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第三夜 冷え込む自室にて
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Ⅲ
これは、どういうことなのだ?
私は、思わず叫びそうになった。
この本に書かれているのは紛れも無く、私自身の幼少時代のことであったから。
しかも、間違いなく欠落していたあの部分のものに違いない。
ということは、あの夢の中の青年は「王子様」だということなのか。
どうして、こんな本が……?
はっと気が付いて、私は起き上がると、正面にかけられた絵に目を移した。
布団を跳ね上げ、絵に駆け寄る。
夢中で絵を降ろすと、何かにとりつかれたように震える手で、額の裏蓋を外した。
そこには、拙い字で「5ねん3くみ ゆきの かりん」とあった。
私は、身体が芯まで冷えていくのを感じた。
これは紛れもなく私が描いた絵だ。
当時、夏休みの課題として写生画を提出した時のものだ。
この絵は学校の写生コンクールで、金賞を受賞した。
両親はとても喜んでくれ、お祝いとしてレストランで食事をしたのだ。
だが、その絵はいつの間にやら私の元から消えていた。
きちんと額縁に入れて、あんなに大切にしていたのに……。
どうして、それがあの画廊に?
いや、そもそもこの絵をあの画廊で見かけた時に、どうしてすぐに思い出さなかったのだろう。
思い出せなかったのだろう。
あの頃の、ささやかだけど大切な思い出だったはずなのに……。
柔和な笑みを浮かべた、精神科医の顔が浮かぶ。
『脳というのは、正直なものでしてね。自分が、思い出すことを拒否すると、そのまま、忘れてしまうものなのですよ。』
忘れたい?
私はそう思ったの?
なぜ?
あの「お城」に関係があるから?
それなら、尚更わからない。
あの思い出は……「王子様」との思い出は、私にとって大切なものであったはずなのに。
それなのに、なぜ?
その答えが記されているであろう、この本の続きのページは、私の記憶そのもののように白紙であった。
この後、何があったの?
一体、何が……?
私はいてもたってもいられなかった。
この不安は何なのか。
まるで、どす黒いインキが心の中を侵食していくようだ。
どんどん身体が体温を失っていく。
このままにして置く訳にはいかない。
私はジーパンとTシャツにジャンパーを羽織ると、テーブルの上の車のキーを掴んで、部屋を飛び出した。
*
高速に乗れば、あの街へは二時間もかからない。
平日深夜の高速は、拍子抜けする程ガラガラだった。
ハンドルを握る手が汗ばむ。
窓を開けていても、風のかわりにじわっとした熱気が入ってくる。
だが、手が汗ばむのはこの暑さだけが理由ではない。
私は怖かった。
どうしてなのかわからないが、言い知れぬ不安の波が私を飲み込んでいた。
あれから、もうどのくらい経つのだろう……。
彼との……。
「王子様」との出会いは……。
確か私がまだ小学校低学年だった頃だから、十二、三年程だろうか……。
あの頃の私は、母さんにしてもらったおさげをゆらし、大好きだったピンクの洋服を着て、いつも自転車で遠出していた。
誕生日に買ってもらった赤い自転車に乗って……。
あの頃の私は気が弱く、人見知りが激しい子だった。
まあ今の私も、社会に出てから多少世渡りは上手くはなったものの、人付き合いは好きではないが。
あの本の内容は、ほぼ忠実にあの頃の私の生活をトレースしている。
ただ、私の記憶からは「王子様」との思い出だけが、落丁のように抜けていたのだが。
あの頃から見ると、私はずいぶん変わってしまった。
もちろん、十年以上の歳月を経ているのだから当たり前かもしれない。
だがそれだけではなく、髪型や服装、好きな食べ物、周りの環境などだけではなく、何かが、何かが変わった……。
『失われてしまった』と言い換えた方が、適切だろうか。
とにかく、あの頃の『私』と今の『私』は、何かが違ってしまっていることは、間違いないのだろう。
それがあの夏の出来事と、関係あるのかは私にはわからない。
大体、私は何をするためにこうして走っているのだろう。
今更、あの「お城」に行ったところで何になるのだ。
でも、私はこうして深夜の高速で愛車を転がしている。
私の中の何かが、私を突き動かしていた。
陽気なラジオのDJが告げた、気温は二十八度。
暑いはずなのに私の体は、震えていた。
ハンドルを握るのも、やっとな程に。
頭がいたい。
私の体全体が、拒否反応を起こしているようだ。
口の中が、カラカラに乾いて少し吐き気もする。
それでも行かなければならない。
そうだ。
私は行かなければならない。
あの場所へ……。
もうこんな不安な思いなんて沢山だ。
全てを知ってすっきりしたい。
そうしないと、私は新しい一歩が踏み出せない。
そんな気がした。
*
高速から降りると、すっかり辺りは明かりを失う。
この辺りは、バブルの崩壊を受けて開発計画が頓挫したため、手付かずの状態だった。
都心からちょっと離れれば、まだこんなにも自然が溢れているのである。
だが今はそんな森林たちのざわめきも、闇の羽音のように聞こえて気味が悪いだけだ。
どんどん、対向車も後列車もいない旧道を突っ切っていく。
ただ、静かな夜。
ラジオからはその能天気なDJのおしゃべりさえも消え、今はただの砂嵐のようなノイズを受信するだけ。
木々の隙間から覗く広い校庭の奥に、かつて通った小学校がぼんやりと見える。
もう少しだ。
もう少しで、あの森に着く。
私はハンドルを握り直した。
私は、慌ててブレーキを踏んだ。
この辺りだ。
間違いない。
この辺りに、あの屋敷へ行く為の道が延びているはず。
その道が唯一、あの家へ行く手段なのだ。
やっぱり、引き返そうか。
いや。
私は行かなくてはならない。
たった今、そう決めたばかりではないか。
ここで曲げてしまっては、また私は苦しまなくてはならない。
行くんだ。
進むのだ。
もう、逃げてはいけない。
あの日、あの時、何があったのか。
私の失われた記憶を、取り戻す為に……。
*
細い獣道を進む。
とてもこの先に、人家があるとは思えない。
あの頃に比べて、随分雑草が増えたようだ。
タイヤが泥濘にはまり、何度も往生した。
頼りない軽四だったことが、悔やまれる。
悪路との戦いの末に、視界に飛び込んできたのは大いなる影。
着いた。
着いてしまった。
私の目の前には、あの「お城」が、そびえていた。
夜の闇に閉ざされたその建物は、私を待っていたかのように静かに佇んでいた。
ここに私の失われた記憶が。
ここに、彼が……。
心臓が飛び出しそうなほどに高鳴る。
呼吸が荒くなる。
微かに眩暈がした。
しっかりするんだ……。
もう逃げられない。
逃げたくない。
行くんだ。
そう決意し「お城」への歩みを進める私を、月が静かに見下ろしていた。
*
重い門を潜り抜け、敷地内に入る。
乾いた小石が足元で弾けた。
あの頃のままの大きなドア。
月明かりで浮かび上がる細かな細工。
深呼吸を一つ。
ベルに手を掛けると、懐かしい音が響いた。
だが、彼の気配はない。
ドアノブを回してみた。
ドアはあっさりと開いた。
こんなにも暑いのに、室内からはひんやりとした空気が漂ってくる。
また深呼吸をして踏み込んだ。
微かな月明かりに照らされたリビングは、あの頃と何一つ変わっていなかった。
ただ、こんもりと降り積もった埃が時の移り変わりを感じさせる。
やっと探り当てた電気のスイッチも、全く役立たずであった。
彼はもうここには住んでいないのだろうか?
あの頃も生活感を感じさせなかった室内だが、今の様子ではとても人が住んでいる場所とは思えない。
引っ越してしまったのだろうか。
だが、不思議なことに家具や調度品はそのままだった。
これはどういうことなのだろう。
私は蜘蛛の巣を払いながら、キッチンを目指した。
私の記憶はあの久しぶりにこの「お城」を訪ねた時から、いきなり翌朝の朝食時まで飛んでいた。
まるで落丁した絵本のように。
そして、その時から裏庭の薔薇が恐ろしいものに思えてならなくなったのだった。
やはり、あの空白の記憶に何かが……?
キッチンを横切り、奥へ続く廊下を目指す。
気がつくと、外が少し白い。
そろそろ夜明けのようだった。
外の微かな光に助けられながら(だいぶ、目が慣れてきたせいもあるのだろう。)ゆっくりと廊下を進んだ。
あの日と同じように、いくつものドアを通り過ぎ、ただ一心にあの部屋へと向かう。
一番奥の部屋。
彼がのいたはずの部屋。
私の記憶が途切れた部屋。
ここに、すべてが……。
失われたすべてが、ある。
そのドアが目の前だった。
手を伸ばせば触れられる位置に、それはあった。
だが、私の中の何かがドアノブに伸びる手を制止していた。
どうしてこんなにも不安なのだろう。
このドアの向こうには何があるのだろうか?
このドアの向こうでは何があったのか?
一体何が……?
逃げない。
そう決めたではないか。
もう逃げない。
そう。
背後の窓からは、もう朝の光が微かに差し込んでいた。
もうどれくらいの間、躊躇していたのだろう。
私はついにドアを開けた。
突然、私の目は眩い光に閉ざされた。
朝の日差しが、すべてこの部屋に集まってしまっているようだった。
恐る恐る目を開けると、白い光を背に窓辺に誰かが座っていた。
窓の外を眺めているようだ。
「王子様」かと思ったが、どうやら違うようだ。
背丈がぜんぜん違う。
私よりも小柄な感じだ。
長い髪にフレアスカート。
シルエットから推測すると、女の人らしかった。
突然の闖入者にも関わらず、彼女は微動だにせずにそこに静かに座っていた。
私は何か声をかけようとした。
一歩部屋に踏み出す。
その時、私の足元に何かが引っかかった。
床に視線を下ろした、私の目には。
これは、どういうことなのだ?
私は、思わず叫びそうになった。
この本に書かれているのは紛れも無く、私自身の幼少時代のことであったから。
しかも、間違いなく欠落していたあの部分のものに違いない。
ということは、あの夢の中の青年は「王子様」だということなのか。
どうして、こんな本が……?
はっと気が付いて、私は起き上がると、正面にかけられた絵に目を移した。
布団を跳ね上げ、絵に駆け寄る。
夢中で絵を降ろすと、何かにとりつかれたように震える手で、額の裏蓋を外した。
そこには、拙い字で「5ねん3くみ ゆきの かりん」とあった。
私は、身体が芯まで冷えていくのを感じた。
これは紛れもなく私が描いた絵だ。
当時、夏休みの課題として写生画を提出した時のものだ。
この絵は学校の写生コンクールで、金賞を受賞した。
両親はとても喜んでくれ、お祝いとしてレストランで食事をしたのだ。
だが、その絵はいつの間にやら私の元から消えていた。
きちんと額縁に入れて、あんなに大切にしていたのに……。
どうして、それがあの画廊に?
いや、そもそもこの絵をあの画廊で見かけた時に、どうしてすぐに思い出さなかったのだろう。
思い出せなかったのだろう。
あの頃の、ささやかだけど大切な思い出だったはずなのに……。
柔和な笑みを浮かべた、精神科医の顔が浮かぶ。
『脳というのは、正直なものでしてね。自分が、思い出すことを拒否すると、そのまま、忘れてしまうものなのですよ。』
忘れたい?
私はそう思ったの?
なぜ?
あの「お城」に関係があるから?
それなら、尚更わからない。
あの思い出は……「王子様」との思い出は、私にとって大切なものであったはずなのに。
それなのに、なぜ?
その答えが記されているであろう、この本の続きのページは、私の記憶そのもののように白紙であった。
この後、何があったの?
一体、何が……?
私はいてもたってもいられなかった。
この不安は何なのか。
まるで、どす黒いインキが心の中を侵食していくようだ。
どんどん身体が体温を失っていく。
このままにして置く訳にはいかない。
私はジーパンとTシャツにジャンパーを羽織ると、テーブルの上の車のキーを掴んで、部屋を飛び出した。
*
高速に乗れば、あの街へは二時間もかからない。
平日深夜の高速は、拍子抜けする程ガラガラだった。
ハンドルを握る手が汗ばむ。
窓を開けていても、風のかわりにじわっとした熱気が入ってくる。
だが、手が汗ばむのはこの暑さだけが理由ではない。
私は怖かった。
どうしてなのかわからないが、言い知れぬ不安の波が私を飲み込んでいた。
あれから、もうどのくらい経つのだろう……。
彼との……。
「王子様」との出会いは……。
確か私がまだ小学校低学年だった頃だから、十二、三年程だろうか……。
あの頃の私は、母さんにしてもらったおさげをゆらし、大好きだったピンクの洋服を着て、いつも自転車で遠出していた。
誕生日に買ってもらった赤い自転車に乗って……。
あの頃の私は気が弱く、人見知りが激しい子だった。
まあ今の私も、社会に出てから多少世渡りは上手くはなったものの、人付き合いは好きではないが。
あの本の内容は、ほぼ忠実にあの頃の私の生活をトレースしている。
ただ、私の記憶からは「王子様」との思い出だけが、落丁のように抜けていたのだが。
あの頃から見ると、私はずいぶん変わってしまった。
もちろん、十年以上の歳月を経ているのだから当たり前かもしれない。
だがそれだけではなく、髪型や服装、好きな食べ物、周りの環境などだけではなく、何かが、何かが変わった……。
『失われてしまった』と言い換えた方が、適切だろうか。
とにかく、あの頃の『私』と今の『私』は、何かが違ってしまっていることは、間違いないのだろう。
それがあの夏の出来事と、関係あるのかは私にはわからない。
大体、私は何をするためにこうして走っているのだろう。
今更、あの「お城」に行ったところで何になるのだ。
でも、私はこうして深夜の高速で愛車を転がしている。
私の中の何かが、私を突き動かしていた。
陽気なラジオのDJが告げた、気温は二十八度。
暑いはずなのに私の体は、震えていた。
ハンドルを握るのも、やっとな程に。
頭がいたい。
私の体全体が、拒否反応を起こしているようだ。
口の中が、カラカラに乾いて少し吐き気もする。
それでも行かなければならない。
そうだ。
私は行かなければならない。
あの場所へ……。
もうこんな不安な思いなんて沢山だ。
全てを知ってすっきりしたい。
そうしないと、私は新しい一歩が踏み出せない。
そんな気がした。
*
高速から降りると、すっかり辺りは明かりを失う。
この辺りは、バブルの崩壊を受けて開発計画が頓挫したため、手付かずの状態だった。
都心からちょっと離れれば、まだこんなにも自然が溢れているのである。
だが今はそんな森林たちのざわめきも、闇の羽音のように聞こえて気味が悪いだけだ。
どんどん、対向車も後列車もいない旧道を突っ切っていく。
ただ、静かな夜。
ラジオからはその能天気なDJのおしゃべりさえも消え、今はただの砂嵐のようなノイズを受信するだけ。
木々の隙間から覗く広い校庭の奥に、かつて通った小学校がぼんやりと見える。
もう少しだ。
もう少しで、あの森に着く。
私はハンドルを握り直した。
私は、慌ててブレーキを踏んだ。
この辺りだ。
間違いない。
この辺りに、あの屋敷へ行く為の道が延びているはず。
その道が唯一、あの家へ行く手段なのだ。
やっぱり、引き返そうか。
いや。
私は行かなくてはならない。
たった今、そう決めたばかりではないか。
ここで曲げてしまっては、また私は苦しまなくてはならない。
行くんだ。
進むのだ。
もう、逃げてはいけない。
あの日、あの時、何があったのか。
私の失われた記憶を、取り戻す為に……。
*
細い獣道を進む。
とてもこの先に、人家があるとは思えない。
あの頃に比べて、随分雑草が増えたようだ。
タイヤが泥濘にはまり、何度も往生した。
頼りない軽四だったことが、悔やまれる。
悪路との戦いの末に、視界に飛び込んできたのは大いなる影。
着いた。
着いてしまった。
私の目の前には、あの「お城」が、そびえていた。
夜の闇に閉ざされたその建物は、私を待っていたかのように静かに佇んでいた。
ここに私の失われた記憶が。
ここに、彼が……。
心臓が飛び出しそうなほどに高鳴る。
呼吸が荒くなる。
微かに眩暈がした。
しっかりするんだ……。
もう逃げられない。
逃げたくない。
行くんだ。
そう決意し「お城」への歩みを進める私を、月が静かに見下ろしていた。
*
重い門を潜り抜け、敷地内に入る。
乾いた小石が足元で弾けた。
あの頃のままの大きなドア。
月明かりで浮かび上がる細かな細工。
深呼吸を一つ。
ベルに手を掛けると、懐かしい音が響いた。
だが、彼の気配はない。
ドアノブを回してみた。
ドアはあっさりと開いた。
こんなにも暑いのに、室内からはひんやりとした空気が漂ってくる。
また深呼吸をして踏み込んだ。
微かな月明かりに照らされたリビングは、あの頃と何一つ変わっていなかった。
ただ、こんもりと降り積もった埃が時の移り変わりを感じさせる。
やっと探り当てた電気のスイッチも、全く役立たずであった。
彼はもうここには住んでいないのだろうか?
あの頃も生活感を感じさせなかった室内だが、今の様子ではとても人が住んでいる場所とは思えない。
引っ越してしまったのだろうか。
だが、不思議なことに家具や調度品はそのままだった。
これはどういうことなのだろう。
私は蜘蛛の巣を払いながら、キッチンを目指した。
私の記憶はあの久しぶりにこの「お城」を訪ねた時から、いきなり翌朝の朝食時まで飛んでいた。
まるで落丁した絵本のように。
そして、その時から裏庭の薔薇が恐ろしいものに思えてならなくなったのだった。
やはり、あの空白の記憶に何かが……?
キッチンを横切り、奥へ続く廊下を目指す。
気がつくと、外が少し白い。
そろそろ夜明けのようだった。
外の微かな光に助けられながら(だいぶ、目が慣れてきたせいもあるのだろう。)ゆっくりと廊下を進んだ。
あの日と同じように、いくつものドアを通り過ぎ、ただ一心にあの部屋へと向かう。
一番奥の部屋。
彼がのいたはずの部屋。
私の記憶が途切れた部屋。
ここに、すべてが……。
失われたすべてが、ある。
そのドアが目の前だった。
手を伸ばせば触れられる位置に、それはあった。
だが、私の中の何かがドアノブに伸びる手を制止していた。
どうしてこんなにも不安なのだろう。
このドアの向こうには何があるのだろうか?
このドアの向こうでは何があったのか?
一体何が……?
逃げない。
そう決めたではないか。
もう逃げない。
そう。
背後の窓からは、もう朝の光が微かに差し込んでいた。
もうどれくらいの間、躊躇していたのだろう。
私はついにドアを開けた。
突然、私の目は眩い光に閉ざされた。
朝の日差しが、すべてこの部屋に集まってしまっているようだった。
恐る恐る目を開けると、白い光を背に窓辺に誰かが座っていた。
窓の外を眺めているようだ。
「王子様」かと思ったが、どうやら違うようだ。
背丈がぜんぜん違う。
私よりも小柄な感じだ。
長い髪にフレアスカート。
シルエットから推測すると、女の人らしかった。
突然の闖入者にも関わらず、彼女は微動だにせずにそこに静かに座っていた。
私は何か声をかけようとした。
一歩部屋に踏み出す。
その時、私の足元に何かが引っかかった。
床に視線を下ろした、私の目には。
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