【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
492 / 1,566

分かってはいるけれども、聞かずにはいられなかった

しおりを挟む
 物語には、大まかに分けて二つの役割があると誰かから聞いたことがある。

 一つ目は教訓。悪いことをしたら自分に返ってくるんだよ、などと。お話を通して分かりやすく伝えること。

 二つ目は口承。起こった出来事を忘れないように、時には脚色を加えて興味が惹かれるようにしつつ、後世へと語り継いでいくこと。

 バアルさんが語ってくれている物語は後者だろう。


「たとえ両足を失われていても、我らが神は強うございました。現世から落ち、天の神でも拭うことの出来なかった罪ある魂。その者達から、大事な我が子達を守り通しました」

 明るく、伸びやかに歌い上げるような声色が変わっていく。聞くだけで胸が締め付けられてしまう、悲しげな声色へと。

「ですが……罪を燃やす際に生じてしまう穢れ。そればかりからは、守ることが出来なかったのでございます……」

「それじゃあ、どうやって…………あっ」

 思い出したのは、バアルさんの言葉だった。今のように、眉間にシワを寄せながら、形の良い唇を切なそうに歪ませながら教えてくれた、あの時の。

「もしかして……それで、国の外に浄化の炎を? この地の果てにあるって、前に教えてくれましたもんね」

「……はい。大正解でございます」

 俺の頭を撫でてくれた彼は、いつもの調子を取り戻していた。白い髭を蓄えた口元に、穏やかな笑みを形作ってから続ける。

「アオイが仰られた通り、神は私達の祖先を出来る限り穢れから引き離すことに致しました。御自身の魔力を込めた壁で囲った地へと我が子達を隠し、地の果てにて深く掘った穴の底へと浄化の炎を設置したのでございます」

「……穴の底」

 ということは、そこに有るって訳か。今日のリハーサルで見た、青い杯と白い炎。本物の浄化の炎が。

 ん……って、ちょっと待てよ。

 以前にバアルさんは浄化の炎を絶やさない為に、王族の血を捧げる為に、炎が祀られているっていう祭壇へと向かったハズ。ということは。

「バアルさん、飛び込んだんですか? 飛び込んだんですよね? そんな危ない場所に……っ」

 怪我なく無事に戻ってきてくれたのだから、大丈夫だったのは分かっている。それでも俺は、聞かずにはいられなかった。

「大丈夫ですか? 痛いところとか、ありませんか? 俺に出来ること、なんて……ほとんど無い、ですけど……でもっ、それでも何かあったら、何でも言って下さいね?」

 彼の手を握り締めずにはいられなかった。ここに居るんだと、俺の側に居てくれているんだと確認するように。

 まさか、そちらへと話が飛ぶとは思わなかったのだろう。彼は俺を見つめたまま、白い睫毛を瞬かせている。

 沈黙は、数十秒にも満たなかった。

 呆気に取られたような表情に、すぐさま喜びが滲んでいく。

 繋いでいる手が引かれ、彫りの深い顔へと導かれる。手の甲が、彼の頬に触れた。しっとりとした肌を、甘えるように擦り寄せてくれる。

「大丈夫、何も問題はございませんよ。どうか、御自身を卑下なさらないで……アオイが側で笑ってくれるだけで、私は誰よりも強くなれるのですから」

 そんなの、こっちの台詞だ。

 俺だって、バアルが側に居てくれるだけで、安心出来る。微笑みかけてくれるだけで、大丈夫だって思えるんだから。

「バアル……」

 ごく自然な成り行きだった。

 彼は、俺の呼びかけに応えてくれた。緩やかな笑みを描いた唇を、優しく重ねてくれたんだ。

 啄むようなキスを何度ももらえて、だんだん頭の中がふわふわしてきてしまう。薄っすら滲んだ視界に映る、煌めく緑の瞳に見惚れてしまう。

「……いかがなさいますか?」

「……ふぇ?」

 だから、分からなかった。

 何で彼が心地のいい触れ合いを急に止めてしまったのか。何で彼に問われているのか。

「いえ、お話の続きでしたので……熱心に聞いていらしたでしょう? 透き通った瞳を輝かせて……」

 そう告げられて、気恥ずかしそうに眉と触覚を片方だけ下げながら、指先で目尻を優しく撫でられて、ようやくだった。

「あっ……」

 間の抜けた声を上げた俺を見つめているバアルさん。彼の頬がますます赤く染まっていく。

 多分、俺もだろう。顔が熱くて仕方がない。なんなら、彼と共にしている布団の中も。一旦、引っ剥がしてしまいたい気分だ。

 とはいえ、ソレはソレ。いくら照れくさかろうが勝てはしないのだ。一度、灯ってしまった欲には。

「えっと……続き、聞かせて下さい……それで、その後に、その……」

「畏まりました」

 ちょっぴり食い気味の了承と共に、繋いだままの手に力が込められる。

「話し終えた後に、先程の続きを致しましょう。貴方様が眠りにつかれるまで、存分に御身を愛でて差し上げますね」

「ひゃ、ひゃい……お願い、します……」

「此方こそ、お願い致します」

 うっとりとした声で律儀に返したバアルさん。喜びがあふれてしまいそうな微笑みを浮かべ、俺の額に優しいキスを送ってくれた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

処理中です...