箱庭魔女の魔王奮戦記

遮具真

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進軍、討伐部隊

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 ウィルを含めた討伐軍がエンギルへ向けて進行を開始した。目的は言うまでもなく、魔王の討伐である。
 人族が15万、魔族が7万、その他3万…総勢25万もの大軍勢。ホント、短い期間でよくこんなに集めたよねぇ。
 ……さて、いよいよ第二幕の始まり。
 そこで、みんなを集めて今一度計画の確認をしておこうと思ったんだけど…。
『…それでウィルがさぁ』
『あなた…あの子の事、少し甘やかし過ぎじゃない』
『でも、やる事はちゃんとやってる訳し…少しくらいなら、いいんじゃない?』
『そうそう』
『そういう事だと将来的に…』
『最近、ミランダ厳しくない?』
『またアルベルトにからかわれたのよ』
『あ~そっかぁ』
『む…大体、あなたたちは私の苦労を…』
『私だって苦労してるよ~』
『あなたは女王の肩に乗ってるだけじゃない。』
『ええ~~!!』
 ワイワイガヤガヤ♪
「………」
 ……単なるお茶会みたくなってるし…。
「「「………」」」
 精霊騎士のみんなも『我、関せず』みたいな感じでスルーしてるし…。
「エブリンちゃぁぁん♡」
「はいはい♡」
 チャラ男二号は相変わらずだし…。
「……あなたたち、やる気あるの?」
『『『『………』』』』
「………」
『……だって、私たちはする事ないし…』
『そうそう』
『状況を見守るぐらいだし…』
『そうそう』
「………」
 ……いや、それはわかるけど…だったら。
「何で来たの?」
『それは勿論♪』
『『『『エブリンのお菓子を食べに♡』』』』
「ありがとうございます♡」
「………」
 ……おまえら…ホントにお茶しに来たんかい…。
『…大体、日頃の仕事がきつ過ぎるのよ!!』
『そうそう』
『あなたは女王のマスコットしてるだけじゃない!!』
『ええ~~!!』
『私なんか…毎日毎日、あのクソベルトの相手しなきゃなんないのよ!』
『う~ん…それはキツイ』
『わかるわ…』
「………」
 ……まあ、わからん訳でもないけど…。クソベルトはちょっとひどくね?
「……てか、今日は一緒じゃないのね」
『そんなに毎度毎度一緒に行動してたら怪しまれるじゃない…てゆーか、できてるとか思われたらどうしてくれんの!』
「できてんの?」
『できてない!絶対ない!』
『そこまで強調しなくても…』
『リア充のあなたに私の苦労はわからないわ!!』
『そうなの?』
『マスコットのあなたは特にわからないでしょうね!』
『ええ~~?!』
『まあまあ…落ち着いてミランダ…』
『絶対!絶対!イヤァァ~~担当替えてぇ~!!』
「……またなの」
 ……ホント、最近ミランダの愚痴が激しい…。
『またって何よ!またって……ヒドイ、お母様は私の事嫌いなのね…クスン』
「……泣くな」
 ……てか、すっかり母親扱いになってるぞ…私。
『大丈夫よ、ミランダ…私たちがついてるわ』
『うんうん…』
『そうそう』
「………」
 ……で、最後はこのパターン。マンネリ化してね?
 もう、分身たちは放っておこう。
 コホン!!
 咳払いを一つして、精霊騎士のみんなと向き合う。
「……さて、改めて計画の確認をするわね」
「うむ」
「「オッケー♪」」
「エブリンちゃぁぁん♡」
「……話を聞け、チャラ男二号…」
 テーブルの上に立体映像を映し出すと、そこに魔王の地下迷宮と現時点での討伐軍の位置を表示する。
 ……そして。
「これが討伐軍の進行ルート」
「ほほう、二手に別れるのだな」
 そう、討伐軍は西と東に別れて進軍して来る。でもって、東が本隊。
「てか、こっちに筒抜けじゃ意味ないでしょう?」
「そうね、可哀想に…茶番劇につき合わされて」
「…で、本隊はバンドル山脈の外れを通る予定。ここは死火山だけど…。ギデラムの為に噴火させちゃいます」
 てか、チャラ男二号は山火事か火山でもないと役に立たないから…。
「……とんでもない事をしれっと言うわね」
「死火山が噴火したら堪んないわね」
「いいこと、ギデラム。あなたの為にお膳立てするんだから、ちゃんと時間稼ぎしてね」
「イエス、マム♡」
 ……誰がマムか…。
「その間にファルティールとエドルワンのオブジェクトを回収をお願いするわね……キャサリン、エレノア」
「オッケー♪」
「任せて♡」
「それとリディア…」
『……大丈夫、エルマンクンム王なら大人しくしてるわ』
「それじゃ…そっちはロアンナを送るから」
『『『『……え?!』』』』
 ……ん?
 なんか、娘たちが一斉に驚いた顔して、こっち見たぞ…。
『……あの子も起こすの?!』
「……当然でしょう」
 ……他に分身はいないんだから…それに。
「せっかく造ったのに…休ませておくのはもったいないじゃない」
『……ウソ、あんなの起こして役に立つの??』
 ……何言ってんの…。
「性能的にみても一番優秀じゃない」
『性能うんぬんじゃないのよ!!』
『ウソでしょう?!』
『お母様は起こすつもりよ!』
『…マジ!!』
「………」
 ……何、その反応は…。ロアンナだって、あなたたちと同じ分身なのに。
 まあ、確かに特殊個体ではあるけど…。
「「………」」
「なんか、あなたの娘たちがざわついてるけど…」
「……ロアンナって何者?」
「……バンパイア」
「「……は?!」」
「ちょっと待って…バンパイアって…」
「…あのバンパイア??」
「あのが何のかは知らないけど…ウチのバンパイアは吸血鬼の事よ」
「「ええ~~!」」
「何でそんなモノまでこしらえたの??」
「……なんとなく。資料が見つかったから…」
「「……ええ~~?!」」
 ……何でそんなに驚くかな…。バンパイアだよ…それこそ魔王と同じくらい、みんな知ってるし…。
 しかも、こっちはちゃんと実在してたんだよ…。今は何故か存在してないんだけどね。
 ……まあ、いいわ。
「さて、おじ様には一足早く、オーゲル海のオブジェクトを回収してもらうわ」
「ほぉ、見つかったのですかな?」
「ええ、三日前にね…」
「と言う訳で…マスコットも随行!!」
『…マスコット!!』
「何であれだけ先に回収するの?」
「最初のやつだから??」
「それもあるんだけど……少し問題があるのよ。アレは…」
「……問題?」
「何だか嫌な予感がするわね…あなたが問題なんて言うと…」
「まだ、不確かな情報なんだけど…。これが確定なら大きく計画を見直す必要が出てくるわ」
「そんなに?!」
「ええ、そうよ」
 ……とっても重大な問題なの。

 ※

 娘たちを引き連れて、ロアンナを起動…いや、起こしにいく。
『ねぇ…お母様。やっぱり、止めにしない?』
『そうそう』
『あの子、絶対何かやらかすから…』
『そうそう』
『……私のところに来るの…??』
『ほら、リディアが泣きそう…』
『そうそう』
「………」
 ……全く。
「一番優秀な子を休ませてどうすんの…」
『だから…優秀うんぬんじゃないんだって!!』
「……はい、却下」
『『『『ええ~~?!』』』』
 ロアンナの保管場所に着いた。特別仕様の棺に入ってる。
『大体…何で棺なの?』
「……いや、伝承ではバンパイアはそういうものだから」
 ……実際は違うんだけど、なんとなくのりで棺型の保管容器にした。
『やっぱり、お母様は変よ!!』
『そうそう』
「………」
 何ですぐにそういう方向になるかな…後、マスコット!
「あなた、さっきから『そうそう』しか言ってない。だから、マスコット扱いされるのよ」
『ええ~~?!』
 ……ええ~?!…じゃない。
「さて、起こすわよ」
『『『『ええ~~~~?!』』』』
「………」
 ……だから、ええ~?!…じゃない。ホントにもう…。
「ロアンナ起動」
『きゃあぁぁ!!』
『いやぁぁぁ!!』
『…終わった』
『そうそう』
 ………何を…世界の終わりでも来たみたく…。
 ロアンナがゆっくりと目を開ける。
 外見はごくごくフツーの人間……ただ、瞳だけが異様に赤く蛍光色。ちょっとカッコいい感じ。
『………』
 私と娘たちをジッと見つめるロアンナ。
「………」
『『『『………』』』』
「おはよう、ロアンナ。気分はどう?」
『…………おはよう…ございます……ヒルダ…お母…様』
 ちょっとたどたどしい…かな。
 まあ、しょうがない…今は昼間だし…。
 バンパイアという存在は夜行性だ。昼間は寝てる…てか、身体機能が低下するのだ。
 ちなみに、伝承みたく日光に当たったからといって灰になったりはしない。
 ただ、昼間はかったるい…以前使ってたからわかるんだけど。メチャメチャかったるい…。
 にしても…いきなり『お母様』か…。リビアーネの時といい…やっぱり、分身の自我は成長してる。それは眠っていても変わらないみたい…。
 まあ、いいわ…些事だし。
「ゴメンね、昼間に起こして」
『大丈夫…です……お母様…ちょっとだるいだけ…だから』
 そう言って、他の娘たちの方を見ると。
『お姉様…たちも…』
『『『『………』』』』
「身体の具合はどお?」
『………』
 ちょっと、自分の手をにぎにぎして…。
『大丈夫…』
 そう、言うと。
 電光石火で移動、オフェリアの前に立った。
『ひゃあ…!!』
「………」
 ……どうやら、身体機能は正常らしい。
 他の分身体とは明らか違う運動能力…これがバンパイアの特徴の一つ。
 ……もう一つは。
『お腹が空きました…オフェリアお姉様♡』
『何で私のところに来るのぉ??』
『だって…お姉様が一番美味しそうだから…』
 そう言うと…。
 カプッ♡
 もう首筋にかぶりついてた。
『いやぁ~♡』
「………」
 ……その割りにはちょっと嬉しそうな感じ。
 チュウチュウ…。
 血を吸ってる…。
 まあ、これがもう一つの特徴……てか、吸血鬼の言葉の由来。吸血鬼は生き物の生気を吸い取って糧にしている。
 別にわざわざ血を吸わなくても、生命エネルギーは吸い取れるんだけど…。
 本人はこのスタイルがいいらしい……ここら辺はよくわからない。
 ちなみに、生命エネルギーは何でも構わない。てか、エネルギーなら何でもいい。つまりは人間でなくていい訳なんだけど…人間が好みのようだ。
「……まあ、いいわ。別に大した事ではないし…」
『大した事だから!スッゴク大した事だからぁぁ!!』
『…うわぁ…』
「……ちゃんと後で体力回復してあげるから」
『そういう問題じゃ…ひゃぁぁ♡』
「………」
 ……やっぱり。
「嬉しそうに見える……のは私だけ??」
『『『『お母様だけです!!』』』』
 ……なんかハモられた。
 ………。
『ぷはぁ♡』
「うん、ロアンナが元気になった♪」
『……私は…シオシオ…』
『『『……うわぁ…』』』
「はい、回復♪」
『おお…♪』
 即座に回復したから…もう大丈夫♪
『……大丈夫?』
『……ダメかもしんない…』
 ……え?ダメなの。
「……もういっぺん、回復する?」
『そうじゃなくって!!』
 ……じゃ、何なの?……ホント、よくわかんないな…。
『お母様にはデリカシーが足りないのよ!』
「………」
 ……なんて、失礼な…。私だってデリカシーくらい…。
 …………デリカシーって、何だっけ??
「……まあ、いいわ」
『『『『よくない!!』』』』
 ……何でハモるかな?
「さて、ロアンナ。やる事はわかっているわね」
『……はい、リディアお姉様のお手伝いをするのですね』
『あ、シカトした…』
『お母様ヒドイ!!』
『そうそう』
「………うっさいわね。些事は後回し」
『『『『些事…?!』』』』
「……ええと」
 ……何処まで話たっけ?…ハモられまくって忘れちゃったじゃない。
『…リディアお姉様のお手伝いのところ』
 ああ…ありがとう、ロアンナ♡
「そう、あそこは色々とめんどくさい所だから…手早くお願いね」
『わかりました』
 そう言うと、リディアの方を向いて笑顔で。
『よろしくね、リディアお姉様♡』
『ヒィ…』
「………」
 ……何でヒィ…なの?
 ……せっかくロアンナが笑顔を見せたのに、姉妹なんだから仲良くしなさい。
「……全く」
『……大丈夫です、お母様。私はお母様に近いから…そういうの気にしません』
「……そお?」
『『『『ちょっとは気にしなさいよ!』』』』
 ……いや、ハモるのはもういいから…。
「ああ、それから…念の為、おじ様にも同行して」
『わかりました』
『ええ~~~~一緒に来んのぉぉ?!』
『よろしく、マスコットお姉様♡』
『……マスコット!!』

 ※

 進軍を始めて7日、バンドル山脈が見えてきた。
 3日前、アビソエルの森を抜けたと別動隊から連絡があった。ここまでは至って順調…。
 この山脈の先がエンギル台地……今や魔王の領域だ。
 とはいえ、現在進軍中のこの森もかなりのものだ。
 今まで三度も魔獣の群れの襲撃を受けた。こんな棲息密度が高い森ではなかったはず…。
 やはり、魔王が関係して…。
「…?!」
 左右から多数の魔力反応が…。今まで一番の大群だ。
「全部隊、戦闘準備!」
「「「了解!!」」」
「戦闘準備!」
「戦闘準備!」
「急げ!!」
 私の号令に各諸将とその配下が一斉に武器を構える。
 現れたのはレクロコッタの大群だった。熊のごとき体躯と狼のような姿の魔獣だ。狼とは違って大トカゲのような尾がついている。アゴの強さと強靭な尾の一撃が厄介なランクAの魔獣だ。
「…?!」
 しかも、それだけではない。さらに、その倍は有ろうかという巨大な影が…。
「…マ…マンチコアだ…!!」
 何という事だ……特Aランクの魔獣のまで一緒にいるなど…。
「…あり得ない」
 さらに、マンチコアの反応は後方にも…。
 まずいぞ…。あのクラスになると魔族の一軍でも相手をするのはギリギリだ…。人族の軍勢では、ひとたまりもない…!!
「行け!グライアッド。…ここは余に任せよ!」
 陛下が魔剣ザードルを構えて、マンチコアの前に立ちはだかった。
「援護は儂がする。早よう後方に…」
 素早く、老師が陛下の後ろにつく。
「承知!!」
 すぐ様、配下の数名を引き連れ後方へ…人族のもとへ向かう。
 途中で会ったオブロック公とレクマティアにも同行を促す。
「…マンチコアだって?!」
「うむ、陛下であれば心配はあるまい…。モーブレフもついているのであれば…なおさらだ。それより人族の軍勢が…」
「急ぐぞ!!」
「おう!」
「おうさ!!」
 後方は大混乱の様相だ…無理もない…。マンチコアなぞ、戦った事はおろか…見た事もないだろうからな。
 何人かの兵士が軽々と吹き飛ばされて宙を舞う。
 逃げ惑う兵士。
 武器を構えながらも固まって動けない兵士。
 そして、勇敢にも立ち向かう兵士。
 だが、その全てが同じように吹き飛ばされてゆく。
「……まずい!!」
 これ以上死傷者が出ては…全軍の指揮に関わる。
「…くそ、こら…どけよ…おまえら…」
 次々と襲いかかって来るレクロコッタ。
 それらを薙ぎ倒し、逃げ惑う兵士をかき分け進む。
「これでは前に進めんぞ!!」
 だが、一向にマンチコアに近づけない。
「くそ…このままでは」
 その時、電光石火のごとくマンチコアの前に現れた兵士が…。
「…?!」
「…何んだと?!」
「…速!!」
 剣を構えたかと思うと、一瞬でマンチコアの首を斬り飛ばした。
「「「「………」」」」
 あまりの速さに誰もが言葉を失った。
「「「「おお~~~~!!」」」」
 続く大歓声。
「……誰だい…あいつ。人族みたいだけど…」
「……うむ、実に見事な手際だ…」
「……あれは」
 人族で、あれほどの実力の持ち主は限られる…。私の知る限り二人しか居ない。
 一人は大剣豪として知られるシンメン。だが、彼の顔はオブロック公が知っている。
 ……となると。
「ミディール公だ!」
「おお、ミディール公爵!」
「スゲー、さすがミディール公爵!!」
「………」
 ……やはり、間違いない。
「……ミディール…?!」
 オブロック公も気づいたようだ、彼が誰なのか。
「知ってんのか、叔父貴?」
 そう、彼は件の魔女の実弟…。
 ここで我々に気づいて…いや、最初から気づいていたか。
 こちらへやって来ると頭を下げ。
「…ご助力感謝致します」
 そう、礼を述べた。
 本当に情報通り礼儀正しい好青年だな。
「…要らぬ、お世話だったかな?」
 思わず、そんな返答させてしまうほどの腕前だ。
「いえ、そんな事はありません。どんなに腕が立とうと複数を同時には守れはしませんよ」
 確かに、一人で出来る事には限りがある…。だが、この若さでおごらないとは大したものだ。
 だが、続く言葉は我々を大いに驚かせた。
「……姉上でもなければ」
「「「?!」」」
「ほぉ…確か、貴殿の姉君は迷いの森に住まう魔女と聞き及んでいるが…。そんなにも優れた魔法使いなのかね?」
「姉上をご存知とは…光栄です。…おっと、僕とした事が自己紹介がまだでしたね」
 そう言うと改めて一礼をして。
「ウィルマス・ディオル・ミディールです」
「儂は十士族のマイストン・ジュール・オブロックだ」
「同じく、マラストル・クォラディア・グライアッド」
「レクマティア・アーティル。…あ、アタシも十士族、よろしくね」
「レクマ…」
「いいじゃん、叔父貴は堅いって」
「お名前はかねてより聞き及んでおります。お会い出来て光栄です」
「うむ。おまえも少しは見習え…」
「ええ~…」
「…全く」
 ………。
「先ほどのお話の続きなのですが…。実は僕の師匠は姉上なのです」
「……何?!」
「この剣技も姉上から学びました」
 これは驚きの発言だ…。
「君の姉君は魔法使いではなかったのか?」
「姉上は武にも優れていますよ。お恥ずかしながら、今まで一度も勝てた試しがありません…。まだまだ、足元にも及びません…」
「…なんと?!」
「スゲーな、あんたの姉貴は…。ミランダの姉さんとどっちが強いかな…」
「………」
 驚いたな…。彼は公明正大な人柄と聞く、実際に会ってみて、そう実感させられる人物だ。
 その彼をして、足元にも及ばないとまで言わしめるとは…。
 迷いの森の魔女とは……一体どれほどの存在なのか。



 ようやく、森を抜けバンドル山脈のふもとにたどり着いた。
 ミディール公の活躍もあって被害は最小限に食い止められた。負傷者は何名か出たが…死者が出なかったのは不幸中の幸いと言えよう。
「……数だけは多いな」
 野営している討伐軍を見渡し、そう洩らす陛下。
「数も力です…」
「……それはわかっておる。余とて、人族の全てが無能と思うてはおらぬ…だが」
 陛下が見つめる先には……配下の者らを叱りつける人族の貴族の姿が…。この遠征中、やたらと悪目立ちしていた男だ。
 先のマンチコアの襲撃に際しても真っ先に逃げ出していた。
「血筋も大切ではあるが…。それだけではな…」
「………」
 確かに、人間の王公貴族は血筋のみを尊ぶ者が多い。魔族のように能力を優先する訳ではない…。
 特にあの男は無能ぶりをアピールしまくっていた。自分では何もせず、全てを部下任せ…。それでいて、何か気にさわる事があれば喚き立てる。
 おまけに有事には真っ先に逃げ出すとは…。
「あのような者が…何故、戦場に出向いて来るのだ。戦意が下がる一方ではないか」
「……確かに」
 まだ、戦すら始まってはいない…なのに、あの体たらく。先が思いやられる…。
「むしろ、人心を掌握しいるのは配下の諸将らではないか…」
「仰りたい事はわかりますが…。今は…」
「……そうだな。……まあ、無能なりにも旗印くらいは務めて欲しいものだ」
 そう言い放つと何とも納得しかねる様子で天幕に戻っていかれた。
「………ふう」
「……気苦労が絶えぬようじゃな、グライアッド」
「これは老師…」
「まあ、陛下の言にも一理ある…。あれを含め、無能と言われても仕方のない連中が人族には多過ぎる…」
「………」
 本当に……無能な主につき従うなど、魔族ではあり得ない。
 実に醜悪で見るに耐えない茶番を繰り返して。
 この辺りが人間を下に見る理由なのだが…。
 そこへ、一人の男が…。
 かのミディール公だ。
「ほぉ…また、来おったぞ。あの男…」
 騒ぎの中に割って入ると……穏やかに正論で無能者をたしなめる。立場的にも対等なのだろう…いまいましい表情を浮かべながらも自らの天幕へと戻っていく貴族。
「ほっほっほっ…相変わらず見事じゃな」
「本当に」
 この遠征中、今まで大事に至らなかったのは彼のお陰と言っていい。このような下らない騒ぎが起こる度、鎮めてきたのだ。実に公平無私な男で情にも厚く、人族の人望高い。
 それにしても…。
「人族、は思えぬほどの魔力じゃな…」
「……そうですね」
 彼の魔力の大きさは人族の中では圧倒的だ…。我ら十士族に比肩するほどの。
 ここら辺も、あの無能者が引き下がった理由か…。いや、人族の多くは魔力を感知出来ない。
 むしろ、その実力を知ってが故に引き下がったというところだろう。
 あの実力を見せつけられては…。いや、あいつは逃げ回っていて見ていないか。
「あれが…かの魔女の弟君とは畏れ入るのう…」
「……確かに」
 その実力は折紙つきだ。実際に目の当たりにして、そう思う。
「先のマンチコア襲撃の際…彼の実力を見せてもらいました」
「うむ…一撃で屠ったそうじゃのぉ」
「実に見事な腕前でした。マンチコアを一撃で屠るなど魔族の戦士ですら、そうそう出来る芸当ではありませんよ」
「確かにのぉ…」
 それにあれは剣技だけ腕前だった…。情報によれば魔法の腕前も剣技に勝るとも劣らないという。
 短期間で公爵の位を授かったのは並外れた実力と…あの人望があったからこそだろう。
 そして、彼の言葉を信じるならば…。
『まだまだ、姉上の足元にも及びませんよ』
 果たして、件の魔女とは……アルベルトの言によれば、人ですらないという…。
 全く…想像もつかんな。

 ※

 オーゲルに着いた。
 お母様の計らいで夜にしていただきました。
 そして、おじ様の能力で現在海の上に立っています。
 下を見通すと…巨大な物体がほとんど埋もれた状態で海底に横たわっています。あれがオブジェクト…。
『……ずいぶんと大きいのね』
「ほぉ…ここから見る事が出来るのですかな?」
『ええ、私の目は特別製だから…』
『………』
 何やら、マスコットお姉様が不安げな感じでこちらを見ています。少し不安を払拭して差し上げましょう。
『大丈夫よ、マスコットお姉様。あなたの血は吸ったりしないから』
『マスコット…!!』
『だって……一口でシオシオになってしまうもの♡』
『シオシオ…!!』
 なんだか、先ほどよりも不安げな顔になりました。おかしいですね。
「さて、始めますかな?」
 おじ様から、そう言われましたので仕事に戻りましょう。マスコットお姉様のフォローはその後で。
『ええ、お願い♡』
 海が激しく波立つと…。大渦が発生して、ゆっくりと広がっていきました。
 やがて、徐々に海底があらわになって…。さすが、おじ様。ホントはもっと速く出来るそうだけど、万全を期してゆっくりやるのだそうです。
『その辺りで結構です、おじ様。後は私が…』
「うむ、ではお任せしよう」
 右手をかざして、振動系の魔法を発動。さらに左手で重力魔法を追加。地盤を液状化させて、ゆっくりとオブジェクトを持ち上げる。
 ここまでは順調。
 キュィィーン…。
『……あら?』
 ……今、何か音がしたような…。
 ガシュン!ガシュン!ガシュン!
 物騒な音を立てて、表面に無数にある蓋のようなものが次々と開いていきました。
「これは…」
『…ヤバくね?…なんか、ヤバくね?』
『……確かに、ヤバそうな感じ』
 すると、中からヘビのように細長い金属製の物体が伸びてきて…。
『…ヤバくね??…なんか凄っごく、ヤバくね??』
 なんかクネクネと動いてます…。
『……ちょっと可愛い♡』
『やっぱり、ロアンナは変!』
『……そぉ?』
「……あれは攻撃しようとしているのでは?」
 おじ様の指摘通り、ヘビの頭みたいな部分が青く光り出して来ました。
 エネルギーレベルはかなり高いようです。お姉様がたでは太刀打ち出来ないほど……なるほど。だから、私を行かせたのですね…お母様。
 足元で一斉に光が…。
 ……でも、大丈夫…夜の私は速いから。
 空間魔法をさらにプラス、ビームをねじ曲げて、全てゲートに流し込みました。

 で、こっち側では…。
 流し込まれたビームが保管倉内を縦横無尽に。
『キャアァァ~~?!』
『ひゃあぁぁ…!!』
『ビームが…ビームがぁぁ!!』
「騒がないの」
 空間魔法で一点に集約すると、そのまま吸収と。
『死ぬかと思った…』
『私もぉぉ…』
『ええ、本当に!!』
 なんか三人でスッゴク大変そうに言って…。
「大袈裟ね…」
『お母様は変よ!絶対変!』
『その通りよ!……ついでに言うとロアンナも変!!』
『同意するわ…』
「………」
 ……またなんか、すぐにそういう方向にしたがるし…。
 てか、最近抗議が多過ぎ。
 ホント、ウチの娘たちは何でこんなに騒がしくなっちゃったの?
《回収します》
 ……オッケー♡
 以前と変わらないのはロアンナだけね。

 向こうが少し騒がしかったけど…。作戦続行という事で。
 ビームが止んだので、急降下。両手をオブジェクト表面に当てると…一気にエネルギーを吸収。
 鎌首がこっちを向いたけど…もう遅い。
 ズズズズゥン…。
 静かになりました…。ついでにお腹もいっぱいになりました。
「……なるほど、ヒルダ殿が優秀と言う訳だ…」
『ありがとう、おじ様』
『違うから…これは人外過ぎって言うのぉ…!!』
 ……完全停止を確認すると重力魔法で持ち上げて、その下に大型ゲートを作成。
 後は落っことして回収終了。
『はい♡』
 オブジェクトはゲートの向こうに消えていきました。メデタシ♪メデタシ♪

 で、再び…こっち側。
『キャアァァ~!!』
『オブジェクトが落ちて来るぅぅ~!!』
『マジ…?!』
「あの子、めんどくさがって…」
 頭上から巨大オブジェクトが降ってきた。
『いや、待って…お母様!死んじゃうから…!』
『このままだと死んじゃうから…!!』
『いやぁぁ…ラドゥエム~~!!』
「……何であなたたちはそんなに騒がしくなったの…??」
『いや、止めて!すぐ止めてぇぇ!』
『お願いぃぃ、お母様ぁぁ…』
『ごめんなさい、ラドゥエム…。もうあなたの元に帰れないかも…』
「………」
 ちょっと呆れながら、人差し指でオブジェクトを止めた。
「……ホントにもう」
 箱庭の中は私の思い通りになるって…忘れちゃったの?
『お母様ぁぁ…』
『うぇえ~ん』
『大丈夫…ラドゥエム、私はまだ生きてるから♡』
 なんか娘たちが私にすがりついて泣いてた…。
 ……ホントにあなたたち、一般化し過ぎ…。
 ………。
 さて、回収したオブジェクトを詳しく解析と…。
『ただいま、お母様』
「戻りましたぞ」
『終わった!終わった!終わったぁ!』
 三人がゲートで戻ってきた。
「ご苦労様、ロアンナ。それにおじ様とマスコットも」
『…マスコット!』
「それにしてもキズだらけですな」
 ファーストオブジェクトを見上げて、そんな感想を言うおじ様。
「確かにね…。オブジェクトを撃墜したのはおそらく、アグルの民、それもかなりの錬金工学レベルよ」
 ……それなのに、自分たちだけさっさと逃げちゃった。やっぱり結構ムカつくな。
「……それで、問題点というのはさっきのアレですかな?」
 早速、おじ様が疑問をぶつけてきた。確かにそう思うけど、あれは少しイレギュラー。
「……違うわ。問題点はここ!」
 オブジェクトの一部の映像を部分的に集めて表示する。全て破損箇所の映像。
『ああ、なるほど…』
 ロアンナはすぐに気づいた様子…さすが優秀な子。
『……この破損部分が何…??』
『確かに変な壊れ方はしてるけど…』
『ええ、まるで治りかけのキズ後みたい…』
『『『…え?!』』』
 他の娘たちも気づいた様子。
「そう、治りかけで正解」
『…ウソ?!』
『これって…自己修復機能つきなの?』
「その通りよ」
「なんと…それでは我々が破壊した二つのオブジェクトも…?」
 おじ様も驚いてる……まあ、仕方ないかもね。かなり苦戦して破壊した……と思ってたから。
「粉微塵にしない限りはね」
 1メートル四方もあれば自己修復可能みたいだし…。
「…それは…無理というもの…」
「なら、残骸も早いとこ回収しないとね」
 あ~あ、また仕事が増えた…。
 全く…一体いつになったら、ゆっくりとお茶が飲めるのかしら。
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