間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
644 / 1,560

【番外編:立場・種族逆転】何だよ、それ? そんなの、まるで……俺のことを

しおりを挟む
 澄み渡る青を目指して、真っ黒な空を駆けていく。一人の時よりもゆったりとしたペースなので、中々黒いモヤから遠ざかれないが、仕方がない。

 なんせ、ついさっき、やらかしてしまったばかりなのだ。加減が分からなくて、バアル様に寒い思いをさせてしまったのだから。

 慌てて彼の身体を強風から守るべく、術を施した俺に対してバアル様は、ありがとうございますと、お気になさらないで下さいと、言ってはくれたけれども。

「大変申し訳ございません……貴方様は、私達地獄の民総出で、お詫びせねばならない大切な方ですのに……」

「いえ、お気になさらないで下さい。アオイの術のお陰で、もう身体も温まりましたので」

 今現在も、微笑みかけてくれたけれども。俺としたことが、うっかりで済む話じゃない。分かっていたってのに。人間である彼は、俺達と違って繊細で傷つきやすいんだって。

 絶賛、反省会をしていた俺に、バアル様がどこか遠慮がちに話しかけてくる。

「それよりも、先程のお話ですが……私がこの国に居る間、アオイがお側に居てくれる……という認識で宜しいのでしょうか?」

 目を逸らすように軽く俯いていた彼の頬は、またほんのりと染まっていた。

「はい。いついかなる時でも貴方様のお力になれるよう、ご用意してあるお部屋で一緒に暮らさせて頂きます。ああ、勿論、お一人になられたい時はいつでも」

「ど、同棲して頂けるのですか?」

 同棲……? ルームシェアとかと同じ意味だったっけ。確か。

「はい。お部屋には、一通りの家具が揃えられており、浴室もございます。足りない物がございましたら何でもご用意致しますので、遠慮なく申し付けて下さいね」

 聞いてくれているのだろうか。弾かれるように顔を上げた彼は、また俯いてしまっている。複雑な数式を解いているかのように難しい顔をして、ブツブツと何やら呟いているようだ。

 耳をそばだてりゃあ聞き取れるだろうけど、盗み聞きはなぁ。まぁ、聞いてなかったんならなかったで、また説明すればいいからな。

 羽ばたきの方へと意識を向けて丁度だった。全身に纏わりつくように不快な黒を抜け、視界が青く晴れ渡っていく。少し先に、壁に囲まれた俺達の国が。丸い国の中心に浮かぶように建てられている青い城が見えた。

 目に映るだけで、心が和らぐ景色。少ししか離れていないのに、懐かしさを覚えてしまった俺は声を大にしていた。

「バアル様! 見えますか? あちらが、私達の国……そして、天高くそびえ立っているのが今から向かうお城です!」

「なんと……大変美しい国でございますね……」

「ふふ、ありがとうございます。短い間ではございますが、気に入って頂けたら光栄です」

 噛み締めるように呟きながら少し身を乗り出して、興味津々に見つめていた緑の瞳。色鮮やかな眼差しに、伏せられた睫毛によって影が落ちる。

 青い空を背景に、白く艶めく髪が風に弄ばれている。彼の横顔に浮かぶ切ない微笑。美しいけれども、どこか儚げに見えた表情に胸の辺りが締めつけられる。

「バアル、様……? 大丈夫ですか? どこか、ご気分が?」

 左右に首を振ってから、彼は小さく「大丈夫です」と答えた。でも、とてもじゃないが、何も無いとは。

 気がつけば俺は、その場に留まっていた。何を言うでもなく、彼の顔を見つめてしまっていた。

 観念したかのように小さく笑って、俺に向けてくれた眼差しは寂しそうな色を宿していた。

「……やはり、ずっとアオイと一緒には居られないのでしょうか?」

「俺と……ですか?」

 胸が大きく高鳴った。その後も、頭の中に響くくらいに早く駆け出している。

 何だよ、それ? そんなの、まるで……俺のことを、す、好き……みたいじゃないか?

 そう言えば、自己紹介をするよりも前から、う、美しいとか……可憐、とか……やたらと褒めてはくれていたけれど。でも、でも、それって社交辞令だったんじゃ。

「はい。貴方のお側に居たいのです……貴方のことを、もっと知りたいのです」

「ひぇ……」

 社交辞令じゃ、なかったのかもしれない。

「そ、そう……ですね……本来ならば、準備が整うまで私達の国で待って頂き、現世へと転生なされるか、天国へと行かれるかを選んで頂く予定なのですが……」

 恋だの何だの、そういったキラキラふわふわしたこととは縁がなかった俺だ。彼の真意は分からない。自分の気持ちも。でも。

「私が、ヨミ様にお願いしてみます。バアル様が、お好きなだけ私達の国に残れるように。貴方様の望みが叶うように」

 彼の寂しさを拭いたい。柔らかな笑顔を見たいって、強く思ったんだ。

「……誠で、ございますか? 宜しいのでしょうか?」

「はい、お任せ下さい。ヨミ様はお優しいお方です。きっと、貴方様の望みを第一に考えてくれるでしょう」

「ありがとうございます……」

 鮮やかな瞳が細められ、形の良い唇が緩やかに綻んでいく。消えていった寂しさの影に、俺は酷く安堵していた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

彼氏未満

茉莉花 香乃
BL
『俺ら、終わりにしない?』そんなセリフで呆気なく離れる僕と彼。この数ヶ月の夢のような時間は…本当に夢だったのかもしれない。 そんな簡単な言葉で僕を振ったはずなのに、彼の態度は…… ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火
BL
――聖具は汝に託された。覚醒せよ、選ばれし者 その言葉と共に、俺の前世の記憶が蘇る。 あれ……これもしかして「転生したら乙女ゲームの中でした」ってやつじゃないか? よりにもよって、モブの町医者に。 「早く治癒魔法を施してくれ」 目の前にいるのは……「ゲームのバグ」とまで呼ばれた、攻略不可能の聖騎士イーサン!? 町医者に転生したものの、魔法の使いをすっかり忘れてしまった俺。 何故か隣にあった現代日本の医療器具を「これだ」と手に取る。 「すみません、今日は魔法が売り切れの為、物理で処置しますねー」 「……は!?」 何を隠そう、俺は前世でも医者だったんだ。物理治療なら任せてくれ。 これが後に、一世一代の大恋愛をする2人の出会いだった。 ひょんな事から、身体を重ねることになったイーサンとアオ。 イーサンにはヒロインと愛する結末があると分かっていながらもアオは、与えられる快楽と彼の人柄に惹かれていく。 「イーサンは僕のものなんだ。モブは在るべき姿に戻れよ」 そして現れる、ゲームの主人公。 ――……どうして主人公が男なんだ? 女子高生のはずだろう。 ゲーム内に存在し得ないものが次々と現れる謎現象、そして事件。この世界は、本当にあの乙女ゲームの世界なのだろうか? ……謎が謎を呼ぶ、物語の結末は。 ――「義務で抱くのは、もう止めてくれ……」 ――結局俺は……どう足掻いてもモブでしかない。 2人の愛は、どうなってしまうのか。 これは不器用な初恋同士と、彼らの愉快な仲間たちが織り成す、いちばん純粋な恋の物語。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...