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【新婚旅行編】四日目:ぎゅっと致しましょうか?
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気分はヘンゼルとグレーテル。俺達が目印として追っている炎はパンくずや、光る小石ではないんだけれどさ。
赤い炎が照らしてくれなければ、バアルさんと一緒じゃなけりゃあ、もう遭難してしまっているだろう。そう確信出来るほどに、周囲は日が沈む間際のように薄暗い闇が支配していた。天に向かってめいいっぱい伸びている木々が、すっかり空を覆い隠してしまっているからだ。
伸び伸びと生い茂っているのは、何も幹の太い木だけではない。周りの茂みは俺の腰の高さほど、草花だって時々膝を掠めていくほどだ。炎の主であるバアルさんの知り合いが配慮を、あまり草花が生い茂っていない道へと誘導してくれているからいいものの。
どのくらい奥まで進んだんだろうか。周りを見ても似た景色ばかり。炎がなければ、何処からどうやってここまで来たのかすら分からない。
否が応でも滲んできてしまう、暗闇に対しての本能的な不安。心の隅から顔を出し始めていた不快感を、温かな手のひらが拭ってくれた。
「バアル……」
歩みを止めた彼が、柔らかな微笑みを向けてくれている。俺の頬を撫でてくれている。彼の温もりが心地いい……安心する。少しだけ、このままでいてもいいだろうか。
骨ばった手の甲へと手を重ねて、柔らかな手のひらに頬を擦り寄せる。バアルさんは擽ったそうに笑っただけで、好きにさせてくれていた。それどころか、さらに嬉しいお誘いまで。
「ぎゅっと致しましょうか?」
「へ?」
「おや……アオイは、私とハグをすると気持ちが落ち着くのでは?」
「っ……それは」
そうなんだけど。それも思いっきり、気恥ずかしくなるのが今更なくらい、多分何回もバアルさん本人に言っちゃっているけれど。
「さあ、どうぞ」
みるみる内に顔の中心へと熱が集まっているけれど、ウェルカム全開で広げられている腕の誘惑には勝てなかった。吸い寄せられるように高い位置にある括れた腰に抱きついて、服越しでも盛り上がっている分厚い胸板に頬を寄せてしまう。
案の定、小さく笑う声が降ってきたので、そっと見上げてみればバアルさんは得意満面。渋いお髭を蓄えた口端を緩やかに持ち上げて、細く長い触角をふわふわ左右に揺らしていた。
「自分で言うのは良いんだけどさ……バアルに言われるとなんか照れちゃうな……」
「ふむ、確かに。お気持ちは分かります」
『……誠に皆のお話通り、仲睦まじくていらっしゃる。我らが神も今頃大いに喜んでくれていることでしょう』
「ふぇっ……う、嬉しいですけど、神様が喜んでくれるなんてそんな大げさな……って、うぇっ!?」
なんの気配もなく、俺達の会話に加わってきた声。頭の中に直接響いているような声は、川のせせらぎのように清らかな音をしていたけれど、一切聞き覚えがない。
反射的に周囲を見渡して、見つけたのは大きな炎。いや、鳥だった。その姿は燃え盛る炎が鳥の姿を成したよう。優雅に広げた翼も、長い尾羽根もゆらゆらと燃え続けている。
はためく翼は、俺達を簡単に包みこんでしまいそうなほどに大きい。それらが宙で羽ばたく度に、周囲に光る花弁のような火の粉を散らしている。赤、オレンジ、黄色、煌めき移り変わっていくそれらは確かに燃えていた。が、落ちた先の草木が燃えることはない。雪のように儚く消えていくだけだった。
神秘的な鳥以外、俺達の周囲に人影も生物の気配もない。ということは、さっき話しかけてきた声の主は。
『ああ、失礼致しました。覗き見るつもりはなかったのですよ?』
再び聞えてきた念話に合わせて炎の化身のような鳥が、その白鳥のように長い首をお辞儀をするように下げてきた。
これは間違いないだろう。俺の確信を裏付けるように、再び頭の中で声が響き始めた。
赤い炎が照らしてくれなければ、バアルさんと一緒じゃなけりゃあ、もう遭難してしまっているだろう。そう確信出来るほどに、周囲は日が沈む間際のように薄暗い闇が支配していた。天に向かってめいいっぱい伸びている木々が、すっかり空を覆い隠してしまっているからだ。
伸び伸びと生い茂っているのは、何も幹の太い木だけではない。周りの茂みは俺の腰の高さほど、草花だって時々膝を掠めていくほどだ。炎の主であるバアルさんの知り合いが配慮を、あまり草花が生い茂っていない道へと誘導してくれているからいいものの。
どのくらい奥まで進んだんだろうか。周りを見ても似た景色ばかり。炎がなければ、何処からどうやってここまで来たのかすら分からない。
否が応でも滲んできてしまう、暗闇に対しての本能的な不安。心の隅から顔を出し始めていた不快感を、温かな手のひらが拭ってくれた。
「バアル……」
歩みを止めた彼が、柔らかな微笑みを向けてくれている。俺の頬を撫でてくれている。彼の温もりが心地いい……安心する。少しだけ、このままでいてもいいだろうか。
骨ばった手の甲へと手を重ねて、柔らかな手のひらに頬を擦り寄せる。バアルさんは擽ったそうに笑っただけで、好きにさせてくれていた。それどころか、さらに嬉しいお誘いまで。
「ぎゅっと致しましょうか?」
「へ?」
「おや……アオイは、私とハグをすると気持ちが落ち着くのでは?」
「っ……それは」
そうなんだけど。それも思いっきり、気恥ずかしくなるのが今更なくらい、多分何回もバアルさん本人に言っちゃっているけれど。
「さあ、どうぞ」
みるみる内に顔の中心へと熱が集まっているけれど、ウェルカム全開で広げられている腕の誘惑には勝てなかった。吸い寄せられるように高い位置にある括れた腰に抱きついて、服越しでも盛り上がっている分厚い胸板に頬を寄せてしまう。
案の定、小さく笑う声が降ってきたので、そっと見上げてみればバアルさんは得意満面。渋いお髭を蓄えた口端を緩やかに持ち上げて、細く長い触角をふわふわ左右に揺らしていた。
「自分で言うのは良いんだけどさ……バアルに言われるとなんか照れちゃうな……」
「ふむ、確かに。お気持ちは分かります」
『……誠に皆のお話通り、仲睦まじくていらっしゃる。我らが神も今頃大いに喜んでくれていることでしょう』
「ふぇっ……う、嬉しいですけど、神様が喜んでくれるなんてそんな大げさな……って、うぇっ!?」
なんの気配もなく、俺達の会話に加わってきた声。頭の中に直接響いているような声は、川のせせらぎのように清らかな音をしていたけれど、一切聞き覚えがない。
反射的に周囲を見渡して、見つけたのは大きな炎。いや、鳥だった。その姿は燃え盛る炎が鳥の姿を成したよう。優雅に広げた翼も、長い尾羽根もゆらゆらと燃え続けている。
はためく翼は、俺達を簡単に包みこんでしまいそうなほどに大きい。それらが宙で羽ばたく度に、周囲に光る花弁のような火の粉を散らしている。赤、オレンジ、黄色、煌めき移り変わっていくそれらは確かに燃えていた。が、落ちた先の草木が燃えることはない。雪のように儚く消えていくだけだった。
神秘的な鳥以外、俺達の周囲に人影も生物の気配もない。ということは、さっき話しかけてきた声の主は。
『ああ、失礼致しました。覗き見るつもりはなかったのですよ?』
再び聞えてきた念話に合わせて炎の化身のような鳥が、その白鳥のように長い首をお辞儀をするように下げてきた。
これは間違いないだろう。俺の確信を裏付けるように、再び頭の中で声が響き始めた。
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