451 / 1,566
そんな、お茶を勧めるみたいに
しおりを挟む
風もないのに靡く長髪と黒い片マント。高らかに熱弁を振るう通りのいい声。嘆くように歪んだ凛々しいご尊顔。またしても、ミュージカルを見ている気分だ。肝心の内容は……うん、まぁ、アレだけど。
「ぼ、僕も、もう少し見ていたいです……新商品ですし」
「特に、こちらの像は初めて見ますからね。バアル様、良かったら何処で売っていたのか教えてもらってもいいですか?」
「ええ」
「おお、流石我が同志達よ! グリムとクロウは分かっておるな! あ、バアル、私も教えて欲しいのだが。そなたと父上の像もあったんであろう?」
ヨミ様に賛同した同志。俺のお向かいのソファーにて、仲良く肩を並べているグリムさんとクロウさん。おずおずと手を上げたグリムさんは、緑のエプロンと三角巾を着けた俺のぬいぐるみに。クロウさんは、バアルさんと手を取り微笑み合う俺の彫像に、興味津々なご様子だ。
多数決というか、主であるヨミ様のウキウキとした笑顔を無下には出来なかったんだろう。レタリーさんは丁寧なお辞儀をしてから「梱包する際は仰って下さいね」とヨミ様に。ヨミ様も上機嫌な笑顔で頷いていた。
レタリーさんが再び席に戻った頃、バアルさんが立ち上がり、口を開く。
「こちらの彫像は、市場の大通りにてお見かけしました。場所は……言葉より、映像の方が分かりやすいでしょうから、今お送り致します」
会釈してから、白い睫毛を伏せたバアルさん。それから数秒もせずに皆さんが「ああ、ここでしたか」とか「気づきませんでした」とか、納得したように頷いた。
ホント術って便利だな。テレパシーみたく、記憶している光景も送れるのか。
「ところで……グリムさんも、お一ついかがでしょうか?」
そんな、お茶を勧めるみたいに。
微笑みながらバアルさんが、今度はグリムさん達の前に商品を出現させる。その内容は言わずもがな、ヨミ様のと同じセットである。
「えっ!? い、いいんですか?」
「ええ、此方は布教用でございますので。私の分は、保存用と観賞用がございます。ですから、遠慮せずにお受け取り下さい」
薄紫色の瞳を輝かせ、ぬいぐるみを抱き上げるグリムさん。はしゃぐ彼の頭を撫でながら、鋭い金の瞳を細めるクロウさん。その光景自体は、微笑ましいことこの上ないんだが。
テーブルを埋め尽くさんばかりのオレンジを見ないようにして、クッキーをひとつまみ。
うん、美味しい。ほどよい甘さがクセになる。いくらでも食べられてしまいそうだ。スッキリとした味わいの紅茶を、インターバルとして口に含めば尚更。
サクサク、こくり、サクサク、こくり。
すっかり、クッキーと紅茶を交互に楽しむだけになっていた俺の隣がぽすんっと沈む。反射的に見上げれば、緑の瞳に微笑まれた。
「大丈夫ですよ。どのアオイ様グッズも大変カッコよく、可愛らしいので」
「……バアルさん」
白手袋を纏った手が、さり気なく俺のカップを取り上げ、テーブルへ。空いた手に、細く長い指が絡んで繋がれる。引き締まった腕が腰の辺りに回されたかと思えば、抱き寄せられていた。
ふわりと香った優しいハーブの匂い。すぐ隣から伝わってくる落ち着く温もり。大好きな腕の中に収まった俺を大きい手が撫でてくれる。
オレンジがかった短い髪を梳くように。そして、なぞるように目元を、頬を撫で、顎へと辿り着く。掬うように持ち上げられて、視界が柔らかい微笑みでいっぱいになった。
「ああ勿論、目の前にいらっしゃる貴方様が持つ眩いばかりの魅力には、到底及びませんが」
「ひぇ……」
「そうですよ! どれもとっても可愛いですもん! だから、大丈夫です!」
「作りも丁寧ですしね」
胸の前で小さな拳を握り締めるグリムさんに続いてクロウさんも。ヨミ様とレタリーさんにいたっては、国宝にすべきとか、なんとか。
一体全体、どう大丈夫だと言うのだろうか。
フォローしてくれるのは嬉しい。嬉しいんだけれど、変わらないのだ。俺のグッズが国内にて、じわじわ増えているという気恥かしい事実は。しかも、公式グッズだけでなく。
視界の端で瞬いた小さな小さな緑の粒。いつの間にか現れていたバアルさんの従者。ハエのコルテまでもが「大丈夫! 素敵だよ!」と書かれた彼専用サイズのスケッチブックを、針よりも細い手足で掲げていた。
いやいやだから、どう大丈夫だと言うのだろうか。皆さんの温かいお気持ちは嬉しいけどさ。
「ぼ、僕も、もう少し見ていたいです……新商品ですし」
「特に、こちらの像は初めて見ますからね。バアル様、良かったら何処で売っていたのか教えてもらってもいいですか?」
「ええ」
「おお、流石我が同志達よ! グリムとクロウは分かっておるな! あ、バアル、私も教えて欲しいのだが。そなたと父上の像もあったんであろう?」
ヨミ様に賛同した同志。俺のお向かいのソファーにて、仲良く肩を並べているグリムさんとクロウさん。おずおずと手を上げたグリムさんは、緑のエプロンと三角巾を着けた俺のぬいぐるみに。クロウさんは、バアルさんと手を取り微笑み合う俺の彫像に、興味津々なご様子だ。
多数決というか、主であるヨミ様のウキウキとした笑顔を無下には出来なかったんだろう。レタリーさんは丁寧なお辞儀をしてから「梱包する際は仰って下さいね」とヨミ様に。ヨミ様も上機嫌な笑顔で頷いていた。
レタリーさんが再び席に戻った頃、バアルさんが立ち上がり、口を開く。
「こちらの彫像は、市場の大通りにてお見かけしました。場所は……言葉より、映像の方が分かりやすいでしょうから、今お送り致します」
会釈してから、白い睫毛を伏せたバアルさん。それから数秒もせずに皆さんが「ああ、ここでしたか」とか「気づきませんでした」とか、納得したように頷いた。
ホント術って便利だな。テレパシーみたく、記憶している光景も送れるのか。
「ところで……グリムさんも、お一ついかがでしょうか?」
そんな、お茶を勧めるみたいに。
微笑みながらバアルさんが、今度はグリムさん達の前に商品を出現させる。その内容は言わずもがな、ヨミ様のと同じセットである。
「えっ!? い、いいんですか?」
「ええ、此方は布教用でございますので。私の分は、保存用と観賞用がございます。ですから、遠慮せずにお受け取り下さい」
薄紫色の瞳を輝かせ、ぬいぐるみを抱き上げるグリムさん。はしゃぐ彼の頭を撫でながら、鋭い金の瞳を細めるクロウさん。その光景自体は、微笑ましいことこの上ないんだが。
テーブルを埋め尽くさんばかりのオレンジを見ないようにして、クッキーをひとつまみ。
うん、美味しい。ほどよい甘さがクセになる。いくらでも食べられてしまいそうだ。スッキリとした味わいの紅茶を、インターバルとして口に含めば尚更。
サクサク、こくり、サクサク、こくり。
すっかり、クッキーと紅茶を交互に楽しむだけになっていた俺の隣がぽすんっと沈む。反射的に見上げれば、緑の瞳に微笑まれた。
「大丈夫ですよ。どのアオイ様グッズも大変カッコよく、可愛らしいので」
「……バアルさん」
白手袋を纏った手が、さり気なく俺のカップを取り上げ、テーブルへ。空いた手に、細く長い指が絡んで繋がれる。引き締まった腕が腰の辺りに回されたかと思えば、抱き寄せられていた。
ふわりと香った優しいハーブの匂い。すぐ隣から伝わってくる落ち着く温もり。大好きな腕の中に収まった俺を大きい手が撫でてくれる。
オレンジがかった短い髪を梳くように。そして、なぞるように目元を、頬を撫で、顎へと辿り着く。掬うように持ち上げられて、視界が柔らかい微笑みでいっぱいになった。
「ああ勿論、目の前にいらっしゃる貴方様が持つ眩いばかりの魅力には、到底及びませんが」
「ひぇ……」
「そうですよ! どれもとっても可愛いですもん! だから、大丈夫です!」
「作りも丁寧ですしね」
胸の前で小さな拳を握り締めるグリムさんに続いてクロウさんも。ヨミ様とレタリーさんにいたっては、国宝にすべきとか、なんとか。
一体全体、どう大丈夫だと言うのだろうか。
フォローしてくれるのは嬉しい。嬉しいんだけれど、変わらないのだ。俺のグッズが国内にて、じわじわ増えているという気恥かしい事実は。しかも、公式グッズだけでなく。
視界の端で瞬いた小さな小さな緑の粒。いつの間にか現れていたバアルさんの従者。ハエのコルテまでもが「大丈夫! 素敵だよ!」と書かれた彼専用サイズのスケッチブックを、針よりも細い手足で掲げていた。
いやいやだから、どう大丈夫だと言うのだろうか。皆さんの温かいお気持ちは嬉しいけどさ。
82
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる