【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】十日目:薄暗い感情への答えは、返事は、呆気ないくらいにあっさりと

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 バアルは相変わらず器用だ。そのモデルさん顔負けなスタイルのいい長身に、体重をかけるように寄りかかってしまっているにも関わらず悠々としている。

 凛々しい眉の間にシワを寄せることもない。柔らかで嬉しそうな笑みばかりを俺に向けてくれている。

「つまりは私めに助けを求めて下さった、という訳で宜しいのでしょうか?」

「はい……宜しいです……」

 バアルに抱き締めてもらえるという極上のセラピーを受けた俺はあっさりと回復していた。

 となれば、先程の話の続きを促されてしまうのは必然な成り行きで。素直に全部を打ち明けた結果が、左右にゆらゆらと揺れ続けている触角と、大きく広がって風を切るようにはためいている羽って訳で。

「ご機嫌、だね……」

「ええ。愛しい妻に頼りにしてもらえるなど、夫冥利に尽きます故」

「っ、そ、そっか……」

 いつも以上に柔らかな、胸の内に甘さを覚えてしまうような声色で即座に堂々と返されてしまうと余計に顔が熱を持ってしまう。

 けれども、湯気でも出てしまいそうな照れ臭い熱は、いとも簡単に収まっていってしまう。心の片隅へと隠れようとしていて、見つけてしまった薄暗い感情によって。

 それでも自身の胸の内に留めておけばよかった。だというのに俺は口走ってしまっていた。急に立ち止まっていた。

「……情けないとか、思わないの?」

 男のクセに、まだ物音の一つも立てていない茂みに対して怖がるだなんて。

 彼からの返事は呆気ないくらいにあっさりと返ってきた。

「私のカッコいいアオイが、でしょうか?」

 自分のことのように得意気な笑みと一緒に。

「んぐ……思って、いないんだね……」

「ええ、全く」

「っ……」

 畳み掛けるように断言されて、微笑みかけられて、ぐうの音すら出せなくなってしまう。呼吸どころか、心臓まで止まっちゃうかと。思いっきり鷲掴みにされてしまったせいで。

 優し眼差しが俺を見つめてくれている。大きな手のひらが頰へとそっと添えられた。柔らかな温もりに思わず小さく息を吐くと、緩やかな笑みを浮かべていた唇が薄く開いた。穏やかな低音が静かに言葉を紡ぎ始める。

「……恐怖にしろ、何にしろ、感じ方はそれぞれ異なります。その方にとってはどれだけ取るに足らないことだとしても、他の方にとっては酷く不快に思われてしまう場合もございます、そればかりか見るのも嫌な程に恐れてしまうことも」

 思わず俺は口を開いたが、言葉は出てきやしなかった。また小さく息を吐いただけだった。周囲の緑よりも鮮やかな瞳が微笑みかけてくる。

 ゆるりと頬を撫でてくれた温もりが離れていってしまう。そのしなやかな指がおもむろに手にしたのは、さっきから幾度となく見かけていた鋭く尖った葉っぱだった。

「例えば、此方の葉っぱを見た時、アオイはどう思われますか」

「え……っと、トゲトゲしてる、かな……あと、ツヤツヤしてるな、とか?」

 思いがけない質問に困惑しつつも感じたことをそのまま述べれば、バアルは小さく頷いた。

「ええ、左様でございますね。私もお揃いでございます……ですが」

 言葉を切ってからバアルは軽く摘んでいた葉っぱを、その尖った先を俺の方へと向けてきた。

 今度はどういう意図なんだろうか。ただただ分からずに葉っぱとバアルとを交互に見つめてしまっていると、バアルもまた葉っぱの先端へと視線を落とした。

「尖った先を此方へと向けないで欲しい、気分が悪くなる、そう思われる方もいらっしゃいます」

「あ……」
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