【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】七日目:魅力的なシチュエーションに浮かれずにはいられなかった

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「お、俺がバアルになってるっ!!」

 聞き慣れた穏やかな低音ボイスによる叫びが、室内へと響き渡る。

 が、ことバアルに関しては常に一喜一憂してしまう俺だ。すぐさまこの状況が素敵なことに気がついた。

「って、めっちゃ驚いちゃってるバアルもカッコいいな……というか、新鮮かも」

「っ、アオイ……」

 常に落ち着いた大人の魅力にあふれている彼が、取り乱すことなど滅多にない。仮に焦ったとしても、せいぜい眉間のシワを深めるくらいだろう。

 そんな冷静沈着な彼が、いかにも驚いてますと大口を開けて目を見開くだなんて。この先、例え天と地がひっくり返ったとしても見ることなんて出来やしないだろう。超絶レアだ。写真に収めておきたい。

 まぁ、もう出来ないんだけれども。じっくり堪能することすらも。すでに、ちょっぴりニヤけた笑顔に変わってしまっているんだけれども。

「いや、待てよ……これはこれで可愛いな……」

「アオイっ……?」

「はぁ……スゴいなぁ、バアル……カッコいいなぁ……どうなってんの? どんな表情していても、どの角度から見てもカッコいいんだけど?」

 寄り添っている身体から僅かな震えが伝わってきている。息を呑むような音が聞こえてくる。けれども俺は気にも止めやしなかった。鏡に映っている彼の姿に、すっかり夢中になってしまっていたんだ。

 なんせ表情がコロコロ変わる。おまけに俺が見たいと思った角度にすぐにすることが出来る。まさにこれもまた、俺にとっての夢のような体験だったのだ。

 勿論、普段の彼だって感情豊かだ。言葉にしてくれなくとも、その瞳から、表情から、温かな想いが滲み出ちゃっている。そんな彼が大好きで、愛おしくて仕方がないのだけれども。

「……ホントに俺、バアルになっちゃってるんだ……肌スベスベだし、お髭ふわふわだし……あ、羽っ、羽もはためいてるっ、すっご!」

 残念なことに、俺は自分の欲に忠実な男だ。自分の身体が大好きな彼の身体になってしまっている。そんな魅力的なシチュエーションに浮かれずにはいられなかった。

 鏡に映っている、ニッコニコな笑顔を振り撒いている彼に釘付けになったまま、両手で包み込むように頬を撫でてみたり、整えられたお髭を人差し指でちょんちょんと触れてみたり、勝手にはためいている羽に感動したり。

「筋肉もやっぱりカッコいいなぁ……どんだけ鍛えたら、こんな風にキレイな付き方するんだろう?」

 さらには薄手の上着から伸びているカッコいい二の腕に力を込めて、血管とともにより濃く浮き上がってきた筋肉のラインをなぞってみたり。

「アオイ……」

 何度目かの俺を呼ぶ声が聞こえてくるまで、照れたような、諦めたような声に引き戻されるまで、好き勝手に楽しんでしまっていた。

「へ? あ……っ」

 横を向けば、照れたように瞳を細めて困ったように微笑む俺と目が合った。そういう複雑な顔も出来たんだと、新たな自分の可能性に気が付かされた。感心してる場合じゃないってのにさ。

「ごっ、ごめんね、バアル……バアルの身体なのに、勝手にベタベタ触っちゃって……」

「いえ、そちらに関してはお気になさらず。好きなだけ触って下さい」

 気になる物言いではあったけれども、止めようとしていた訳ではなかったみたい。

 さあ、どうぞ、と続きを促すように手のひらを上にして俺を、バアルの身体を指し示している彼の表情は純粋な喜びで満ちている。

 俺を見上げて微笑んでいる顔は、確かに俺の顔だ。毎朝、嫌でも鏡でご対面しているから間違いようがない。なのに。

「愛しい妻に触れて頂けることは、いついかなる時も大歓迎でございます故」

「ぅ……っ、カッコいい……俺なのに……」

 そうなのだ。カッコいいのだ。悔しいくらいに。
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