713 / 1,566
【新婚旅行編】四日目:少々上書きさせて頂こうかと存じまして
しおりを挟む
「どちらも魅力的なメニューであったこともさることながら、ドラゴンの映像と戯れる貴方様が誠にお可愛らしかったものですから」
「ふぇっ」
「まぁ、どちらのお品も保存の術がかけられております。アイスが溶けてしまうことも、ナポリタンが冷めてしまうこともございません。ゆっくり楽しみましょうね」
「あ、はいっ」
そんな、他愛のない話みたいな感じでさらりと褒めてくれないで欲しい。こっちは、バアルさんの言動一つで簡単に浮かれちゃうし、はしゃいじゃうんだからな。言わないけれど。
心の中で独り言ちして、テーブルを埋め尽くしている美味しそうな品々を眺める。さてさて、どれからいただこうか? 取り敢えずは、フロートかな。
目標を定めて、ビニール袋に包まれた真っ赤なストローに手を伸ばそうとした時だった。
「アオイ」
「はいっ、バアルさ、んっ!?」
繋いでいる手を持ち上げられたかと思えば、手のひらに滑らかで柔らかな感触が。バアルさんが、その透明感のある白い頬を、俺の手に擦り寄せていた。
「えっと……バアル?」
「お時間もあることですし、今の内に、少々上書きさせて頂こうかと存じまして」
可愛い可愛い行動の理由を、何をしているの? と聞くまでもなく教えてはくれた。だからといって、何の疑問も晴れてはいないんですけどね。上書きって何のですか?
俺を置き去りにしたまま、バアルさんは甘えるようにすりすりと頬を寄せ続けている。なんならキスまで。手のひらに始まり、手首に、指先にと、形の良い唇を寄せてきたのだ。
時々、ふわふわなお髭まで掠めていってしまう。ますます胸が騒がしく暴れ出して、とてもじゃないけれども食事の気分には。すっかり大好きな人からの嬉しいスキンシップに釘付けになってしまっていた。
綻んでいた彼の表情に、ふと陰りが。優しい目元のシワを濃くしながら、ぽつぽつと話し始めた声は寂しそうだった。
「アオイにひと目お会いしたいという理由については致し方ありません……相手はお子様なのですから、目くじらを立てるべきではないとも重々承知してはおります」
「ん……? え、それって……」
やっぱり、嫉妬してくれていたの?
そう言葉で尋ねる必要もなく、だらしなくニヤけかかった俺の表情が物語ってしまっていたのだろう。
「ええ。少々……いえ、かなり嫉妬しておりました。私の妻に魔力の香りがつくほどに甘えるばかりか、思う存分貴方様の御手で愛でられておりました故」
「ひょわ……」
「ですから……暫しの間、御慈悲を……心の狭い老骨めを、愛でて頂けないでしょうか?」
手のひらに口づけてくれながら彼が尋ねた。胸が締めつけられるような切ない声で願われて、白い睫毛に縁取られた鮮やかな緑の瞳に見つめられてしまえば。
「全っ然、狭くないですから! 愛でさせて下さい! ……俺がバアルさんの立場だったら、絶対寂しいなって思っちゃいますし」
「……左様でございますか……大変、嬉しく存じます」
その上、宣言した途端に蕩けるように瞳を細められてしまえば、心を鷲掴みにされない訳が。衝動のままに俺は、彼の頬を包み込むように両手で触れてしまっていた。
周囲の目が及んでいないのをいいことに、彼の額に口を押しつけてしまっていた。
「ふぇっ」
「まぁ、どちらのお品も保存の術がかけられております。アイスが溶けてしまうことも、ナポリタンが冷めてしまうこともございません。ゆっくり楽しみましょうね」
「あ、はいっ」
そんな、他愛のない話みたいな感じでさらりと褒めてくれないで欲しい。こっちは、バアルさんの言動一つで簡単に浮かれちゃうし、はしゃいじゃうんだからな。言わないけれど。
心の中で独り言ちして、テーブルを埋め尽くしている美味しそうな品々を眺める。さてさて、どれからいただこうか? 取り敢えずは、フロートかな。
目標を定めて、ビニール袋に包まれた真っ赤なストローに手を伸ばそうとした時だった。
「アオイ」
「はいっ、バアルさ、んっ!?」
繋いでいる手を持ち上げられたかと思えば、手のひらに滑らかで柔らかな感触が。バアルさんが、その透明感のある白い頬を、俺の手に擦り寄せていた。
「えっと……バアル?」
「お時間もあることですし、今の内に、少々上書きさせて頂こうかと存じまして」
可愛い可愛い行動の理由を、何をしているの? と聞くまでもなく教えてはくれた。だからといって、何の疑問も晴れてはいないんですけどね。上書きって何のですか?
俺を置き去りにしたまま、バアルさんは甘えるようにすりすりと頬を寄せ続けている。なんならキスまで。手のひらに始まり、手首に、指先にと、形の良い唇を寄せてきたのだ。
時々、ふわふわなお髭まで掠めていってしまう。ますます胸が騒がしく暴れ出して、とてもじゃないけれども食事の気分には。すっかり大好きな人からの嬉しいスキンシップに釘付けになってしまっていた。
綻んでいた彼の表情に、ふと陰りが。優しい目元のシワを濃くしながら、ぽつぽつと話し始めた声は寂しそうだった。
「アオイにひと目お会いしたいという理由については致し方ありません……相手はお子様なのですから、目くじらを立てるべきではないとも重々承知してはおります」
「ん……? え、それって……」
やっぱり、嫉妬してくれていたの?
そう言葉で尋ねる必要もなく、だらしなくニヤけかかった俺の表情が物語ってしまっていたのだろう。
「ええ。少々……いえ、かなり嫉妬しておりました。私の妻に魔力の香りがつくほどに甘えるばかりか、思う存分貴方様の御手で愛でられておりました故」
「ひょわ……」
「ですから……暫しの間、御慈悲を……心の狭い老骨めを、愛でて頂けないでしょうか?」
手のひらに口づけてくれながら彼が尋ねた。胸が締めつけられるような切ない声で願われて、白い睫毛に縁取られた鮮やかな緑の瞳に見つめられてしまえば。
「全っ然、狭くないですから! 愛でさせて下さい! ……俺がバアルさんの立場だったら、絶対寂しいなって思っちゃいますし」
「……左様でございますか……大変、嬉しく存じます」
その上、宣言した途端に蕩けるように瞳を細められてしまえば、心を鷲掴みにされない訳が。衝動のままに俺は、彼の頬を包み込むように両手で触れてしまっていた。
周囲の目が及んでいないのをいいことに、彼の額に口を押しつけてしまっていた。
17
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する
竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。
幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。
白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる