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【新婚旅行編】一日目:バアルさんのプラン
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まるで、俺の考えを先読みしたみたい。絶え間なく聞こえている波音と同じで耳心地のいい低音が、俺の知りたかったことを教えてくれた。
「少し歩くことにはなりますが、近くには東エリアと似た雰囲気の市場や、飲食店街等もございますよ」
ゆったりと俺の頭を撫でてくれていた手が、ふと止まる。
「……ですから、もし、賑やかな場所の方を好まれるのでしたら、何時でもそちらへ」
反射的に伸ばしていた。俺の肩をひと撫でしてから下ろそうとしていた彼の手を握っていた。
白い睫毛に縁取られた緑の瞳が、僅かに見開かれる。
「いえ、ここが良いです。今日は、バアルさんと二人っきりで、海を楽しむって決めてますから」
どんな時でも、俺を第一に考えてくれる優しい彼。その気持ちは、スゴく嬉しい。
でも、俺だって、バアルさんの気持ちを大切にしたい。バアルさんとだけの時間を過ごしたいんだから。
「あっ、勿論、バアルさんがお買い物デートしたいって場合は、すぐに言って欲し、いっ」
鼻先に纏わりついていた磯の香りが上書きされていく。優しいハーブの匂いが、弾力のある温もりが、俺を包みこんでくれた。
バアルさんが抱き締めてくれている。スーツと違って生地が薄いから、よりダイレクトに伝わってくるし、伝わってしまう。
あんなに聞こえていたのに、心落ち着く波の音はもう聞こえない。鼓膜を揺らすのは、どちらのものかも分からない駆け足な鼓動だけだ。
広い背中に腕を回そうとしたところで、肩を優しく掴まれた。離れていってしまう体温に、名残惜しさを覚える間もなかった。
「私も、本日は貴方様と二人っきりで……その為のプランも、すでにご用意しているのですが……」
鷲掴みにされてしまったのだ。
白い頬をほんのり桜色に染めた彼の強請るような眼差しに。手を握ってくれながら、そわそわと羽をはためかせている仕草に。
「やりましょう! 今すぐに!」
「……ふふ、畏まりました」
ひと回り大きな手を握り返せば、ますます背中の羽が大きく速くはためき出す。細く長い触角が弾むように揺れ始める。
遥かに年上な彼からあふれる可愛さに、今度は膝をもっていかれかけた。バアルさんの手を握っていなければ、今頃、膝小僧を砂まみれにしていたことだろう。
「では、先ずは水着に着替えましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「失礼致します」
微笑む彼の手が、俺の頬に添えられる。途端にいつもの感覚が、柔らかい風が素肌を撫でていった。
瞬く間に、着ていた白のパーカーとネイビーのハーフパンツが、同じく膝丈の水着へと。緑とオレンジのグラデーションが鮮やかな水着へと変わっていった。この旅行の為に、少し前に通販でバアルさんと選んだお揃いだ。
「ありがとうござい、ま……」
同じ水着でも、身に着ける人が異なると、こうも違うもんなんだろうか。
「少し歩くことにはなりますが、近くには東エリアと似た雰囲気の市場や、飲食店街等もございますよ」
ゆったりと俺の頭を撫でてくれていた手が、ふと止まる。
「……ですから、もし、賑やかな場所の方を好まれるのでしたら、何時でもそちらへ」
反射的に伸ばしていた。俺の肩をひと撫でしてから下ろそうとしていた彼の手を握っていた。
白い睫毛に縁取られた緑の瞳が、僅かに見開かれる。
「いえ、ここが良いです。今日は、バアルさんと二人っきりで、海を楽しむって決めてますから」
どんな時でも、俺を第一に考えてくれる優しい彼。その気持ちは、スゴく嬉しい。
でも、俺だって、バアルさんの気持ちを大切にしたい。バアルさんとだけの時間を過ごしたいんだから。
「あっ、勿論、バアルさんがお買い物デートしたいって場合は、すぐに言って欲し、いっ」
鼻先に纏わりついていた磯の香りが上書きされていく。優しいハーブの匂いが、弾力のある温もりが、俺を包みこんでくれた。
バアルさんが抱き締めてくれている。スーツと違って生地が薄いから、よりダイレクトに伝わってくるし、伝わってしまう。
あんなに聞こえていたのに、心落ち着く波の音はもう聞こえない。鼓膜を揺らすのは、どちらのものかも分からない駆け足な鼓動だけだ。
広い背中に腕を回そうとしたところで、肩を優しく掴まれた。離れていってしまう体温に、名残惜しさを覚える間もなかった。
「私も、本日は貴方様と二人っきりで……その為のプランも、すでにご用意しているのですが……」
鷲掴みにされてしまったのだ。
白い頬をほんのり桜色に染めた彼の強請るような眼差しに。手を握ってくれながら、そわそわと羽をはためかせている仕草に。
「やりましょう! 今すぐに!」
「……ふふ、畏まりました」
ひと回り大きな手を握り返せば、ますます背中の羽が大きく速くはためき出す。細く長い触角が弾むように揺れ始める。
遥かに年上な彼からあふれる可愛さに、今度は膝をもっていかれかけた。バアルさんの手を握っていなければ、今頃、膝小僧を砂まみれにしていたことだろう。
「では、先ずは水着に着替えましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「失礼致します」
微笑む彼の手が、俺の頬に添えられる。途端にいつもの感覚が、柔らかい風が素肌を撫でていった。
瞬く間に、着ていた白のパーカーとネイビーのハーフパンツが、同じく膝丈の水着へと。緑とオレンジのグラデーションが鮮やかな水着へと変わっていった。この旅行の為に、少し前に通販でバアルさんと選んだお揃いだ。
「ありがとうござい、ま……」
同じ水着でも、身に着ける人が異なると、こうも違うもんなんだろうか。
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