプロポーズであるな!」

 ぐっと拳を握り、瞳を潤ませるヨミ様。合いの手のごとく、きゃあっと高い声を上げるグリムさん。腕を組み、感慨深げに頷くクロウさん。ハンカチーフで目元を押さえているレタリーさん。第二の嬉し恥ずかし会場はこちらでしょうか。

 覚悟はしていたさ。なんせ、デート後のお茶会なのだ。しかも昨晩、結婚の報告をしたばかり。となれば、根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。プロポーズの言葉やら何やらを。

 まぁ、していたからといって、顔は熱くなってしまうのだけれど。背中に妙な汗が滲んでしまうのだけれど。

 ホントに、なんでバアルさんは堂々としているんだろうか。

 バアルさんは詳細にツラツラとプラネタリウムでの出来事を語っている。すっかり彼の抱き枕と化し、頭をよしよし撫でられっぱなしの俺と違って。

 時々、思い出したかのように白い頬をほんのり染めたり、緑の瞳を潤ませてはいる。けれども、些細なもんだ。全部彼に任せて、熱い顔を覆っている俺に比べれば。

「……そして、あの魔宝石店で、この魔宝石を共に選んだという訳か」

「はい。心配りに長けた店員の方が、私達の魔力の花とそっくりの色の魔宝石を選んで下さいまして……」

「うむ。確かに並べてみるとそっくりであるな!」

「すっごくキレイですよね……」

「良かったですね。いい色が見つかって」

「こちらの魔宝石に魔力を込めるお二方の晴れ姿……今から楽しみで仕方がありません」

 魔宝石に魔力を……そういえば、儀式ってそれ以外に何をするんだろう。なにか、お作法的な……守らないといけないルールというか、マナーがあったりしないんだろうか。

 喜びを噛み締めているような声。弾んだ声。うっとりとした声。和気あいあいとした雰囲気に、水を差してしまうようで申し訳なかった。でも、大事な儀式に、バアルさんとの最初の一歩で躓く訳にはいかない。

「……あの、ところで儀式って、具体的にどういうことをするんですか? 俺、バアルさんと一緒に魔宝石に魔力を込めるってことしか知らないんですけど」

 一気に俺に向かって注がれた視線と、静かになってしまった空気に肩が跳ねる。

 けれども杞憂だったようだ。俺を見つめていた眼差し達が、ほとんど同時に微笑みかけてくれる。ヨミ様がゆったりと足を組み替えながら、俺に小さく頷いた。

「それさえ出来れば問題ないぞ。何故なら、儀式のメインイベントであり、アオイ殿とバアルが夫婦として行う初めての共同作業であるからな」

「っ……け、ケーキカットみたいなものなんですね……」

「うむ。昔は、儀式の数日前から互いに身を清めたり、一晩中瞑想をしたりしなければならなかったが、今はそういう格式ばったものはしておらぬからな。気を楽にして望むといい」

 儀式と結婚式を同時に行う方も増えてきましたしね、とレタリーさんが付け加える。

 思っていた以上に本格的だったな。元々のは。いや、でも神様の前で誓うんだし、それくらいは。

「……大丈夫、なんでしょうか?」

 不意に過った不安が、口からこぼれ落ちていた。

 咄嗟に覆ったけれど、もう遅い。不思議そうに見つめる皆さんの眼差しが、続きを促してくる。バアルさんもだ。少し見上げた先で心配そうに瞳を細めながら、俺の手を握った。

「あ……いや、俺……人間、だから……皆さんの神様に祝福してもらえるのかなって……」

「……アオイ様」

 再び静まりかけていた空気を打ち破ったのは、力強い励ましの声。

「大丈夫ですよっ! 絶対!!」

「……グリムさん」

「だって、アオイ様はバアル様のこと大好きですもん!!」

「ふぇっ……」

「そうですよ。それに、この国のことも大事に思ってくれていますよね。勿論、俺達のことも」

「我らが神は、この国を……ここに住まう民を愛する者を愛し、祝福すると伝えられておるからな」

「人の身でありながら、魔力の花を生み出せたのです。それが何よりの証ではないでしょうか?」

 グリムさんの言葉に顔を熱くする間もなく、クロウさんが。ヨミ様が、レタリーさんが、優しい声で紡いでくれる。

「……皆さん」

「大丈夫ですよ」

「……バアルさん」

「きっと大丈夫です。貴方様には、これほどまでに祝福してくれる皆様が、そして私が側にいるのですから」

 瞬く間に心が晴れていく。鮮やかな緑の瞳に微笑まれて、温かい手に繋いでもらえて、もやもやが吹き飛んでいく。

 ふと、僅かに空いている距離が寂しく思えた。もっと近づきたい。もっと、バアルさんに。

 俺の欲しいものなんて、お見通しなんだろう。柔らかい微笑みが近づいてくる。俺が詰めようとしたのと同じタイミングで。

 嬉しくて、幸せで。ふわふわとした感覚に、すっかり身を委ねようとした時だった。

「……では、私達はそろそろお暇するとしようか」

「左様でございますね」

「え、えっと……お幸せに! です!」

「はは、ちょっと気が早くないか? じゃあ、俺達も失礼しますね。紅茶とクッキー、ごちそうさまでした」

 そそくさと部屋を後にしようとする皆さんの声に我に返る。うっかりしてた、どころじゃない。目茶苦茶キスする気満々だった。皆さんの前なのに。

「ひょわ……あ、ありがとうございました! また明日!」

 慌てた俺の声に、一度振り返って、微笑んでから皆さんが帰っていく。残されたのは、俺と恭しい礼を終えたバアルさん。ふわふわ触覚を揺らし、ぱたぱた羽をはためかせ、期待に満ちた瞳で見つめている。

「えっと……続き、します?」

 帰ってきたお返事は、言葉ではなく口づけで。それも、何度もいただいてしまった。口だけじゃなくて、額や、目尻、頬に鼻先と余すことなく。

 まぁ、構わないどころか大歓迎ですけれど。俺も欲しくて堪らなかったんだからさ。
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