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【新婚旅行編】十日目:好きなタイミングで、なんて口では言っておきながら
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今、目の前の分厚い胸板に頬を寄せれば伝わってくるんだろうか。俺と同じくらいに高鳴っている心音が、普段よりも熱い体温が、たとえ薄い布地越しでも。
向かい合っている彼の逞しい胸元をぼんやり見つめてしまっていると大きな手が頬に添えられた。柔らかな手のひらからじんわりと伝わってくる体温が熱い。まるでお風呂上がりみたい。残念なことに心音までは伝わってはこなかったけど。
「では、失礼致します……」
恭しく会釈したバアルの声は珍しくちょっぴり震えていた。頭の上で落ち着きなく揺れていた二本の触角も、寒さを堪えているかのように小刻みに震えてしまっている。
……やっぱり、緊張しているんだろうな。可愛いな。
「ふふ、どうぞ。バアルの好きなタイミングで始めていいからね」
どんなことに関しても経験豊富で遥かに年上な彼の何だか初々しい姿に、口角がニヤついてしまうのを抑えられない。何なら今すぐぎゅってしてあげたいし、キスしたい気分だ。またバアルの邪魔をしてしまいかねないから、我慢するけどさ。
とはいえ、この優越感? いや、何かちょっぴり違うような……とにかく、ついわくわくしてしまう気分にこっそり浸るくらいはいいだろう。今まではずっとバアルにリードしてもらいっぱなし、甘えさせてもらいっぱなしだったからな。今日くらいは。
「アオイ……」
尖った喉が上下に動く。凛々しい眉の間に深いシワが寄っている。
やっぱり余裕がないみたい。目と目が合った際に微笑みかけても、柔らかな微笑みが返ってくることはなかった。熱のこもった眼差しで見つめてきてはくれるものの、ちらりちらりと落ち着きなく俺の首に視線を向けている。
早く噛んでくれていいのにな。まだ遠慮しちゃっているんだろうか。
好きなタイミングで、なんて口では言っておきながら俺は内心そわそわしてしまっていた。今まで寸止めというか、なんというか、バアルの俺を気遣ってくれるという強固な優しさによって未遂に終わっていたからだろう。なんだかんだ俺自身も期待してしまっていたのだ。
なんせ、進展しようとしているのだから。噛まれたかも? だけに終わっていたことがらが、今まさに。
あまり見つめてしまっていてもやり辛いだろうか。今更ながらに気付き、真っ赤な顔から目を逸らそうとした時だった。
ついに彫りの深い顔が近づいてきた。
ゆっくりと、ゆっくりと、それはもう焦れったいくらいの緩慢な動きで、形のいい唇を首に寄せようとしてくれている。
どんな感じなんだろう。あのカッコいい牙を、白く鋭い肉食獣のような牙を肌に立てられてしまったら。やっぱり、多少の痛みはあるんだろうな。防護壁を何重にも施してもらっているとはいえ、俺の肌は脆弱過ぎる。
そこまで想像してしまっているのに、痛みを覚悟しているにも関わらず、怖くはなかった。それからそのことに対して不思議にも思わなかった。
だって、バアルにしてもらえることなんだから。俺自身も望んでいることなんだから。
もう耳には高鳴っている心音の音しか聞こえない。ゆったりとした彼の動きがとっとゆっくりに見えてしまう。それでも、確実に近づいてきている。薄く開いた口が、俺の首に狙いを定めようとして。
「あ……っ」
反射的に鼻にかかった声を上げてしまっていた。
首の根元辺りに触れてきたのは見るからに鋭そうな牙ではなく柔らかな温もり。予想していたのとは違う感触に、ちょっぴり驚いてしまっていた。
向かい合っている彼の逞しい胸元をぼんやり見つめてしまっていると大きな手が頬に添えられた。柔らかな手のひらからじんわりと伝わってくる体温が熱い。まるでお風呂上がりみたい。残念なことに心音までは伝わってはこなかったけど。
「では、失礼致します……」
恭しく会釈したバアルの声は珍しくちょっぴり震えていた。頭の上で落ち着きなく揺れていた二本の触角も、寒さを堪えているかのように小刻みに震えてしまっている。
……やっぱり、緊張しているんだろうな。可愛いな。
「ふふ、どうぞ。バアルの好きなタイミングで始めていいからね」
どんなことに関しても経験豊富で遥かに年上な彼の何だか初々しい姿に、口角がニヤついてしまうのを抑えられない。何なら今すぐぎゅってしてあげたいし、キスしたい気分だ。またバアルの邪魔をしてしまいかねないから、我慢するけどさ。
とはいえ、この優越感? いや、何かちょっぴり違うような……とにかく、ついわくわくしてしまう気分にこっそり浸るくらいはいいだろう。今まではずっとバアルにリードしてもらいっぱなし、甘えさせてもらいっぱなしだったからな。今日くらいは。
「アオイ……」
尖った喉が上下に動く。凛々しい眉の間に深いシワが寄っている。
やっぱり余裕がないみたい。目と目が合った際に微笑みかけても、柔らかな微笑みが返ってくることはなかった。熱のこもった眼差しで見つめてきてはくれるものの、ちらりちらりと落ち着きなく俺の首に視線を向けている。
早く噛んでくれていいのにな。まだ遠慮しちゃっているんだろうか。
好きなタイミングで、なんて口では言っておきながら俺は内心そわそわしてしまっていた。今まで寸止めというか、なんというか、バアルの俺を気遣ってくれるという強固な優しさによって未遂に終わっていたからだろう。なんだかんだ俺自身も期待してしまっていたのだ。
なんせ、進展しようとしているのだから。噛まれたかも? だけに終わっていたことがらが、今まさに。
あまり見つめてしまっていてもやり辛いだろうか。今更ながらに気付き、真っ赤な顔から目を逸らそうとした時だった。
ついに彫りの深い顔が近づいてきた。
ゆっくりと、ゆっくりと、それはもう焦れったいくらいの緩慢な動きで、形のいい唇を首に寄せようとしてくれている。
どんな感じなんだろう。あのカッコいい牙を、白く鋭い肉食獣のような牙を肌に立てられてしまったら。やっぱり、多少の痛みはあるんだろうな。防護壁を何重にも施してもらっているとはいえ、俺の肌は脆弱過ぎる。
そこまで想像してしまっているのに、痛みを覚悟しているにも関わらず、怖くはなかった。それからそのことに対して不思議にも思わなかった。
だって、バアルにしてもらえることなんだから。俺自身も望んでいることなんだから。
もう耳には高鳴っている心音の音しか聞こえない。ゆったりとした彼の動きがとっとゆっくりに見えてしまう。それでも、確実に近づいてきている。薄く開いた口が、俺の首に狙いを定めようとして。
「あ……っ」
反射的に鼻にかかった声を上げてしまっていた。
首の根元辺りに触れてきたのは見るからに鋭そうな牙ではなく柔らかな温もり。予想していたのとは違う感触に、ちょっぴり驚いてしまっていた。
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