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【新婚旅行編】十日目:提案ではなく、決定事項
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「ありがとう……」
「いえ……」
小さく頷く彼の顔には、教えて欲しいと書かれていた。いくら鈍い俺だってそれくらいは分かった。まだ凛々しい眉を下げ、目元のシワを濃くしている彼が口にはしなくとも、俺に何を訴えているのかくらいは。
少し心にゆとりが出来たからだろうか。ちょっぴり残っている恐怖心よりも、気恥ずかしさの方が勝ってしまったらしい。頬が急に熱を持ち始めていた。
冷静になればなるだけ、さっきの自分の考えが情けなく思えてしまう。こんな風になってしまいそうだったから、テーマパークではお化け屋敷系統は避けたってのに。
でも、バアルと決めた夫婦のルールを破る訳には。何か合ったら相談する。一人で決めちゃわない、だもんな。
労るような手つきで頬を撫でてくれながら、俺を抱き寄せてくれながら待ってくれている彼の目をちゃんと見つめる。
「えっと……あそこのさ、茂みがあるじゃん?」
俺の腰どころか、バアルの高い腰にまでも届いてしまいそうな茂みを人差し指でそっと指し示す。バアルはすぐにそちらへと視線を向けた。
「ええ」
心配してくれているんだろう。すぐさま俺に視線を戻して、手を止めることなくよしよしと撫で続けてくれている。俺から目を離さずに、感想を述べてくれる。
「いかにもジャングルらしいと申しますか……今にも何かがあちらの茂みを掻き分けて、現れてきてしまいそうな予感すら」
「そうっ、それ! そう考えちゃったんだよっ、俺もっ!」
彼の白くて長い睫毛が驚いたように瞬いた。急に俺が大きな声を出しちゃったから。
謝ろうとしたけれども、言葉が出て来なくなってしまう。弱々しく下がっていた触角をふわりと揺らして、何だか安心してくれたように瞳を細めた彼に見惚れてしまって。
「おや、お揃いでございましたか」
「はひっ、お揃いでふ」
おどけたような声で微笑まれただけでも、彼に釘付けな俺の心臓は容易くはしゃいでしまう。それどころか声までもがひっくり返ってしまっていて。
「ふふ、左様でございましたか」
擽ったそうに微笑んで、頼もしく広い背にある透き通った羽をはためかせて、彼が次にしてきたのは。
「では、ぎゅっと致しましょうか」
提案ではなく、決定事項だった。
「へ? わぷっ」
頬に柔らかくも弾力のある温もりが当たったと気がついた時には、俺の全身は彼の筋肉質な腕の中へとすっぽりと収まってしまっていた。服越しでも分厚い胸板に頬擦りをするように引っ付いてしまっていた。
隙間なく抱き締めてもらえているからだろう。彼から香ってくるハーブの匂いが強い。この世の何よりも安心出来る心音が聞こえてくるどころか、頬に直に伝わってきてしまって。
「っ、ば、ばばバアル?」
公共の場ではダメなんじゃ。弁えないといけないんじゃ。
「大丈夫、此方へ来られるのは私達だけ。他のお客様の目は勿論、スタッフの方の目もございません故」
嬉しいけれども離れなければ。そう頭の中でけたたましく鳴っていた警鐘は、彼の一言ですんなりと収まっていってしまう。
上手く丸め込まれている気がする。今にも消えてしまいそうな俺の理性が呟いた。すぐに欲の方に聞き流されてしまったけれども。
「そ、そっか……なら、いっか……俺達だけなら」
「ええ。ですから存分にこの老骨めに甘えて下さい。心落ち着くまで、どうか私めの腕の中で……」
「ん……ありがと、バアル……」
じゃあ、遠慮なく。
行き場をなくしていた手を、彼の背中へと回す。もう頭の中も、心の中もバアルでいっぱいだった。想像力から生まれた恐怖が居座るところなんて何処にもありやしなかった。
「いえ……」
小さく頷く彼の顔には、教えて欲しいと書かれていた。いくら鈍い俺だってそれくらいは分かった。まだ凛々しい眉を下げ、目元のシワを濃くしている彼が口にはしなくとも、俺に何を訴えているのかくらいは。
少し心にゆとりが出来たからだろうか。ちょっぴり残っている恐怖心よりも、気恥ずかしさの方が勝ってしまったらしい。頬が急に熱を持ち始めていた。
冷静になればなるだけ、さっきの自分の考えが情けなく思えてしまう。こんな風になってしまいそうだったから、テーマパークではお化け屋敷系統は避けたってのに。
でも、バアルと決めた夫婦のルールを破る訳には。何か合ったら相談する。一人で決めちゃわない、だもんな。
労るような手つきで頬を撫でてくれながら、俺を抱き寄せてくれながら待ってくれている彼の目をちゃんと見つめる。
「えっと……あそこのさ、茂みがあるじゃん?」
俺の腰どころか、バアルの高い腰にまでも届いてしまいそうな茂みを人差し指でそっと指し示す。バアルはすぐにそちらへと視線を向けた。
「ええ」
心配してくれているんだろう。すぐさま俺に視線を戻して、手を止めることなくよしよしと撫で続けてくれている。俺から目を離さずに、感想を述べてくれる。
「いかにもジャングルらしいと申しますか……今にも何かがあちらの茂みを掻き分けて、現れてきてしまいそうな予感すら」
「そうっ、それ! そう考えちゃったんだよっ、俺もっ!」
彼の白くて長い睫毛が驚いたように瞬いた。急に俺が大きな声を出しちゃったから。
謝ろうとしたけれども、言葉が出て来なくなってしまう。弱々しく下がっていた触角をふわりと揺らして、何だか安心してくれたように瞳を細めた彼に見惚れてしまって。
「おや、お揃いでございましたか」
「はひっ、お揃いでふ」
おどけたような声で微笑まれただけでも、彼に釘付けな俺の心臓は容易くはしゃいでしまう。それどころか声までもがひっくり返ってしまっていて。
「ふふ、左様でございましたか」
擽ったそうに微笑んで、頼もしく広い背にある透き通った羽をはためかせて、彼が次にしてきたのは。
「では、ぎゅっと致しましょうか」
提案ではなく、決定事項だった。
「へ? わぷっ」
頬に柔らかくも弾力のある温もりが当たったと気がついた時には、俺の全身は彼の筋肉質な腕の中へとすっぽりと収まってしまっていた。服越しでも分厚い胸板に頬擦りをするように引っ付いてしまっていた。
隙間なく抱き締めてもらえているからだろう。彼から香ってくるハーブの匂いが強い。この世の何よりも安心出来る心音が聞こえてくるどころか、頬に直に伝わってきてしまって。
「っ、ば、ばばバアル?」
公共の場ではダメなんじゃ。弁えないといけないんじゃ。
「大丈夫、此方へ来られるのは私達だけ。他のお客様の目は勿論、スタッフの方の目もございません故」
嬉しいけれども離れなければ。そう頭の中でけたたましく鳴っていた警鐘は、彼の一言ですんなりと収まっていってしまう。
上手く丸め込まれている気がする。今にも消えてしまいそうな俺の理性が呟いた。すぐに欲の方に聞き流されてしまったけれども。
「そ、そっか……なら、いっか……俺達だけなら」
「ええ。ですから存分にこの老骨めに甘えて下さい。心落ち着くまで、どうか私めの腕の中で……」
「ん……ありがと、バアル……」
じゃあ、遠慮なく。
行き場をなくしていた手を、彼の背中へと回す。もう頭の中も、心の中もバアルでいっぱいだった。想像力から生まれた恐怖が居座るところなんて何処にもありやしなかった。
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