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残った想いは、至極単純な
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ああ、なんで……!? ……なんで貴方が犠牲になど……!!
いいじゃないか…………記憶ぐらい……いいじゃ、ないか……アオイ様が、仰って……くれたんだから…………バアル様だって、納得して……頂けて……
だって、その方が……まだ、マシだろう? だって……その方が、結果的には二人共助かって……二人共、皆、幸せに…………しあわせ、に……
ああ、なんで? ……なんで…………私では、代わりになれない……? なんで? ……なんで、なんで、なんで………?
私なら、良かったのに……私がヨミ様の、アオイ様の代わりになれたら良かったのに……
室内を明るく照らし、俺達を包みこんでいた淡い光が収まっていく。
まだ少し目の奥がチカチカする。光の残像だろうか。瞬きをする度に輪のようなものが視界に映る。心配そうに俺を見つめるレタリーさんも。
「大丈夫ですか、アオイ様……ご気分はいかがでしょうか?」
一瞬、分からなくなった。目覚めた時と似たようなことを尋ねてくれるもんだから。
一気に流し込まれた、もとい見させてもらった記憶とこれまでとを、頭の中で順を追って整理していく。
……ああ、そうだった。急がなければ。
「……行きましょう、レタリーさん」
「はい?」
呼びかけながらベッドの縁から降りた俺を、黄緑色の瞳が驚いたように見つめている。
ああ、いけない。気持ちが先走っていたばかりに言葉が足りていなかった。
「……あ、すみません。俺は大丈夫ですよ、何の問題もないです……全部、思い出しましたから……俺がやらなきゃいけないことを」
「アオイ様……」
物言いたげな眼差しには、罪悪感が滲んでいた。それだけで、何となく彼が口にしようとしていることが分かってしまった。
知ってしまったからだろう。思い出す為だったとはいえ彼の抱いていた気持ちを、彼が必死に堪えていた言葉を、俺は土足で覗き見てしまったのだから。
胸に滲んだバツの悪さを、頭を軽く振って振り払う。視界の端で青が揺れた。
ベールだった。ヨミ様が用意してくれた。ヨミ様が今日の為にと、俺とバアルさんの晴れ舞台の為にと作ってくれた。
今更ながら自分の身体に視線を巡らせば、シワ一つない白のジャケットとズボン。バアルさんとお揃いの儀礼服だ。これも、ヨミ様が。
何もかもが、ほんの少し前に唐突に崩れてしまった。なのに、服装はあの時のまま。バアルさんとの、皆さんとのこれからを、夢見心地で思い描いていた時のまま。
途端に広がっていってしまう。見て見ぬふりをしていた、胸にぽっかりと空いた穴が。
広がった暗い穴へと飲み込まれていってしまいそうになる。虚しくて、悔しくて、俺を飾ってくれている永遠の象徴を、彼からの祝福を、かなぐり捨ててしまいたくなる。
『……すまないアオイ殿……バアルと父上を、どうか宜しく頼む……』
頭に過った、ヨミ様の顔は笑っていた。今にも泣きそうなくらいに歪んでいたのに、それでも。
乱暴に外そうとしていたベールから手を下ろす。なんとなく指先で、細やかな装飾が美しい生地を撫でてみた。柔らかくて、なんだか温かい。
波打っていた気持ちが不思議と凪いでいく。シンと澄み渡った心に残った想いは、至極単純な。
「……アオイ様?」
遠慮がちに、心配そうに、尋ねてくる声の方へと向けば酷く沈んだ黄緑色の瞳とかち合った。レタリーさんは今にも掻きむしりそうなくらいに、ジャケットの胸元を握り締めていた。
自分のことのように苦しんでしまっていた。優しい目元が歪むほどに、いくつものシワを刻んで。
これ以上心配をかける訳には。努めて俺は優しい声で尋ねてみた。俺にとっての、唯一の気がかりを。
「……バアルさんは……皆さんは、まだ会場に居るんですよね?」
表情に安堵と困惑の色を滲ませながらもレタリーさんは頷いた。
「……え、ええ……おそらくは……私が貴方様にかけられた術の解除を試みている間……誰も、この部屋には来ませんでしたから……」
それなら大丈夫か……最後に……もう一度だけ、彼の顔を見ておきたかったけれど……
どのくらい眠ってしまっていたのか分からない。どのくらいの猶予が俺に残されているのかも。
……捨てるべきだ。この願いは。一刻も早く向かわなければ、ヨミ様の元へ。別れは、もう済ませたのだから。
いいじゃないか…………記憶ぐらい……いいじゃ、ないか……アオイ様が、仰って……くれたんだから…………バアル様だって、納得して……頂けて……
だって、その方が……まだ、マシだろう? だって……その方が、結果的には二人共助かって……二人共、皆、幸せに…………しあわせ、に……
ああ、なんで? ……なんで…………私では、代わりになれない……? なんで? ……なんで、なんで、なんで………?
私なら、良かったのに……私がヨミ様の、アオイ様の代わりになれたら良かったのに……
室内を明るく照らし、俺達を包みこんでいた淡い光が収まっていく。
まだ少し目の奥がチカチカする。光の残像だろうか。瞬きをする度に輪のようなものが視界に映る。心配そうに俺を見つめるレタリーさんも。
「大丈夫ですか、アオイ様……ご気分はいかがでしょうか?」
一瞬、分からなくなった。目覚めた時と似たようなことを尋ねてくれるもんだから。
一気に流し込まれた、もとい見させてもらった記憶とこれまでとを、頭の中で順を追って整理していく。
……ああ、そうだった。急がなければ。
「……行きましょう、レタリーさん」
「はい?」
呼びかけながらベッドの縁から降りた俺を、黄緑色の瞳が驚いたように見つめている。
ああ、いけない。気持ちが先走っていたばかりに言葉が足りていなかった。
「……あ、すみません。俺は大丈夫ですよ、何の問題もないです……全部、思い出しましたから……俺がやらなきゃいけないことを」
「アオイ様……」
物言いたげな眼差しには、罪悪感が滲んでいた。それだけで、何となく彼が口にしようとしていることが分かってしまった。
知ってしまったからだろう。思い出す為だったとはいえ彼の抱いていた気持ちを、彼が必死に堪えていた言葉を、俺は土足で覗き見てしまったのだから。
胸に滲んだバツの悪さを、頭を軽く振って振り払う。視界の端で青が揺れた。
ベールだった。ヨミ様が用意してくれた。ヨミ様が今日の為にと、俺とバアルさんの晴れ舞台の為にと作ってくれた。
今更ながら自分の身体に視線を巡らせば、シワ一つない白のジャケットとズボン。バアルさんとお揃いの儀礼服だ。これも、ヨミ様が。
何もかもが、ほんの少し前に唐突に崩れてしまった。なのに、服装はあの時のまま。バアルさんとの、皆さんとのこれからを、夢見心地で思い描いていた時のまま。
途端に広がっていってしまう。見て見ぬふりをしていた、胸にぽっかりと空いた穴が。
広がった暗い穴へと飲み込まれていってしまいそうになる。虚しくて、悔しくて、俺を飾ってくれている永遠の象徴を、彼からの祝福を、かなぐり捨ててしまいたくなる。
『……すまないアオイ殿……バアルと父上を、どうか宜しく頼む……』
頭に過った、ヨミ様の顔は笑っていた。今にも泣きそうなくらいに歪んでいたのに、それでも。
乱暴に外そうとしていたベールから手を下ろす。なんとなく指先で、細やかな装飾が美しい生地を撫でてみた。柔らかくて、なんだか温かい。
波打っていた気持ちが不思議と凪いでいく。シンと澄み渡った心に残った想いは、至極単純な。
「……アオイ様?」
遠慮がちに、心配そうに、尋ねてくる声の方へと向けば酷く沈んだ黄緑色の瞳とかち合った。レタリーさんは今にも掻きむしりそうなくらいに、ジャケットの胸元を握り締めていた。
自分のことのように苦しんでしまっていた。優しい目元が歪むほどに、いくつものシワを刻んで。
これ以上心配をかける訳には。努めて俺は優しい声で尋ねてみた。俺にとっての、唯一の気がかりを。
「……バアルさんは……皆さんは、まだ会場に居るんですよね?」
表情に安堵と困惑の色を滲ませながらもレタリーさんは頷いた。
「……え、ええ……おそらくは……私が貴方様にかけられた術の解除を試みている間……誰も、この部屋には来ませんでしたから……」
それなら大丈夫か……最後に……もう一度だけ、彼の顔を見ておきたかったけれど……
どのくらい眠ってしまっていたのか分からない。どのくらいの猶予が俺に残されているのかも。
……捨てるべきだ。この願いは。一刻も早く向かわなければ、ヨミ様の元へ。別れは、もう済ませたのだから。
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