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今日が始まったって気がしない
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本来ならばすでに着替え終え、毎朝恒例のお茶会の準備をしている頃。なのだが、二人揃って着替えもせずに布団の中。大遅刻確定である。本来ならば。
「……まさか、今日もグリムさん達から、お休みの連絡が来るとは思いませんでしたね」
「ええ、左様でございますね」
雑に、唐突に投げ始めてしまった会話でも、すぐさまキャッチしてくれる優しい彼。バアルさんが、俺の髪を梳くように撫でてくれながら答える。
そう、肝心要の招待客。大切な友人であるグリムさんとクロウさんから、丁寧なお断りの連絡をもらってしまったのだ。二日連続で。
「……やっぱり、気を遣わせちゃってるんでしょうか?」
俺達が婚約したから。なんなら、もうすぐ新婚さんになれるから。
お気遣いはスゴく嬉しい。バアルさんとの時間が増えれば増えるだけ、俺は幸せなのだから。とはいえ……ソレはソレ、コレはコレってヤツで。
正直、寂しい。
他愛の話をしながら楽しむ、バアルさんが淹れてくれた紅茶。グリムさんとクロウさん、お二人が毎朝欠かさずに贈ってくれる現世の花で作った花束。お返しに、俺が作った焼き菓子を食べてもらうドキドキの時間。
それがないもんだから、今日が始まったって気がしない。そんでもって不安になってしまう。
このまま、お二人と疎遠になってしまうのかな? とか。そんなことはないと、思うのだけれど。
「大丈夫ですよ。お二人が、私達の大切な友人であることには変わりません。私達が結婚しても」
バアルさんにとっては、俺の抱える不安なんてまるっとお見通しなようだ。
宥めるように背中を撫でてくれながら、一番欲しかった頼もしい言葉まで。さらには、安心出来る根拠も付け加えてくれる。
「今朝は大切なご用事があるとのこと。しばらくは私達自身、儀式や結婚式で忙しくなるでしょうから、時間を見つけて集まりましょう、と提案してくれました」
抱きついていた分厚い胸板から、弾かれたように顔を上げる。
映ったのは、花が咲くように綻んだ彫りの深い顔。若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳が微笑んでいた。
「……それから、落ち着いてからも変わらぬ付き合いを宜しくお願いしますとも。ですから、ご心配なさらないで下さい」
「そうだったんですね、安心しました」
心がホッと緩んだ途端、身体の力も抜けていってしまう。うっかり彼の大胸筋へ、ぽすんっと顎から乗っかってしまった。鍛え抜かれた弾力のある柔らかさが、俺を容易く受け止めてくれる。
俺程度の重みを受けたところで、痛くも痒くもないんだろう。凛々しい眉一つ、細く長い触覚すら動かさない。
「す、すみません」
「いえ」
それどころか、擽ったそうに微笑みながら俺を撫で回してくれる。
頬を包みこんでくれている温かい手のひら。目尻や耳に触れてくれる、しっとりと柔い指先。心が満たされていくスキンシップに、どんどん頬の筋肉が蕩けていくのが分かる。ふへへとだらしのない声が漏れてしまう。
またしても夢見心地になってしまっていた。
もっと、もっと撫でて欲しくて、触って欲しくて。強請るように手のひらに頬を擦り寄せる。すると、頭の上から声が降ってきた。その声色は、いかにも楽しそうで、ご満悦そう。
「ふふ、お可愛らしいですね……やはり、貴方様には笑顔が一番似合います。ああ、勿論、どのような表情でも大変愛らしく存じておりますよ」
わざとらしく言葉を切った、桜色の唇。柔らかい、けれどもどこか艷やかな微笑みが、ゆっくりと近づいてくる。いや、近づいていたのは俺の方だった。
気がつけば、吸い寄せられるみたいに身体を起こし、白い首に腕を絡めていた。額が重なって、高い鼻先と触れ合う。
「……このように、私めに甘えて下さる時のお顔も……切なく蕩けていらっしゃる時のお顔も」
「……バアルさ……んっ」
ますます頭の中が、心が、ぽわぽわ蕩けていってしまう。
何度も交わしてもらえただけじゃない。余すことなくしてもらえたのだ。額にも、目元にも、頬にも。軽いリップ音が鳴る度に、肌を掠めていくお髭。ふわふわしているような、ちょっぴりチクチクするような。
擽ったさに思わず吹き出すと、釣られたのかな。バアルさんも、くすくす唇を震わせた。それでもキスは、彼からの大サービスなスキンシップは、止まらなかったけど。
「……まさか、今日もグリムさん達から、お休みの連絡が来るとは思いませんでしたね」
「ええ、左様でございますね」
雑に、唐突に投げ始めてしまった会話でも、すぐさまキャッチしてくれる優しい彼。バアルさんが、俺の髪を梳くように撫でてくれながら答える。
そう、肝心要の招待客。大切な友人であるグリムさんとクロウさんから、丁寧なお断りの連絡をもらってしまったのだ。二日連続で。
「……やっぱり、気を遣わせちゃってるんでしょうか?」
俺達が婚約したから。なんなら、もうすぐ新婚さんになれるから。
お気遣いはスゴく嬉しい。バアルさんとの時間が増えれば増えるだけ、俺は幸せなのだから。とはいえ……ソレはソレ、コレはコレってヤツで。
正直、寂しい。
他愛の話をしながら楽しむ、バアルさんが淹れてくれた紅茶。グリムさんとクロウさん、お二人が毎朝欠かさずに贈ってくれる現世の花で作った花束。お返しに、俺が作った焼き菓子を食べてもらうドキドキの時間。
それがないもんだから、今日が始まったって気がしない。そんでもって不安になってしまう。
このまま、お二人と疎遠になってしまうのかな? とか。そんなことはないと、思うのだけれど。
「大丈夫ですよ。お二人が、私達の大切な友人であることには変わりません。私達が結婚しても」
バアルさんにとっては、俺の抱える不安なんてまるっとお見通しなようだ。
宥めるように背中を撫でてくれながら、一番欲しかった頼もしい言葉まで。さらには、安心出来る根拠も付け加えてくれる。
「今朝は大切なご用事があるとのこと。しばらくは私達自身、儀式や結婚式で忙しくなるでしょうから、時間を見つけて集まりましょう、と提案してくれました」
抱きついていた分厚い胸板から、弾かれたように顔を上げる。
映ったのは、花が咲くように綻んだ彫りの深い顔。若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳が微笑んでいた。
「……それから、落ち着いてからも変わらぬ付き合いを宜しくお願いしますとも。ですから、ご心配なさらないで下さい」
「そうだったんですね、安心しました」
心がホッと緩んだ途端、身体の力も抜けていってしまう。うっかり彼の大胸筋へ、ぽすんっと顎から乗っかってしまった。鍛え抜かれた弾力のある柔らかさが、俺を容易く受け止めてくれる。
俺程度の重みを受けたところで、痛くも痒くもないんだろう。凛々しい眉一つ、細く長い触覚すら動かさない。
「す、すみません」
「いえ」
それどころか、擽ったそうに微笑みながら俺を撫で回してくれる。
頬を包みこんでくれている温かい手のひら。目尻や耳に触れてくれる、しっとりと柔い指先。心が満たされていくスキンシップに、どんどん頬の筋肉が蕩けていくのが分かる。ふへへとだらしのない声が漏れてしまう。
またしても夢見心地になってしまっていた。
もっと、もっと撫でて欲しくて、触って欲しくて。強請るように手のひらに頬を擦り寄せる。すると、頭の上から声が降ってきた。その声色は、いかにも楽しそうで、ご満悦そう。
「ふふ、お可愛らしいですね……やはり、貴方様には笑顔が一番似合います。ああ、勿論、どのような表情でも大変愛らしく存じておりますよ」
わざとらしく言葉を切った、桜色の唇。柔らかい、けれどもどこか艷やかな微笑みが、ゆっくりと近づいてくる。いや、近づいていたのは俺の方だった。
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「……バアルさ……んっ」
ますます頭の中が、心が、ぽわぽわ蕩けていってしまう。
何度も交わしてもらえただけじゃない。余すことなくしてもらえたのだ。額にも、目元にも、頬にも。軽いリップ音が鳴る度に、肌を掠めていくお髭。ふわふわしているような、ちょっぴりチクチクするような。
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