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【新婚旅行編】二日目:勝負でも何でもないのだけれども
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そっと重ねられた柔らかな温もりを、俺は喜んで受け止めた。それどころか、俺からも交わそうとしたのだけれど。
「あ……」
触れてくれてすぐに彼は離れていってしまった。てっきり続きをしてくれるのかと。また、頭がふわふわしてしまうほどに甘やかしてくれるのかと思っていたのに。
物欲しそうな声を上げてしまった俺を、緑の瞳が楽しそうに見つめている。何だかちょっぴり悔しい。
宥めるように頬を撫でてくれながら、バアルさんは再び艷やかに微笑む唇を寄せてくれた。ただ、俺が期待していたところには、送ってはくれなかったのだけれど。
「んっ、あ、ふふっ……」
首のあたりを、柔らかさの異なる二種類の感触が撫でていく。ふにふに、ふわふわ。もはや、お馴染みになってきた感触。バアルさんが、形の良い唇とカッコいいお髭を擦り寄せてくれている。
「ひゃっ、も……バアル……」
背に回された引き締まった腕が、お覚悟を、と言わんばかりに俺を閉じ込めてきた。抵抗する気なんて微塵もないのだけれど。
バアルさんは、すっかりじゃれる気満々なご様子だ。触角と羽で賑やかな音を鳴らしながら、続いて鎖骨周りに擦り寄ってきた。だったら俺もお返しを、と形の良い頭へと手を伸ばす。
手入れの行き届いた白い髪に、光の輪が浮かんでいる。指を通せば、たちまちサラリと指横を撫でるように過ぎていった。少しだけついてしまっている寝癖を整えるように撫でていると、何やら視線が。
俺の胸元に顔を寄せたまま、鮮やかな緑の瞳が見つめていた。少し上目遣いな瞳が、蕩けるように細められている。
その様は、俺の手でリラックスしてくれているようで、胸の奥が擽ったくなってしまう。すっかり舞い上がってしまった俺は、ますます張り切って彼の髪を梳いていた。
そんな折、まるで対抗するかのように、たおやかな手が参戦してきた。
頬を撫でてくれたかと思えば、耳全体をマッサージするように優しく揉んでくれる。甘やかすような手つきの巧みさに、うっかり夢中になってしまいそう。撫でるよりも、逞しい胸元に抱きついて、もっと、もっとと大きな手に擦り寄りたくなってしまう。
いかんいかん、気をしっかり持たないと。せっかくバアルさんに喜んでもらえているのに、誘惑に負ける訳には。
別に勝負でも何でもない。ただ俺は、バアルさんを甘やかしたいだけ。多分、バアルさんも俺と同じような気持ちで撫でてくれているんだろうけど。
「……そ、そろそろ、俺に任せて甘えてくれてもいいんですよ?」
「……魅力的なお誘いのお言葉、誠に身に余る光栄に存じます。ですが、私も愛しい妻をとびきり甘やかしたい気分でして……丁重にお返し致しますね」
「うぅ……」
上品に口角を上げた微笑みに心を掴まれつつも、俺は躍起になってしまっていた。俺がバアルさんを甘やかすんだから、バアルさんに負ける訳には、と訳の分からない方向に張り切ってしまっていた。
しかし、相手はバアルさん。テクニックは勿論のこと、圧倒的な体格差。更には、超えることの出来ない力の差まであるのだ。そんな彼が俺と同じ気持ちだったら、とにかく甘やかしたい気分だったら、勝負にもならない訳で。
「わっ、ちょっ、ズルい! それは、ズルいって!」
頭と頬とをいっぺんに撫でようとしていた俺の両手は、ひと回り大きな彼の手によっていっぺんに取り押さえられてしまっていた。瞬きの間に、軽々と。
かけられたことはないが、気分的には手錠をかけられているような。まとめて握られてしまっている手首は、力を込めたところでビクともしない。しっかりと配慮してくれているお陰で痛くも何ともないもんだから、余計に変な気分だ。
一方、彼はご機嫌そう。空いている方の手で、俺の頬をよしよし撫でてくれながら、先がくるりと反った触角を左右にゆらゆら、半透明の羽をはためかせている。
「バアル……」
「おや、アオイも私の魔力を利用すれば宜しいのでは? 御自身の御力を高めれば、この老骨めの戒めを解き、押し倒しせるやもしれませんよ?」
恨めしげに見つめても、彼は小首を傾げるだけ。緩やかなラインを描いている笑みは、あからさまに悪戯っぽい。
……絶対にムリだって分かってて言ってるな。
「いやいや勝てる訳ないじゃん……ただでさえ、元々の力で負けてんのにさ」
「では、潔く愛でられて下さい。私が満足した際には譲って差し上げますので」
「そんなこと言って……」
当分、譲ってくれないくせに。
声として発せられる前に遮られてしまった。口づけられていた。妖しく持ち上がった口角から、白く鋭い牙を覗かせながら。その勢いは、獣が獲物を捕らえたよう。反して、触れてくる温もりは蕩けさせるように優しい。
手の拘束は解かれていた。だから、思いっきり抱きついてやった。ちょっとでも甘やかしてやろうと、抱き寄せた頭を思いっきり撫で回してやった。クスクスと笑われてしまったけれど、聞こえないフリをして。
「あ……」
触れてくれてすぐに彼は離れていってしまった。てっきり続きをしてくれるのかと。また、頭がふわふわしてしまうほどに甘やかしてくれるのかと思っていたのに。
物欲しそうな声を上げてしまった俺を、緑の瞳が楽しそうに見つめている。何だかちょっぴり悔しい。
宥めるように頬を撫でてくれながら、バアルさんは再び艷やかに微笑む唇を寄せてくれた。ただ、俺が期待していたところには、送ってはくれなかったのだけれど。
「んっ、あ、ふふっ……」
首のあたりを、柔らかさの異なる二種類の感触が撫でていく。ふにふに、ふわふわ。もはや、お馴染みになってきた感触。バアルさんが、形の良い唇とカッコいいお髭を擦り寄せてくれている。
「ひゃっ、も……バアル……」
背に回された引き締まった腕が、お覚悟を、と言わんばかりに俺を閉じ込めてきた。抵抗する気なんて微塵もないのだけれど。
バアルさんは、すっかりじゃれる気満々なご様子だ。触角と羽で賑やかな音を鳴らしながら、続いて鎖骨周りに擦り寄ってきた。だったら俺もお返しを、と形の良い頭へと手を伸ばす。
手入れの行き届いた白い髪に、光の輪が浮かんでいる。指を通せば、たちまちサラリと指横を撫でるように過ぎていった。少しだけついてしまっている寝癖を整えるように撫でていると、何やら視線が。
俺の胸元に顔を寄せたまま、鮮やかな緑の瞳が見つめていた。少し上目遣いな瞳が、蕩けるように細められている。
その様は、俺の手でリラックスしてくれているようで、胸の奥が擽ったくなってしまう。すっかり舞い上がってしまった俺は、ますます張り切って彼の髪を梳いていた。
そんな折、まるで対抗するかのように、たおやかな手が参戦してきた。
頬を撫でてくれたかと思えば、耳全体をマッサージするように優しく揉んでくれる。甘やかすような手つきの巧みさに、うっかり夢中になってしまいそう。撫でるよりも、逞しい胸元に抱きついて、もっと、もっとと大きな手に擦り寄りたくなってしまう。
いかんいかん、気をしっかり持たないと。せっかくバアルさんに喜んでもらえているのに、誘惑に負ける訳には。
別に勝負でも何でもない。ただ俺は、バアルさんを甘やかしたいだけ。多分、バアルさんも俺と同じような気持ちで撫でてくれているんだろうけど。
「……そ、そろそろ、俺に任せて甘えてくれてもいいんですよ?」
「……魅力的なお誘いのお言葉、誠に身に余る光栄に存じます。ですが、私も愛しい妻をとびきり甘やかしたい気分でして……丁重にお返し致しますね」
「うぅ……」
上品に口角を上げた微笑みに心を掴まれつつも、俺は躍起になってしまっていた。俺がバアルさんを甘やかすんだから、バアルさんに負ける訳には、と訳の分からない方向に張り切ってしまっていた。
しかし、相手はバアルさん。テクニックは勿論のこと、圧倒的な体格差。更には、超えることの出来ない力の差まであるのだ。そんな彼が俺と同じ気持ちだったら、とにかく甘やかしたい気分だったら、勝負にもならない訳で。
「わっ、ちょっ、ズルい! それは、ズルいって!」
頭と頬とをいっぺんに撫でようとしていた俺の両手は、ひと回り大きな彼の手によっていっぺんに取り押さえられてしまっていた。瞬きの間に、軽々と。
かけられたことはないが、気分的には手錠をかけられているような。まとめて握られてしまっている手首は、力を込めたところでビクともしない。しっかりと配慮してくれているお陰で痛くも何ともないもんだから、余計に変な気分だ。
一方、彼はご機嫌そう。空いている方の手で、俺の頬をよしよし撫でてくれながら、先がくるりと反った触角を左右にゆらゆら、半透明の羽をはためかせている。
「バアル……」
「おや、アオイも私の魔力を利用すれば宜しいのでは? 御自身の御力を高めれば、この老骨めの戒めを解き、押し倒しせるやもしれませんよ?」
恨めしげに見つめても、彼は小首を傾げるだけ。緩やかなラインを描いている笑みは、あからさまに悪戯っぽい。
……絶対にムリだって分かってて言ってるな。
「いやいや勝てる訳ないじゃん……ただでさえ、元々の力で負けてんのにさ」
「では、潔く愛でられて下さい。私が満足した際には譲って差し上げますので」
「そんなこと言って……」
当分、譲ってくれないくせに。
声として発せられる前に遮られてしまった。口づけられていた。妖しく持ち上がった口角から、白く鋭い牙を覗かせながら。その勢いは、獣が獲物を捕らえたよう。反して、触れてくる温もりは蕩けさせるように優しい。
手の拘束は解かれていた。だから、思いっきり抱きついてやった。ちょっとでも甘やかしてやろうと、抱き寄せた頭を思いっきり撫で回してやった。クスクスと笑われてしまったけれど、聞こえないフリをして。
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