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【番外編:立場・種族逆転】どんな言葉を重ねようが、過ぎたことを取り戻すことは出来やしない
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「……アオイ?」
心配そうに彼が呼びかけてくる。真っ直ぐに見つめてくる優しい眼差しから、俺は目を背けてしまっていた。意を決して発した声は、驚くほどに震えていた。
「……貴方様の、命を……誤って、刈ってしまったばかりか、此方へと……地獄へと、落としてしまったお詫びに……到底許されることではないと、分かってはおりますが……」
しばしの沈黙の後、返ってきたのは不思議なほどに凪いだ声。
「ふむ……そういうことでしたか……確認ですが、私は貴方方の間違いにより死亡し、地獄に落とされた……ということで宜しいでしょうか?」
俺は、出来る限り優しく彼の手を退けた。一歩後ろへと離れて膝を折り、頭を下げた。
「……はい……左様でございます……大変申し訳ございませんでした……」
どんな言葉を重ねようが、過ぎたことを取り戻すことは出来やしない。変わりようのない事実だ。彼の幸せを、向かえるハズだった明日を奪ってしまったことは。
熱いくらいなのに、背筋が寒い。さっきまで感じていなかったのに、喉の渇きを覚えた。
ほんの数秒が、とてつもなく長く感じる沈黙の中、砂利を踏んだような耳障りな音がした。肩を優しく掴まれた。誰かなんて、分かっている。でも、何で。
「お顔を上げて下さい、アオイ」
何で、彼は……会って間もない俺のことを心配してくれているのだろう。彼の方がお辛い思いをしているだろうに。
ズボンが汚れることをいとわずに、膝をついているバアル様。彼の大きな手のひらが、俺の手を握ってくれる。ついていた小石や砂を丁寧に払い、手の甲を優しく撫でてくれる。
「恐らくではございますが、貴方のせいではないのでしょう? 貴方は、私を迎えに来てくれただけなのではありませんか?」
「……はい……確かに私は、貴方様の迎えを仰せつかさっただけです……ですが……」
優しい手のひらから伝わってくる温もりに、指先の震えが収まっていく。強張っていた肩の力が抜けていく。
ようやく俺は視線を交わせた。
「此度の件は、決して起こってはならぬこと……地獄の民である私にも責任がございます……」
逃げることなく伝えることが出来た。もう、声は震えていなかった。
「ですので、私に何でもお申し付け下さい。私が出来ることならば……いえ、たとえ難しいことだとしても、お望みが叶えられるよう尽力致します。貴方様のお世話係として、此方に居る間は何不自由ない生活をお約束」
「わ、私と一緒に居て下さるのですか? アオイが?」
遮られたのは何度目か。しかも今回は、より一層弾んだ声で、期待に満ちた眼差しで、尋ねられただけじゃない。
「お世話係とは? もしや、このまま貴方の国に留まっても宜しいので? でしたら、いつまでご一緒に居られるのでしょうか?」
「へ、わ……ちょ、ちょっと待って下さいね」
怒涛の勢いでされた質問の数々に思考がついていかない。何から答えたらよいのやら。
不意に、獣の雄叫びのような音を上げ、業火の炎が黒い空へと立ち上った。幸い近くではなかった。
万が一に備え、俺達の周囲には防護壁を張ってはいる。が、バアル様は人間だ。俺達と違って、どんな些細なことでお怪我をしてしまうか分からない。
「申し訳ございません……道中にてお話致しますので、一先ず安全なところへ……って、お怪我をされてはいませんか? 体調が悪いとか、何かありませんか?」
「いえ、何も問題はございませんよ。どのような経緯かは覚えておりませんが、気がつけば私はこの地に立っておりました。それからすぐのことですので、アオイが来て下さったのは……」
「良かった……じゃあ、失礼致しますね」
広く頼もしい背中に腕を回させていただき、スラリと伸びた足の膝裏へと手を伸ばす。
「よいしょっと……」
慎重に、横抱きの形で持ち上げて、落としてしまわないようにしっかりと抱き直す。鍛えられているようなだけあって、それなりに重量はあるけれども……このくらいなら支障はないな。余裕で飛べそうだ。
「バアル様、しっかり掴まってて下さ」
飛び立つ前に声がけをしたところで、まん丸になった瞳と目が合った。
「えっと……いかがなさいましたか?」
「いえ、アオイは……力持ち、なのですね……」
「ああ、頼りなく見えるかもしれませんが、悪魔なので。貴方様を抱えて飛ぶくらいの力はありますよ。ご心配なく」
不安にさせないように、俺としては渾身の笑みを向けてみる。安心してくれたんだろうか。求めなくても、バアル様は俺の首に腕を回してくれて、引き締まった身体を預けてくれた。
「……では、このまま空を飛んで、お城へと向かわせて頂きます。道中、何かありましたら、遠慮なく仰って下さいね」
「……は、はい……宜しくお願い致します……」
目線が近くなっただけでなく、間近にある彼の顔。鼻筋の通った横顔は、改めて見てもカッコいい。なんだか、少し緊張してしまう。
……彼も、同じなんだろうか? 白い頬が赤く染まっているように見えたんだ。
心配そうに彼が呼びかけてくる。真っ直ぐに見つめてくる優しい眼差しから、俺は目を背けてしまっていた。意を決して発した声は、驚くほどに震えていた。
「……貴方様の、命を……誤って、刈ってしまったばかりか、此方へと……地獄へと、落としてしまったお詫びに……到底許されることではないと、分かってはおりますが……」
しばしの沈黙の後、返ってきたのは不思議なほどに凪いだ声。
「ふむ……そういうことでしたか……確認ですが、私は貴方方の間違いにより死亡し、地獄に落とされた……ということで宜しいでしょうか?」
俺は、出来る限り優しく彼の手を退けた。一歩後ろへと離れて膝を折り、頭を下げた。
「……はい……左様でございます……大変申し訳ございませんでした……」
どんな言葉を重ねようが、過ぎたことを取り戻すことは出来やしない。変わりようのない事実だ。彼の幸せを、向かえるハズだった明日を奪ってしまったことは。
熱いくらいなのに、背筋が寒い。さっきまで感じていなかったのに、喉の渇きを覚えた。
ほんの数秒が、とてつもなく長く感じる沈黙の中、砂利を踏んだような耳障りな音がした。肩を優しく掴まれた。誰かなんて、分かっている。でも、何で。
「お顔を上げて下さい、アオイ」
何で、彼は……会って間もない俺のことを心配してくれているのだろう。彼の方がお辛い思いをしているだろうに。
ズボンが汚れることをいとわずに、膝をついているバアル様。彼の大きな手のひらが、俺の手を握ってくれる。ついていた小石や砂を丁寧に払い、手の甲を優しく撫でてくれる。
「恐らくではございますが、貴方のせいではないのでしょう? 貴方は、私を迎えに来てくれただけなのではありませんか?」
「……はい……確かに私は、貴方様の迎えを仰せつかさっただけです……ですが……」
優しい手のひらから伝わってくる温もりに、指先の震えが収まっていく。強張っていた肩の力が抜けていく。
ようやく俺は視線を交わせた。
「此度の件は、決して起こってはならぬこと……地獄の民である私にも責任がございます……」
逃げることなく伝えることが出来た。もう、声は震えていなかった。
「ですので、私に何でもお申し付け下さい。私が出来ることならば……いえ、たとえ難しいことだとしても、お望みが叶えられるよう尽力致します。貴方様のお世話係として、此方に居る間は何不自由ない生活をお約束」
「わ、私と一緒に居て下さるのですか? アオイが?」
遮られたのは何度目か。しかも今回は、より一層弾んだ声で、期待に満ちた眼差しで、尋ねられただけじゃない。
「お世話係とは? もしや、このまま貴方の国に留まっても宜しいので? でしたら、いつまでご一緒に居られるのでしょうか?」
「へ、わ……ちょ、ちょっと待って下さいね」
怒涛の勢いでされた質問の数々に思考がついていかない。何から答えたらよいのやら。
不意に、獣の雄叫びのような音を上げ、業火の炎が黒い空へと立ち上った。幸い近くではなかった。
万が一に備え、俺達の周囲には防護壁を張ってはいる。が、バアル様は人間だ。俺達と違って、どんな些細なことでお怪我をしてしまうか分からない。
「申し訳ございません……道中にてお話致しますので、一先ず安全なところへ……って、お怪我をされてはいませんか? 体調が悪いとか、何かありませんか?」
「いえ、何も問題はございませんよ。どのような経緯かは覚えておりませんが、気がつけば私はこの地に立っておりました。それからすぐのことですので、アオイが来て下さったのは……」
「良かった……じゃあ、失礼致しますね」
広く頼もしい背中に腕を回させていただき、スラリと伸びた足の膝裏へと手を伸ばす。
「よいしょっと……」
慎重に、横抱きの形で持ち上げて、落としてしまわないようにしっかりと抱き直す。鍛えられているようなだけあって、それなりに重量はあるけれども……このくらいなら支障はないな。余裕で飛べそうだ。
「バアル様、しっかり掴まってて下さ」
飛び立つ前に声がけをしたところで、まん丸になった瞳と目が合った。
「えっと……いかがなさいましたか?」
「いえ、アオイは……力持ち、なのですね……」
「ああ、頼りなく見えるかもしれませんが、悪魔なので。貴方様を抱えて飛ぶくらいの力はありますよ。ご心配なく」
不安にさせないように、俺としては渾身の笑みを向けてみる。安心してくれたんだろうか。求めなくても、バアル様は俺の首に腕を回してくれて、引き締まった身体を預けてくれた。
「……では、このまま空を飛んで、お城へと向かわせて頂きます。道中、何かありましたら、遠慮なく仰って下さいね」
「……は、はい……宜しくお願い致します……」
目線が近くなっただけでなく、間近にある彼の顔。鼻筋の通った横顔は、改めて見てもカッコいい。なんだか、少し緊張してしまう。
……彼も、同じなんだろうか? 白い頬が赤く染まっているように見えたんだ。
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