【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】旅行前日:恋人から夫婦へとランクアップしたのだから

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「……貴方様からの膝枕というご褒美は大変名残惜しい限りではございます。ですが……そろそろ私めも可愛らしい妻を愛でさせて頂きたく存じまして」

「え……?」

 ほんの瞬きの間に上と下とが反転するだなんて。広いベッドに縫いつけられるように、彼に押し倒されていただなんて誰が予想出来たというのか。

「ば、バアルさん……?」

 シーツへと押し付けられていた両の手が、指を絡める形で繋ぎ直される。

 彼の広い背を飾っている水晶のように透き通っている羽。淡い光を帯びたそれらが、蕾だった花が満開に咲くように大きく広がっていく。朝の日差しから俺を、いや俺達を覆い隠すように。

「ふふ、大丈夫ですよ……貴方様にして頂けた以上のことは致しません。今は……」

 こちらの気持ちをそわそわさせるような言葉の切り方をして、艷やかに微笑む唇が首元へと近づいてくる。

 いやいや、もうラインを越えようとしていますけど? こんな愛し方、俺は貴方にしたつもりはございませんけど? 

 早くも頭がくらくらしかけている俺をよそに、高い鼻先が、熱い吐息が触れて、そして。

 軽く体重をかけられながら抱き締められた。首元に顔を埋められながら、長くて引き締まった彼の腕に抱き枕よろしくぎゅっと。

 ……ええ、分かっていましたとも。バアルさん、好きですもんね。こんな風に俺のこと抱き締めてくれるの。

 ちょっぴり残念な気持ちになってしまっていることすらバレバレなんだろう。

「申し訳ございません……ご期待にお応えしたいのは山々なのですが……あまり跡を付けさせて頂くと、後々皆様に見られてしまうでしょう?」

「……あっ」

 喜びを滲ませた声に言われて気がついた。確かにマズい。お昼からとはいえ、大事なお約束があるのだ。お茶会という名の、新婚旅行用の試着会が。

 今まで服に無頓着であったが故に、俺はセンスにもお洒落にも自信がない。だからデートの時みたく、バアルさんに選んでもらうつもりだった。彼好みの服を着ていくつもりだったのだ。そして、その服と色味の似た服を彼にも着てもらえればなと。

 ところが、有り難いことに結婚式の時同様、ヨミ様が張り切ってくれていたらしいのだ。俺達の為にと、リゾートである南エリアを満喫出来るような装いを作ってくれたんだと。

「それは、困りますね……」

「でしょう?」

 以前、見せつける為にわざとキスマークを放置していたバアルさんも懲りていたらしい。凛々しい眉を片方下げて緩やかに形作った微笑みは、なんだか照れくさそう。綻んだ頬もほんのり色づいていてる。

 それもそうだ。主であるヨミ様から仲良しさんな証を隠せるようにと、絆創膏まで頂いてしまったんだからな。俺としても、流石に二度目をやらかす訳には。

「それから、この老骨めが年甲斐もなく……貴方様の愛らしさに夢中になり過ぎてもいけませんので……」

 それはこっちの台詞ですけど? 俺の方が、ずっとバアルさんに夢中になってますけど?

「そ、そんなの俺だっ、んむ……」

 いつもバアルさんはカッコよくてズルい。

 宝石よりも美しい緑の瞳をうっとり細め、心がお祭り騒ぎになることを囁いてくれて。ならばこちらもと俺が応えようとする前に、さらなるときめきの追い打ちをかけてくるんだから。

 俺の口を優しく塞いでくるんだから。

「ふ、ぁ……キス、してくれないんじゃ……なかったんですか?」

「貴方様の可憐な唇へ送らないとは一言も」

「うっ……」

 喉がきゅっとなってしまう。優しく口づけてくれただけでなく、白くて柔い指先から輪郭をなぞるように唇を撫でられて。

 確かにしてくれないとは言ってないけど。でもさ、俺の期待に応えられない、だなんてあらかじめ言われちゃったらさ、思っちゃうじゃん。残念だなって。寂しいけど今は我慢しないとなって。

 心の中でのボヤきすら、察しのいい彼には筒抜けらしい。

「ご心配なさらないで……いつ何時でも愛しい妻に寂しい想いなどさせは致しません」

 温かい手のひらから頬を撫でられ、左手を取られ。彼との永遠の証である魔宝石が煌めく薬指へと、再度誓うように口づけられて。

 もうすでに俺の胸中にちょっぴり滲んでいたモヤは、すっかり晴れやか。気分も右肩上がりだった。

 とはいえ、それはそれ。満たされていても欲ってものは際限なく湧いてきてしまう。じゃあ、もっととバアルさんにくっつきたくなってしまうのだ。

「……いっぱい……キス、してくれます? 撫でてくれますか?」

「ええ、お時間の許す限り」

 引き締まった首へと腕を絡めれば、視界が柔らかい微笑みでいっぱいになっていく。彼から香る落ち着くハーブの匂いに包まれながら、弾力のある重みと温もりを感じながら、のんびりと過ごす朝のひと時。

 変わらないなぁ……いや、でも大分バアルさんも甘えてくれるようにはなった……よな?

 恋人から夫婦へとランクアップしたのだから、より一層俺からもいっぱい愛を伝えたい。けれども、やっぱり彼に甘えることが止められない。止めたくはない自分に言い訳をしつつ、彼の高い鼻先に擦り寄った。
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