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【新婚旅行編】四日目:だって、俺……バアルの奥さんだもん
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食事を終えてからベルを鳴らせば、伝票とお金を入れるトレーが現れた。木製の板にお代を乗せるとすぐに消え、代わりに返ってきたのはお釣りとドラゴンの形をしたメモ紙が一枚。その真ん中に、小さな可愛らしい字で『ありがとうございました! またのご来店をお待ちしております!』と書いてあった。
青い木の木陰を離れてからは、他愛のない会話に花を咲かせていた俺達の声しか聞こえなかった。
休憩前に立て続けにあった賑やかな訪問がウソのよう。入ってきた時と同じように、どこまでも続いている緑を楽しみながらバアルさんと二人、青いレンガで出来た道を手を取り歩む。
満腹中枢が大いに刺激されたせいだ。こっそりと眠気が忍び寄ってきて、気分がぽやぽやしてしまう。だから余計にだろう。頬を撫でていく風がひんやりと感じて心地いい。
新しい生き物に会えるとか、特別なことはない。けれども、今だってこの時しかない。一分一秒だって大切な、かけがえのない彼とのひと時だ。
このままのんびりお散歩を楽しんでから、ショーの時間に合わせて別のゾーンへ足を伸ばしてもいいかな。
「ねぇ、バアル、このまま二人でゆっくりして」
考えていたこれからの予定をバアルさんにも話そうとしていた時。視界の端にぽつりと映っただけ。なのに、放っておけなかった小さな灯り。
「ごめん、バアル、あそこ……」
俺が指し示している先には、赤い光が浮かんでいた。それも一つだけじゃない。少し距離を空けながら点々と続いている。
始めの一つがあるのは森の入口。道中であった小さな木々の集まりとは違ってこちらは深そうだ。奥へと続いている赤い灯り以外は見えないほどに先が薄暗い。まだお昼なのに。
「アオイ、私の側を離れないで下さいね」
「うん……」
繋いでいた手を離して、バアルさんが俺をその広い背に庇うように隠した。そのままゆっくりと灯りへと近づいていく。
「ふむ……炎ですね」
呟いたバアルさんの声色は柔らかくなっていた。どうやら警戒するようなものではなさそう。頼もしい彼の背から、顔だけそっと出してみた。
ああ、確かに。丸い光だと思っていた赤は燃えていた。煌めく光をゆらゆら揺らしながら、周囲に光の帯を伸ばしている。
いわゆる人魂のように宙に浮かんでいる炎からは、イヤな気配を感じない。それどころか、包み込むような温かさには覚えがあった。この世界を守ってきた白い輝きに、神様が宿っていた浄化の炎に似ているような。
「……俺の気のせいかもだけどさ、似てない? 浄化の炎に」
「気のせいではございませんよ、同様の魔力を感じます。ということは、やはり……」
言葉を切った横顔は、何か思い当たるフシがあったみたい。どうしたものかと悩むようにシャープな顎に指を添え、長い睫毛を伏せている。
時折ちらりと俺を見つめるのは迷っているからだろう。遠慮しちゃってるんだと思う。さっき、俺が言いかけていたから。二人でゆっくりしようって。
空いている、ひと回り大きな手を取り繋ぐ。驚いたように彼は俺を見下ろしたが、俺の心は決まっていた。
「会いに行こう。お散歩は後でも出来るからさ。それに多分だけど、バアルの知り合い……なんだよね?」
「……おや、顔に出ておりましたか?」
「それくらいは分かるよ。だって、俺……バアルの奥さんだもん」
申し訳無さそうに八の字になっていた眉が、緩やかなアーチへと戻っていく。ほんのりと頬を染めた彼の背中が賑やかになっていく。大きく広がった羽が風を切るようにはためき始めた。
「ふふ……そうですね。左様でございました」
彫りの深い顔に満開の笑みが咲く。細められた鮮やかな緑の瞳が、宝石のように煌めいて。
「では、参りましょうか、アオイ。あちらはすでにご存知でしょうが、改めてご紹介せねばなりません。私の大切な妻を」
「……はいっ」
笑みを交わしながら進む俺達の足取りは軽かった。目の前で口を開けている、深い森の奥を目指しているとは思えないくらいに。
青い木の木陰を離れてからは、他愛のない会話に花を咲かせていた俺達の声しか聞こえなかった。
休憩前に立て続けにあった賑やかな訪問がウソのよう。入ってきた時と同じように、どこまでも続いている緑を楽しみながらバアルさんと二人、青いレンガで出来た道を手を取り歩む。
満腹中枢が大いに刺激されたせいだ。こっそりと眠気が忍び寄ってきて、気分がぽやぽやしてしまう。だから余計にだろう。頬を撫でていく風がひんやりと感じて心地いい。
新しい生き物に会えるとか、特別なことはない。けれども、今だってこの時しかない。一分一秒だって大切な、かけがえのない彼とのひと時だ。
このままのんびりお散歩を楽しんでから、ショーの時間に合わせて別のゾーンへ足を伸ばしてもいいかな。
「ねぇ、バアル、このまま二人でゆっくりして」
考えていたこれからの予定をバアルさんにも話そうとしていた時。視界の端にぽつりと映っただけ。なのに、放っておけなかった小さな灯り。
「ごめん、バアル、あそこ……」
俺が指し示している先には、赤い光が浮かんでいた。それも一つだけじゃない。少し距離を空けながら点々と続いている。
始めの一つがあるのは森の入口。道中であった小さな木々の集まりとは違ってこちらは深そうだ。奥へと続いている赤い灯り以外は見えないほどに先が薄暗い。まだお昼なのに。
「アオイ、私の側を離れないで下さいね」
「うん……」
繋いでいた手を離して、バアルさんが俺をその広い背に庇うように隠した。そのままゆっくりと灯りへと近づいていく。
「ふむ……炎ですね」
呟いたバアルさんの声色は柔らかくなっていた。どうやら警戒するようなものではなさそう。頼もしい彼の背から、顔だけそっと出してみた。
ああ、確かに。丸い光だと思っていた赤は燃えていた。煌めく光をゆらゆら揺らしながら、周囲に光の帯を伸ばしている。
いわゆる人魂のように宙に浮かんでいる炎からは、イヤな気配を感じない。それどころか、包み込むような温かさには覚えがあった。この世界を守ってきた白い輝きに、神様が宿っていた浄化の炎に似ているような。
「……俺の気のせいかもだけどさ、似てない? 浄化の炎に」
「気のせいではございませんよ、同様の魔力を感じます。ということは、やはり……」
言葉を切った横顔は、何か思い当たるフシがあったみたい。どうしたものかと悩むようにシャープな顎に指を添え、長い睫毛を伏せている。
時折ちらりと俺を見つめるのは迷っているからだろう。遠慮しちゃってるんだと思う。さっき、俺が言いかけていたから。二人でゆっくりしようって。
空いている、ひと回り大きな手を取り繋ぐ。驚いたように彼は俺を見下ろしたが、俺の心は決まっていた。
「会いに行こう。お散歩は後でも出来るからさ。それに多分だけど、バアルの知り合い……なんだよね?」
「……おや、顔に出ておりましたか?」
「それくらいは分かるよ。だって、俺……バアルの奥さんだもん」
申し訳無さそうに八の字になっていた眉が、緩やかなアーチへと戻っていく。ほんのりと頬を染めた彼の背中が賑やかになっていく。大きく広がった羽が風を切るようにはためき始めた。
「ふふ……そうですね。左様でございました」
彫りの深い顔に満開の笑みが咲く。細められた鮮やかな緑の瞳が、宝石のように煌めいて。
「では、参りましょうか、アオイ。あちらはすでにご存知でしょうが、改めてご紹介せねばなりません。私の大切な妻を」
「……はいっ」
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