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【新婚旅行編】一日目:過去も、今も、全部が愛しい
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「へ……?」
「アオイは、現世では体験出来ないような……術を用いたお遊びがお好きでしょう?」
渋いお髭を蓄えた口元を柔らかく綻ばせ、バアルさんが小首を傾げる。センターに分けて下ろされた艷やかな髪が、サラリと彼の頬を撫でた。
「こちらの術を覚えたばかりの方は皆、水面や海面を試しに歩いてみたがるのです。仮に失敗したとしても、服がずぶ濡れになるだけですからね」
「ってことは、バアルさんも?」
「……羽を有しているとはいえ、ただ浮けることと、何処でも歩くことが出来ることでは感覚が異なりますからね……もう、随分と昔に……いえ、幼き頃のヨミ様が、初めて習得なされた時に『一緒に遊ぶぞ!』と誘って頂けまして……つい童心に帰って楽しんでしまいました」
長い睫毛を伏せて、気恥ずかしそうに話してくれた声色は酷く優しい。聞いているだけで、楽しそうな光景が目に浮かぶ。胸の辺りがほっこりと温かくなっていく。
思いがけず俺の知らない彼を、バアルさんにとって大事な思い出の一つを、知ることが出来たのはスゴく嬉しい。嬉しいのだけれど。
小さなヨミ様と一緒に海面をパシャパシャさせているバアルさん……か。
「そんなの絶対可愛いじゃんっ……見たかったなぁ……」
「見られますよ。恐らく」
「マジですかっ!?」
「ええ、マジです」
脈絡のない心の叫びに驚くことなく答えてくれたバアルさん。柔らかい笑顔は、そう仰ると存じておりましたと言わんばかり。金属のような光沢を帯びた触角を揺らしながら、水晶のように透き通った羽をはためかせながら、頷いた。
「サタン様も居られたのですが……遊ばれるのもそこそこに、投影石で撮影されておりました故。動画の方は分かりませんが、少なくともお写真は残されていらっしゃるかと。私めは見切れてしまっているかもしれませんが……」
「全然大丈夫です! 見たいです!!」
「では、後日サタン様に伺ってみましょうか。因みに、その時以外のお写真も」
「見たいです!!」
「畏まりました」
まさか、昔のバアルさんも見られるなんて。前に若返った時と同じ姿の彼が映っているんだろうか? それとも、少し大人な彼が? どちらにしたって、見たい以外の選択肢なんてある訳が。
胸を満たしているのは楽しいワクワクとは別の種類の。高揚感にも似たそれに、完全に持っていかれていた意識があっさり引き戻されることになる。
「では、今この時は……私だけを、見て頂けますでしょうか?」
顎に添えられた、細く長い指から目線を合わせるように持ち上げられて。真っ直ぐに伸びた背を屈めた彼に額を寄せられて。
優しい眼差ししか、甘えてくれているような柔らかい微笑みしか……バアルさんしか、見えなくなった。
「お好きでしょう? 愛して頂けるのでしょう? 昔の私も、今の私も……」
ゆったりとした口調で尋ねてきた声のトーンが低かったせいか、余計に鼓動が高鳴ってしまう。その上、あやすような手つきで顎裏を撫でられてしまえば、もう。
「はぃ……大好きです……」
「私も、愛しておりますよ」
ご褒美という名のトドメも、しっかり刺されてしまった。
こっちは、とっくに腰砕けになっているってのに。満足気な声で囁かれて、抱き締められて。全身、ふにゃふにゃにされてしまった。全体重をかける形で分厚い胸板にもたれかかってしまっていた。
「アオイは、現世では体験出来ないような……術を用いたお遊びがお好きでしょう?」
渋いお髭を蓄えた口元を柔らかく綻ばせ、バアルさんが小首を傾げる。センターに分けて下ろされた艷やかな髪が、サラリと彼の頬を撫でた。
「こちらの術を覚えたばかりの方は皆、水面や海面を試しに歩いてみたがるのです。仮に失敗したとしても、服がずぶ濡れになるだけですからね」
「ってことは、バアルさんも?」
「……羽を有しているとはいえ、ただ浮けることと、何処でも歩くことが出来ることでは感覚が異なりますからね……もう、随分と昔に……いえ、幼き頃のヨミ様が、初めて習得なされた時に『一緒に遊ぶぞ!』と誘って頂けまして……つい童心に帰って楽しんでしまいました」
長い睫毛を伏せて、気恥ずかしそうに話してくれた声色は酷く優しい。聞いているだけで、楽しそうな光景が目に浮かぶ。胸の辺りがほっこりと温かくなっていく。
思いがけず俺の知らない彼を、バアルさんにとって大事な思い出の一つを、知ることが出来たのはスゴく嬉しい。嬉しいのだけれど。
小さなヨミ様と一緒に海面をパシャパシャさせているバアルさん……か。
「そんなの絶対可愛いじゃんっ……見たかったなぁ……」
「見られますよ。恐らく」
「マジですかっ!?」
「ええ、マジです」
脈絡のない心の叫びに驚くことなく答えてくれたバアルさん。柔らかい笑顔は、そう仰ると存じておりましたと言わんばかり。金属のような光沢を帯びた触角を揺らしながら、水晶のように透き通った羽をはためかせながら、頷いた。
「サタン様も居られたのですが……遊ばれるのもそこそこに、投影石で撮影されておりました故。動画の方は分かりませんが、少なくともお写真は残されていらっしゃるかと。私めは見切れてしまっているかもしれませんが……」
「全然大丈夫です! 見たいです!!」
「では、後日サタン様に伺ってみましょうか。因みに、その時以外のお写真も」
「見たいです!!」
「畏まりました」
まさか、昔のバアルさんも見られるなんて。前に若返った時と同じ姿の彼が映っているんだろうか? それとも、少し大人な彼が? どちらにしたって、見たい以外の選択肢なんてある訳が。
胸を満たしているのは楽しいワクワクとは別の種類の。高揚感にも似たそれに、完全に持っていかれていた意識があっさり引き戻されることになる。
「では、今この時は……私だけを、見て頂けますでしょうか?」
顎に添えられた、細く長い指から目線を合わせるように持ち上げられて。真っ直ぐに伸びた背を屈めた彼に額を寄せられて。
優しい眼差ししか、甘えてくれているような柔らかい微笑みしか……バアルさんしか、見えなくなった。
「お好きでしょう? 愛して頂けるのでしょう? 昔の私も、今の私も……」
ゆったりとした口調で尋ねてきた声のトーンが低かったせいか、余計に鼓動が高鳴ってしまう。その上、あやすような手つきで顎裏を撫でられてしまえば、もう。
「はぃ……大好きです……」
「私も、愛しておりますよ」
ご褒美という名のトドメも、しっかり刺されてしまった。
こっちは、とっくに腰砕けになっているってのに。満足気な声で囁かれて、抱き締められて。全身、ふにゃふにゃにされてしまった。全体重をかける形で分厚い胸板にもたれかかってしまっていた。
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