【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】七日目:意気込んだものの、やっぱり失速してしまっていた

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「ねぇ、バアル」

「はい……アオイ」

「ぎゅってして欲しいな……」

 激しく高鳴っている心音とは引き換えに、伝えられた声は不思議なくらいに落ち着いていた。

「っ、アオイ?」

 息を呑んだバアルは表情にはあまり出していないものの、その驚きはしっかりと俺に伝わってきていた。

 また弾むように跳ねた触角が、ぶわりと大きく広がった羽が途端に賑やかな音を奏で出す。ぶんぶん、ぱたぱたと落ち着きなく揺れて、風を切っている。

 でも、俺は止まらなかった。ここで止めてしまおうもんなら、俺が困ってしまうから。

「あとね、いっぱい頭を撫でて欲しい……それと……か、可愛いって……褒めて、欲し……」

 意気込んで、一気にお願いし切ろうとしたものの、やっぱり失速してしまっていた。じわじわと心の隅から滲み出ていた照れ臭さに、先に追い抜かれてしまっていた。

 勢いをなくした言葉と一緒に俯いてしまっていると、柔らかくも程よい弾力のある温かさに全身を包みこまれる。

「おわっ」

 俺は、バアルさんの腕の中にいた。

 勢いよく抱きつかれたものだから、高鳴っていた鼓動がますます踊ってしまう。とっくに彼にも伝わってしまって。いや、俺の気のせいでなけりゃ、全身に響いているようなドキドキが二重になっているような。

「……ごめんね、やっぱりちょっと照れちゃうや。酔っ払っている時みたいに、思いっ切りバアルに甘えられな」

「誠に嬉しく存じました」

 食い入るような勢いは嬉しい言葉だけじゃなかった。しなやかな指に顎を優しく持ち上げられたかと思えば、軽く背を屈めた彼に一気に距離を詰められていた。高い鼻先が触れ合ってしまうどころか、吐息まで交わってしまいそう。

 間近に迫った鮮やかな緑の瞳に俺が映っている。抱き締めてくれている筋肉質な腕に、僅かに力が込められた。

「私の我儘を汲み取って頂けたばかりか、大変お可愛らしいお誘いまで……どうか、叶えさせては頂けませんか? そのままの貴方様を、愛でさせて頂けないでしょうか?」

「う、うん……いいよ……お願いしたの、ホントのこと、だし……ぎゅってして欲しいのも、撫でて欲しいの、ふわっ」

 今度は俺が失速してしまうよりも先に。気がつけば俺は、バアルさんに横抱きの形で抱き抱えられていた。咄嗟に彼の首へと腕を回せば、頭を撫でてもらえた。俺を抱えたまま長い脚は、軽やかに寝室の方へと向かい始める。

 結構な勢いだったのに椅子どころか、いつの間にか空になっていた彼のグラスも俺のグラスもひっくり返ってはいなかった。

 それどころか、それぞれがまるで自分の意志でも持ったかのよう。いつの間にやら避難するように離れていた椅子はテーブルの元へと戻りつつあるし、飲みかけのワインボトルには新たにプラスチックのような透明なキャップで栓がされようとしていた。

 つい彼との乾杯の名残ばかりを目で追っていると、額に柔らかなものがそっと押し当てられた。思わず視線を向けた頃には悪戯っぽく微笑む唇が、わざとらしいリップ音を鳴らしながら離れていこうとしていた。

「ボトルはワインセラーにしまいますが、念の為に保存の術もかけております。また後で、ゆっくりと楽しみましょうね」

「はぃ……」

 今度は、掠れたような返事しか出せなかった口に甘えるように重ねられてしまえば、もう俺の目にはバアルしか。大好きな笑顔しか映らなくなっていた。
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