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今朝も今朝とて彼の腕の中で
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ベッドサイドに飾られている、ドーム型のガラスケース。その中で、寄り添い合うように咲き誇っている緑とオレンジ。バアルさんが俺に贈ってくれたバラ、そして俺が彼に贈ったヒマワリ。
俺とバアルさん、各々の魔力と想いによって作られた光の花弁が、柔らかい日差しを受けて煌めいている。
大きくて、立派な窓から差し込んでいる光は、すでに高くなりつつあった。けれども、抜け出せない。いや、抜け出す気が起きない。フカフカのベッドの中からも、彼の温かい腕の中からも。
何度か気合を入れて、試みようとはした。しかし、抗えなかった。
鼻先に漂う優しいハーブの香り、程よい弾力のある大胸筋、頬を寄せれば伝わってくる心地のいい心音。リラックスしてしまうには、全身から力が抜けてしまうには、十分過ぎる要素が揃っている。
なのに、大きな手のひらが、甘やかしてくれるのだ。幼子をあやしているような、ゆったりとした手つきで頭を、背中を撫でてくれるのだ。
夢中にならない訳がない。しかも、お相手が大好きな人なのだから尚更。おまけに。
「……あの、バアルさん」
「はい、心得ました」
ただ呼びかけただけなのに、彼は小さく頷いてから身を起こした。
胸元にくっついていた俺を丁重に抱き上げてから、筋肉質なお膝の上へと抱き直す。引き締まった長い腕に後ろから抱き締められた。後頭部に柔らかい温もりが、バアルさんの立派な大胸筋が当たった。
「え?」
彼に抱かれたまま、間の抜けた一音を漏らしている内に、どこからともなく現れていく。自分の意志でもあるかのように俺達の前で、ふわふわと浮かんでいる。
「お水が宜しいでしょうか? それともジュースに致しますか? ミルクもこざいますよ」
たっぷりの水に、いくつもの輪切りのレモンが浮かんだピッチャー。色鮮やかなオレンジジュース、リンゴジュースが並々に入っているガラスの容器。
それから、いかにも牧場で搾りたてと銘打って、売っていそうな大きなミルク瓶。グラスは勿論、常日頃愛用している彼とのペア。
このように、ケアまで完璧過ぎるのだ。
確かに喉は乾いてはいた。なんなら提案しようとしていた。お水、一緒に飲みませんかと。あっさり見通され、バッチリ先回りされたのだけど。
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
顔だけ振り向けば、どこか満足気に白い髭が似合う口元を綻ばせる。同時に聞こえてきた賑やかな音。
ぶんぶん揺れているのは触覚。少し跳ねた、白く艷やかな髪の生え際あたりに映えている二本。金属のような光沢を持ち、先が丸く反った細く長いそれらが、ひっきりなしに左右に動いている。
ぱたぱたはためいているのは、半透明の羽。頼もしい背で大きく広がるそれらは、風を切るよう。ガラスのように磨き上げられた表面が煌めいている。真っ白なシーツの上に、いくつもの小さな光を落としている。
……ホンっトに、かわいい。ズルい。
普段は持ち前のカッコよさと大人な渋さに色っぽさ、圧倒的な包容力で魅了してくるってのに。平然と微笑んでいらっしゃるのに、無邪気に全身で喜びをアピールしてくるなんてさ。
どんだけ、俺に好きって思わせたら気が済むんだ? この人は。いや、大好きですけど。愛してますけど。
「……ふふ、お褒めに預かり光栄です。私も愛しておりますよ。眩い笑顔がお可愛らしく、透き通った瞳がお美しい、私だけのアオイ」
「ひょわ……」
あふれる好きに悶えていたところで、まさかの心躍るお返事。しかも褒めてもらえるなんて、バアルさんだけのなんて。
……あれ? 何で今、お返事もらえたんだ?
唯一の心当たりに、はしゃいでいた心音がますます煩くなってしまう。顔の温度が熱いを通り越して、湯気でも出てしまいそう。それでも聞かずにはいられなかった。
「もしかして、ですけど……口に出して言っちゃってました? 俺……全部……」
緑の瞳が少し丸くなってから微笑んだ。大きく白い手が、ほとんど振り返っていた俺の頬を撫でてくれる。細く長い指先が、つつくように口に触れてから、触れるか触れないかのタッチでその輪郭をなぞっていく。
「はい……貴方様の愛らしく可憐な唇から、大変旦那冥利に尽きるお言葉と、心震える熱烈な想いを賜りました……」
……ああ、やっぱり。
さっきよりも一層、喜びに満ちた形のいい唇が、こと細かく応えてくれる。やれ「この老骨も、愛しい貴方様に魅了され続けております」だとか。
やれ「申し訳ございませんが、私めの方が惚れ込んでおります。貴方様の仕草、私に贈って頂ける言葉、どれもが愛おしくて仕方がないのですから」だとか。
勘弁して欲しい。オーバーキルもいいとこだ。
「ひぇ……も、分かりました……分かりましたから、いただきましょう? ぬるくなっちゃうと、いけないですし……」
「ふむ、左様でございますね……」
触覚を片方だけ下げたバアルさんは、まだまだ伝え足りないといった感じ。とはいえ「では、どちらをお入れしましょうか」とグラス片手に尋ねてくれた。
とにかく先ずは、余計に乾いた喉を潤したくてお水を一杯。せっかく用意してもらったので、オレンジ、リンゴ、ミルクと順番に頂いた。
二人でのんびりグラスを傾ける。乾きが満たされれば、別の欲求が湧いてくるもので。
「ちょっと、小腹が空いてきましたね……」
そう、独り言に近い形で呟いた時だ。
「承知しました」
「へ?」
今度は一口サイズのサンドイッチが。定番のハムと卵、ツナとキュウリ。はたまたレタス、トマト、ベーコンまで、種類豊富な小さな四角形が盛られた皿が現れた。
続けて、食べやすいサイズにカットされたフルーツの盛り合わせ。リンゴ、イチゴ、バナナ、キウイ、パイナップルなど。色鮮やかで瑞々しいそれらが盛られた皿が、何もなかった空間に現れ、ふよふよと浮かんだ。
「どちらから、お召し上がりに?」
「あ、じゃあサンドイッチを、ハムと卵で……」
「畏まりました。では、どうぞ」
柔らかく微笑む彼に手づから食べさせていただいて、俺もお返しに同じものを彼にあーんして。そんなやり取りを交互に繰り返している内に、お腹も心も満たされていく。
いやはや、なんという隙のなさ。全部、彼の腕の中に収まった状態で、ベッドから一歩たりとも出ることなく済んでしまったではないか。
そうして補給を終えた後は、再び長くしなやかな四肢を横たえた彼に抱き締められる。
また、大きな手から全身を甘やかされてしまっているのだ。このままでは二度寝、いや三度寝……なんなら、お昼過ぎまで微睡んでしまいそう。
……二日続けてダラけ過ぎってのは、分かってるんだけどなぁ。
俺とバアルさん、各々の魔力と想いによって作られた光の花弁が、柔らかい日差しを受けて煌めいている。
大きくて、立派な窓から差し込んでいる光は、すでに高くなりつつあった。けれども、抜け出せない。いや、抜け出す気が起きない。フカフカのベッドの中からも、彼の温かい腕の中からも。
何度か気合を入れて、試みようとはした。しかし、抗えなかった。
鼻先に漂う優しいハーブの香り、程よい弾力のある大胸筋、頬を寄せれば伝わってくる心地のいい心音。リラックスしてしまうには、全身から力が抜けてしまうには、十分過ぎる要素が揃っている。
なのに、大きな手のひらが、甘やかしてくれるのだ。幼子をあやしているような、ゆったりとした手つきで頭を、背中を撫でてくれるのだ。
夢中にならない訳がない。しかも、お相手が大好きな人なのだから尚更。おまけに。
「……あの、バアルさん」
「はい、心得ました」
ただ呼びかけただけなのに、彼は小さく頷いてから身を起こした。
胸元にくっついていた俺を丁重に抱き上げてから、筋肉質なお膝の上へと抱き直す。引き締まった長い腕に後ろから抱き締められた。後頭部に柔らかい温もりが、バアルさんの立派な大胸筋が当たった。
「え?」
彼に抱かれたまま、間の抜けた一音を漏らしている内に、どこからともなく現れていく。自分の意志でもあるかのように俺達の前で、ふわふわと浮かんでいる。
「お水が宜しいでしょうか? それともジュースに致しますか? ミルクもこざいますよ」
たっぷりの水に、いくつもの輪切りのレモンが浮かんだピッチャー。色鮮やかなオレンジジュース、リンゴジュースが並々に入っているガラスの容器。
それから、いかにも牧場で搾りたてと銘打って、売っていそうな大きなミルク瓶。グラスは勿論、常日頃愛用している彼とのペア。
このように、ケアまで完璧過ぎるのだ。
確かに喉は乾いてはいた。なんなら提案しようとしていた。お水、一緒に飲みませんかと。あっさり見通され、バッチリ先回りされたのだけど。
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
顔だけ振り向けば、どこか満足気に白い髭が似合う口元を綻ばせる。同時に聞こえてきた賑やかな音。
ぶんぶん揺れているのは触覚。少し跳ねた、白く艷やかな髪の生え際あたりに映えている二本。金属のような光沢を持ち、先が丸く反った細く長いそれらが、ひっきりなしに左右に動いている。
ぱたぱたはためいているのは、半透明の羽。頼もしい背で大きく広がるそれらは、風を切るよう。ガラスのように磨き上げられた表面が煌めいている。真っ白なシーツの上に、いくつもの小さな光を落としている。
……ホンっトに、かわいい。ズルい。
普段は持ち前のカッコよさと大人な渋さに色っぽさ、圧倒的な包容力で魅了してくるってのに。平然と微笑んでいらっしゃるのに、無邪気に全身で喜びをアピールしてくるなんてさ。
どんだけ、俺に好きって思わせたら気が済むんだ? この人は。いや、大好きですけど。愛してますけど。
「……ふふ、お褒めに預かり光栄です。私も愛しておりますよ。眩い笑顔がお可愛らしく、透き通った瞳がお美しい、私だけのアオイ」
「ひょわ……」
あふれる好きに悶えていたところで、まさかの心躍るお返事。しかも褒めてもらえるなんて、バアルさんだけのなんて。
……あれ? 何で今、お返事もらえたんだ?
唯一の心当たりに、はしゃいでいた心音がますます煩くなってしまう。顔の温度が熱いを通り越して、湯気でも出てしまいそう。それでも聞かずにはいられなかった。
「もしかして、ですけど……口に出して言っちゃってました? 俺……全部……」
緑の瞳が少し丸くなってから微笑んだ。大きく白い手が、ほとんど振り返っていた俺の頬を撫でてくれる。細く長い指先が、つつくように口に触れてから、触れるか触れないかのタッチでその輪郭をなぞっていく。
「はい……貴方様の愛らしく可憐な唇から、大変旦那冥利に尽きるお言葉と、心震える熱烈な想いを賜りました……」
……ああ、やっぱり。
さっきよりも一層、喜びに満ちた形のいい唇が、こと細かく応えてくれる。やれ「この老骨も、愛しい貴方様に魅了され続けております」だとか。
やれ「申し訳ございませんが、私めの方が惚れ込んでおります。貴方様の仕草、私に贈って頂ける言葉、どれもが愛おしくて仕方がないのですから」だとか。
勘弁して欲しい。オーバーキルもいいとこだ。
「ひぇ……も、分かりました……分かりましたから、いただきましょう? ぬるくなっちゃうと、いけないですし……」
「ふむ、左様でございますね……」
触覚を片方だけ下げたバアルさんは、まだまだ伝え足りないといった感じ。とはいえ「では、どちらをお入れしましょうか」とグラス片手に尋ねてくれた。
とにかく先ずは、余計に乾いた喉を潤したくてお水を一杯。せっかく用意してもらったので、オレンジ、リンゴ、ミルクと順番に頂いた。
二人でのんびりグラスを傾ける。乾きが満たされれば、別の欲求が湧いてくるもので。
「ちょっと、小腹が空いてきましたね……」
そう、独り言に近い形で呟いた時だ。
「承知しました」
「へ?」
今度は一口サイズのサンドイッチが。定番のハムと卵、ツナとキュウリ。はたまたレタス、トマト、ベーコンまで、種類豊富な小さな四角形が盛られた皿が現れた。
続けて、食べやすいサイズにカットされたフルーツの盛り合わせ。リンゴ、イチゴ、バナナ、キウイ、パイナップルなど。色鮮やかで瑞々しいそれらが盛られた皿が、何もなかった空間に現れ、ふよふよと浮かんだ。
「どちらから、お召し上がりに?」
「あ、じゃあサンドイッチを、ハムと卵で……」
「畏まりました。では、どうぞ」
柔らかく微笑む彼に手づから食べさせていただいて、俺もお返しに同じものを彼にあーんして。そんなやり取りを交互に繰り返している内に、お腹も心も満たされていく。
いやはや、なんという隙のなさ。全部、彼の腕の中に収まった状態で、ベッドから一歩たりとも出ることなく済んでしまったではないか。
そうして補給を終えた後は、再び長くしなやかな四肢を横たえた彼に抱き締められる。
また、大きな手から全身を甘やかされてしまっているのだ。このままでは二度寝、いや三度寝……なんなら、お昼過ぎまで微睡んでしまいそう。
……二日続けてダラけ過ぎってのは、分かってるんだけどなぁ。
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