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熱き男たちの戦い
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ついに討伐軍がバンドル山脈に到達した。
「さて、準備はいい?」
私の呼びかけと同時に目の前に複数の映像が表示される。
……まずは封印されたオブジェクトの方。
ドワーフ鉱山、ファルティール。
『こちら、ピトリリン。準備オッケーだよ♪』
ちゃんとキャサリンとエレノアもいる……よし!
次はエドルワン、ここは湖らしいのでおじ様とカルカに担当してもらった。
『ラキだ、こっちもいいよ♡』
後ろで二人が手を振ってる、こっちもオッケーと♪
次は…エルフ領、エンマンクンムのとこだっけ?
『……ロアンナです…眠いです…』
眠そうなロアンナが……うん、がんばれ…ロアンナ。と…かなり後ろの方にリディアがいる。
いや、そんな離れなくても…。
次は破壊されたオブジェクト…おそらく、確実に再生してるはず…。
こっちも結構厄介かも。
「……オフェリア、一人だけど大丈夫?」
『大丈夫よ♡…ウィルはいないし、三賢者とかも出払ってるから♪』
……なら、問題ないか…多少派手にやっても。そもそも人間領には魔力を感知出来る者がわずかしかいない。
……で、次は。
『ちょっとぉぉ!何で私がアルベルトと一緒なの?!』
……いや、何でって…。
「……そんなの、残りのオブジェクトが魔族領の外れにあるからじゃない」
『アルベルトは嫌ぁぁ!!』
……またかい。
「……やれやれ、すっかり嫌われちゃったかな…」
そんな事を言って、チャラ男が苦笑いしてる。
……いや、おまえがつまらん事するからだろ…ちょっとは自重しろ。
次は時間稼ぎ組。てか、元々はこっちがメインのはずだったんだけど…。
「そっちもいいわね?」
「イエス、マム!!」
……チャラ男二号がそう言って敬礼してる。
「………」
……だから、誰がマムか。
「……エブリン…チャラ男二号のサポートお願いね」
ちょっと呆れつつも…エブリンにお願いしとく。
「了解でーす♪」
……で、例のごとく…その後ろで必死にソルとルナが猛アピールしてる。はいはい、わかってるって…。
「あなたたちもしっかりサポートしてね」
「「♪」」
……これで準備は万端と。ロリアーナとリビアーネは待機…。
「……てか、リビアーネ何処?」
頭の上にいるロリアーナに訊く。
『……知らなぁい、きっと何処かで迷子』
「………」
……またか。そういや、この前の回収作業の時もいなかったな…。
……あの子、何処で何やってんの…。
まあいいわ、あの子は待機組だから…。
「それじゃ…いってみようか。火山大大大大…だぁい噴火♪」
※
ウィルマスの頭は斜めに傾いていた…斜め45度くらい。
先日のマンチコア襲撃以来、傾いたままだった…。
何故ならば、あの後…十士族の一人から魔王の配下の闇メイドと呼ばれる者の写し絵を見せられたからである。
その時、ウィルマスは思った。
(これ、エブリンじゃね…??)
おかしな仮面をつけて、いつもと違う黒いメイド服を着てはいたが…それはどう見てもエブリンだった。
というより、エブリン以外の何者でもなかった。
いつも姉上のそばにいるメイド。
姉上曰く…自身の最高傑作であり、一番のお気に入り。
そんなエブリンが…魔王の配下?
………。
………。
……だとすると……魔王とは何か?
これはもう、考えるまでもなく姉上がこしらえたモノ…それ以外にあり得なかった。
「……困った」
ウィルマスは公明正大にして公平無私な人物であった。
義理人情に厚く、卑劣な輩を許さない男であった。
……しかし。
有りとあらゆる事象の上に《姉上》が存在する人物でもあった…。
ぶっちゃけ、姉が世界を征服したいと言えば、たしなめるどころか助力を惜しまない……そんな男であった。
(……あの時、姉上が僕の出陣に猛反対したのには…そんな裏の事情が…)
ウィルマスは頭を傾けたまま、思案にくれていた…。
(……どうしよう)
…と。
尊敬する姉上。愛して止まない姉上。世界一大切な姉上。
その姉上の前に自分が立ちはだかってしまった。
今、ウィルマスはその人生史上最大のピンチを迎えていた…。
そんなウィルマスの苦悩を知ってか知らずか。
姉上の討伐軍足止め大作戦はすでに決行されてしまった。
我ら魔族軍を先頭に全軍がバンドル山脈へと進軍を始めた直後…。
ゴゴゴゴゴゴ…。
「…地鳴り?!」
……しかも、最高峰のエルガンド山からだ。バカな…まさか、噴火…なのか?!
そう思った直後…。
ドッゴォォオン!!
もの凄い振動と爆音が…。
エルガンド山が大噴火を始めた。
あり得ない……ここは死火山だぞ。事前の調査でも噴火の危険は皆無だと…。
「…これはいったい、どういう事だ…グライアッド」
陛下の疑念も最もだが…。
「わかりません…事前の調査では確かに…」
私にもわからないのだ、これ以上答えようがない…。
「……何だ…あれは…」
誰かがそう呟いた…エルガンド山を見上げながら。
「…?!」
天高く巻き上がる噴煙の中に人影が…。
「……バカな」
赤い僧服のようなものに身を包んだ人物が噴煙の中からゆっくりと現れる。
吹き出す溶岩の上に乗って…。
「……まさか…四天王の一人…」
伝承では四天王はそれぞれ四つのエレメントに対応した力を持つという。魔族領に現れたのは水のエレメンタラーだった…。
すると、あれは火の……ここで待ち伏せていたというのか…。すると、この噴火は魔王の仕業…。
くそ、またしても先手を打たれてしまった…。
《ようこそ、討伐軍の諸君。歓迎しよう…四天王が一人、炎のギラデムが!!》
そう言って両手を広げると…。
ドドドドォォォン!!
周囲の山々が一斉に噴火を始めた。
《ふははははは♪》
噴火の轟音にギラデムの笑い声が重なる。
すでにそれだけで討伐軍は大パニックに陥っていた…。
……何という事だ。これでは戦うどころの話ではない…。
早く部隊を立て直さなければ…。
少し離れた山影にじっと様子を伺っている三人の姿が…。
もちろん、エブリンとソルとルナの二人である。
「いいですか、二人とも。向こうにはウィル様がいます…なので、私たちは絶対に姿を見られてはいけませんよ!!」
コクコク。
そろって可愛いらしくうなずく二人。うんうん、いい子ですね♡
「そこで、これの出番です♪」
そう言って、二人にコントローラーを手渡しました。
「「♪」」
二人とも喜んでいます。良かったですね。
おっと、ちゃんと注意事項も忘れてはいけません。
「いいですか、決して殺してはいけませんよ。これは必須条件です」
「「♪」」
笑顔で敬礼する二人。
うんうん、いい子ですね♡
「では、サポート作戦開始です♪」
ゴァオァァ…!!
「何だ…今の叫びは…?!」
後ろの方から聞こえたぞ…まさか?!
「報告!!……部隊後方に火竜が出現…」
「なんだと?!」
ドラゴンが後方に…。
「その数…およそ、30…」
「……バカな」
しかも30頭だと…。一体、何処にそれだけの数が隠れていたというのだ。
「……しまった!!」
先日の襲撃以来、最後尾には獣人の部隊を配備してはいたが…。とても、なんとか出来る数ではないぞ。
前方に四天王…。後方には30頭もの火竜…。
さらには側面から無数の魔獣の群れが…。
すでに我々は詰んでいるのか…?!
ウィルマスはまだ悩んでいた…。周囲の混乱など目に入らないくらいに。
だが、どんなに悩んでも解決策が思い浮かばなかった。
「……これは、いかぁぁん!!」
思わず叫んでしまうほどに…。
……だが。
その叫びに応える声が。
「その通りです、ミディール公…。いかが致しましょう?」
…………ん?
ここでようやく我に返ると周囲を見回すウィルマス。
…………あれ、なんか悩んでる間にとんでもない事態に…。
しかも皆がこっちを見ている。
「…コホン」
咳払いを一つして気を取り直すと全員に呼びかける。
「落ち着くのだ、我が精鋭たちよ!!」
この機転の速さといかなる事態においても動じない冷静さが彼の持ち味であった。
……姉上の事以外は。
「……リーサム。いかなる時であっても上に立つ者は冷静でなくてはいけない」
自分の事はさておき、副官を戒めるウィルマス。
……が。
その落ち着き払った姿に誤解したまま感銘を受けるリーサム。
「おお、さすが…ミディール公。一生ついて行きますぞ!!」
「皆も落ち着いて行動せよ、我がついているぞ!!」
すっかりスイッチが切り替わり有能な上官に戻ると…。配下の者たちを鼓舞するウィルマス。
「おお、我らにはミディール公がおられる!!」
「おお、ミディール公万歳!!」
「ドラゴンなど、なにするものぞ!!」
「さあ、すぐに体制を立て直せ!」
「「「「おお~~~~!!」」」」
すぐに陣を組み直し、ドラゴンに向かって前進するミディール軍。
「……ふ、先を越されたか…」
見事に体制を立て直したミディール公の軍を見て、思わず苦笑するグランプトン卿。
「若造に遅れを取るな、我が軍の実力を見せる時ぞ!!」
「「「「おお~~!!」」」」
こちらも体制を立て直すとミディール軍に続く。
混乱する人族の中でこの二つの軍のみがドラゴンに突進してゆく。
ウィルマスとグランプトン卿を先頭にドラゴンを圧倒してゆく両軍勢。
「あらら、もう立て直しちゃいましたか…。さすがマスターのご尊弟……そして、ヒエラム帝国一の猛者とうたわれるグランプトン卿ですね」
チラリと横目で見れば、二人がかなり焦ってコントローラーをガチャガチャ動かしている様子。
「これはちょっと困りましたね。ウィルマス様が先陣となれば火竜では役不足…」
あっという間に半数近くのドラゴンが倒されてしまいました…。
「「………」」
ああ、二人が泣きそうな顔でこっちを見ています。
「仕方ありません。奥の手を出しましょう!」
「「♪」」
意外にも後方は善戦している様子。おそらくはあのミディール公の軍だろう。
「フッ……人族も中々どうして、捨てたものではないな」
陛下の口元に笑みが浮かぶ。
「さぁ、我らとて遅れを取る訳にはゆかぬぞ!!」
「御意!!」
魔剣を構え、ギラデムに真っ向から挑む陛下。
その後ろに私と老師が並ぶ。
「こうしておると、先代とともにベヘモスを討伐した時を思い出すわい♪」
老師もやる気満々と言ったところだ。
「遅滞、申し訳ございません!!」
「申し訳ございません!!」
さらにオブロック公とレクマティアが加わった。
「良い…それより覚悟せよ、二人とも。相手は魔王四天王ぞ!!」
「「おお!!」」
さて、戦意は十分。……だが、果たして、我らの力が何処まで通用するのか…。
しかし、その時。
ゴゴゴゴゴゴ!!
後方から地響きと大地を震わせるほどの振動が…。
「「「「…な?!」」」」
とっさに我々が後ろを振り返ると…。
そこには目を疑うような光景が…。
黄金のウロコに覆われた巨体がゆっくりと地面を押し退けて持ち上がってゆく…。
でかい……なんて大きさだ…。人がアリのように見える。
あれもドラゴン……なのか?!
……さらに。
ゴガァァアア!ガァァアア!グァァアア!!
重なるように三つの唸り声が…。
同時に巨大な翼と三つの首が持ち上がる。
「何じゃ…あれは…」
「……バカな」
「三つ首のドラゴン…」
「あれも魔王の配下だと言うのか…」
黄金に輝く三つ首のドラゴンが…遥か下に我々を見下ろしていた。
「気を散らすな、我らの相手は目の前ぞ!!」
「「「「?!」」」」
陛下の怒鳴り声に、我に返って正面を向く。
そうだった、我々の前には四天王が…。
「「「「申し訳…」」」」
「来るぞ!!」
こちらもまた……ゆっくり降りて来る。溶岩の台座に乗ったまま余裕綽々と。
くそ…何という魔力…。陛下を含め、我ら全員の数倍…いや、優に10倍はあるだろうか。
笑みを浮かべたまま、上げた両手には火球が。
一見、ロースペルのファイアボールのようだが。感じる魔力は確実にハイスペルクラスだ。
おまけに呪文詠唱がない、おそらくエレメント魔法…。
あれをまともに食らう訳にはいかない。
「あれは儂がなんとかする!」
言うや否や、冷気魔法の術式を展開する老師。
「術式増幅を頼むぞ、グライアッド!!」
「承知!!」
すぐ様、老師の隣に並ぶと魔法増幅の詠唱始めた。
《…ふ♪》
不敵な笑いを洩らすと両手の火球を握り砕くギラデム。
「「何?!」」
何故ここで魔法を消すのだ??
予想外の行動に面食らったが…。
飛び散った火球の破片は不規則な軌道を絵描いてこちらに飛んで来た。
「「「「!!!」」」」
またしても予想外…こんな魔法が。
「冷気陣!!」
だが、相殺魔法陣の展開が間に合った。
「増幅!!」
凄まじい熱と冷気のぶつかり合いで辺りが真っ白になるほどの蒸気に覆われた。
《…ぬう?!》
その隙をついて、左右からオブロック、レクマティアが大斧と扇剣で斬りかかる。
《…ふ》
余裕の笑み。事実、二人の攻撃はあっさりと両手で受け止められた。
だが…。
《…むむ?!》
さらにその隙を突くように、正面下方から陛下が魔剣で斬り上げる。
…ガギン!!
《甘いわ!!》
しかし、その攻撃すら足で受け止めるギラデム。
「「「…?!」」」
驚く三人の隙を今度はギラデムが突いた。
間髪を入れず、三人を次々と吹き飛ばすと。
《なんともお粗末だな…》
実に忌々しい一言を放った。
「「「…くっ!!」」」
口惜しそうにほぞを噛む三人。
《これが我らを封印した魔族の末裔か…。その程度では、とてもオブジェ…いや、魔王陛下には遠く及ばんな》
「……ぬう」
「おのれぇぇ…」
「くそぉぉ…!!」
さらに悔しがる三人。
……だが、あいつ。今…何と言いかけた…?!
魔王ではなく…オブジェ…?
まるで魔王以外に何かがあるかのような口振り…。先の闇メイドの時といい気になる。
……何かを隠しているのか?
……だが、いったい何を…。
『……………』
「…?!」
老師が身体強化の術式を詠唱し始めていた…。慌てて、強化魔法の詠唱を重ねる。再び構える三人。
「…まだだ!」
「「おう!」」
「身体強化・絶」
最大クラスの強化魔法だ。
三人の身体から蒸気が立ち上る。
……そして。
ドドン!!
爆音を放って、先ほどの数倍という速度で一気に三人が駆け出した。
同時に老師と私とで援護の魔法攻撃を行う。効果は期待していない、あくまでもめくらましが目的だ。
今度は三方から三人同時の攻撃…。
だが…。
《ダメ♪ダメ♪ダメ♪》
人差し指を顔の前で振って見せると。
瞬間、やつの足元の溶岩が身体全体をすっぽりと覆っていた。
「「「!?」」」
それでも怯む事なく武器で斬りつける三人……が。
それは呆気なく弾き飛ばされた。まるで溶岩に弾力があるかのごとく…。
「「「…?!」」」
一瞬怯んだ三人に向かって溶岩が伸びる。不規則曲がりくねり、まるでヘビのごとくに…。
「…くそ!!」
「おのれぇ…」
「ウソ…?!」
辛くも身をかわした三人。慌てて距離を取るが、足の下からさらに溶岩の追撃が…。次々と赤く輝く槍が地面から突き出て来る。
「…く!!」
オブロック公が避け切れなかった。左足が焼け焦げている。
「オブロック!!」
「伯父貴!」
陛下が牽制しつつ、レクマティアがオブロック公を担いで後退する。
駆けよって、すぐに治癒魔法をかける。
「すまん…年かな…」
冗談半分にそんな減らず口を叩くが顔色はさえない。
なんとか大事には至らなかったが…。先ほどまでの動きは出せないだろう…。
かなり不利な状況だ。
「……伯父貴」
「情けないな…」
そう吐き捨てるオブロック公。
……だが、そうではない…。
決して、彼が劣る訳ではない……相手があまりに強過ぎるのだ。
ある程度予想はしていたが……この差はあまりにも大きい。
「………」
それに、先ほどから拭っても拭っても汗が目に入ってくる。全員の息もかなり荒くなってきている。
本当に、なんという暑さだ……体力が削られる。
温度変化を軽減するマジックアイテムは身につけて来たが…。それはあくまでも炎や冷気の魔法の副産物を防ぐ為のもの。常時放出される溶岩の熱を防ぐようには出来ていない。
水のエレメンタラーのビーム攻撃も凄まじいものがあったが…。こいつはその比ではないぞ。
それに四天王は他にも二人いる…。魔王に至ってはそれ以上の存在だろう。
「………」
後方での戦闘はまだ続いている。あの化け物を相手によく善戦しているものだ……が、それも時間の問題か。
全く、絶望的な状況だな…。思わず、諦めにも似た笑みが浮かぶほど。
(グライアッド…)
(……老師?!)
老師が念話で話しかけてきた。
(今、陛下と他の二人とも話した…。魔法剣を使うぞ)
(……魔法剣?!)
それは文字通り剣技に魔法を上乗せする術だ……が。
それは同時に禁忌でもある。それほどまでに負荷の大きな技だ。
陛下は今まで何度かそれに挑んできたが、今まで一度も成功した事がない…。
(……無茶だ。危険が大き過ぎ…)
(やるのだ、グライアッド。それしか、あいつに対抗する術はない。それに、この暑さ…。このままではこちらが先に参ってしまう)
(……陛下)
(頼む…グライアッド)
あの陛下が頼むとまで…。それほど…。
ここは臣下として、思い止まらせるべきなのだろう…。
しかしながら、陛下のご気性を考えればそれは難しい。それにこの暑さは限界だ…。
何より…私も強く思うのだ。あの男に一矢報いたいと…。
(……わかりました、陛下)
(うむ!!)
私は臣下失格だな。
『…………』
老師が詠唱を始めた…。陛下と相性がいいのは風の魔法。決して火属性に対して有利とは言えないが…。
陛下が魔剣を構える。
私以下、オブロック公、そしてレクマティアも術式増幅に全魔力を込める。
それ以外、この戦いに参加した全ての魔法使いが集まり、陛下に身体強化の魔法を付与する。
《……ほぉ?!》
ギラデムが感嘆の声を上げた。
この魔法を知っているのか…あるいは単にその魔力の大きさに感心しただけなのか…。
いずれにしろ、我々に残された対抗手段はこれだけだ。これが通用しなければ、文字通り打つ手無しだ。
陛下の魔剣が青白く光り輝く…。
さらにその身体から青白い蒸気が立ち上る。
《なるほど…少しは見直してやろう》
「それは少しばかり早いな…」
言うや否や、陛下の身体が霞む。
ドンッ!!
と言う爆音を残して…。
同時に全ての魔力を使い果たして、他の全員がその場にへたり込んだ。
……成功だ…始めて…この土壇場で。いや、だからこそ出来たのかもしれない。
もの凄い加速で陛下本人を確認出来ない。ただ、青白い魔剣の光跡だけが目に焼きついていた…。
凄まじい剣撃の連続。衝撃がここまで伝わってくる。
……それでも、あのギラデムと言う男は…最小限の動きだけでその攻撃を全て避け切っていた。
「……なんという…」
「これが四天王…」
「……ウソだろ」
「……これでも、届かないのか…」
驚愕と絶望が心を塗り潰す…。
《中々見事だ、先ほどの詫びに少し実力を見せてやろう》
そう言うと拳を構え、笑みを浮かべる。
そして、拳が赤く光り輝くと。
《炎撃掌》
静かに呟いて、陛下以上の速度で拳を振った。
瞬間、陛下の身体が霞み…我々の遥か後方の地面に叩きつけられていた。
ドゴォォン!!
全ての音が重なり…たった一つの轟音だけが耳に響く。
「「「「陛下!」」」」
「……ま…まだ…だ」
我らの悲鳴にも似た叫びになんとか立ち上る陛下…。だが、すでに満身創痍だ。
《安静にしていたまえ、もう戦える身体ではない》
「そんな…」
「もうダメだ…」
周囲から諦めの声が…。
私自身もすでに立っているのがやっとだ…。
万策尽きたか…。
そう覚悟を決めた瞬間。
「「「「?!」」」」
『!!』
我々とギラデムの間に立つ人物が…。
一刀を手にしたその後ろ姿は。
「ミディール公?!」
「…何?!」
「マジ…?!」
あり得ない、何処から現れた…。
そもそも、あの3つ首のドラゴンは…??
後ろを振り返り、さらに驚く。
ドラゴンの首が一つしかなかった。
あのデタラメなドラゴンの首を二つも斬り落としたのか?!
「ここは私に任せて、早く陛下を安全な場所へ」
「…ま…待て」
「済まない…ミディール公」
強引に陛下を連れ、部隊を下がらせる。魔力の尽きた我々に出来る事は足手まといにならないようにする事だけ。
彼ならば…ひょっとして…。そんな淡い期待をさせるほど、この男からは覇気を感じる。
ミディール公が一歩前に出ると。
ギラデムも溶岩の台座から地上に降り立った。
まるでそうしなければ、この男と互角には渡り合えないとでも言うように。
ミディール公が剣を構える。瞬間、凄まじい加速をしてギラデムに斬りかかる。
……早い、驚くほど。限界まで身体強化した陛下と同じくらいに。そればかりか…所々姿を見失っている。
あり得ない、それこそ……転移でもしない限り。
ギラデムは防戦一方だ、信じられない。
両者がぶつかり合い度、衝撃と閃光が走る。
「凄ぇ…」
レクマティアから感嘆の声が洩れる。
当然だ、魔族ならいざ知らず…。人族に出来る芸当ではない。
それに……ギラデムは先ほどから溶岩によるガードを続けている。それが見事に一刀両断されているのだ。
だが、いったいどうやって…??
「……空間魔法じゃ」
老師が呻くように言った。
「……まさか」
斬撃と見せかけて空間魔法で溶岩を一刀両断しているのか…。確かに空間ごと斬られてはガードのしようがない。
それにしても空間魔法とは恐れ入る…。魔族でも使える者は稀な最高難度の魔法だぞ。
……空間魔法か…。先ほどから姿を見失っているのは…転移?!
いや、それこそまさかだ…。戦いながら転移するなど。
「…にしても、驚くほど鮮やかな手並みだ。実際に剣で斬っているようにしか見えない…」
「……当然だ。実際に…斬って…いるの……だからな…」
私に支えられながら、荒い呼吸を繰り返しつつも陛下がそう仰った。
「……バカな?!」
あの溶岩は単純な斬撃では斬れなかったではないか……となれば。
「あれは…魔法剣…?!」
「あり得ない、魔族の禁忌だぞ……人の身で」
「マジかよ…」
つくづく人間離れした男だ…このミディール公は。
ギラデムは驚愕し…同時に困惑もしていた。
あらかじめ、ヒルダから彼に大怪我をさせてはならないと警告されていた。その上で腕がたつので苦戦するかもと注意を受けてもいた。
……だが、彼の実力は予想の遥か上をいった。超がつくほどの剣技、そして転移魔法を使った足さばき。とても人族とは思えない。さすがマムの弟君。
一瞬でも油断すれば、深手を負ってしまうだろう。
……さらに。
ウィルマスは事の真相を知らないはず…。だが、先ほどから後悔の入り交じった複雑な表情をしているように見える。
何故なのか…。実際、ほぼ互角の腕前…。ともすれば勝ちを拾えるくらいだというのに…その表情は暗い。
何か理由があるのか…。
話す事は禁じられていたが、どうしても気になる。
…そこで。
《さすがは彼女の弟君だ》
周りには聞こえない小声でかまをかけてみる。
「姉上を知っているのですか?」
《……少しね》
「……姉上には申し訳なく思っています」
……やはり、ある程度は事情を知っているようだ。
ならば…。念話を使って訊いてみてもいいだろう。
(一つ訊きたい、君は姉君の真意を何処まで理解している?)
(残念ながら、今までかなり誤解していました…。ですので、その謝罪も含め、命懸けの茶番を演じたいと思います)
その言葉からは覚悟が伝わってくる。
(……そうか。嫌いではないぞ、そういうのは)
(ありがとう)
彼は熱い男だ、ならば手加減は失礼に当たるだろう。約束を違える事にはなってしまうが……俺も男だ!
(では、俺もその意気に命懸けで応えよう)
「……………………は??」
現在、バンドル山脈全域が私の感覚フィールド内にある。従って、そこでの光景、及び会話…念話も含めて、全て私に筒抜けになっている訳なんだけど…。
……何言ってんの、この二人はぁぁ!!
命懸けとか…バカじゃね。茶番劇に命を懸けるな~~!
《エブリン、すぐに二人を止めて!》
《ええ~~?!》
ええ~?!
……いや、おまえら…エコーみたく言うな。ソル、ルナ。
《無理ですよぉ、無理!無理!無理!増幅器を使ってもウィル様と互角なんですよぉ。なのに二人を止めるとか、無理くり過ぎですぅ!!》
過ぎですぅ!!
だから、おまえら…エコーはいいって。
……ああもう、しょうがない。ここは私が直接言ってやろう。
《こぉらぁぁ~~!止めれ、おまえらぁぁ!!》
《…む?!》
《…ぬ!!》
互いに向かい合ったまま動きを止める二人。
周囲の者たちにはいよいよ決着をつける時が来たのか…と誤解されていたが。
《何訳わかんない事やってんの、すぐに止めなさい!!》
実際は叱られていた。
《止めないでください、姉上。これは弟としてのけじめ…》
……は?!
何を神妙な顔で訳わかんない事言ってんの!!
《マム…その心意気に応えるのもまた漢!》
……いやいや。
おまえも訳わかんないぞ!
てか、誰がマムか、誰が。
つーか。
《おまえら、アホかぁぁぁい!!》
男とは時にバカな生き物なのです!!
二人して、アホな言動をハモるな!!
結果、周囲の期待通りの展開になっていた。
「魔法剣、時空斬!!」
『奥義、大火炎強羅掌!』
ああああ…なんか、二人で必殺技の構えまでしてるし…。
《エブリィィン!!》
《ええ~?!》
ええ~…じゃない。
《こっちから干渉して威力を抑えるから…》
《ああ、なるほど…》
《決着ついたら、すぐにチャラ男二号を回収して!!》
《ウィル様は…??》
《あの子まで回収したら、私の計画がバレちゃうでしょう。大丈夫、死なない程度まで抑えとくから…。それに味方が大勢残ってるし、すぐに治療してもらえるわ》
《ラジャーです!!》
ラジャー!!
魔法を乗せた凄まじい剣と拳のぶつかり合い。どうやらやつの使う魔法も空間に干渉しうるらしい。
目の前の光景が歪む…。
光が歪み、音が歪み、魔力の気配さえまともに感知出来ない。
「……本当に凄ぇぜ」
「うむ…」
「……なんという戦い」
「見事だ…」
陛下までが感嘆の声上げていた。
「「「「おお………」」」」
周りにいた魔法部隊の者たちも驚愕したまま、事の成り行きを見守っている。
…………。
やがて、目の前の景色が急速に元に戻ってゆく。
「「「「「………」」」」
沈黙が辺りを支配していた。
「……終わったのか」
誰かの声と同時にすっかりと元通りになる景色。
そこには……互いに膝をつき、荒く息をする二人の姿が…。
「「「「………」」」」
息を殺して見守る一堂。
……やがて、ギラデムがゆっくりと崩れ落ちた。
「……おお」
「…やった」
「勝った…」
「「「「うおお~~~~♪」」」」
割れんばかりの大歓声が辺りを包み込んだ。
やった…本当に。人族が勝ったのだ…四天王に。
「……フフ、大したものだな」
陛下の口にも笑みが浮かんでいた。
……が。
「「「「…?!」」」」
上空に巨大な転移陣が。……そして。
いつの間にか、ギラデムの前にあの闇メイドの姿が…。
《エブリンちゃぁぁん♡》
《ハイハイ、帰りますよぉ♡》
ハイハイ♡
「…………は?!」
「「「「……………」」」」
先ほどまでとは打って変わったギラデムの姿に少し…いや、かなり呆気に取られていると…。
闇メイド三人がギラデムを抱えて…。
《撤収~~~~♪》
しゅう~~♪
そう言って、転移陣の中に消えて行った。
…………。
…………。
「……しまった!!」
「「「「おお?!」」」」
ようやく我に帰って、事の重大さに気づいた…が。
すでに後の祭りだった…。
なんという事だ…。呆気に取られている間にすっかり逃げられてしまった。
「……良い、見事やつらの鼻を明かしてやれたのだ。今日のところはそれで良いではないか。……それに、余も少しばかり呆気にとられてしまったわ…」
苦笑いしながらそう言われる陛下に。
「……そうですね」
私も思わず笑い返してしまった。
「誰か、魔力の残っている者は居らぬか?……早く彼を治療してやってくれ」
陛下の言葉に魔法部隊の面々が我先にとミディール公の治療に当たっていた。
支えられながら皆に運ばれてゆくミディール公。
「……僕は少しは役に立てたでしょうか…」
焦点の定まらない目でそんな事を言っていた。
「十分だとも!!」
私は彼にそう言ってやった。
そう、これ以上ないほどだ。
「……良かった……姉…上…」
多少の誤解も受けながら…ウィルマス・ディオル・ミディールはこの日、英雄になったのだった。
「さて、準備はいい?」
私の呼びかけと同時に目の前に複数の映像が表示される。
……まずは封印されたオブジェクトの方。
ドワーフ鉱山、ファルティール。
『こちら、ピトリリン。準備オッケーだよ♪』
ちゃんとキャサリンとエレノアもいる……よし!
次はエドルワン、ここは湖らしいのでおじ様とカルカに担当してもらった。
『ラキだ、こっちもいいよ♡』
後ろで二人が手を振ってる、こっちもオッケーと♪
次は…エルフ領、エンマンクンムのとこだっけ?
『……ロアンナです…眠いです…』
眠そうなロアンナが……うん、がんばれ…ロアンナ。と…かなり後ろの方にリディアがいる。
いや、そんな離れなくても…。
次は破壊されたオブジェクト…おそらく、確実に再生してるはず…。
こっちも結構厄介かも。
「……オフェリア、一人だけど大丈夫?」
『大丈夫よ♡…ウィルはいないし、三賢者とかも出払ってるから♪』
……なら、問題ないか…多少派手にやっても。そもそも人間領には魔力を感知出来る者がわずかしかいない。
……で、次は。
『ちょっとぉぉ!何で私がアルベルトと一緒なの?!』
……いや、何でって…。
「……そんなの、残りのオブジェクトが魔族領の外れにあるからじゃない」
『アルベルトは嫌ぁぁ!!』
……またかい。
「……やれやれ、すっかり嫌われちゃったかな…」
そんな事を言って、チャラ男が苦笑いしてる。
……いや、おまえがつまらん事するからだろ…ちょっとは自重しろ。
次は時間稼ぎ組。てか、元々はこっちがメインのはずだったんだけど…。
「そっちもいいわね?」
「イエス、マム!!」
……チャラ男二号がそう言って敬礼してる。
「………」
……だから、誰がマムか。
「……エブリン…チャラ男二号のサポートお願いね」
ちょっと呆れつつも…エブリンにお願いしとく。
「了解でーす♪」
……で、例のごとく…その後ろで必死にソルとルナが猛アピールしてる。はいはい、わかってるって…。
「あなたたちもしっかりサポートしてね」
「「♪」」
……これで準備は万端と。ロリアーナとリビアーネは待機…。
「……てか、リビアーネ何処?」
頭の上にいるロリアーナに訊く。
『……知らなぁい、きっと何処かで迷子』
「………」
……またか。そういや、この前の回収作業の時もいなかったな…。
……あの子、何処で何やってんの…。
まあいいわ、あの子は待機組だから…。
「それじゃ…いってみようか。火山大大大大…だぁい噴火♪」
※
ウィルマスの頭は斜めに傾いていた…斜め45度くらい。
先日のマンチコア襲撃以来、傾いたままだった…。
何故ならば、あの後…十士族の一人から魔王の配下の闇メイドと呼ばれる者の写し絵を見せられたからである。
その時、ウィルマスは思った。
(これ、エブリンじゃね…??)
おかしな仮面をつけて、いつもと違う黒いメイド服を着てはいたが…それはどう見てもエブリンだった。
というより、エブリン以外の何者でもなかった。
いつも姉上のそばにいるメイド。
姉上曰く…自身の最高傑作であり、一番のお気に入り。
そんなエブリンが…魔王の配下?
………。
………。
……だとすると……魔王とは何か?
これはもう、考えるまでもなく姉上がこしらえたモノ…それ以外にあり得なかった。
「……困った」
ウィルマスは公明正大にして公平無私な人物であった。
義理人情に厚く、卑劣な輩を許さない男であった。
……しかし。
有りとあらゆる事象の上に《姉上》が存在する人物でもあった…。
ぶっちゃけ、姉が世界を征服したいと言えば、たしなめるどころか助力を惜しまない……そんな男であった。
(……あの時、姉上が僕の出陣に猛反対したのには…そんな裏の事情が…)
ウィルマスは頭を傾けたまま、思案にくれていた…。
(……どうしよう)
…と。
尊敬する姉上。愛して止まない姉上。世界一大切な姉上。
その姉上の前に自分が立ちはだかってしまった。
今、ウィルマスはその人生史上最大のピンチを迎えていた…。
そんなウィルマスの苦悩を知ってか知らずか。
姉上の討伐軍足止め大作戦はすでに決行されてしまった。
我ら魔族軍を先頭に全軍がバンドル山脈へと進軍を始めた直後…。
ゴゴゴゴゴゴ…。
「…地鳴り?!」
……しかも、最高峰のエルガンド山からだ。バカな…まさか、噴火…なのか?!
そう思った直後…。
ドッゴォォオン!!
もの凄い振動と爆音が…。
エルガンド山が大噴火を始めた。
あり得ない……ここは死火山だぞ。事前の調査でも噴火の危険は皆無だと…。
「…これはいったい、どういう事だ…グライアッド」
陛下の疑念も最もだが…。
「わかりません…事前の調査では確かに…」
私にもわからないのだ、これ以上答えようがない…。
「……何だ…あれは…」
誰かがそう呟いた…エルガンド山を見上げながら。
「…?!」
天高く巻き上がる噴煙の中に人影が…。
「……バカな」
赤い僧服のようなものに身を包んだ人物が噴煙の中からゆっくりと現れる。
吹き出す溶岩の上に乗って…。
「……まさか…四天王の一人…」
伝承では四天王はそれぞれ四つのエレメントに対応した力を持つという。魔族領に現れたのは水のエレメンタラーだった…。
すると、あれは火の……ここで待ち伏せていたというのか…。すると、この噴火は魔王の仕業…。
くそ、またしても先手を打たれてしまった…。
《ようこそ、討伐軍の諸君。歓迎しよう…四天王が一人、炎のギラデムが!!》
そう言って両手を広げると…。
ドドドドォォォン!!
周囲の山々が一斉に噴火を始めた。
《ふははははは♪》
噴火の轟音にギラデムの笑い声が重なる。
すでにそれだけで討伐軍は大パニックに陥っていた…。
……何という事だ。これでは戦うどころの話ではない…。
早く部隊を立て直さなければ…。
少し離れた山影にじっと様子を伺っている三人の姿が…。
もちろん、エブリンとソルとルナの二人である。
「いいですか、二人とも。向こうにはウィル様がいます…なので、私たちは絶対に姿を見られてはいけませんよ!!」
コクコク。
そろって可愛いらしくうなずく二人。うんうん、いい子ですね♡
「そこで、これの出番です♪」
そう言って、二人にコントローラーを手渡しました。
「「♪」」
二人とも喜んでいます。良かったですね。
おっと、ちゃんと注意事項も忘れてはいけません。
「いいですか、決して殺してはいけませんよ。これは必須条件です」
「「♪」」
笑顔で敬礼する二人。
うんうん、いい子ですね♡
「では、サポート作戦開始です♪」
ゴァオァァ…!!
「何だ…今の叫びは…?!」
後ろの方から聞こえたぞ…まさか?!
「報告!!……部隊後方に火竜が出現…」
「なんだと?!」
ドラゴンが後方に…。
「その数…およそ、30…」
「……バカな」
しかも30頭だと…。一体、何処にそれだけの数が隠れていたというのだ。
「……しまった!!」
先日の襲撃以来、最後尾には獣人の部隊を配備してはいたが…。とても、なんとか出来る数ではないぞ。
前方に四天王…。後方には30頭もの火竜…。
さらには側面から無数の魔獣の群れが…。
すでに我々は詰んでいるのか…?!
ウィルマスはまだ悩んでいた…。周囲の混乱など目に入らないくらいに。
だが、どんなに悩んでも解決策が思い浮かばなかった。
「……これは、いかぁぁん!!」
思わず叫んでしまうほどに…。
……だが。
その叫びに応える声が。
「その通りです、ミディール公…。いかが致しましょう?」
…………ん?
ここでようやく我に返ると周囲を見回すウィルマス。
…………あれ、なんか悩んでる間にとんでもない事態に…。
しかも皆がこっちを見ている。
「…コホン」
咳払いを一つして気を取り直すと全員に呼びかける。
「落ち着くのだ、我が精鋭たちよ!!」
この機転の速さといかなる事態においても動じない冷静さが彼の持ち味であった。
……姉上の事以外は。
「……リーサム。いかなる時であっても上に立つ者は冷静でなくてはいけない」
自分の事はさておき、副官を戒めるウィルマス。
……が。
その落ち着き払った姿に誤解したまま感銘を受けるリーサム。
「おお、さすが…ミディール公。一生ついて行きますぞ!!」
「皆も落ち着いて行動せよ、我がついているぞ!!」
すっかりスイッチが切り替わり有能な上官に戻ると…。配下の者たちを鼓舞するウィルマス。
「おお、我らにはミディール公がおられる!!」
「おお、ミディール公万歳!!」
「ドラゴンなど、なにするものぞ!!」
「さあ、すぐに体制を立て直せ!」
「「「「おお~~~~!!」」」」
すぐに陣を組み直し、ドラゴンに向かって前進するミディール軍。
「……ふ、先を越されたか…」
見事に体制を立て直したミディール公の軍を見て、思わず苦笑するグランプトン卿。
「若造に遅れを取るな、我が軍の実力を見せる時ぞ!!」
「「「「おお~~!!」」」」
こちらも体制を立て直すとミディール軍に続く。
混乱する人族の中でこの二つの軍のみがドラゴンに突進してゆく。
ウィルマスとグランプトン卿を先頭にドラゴンを圧倒してゆく両軍勢。
「あらら、もう立て直しちゃいましたか…。さすがマスターのご尊弟……そして、ヒエラム帝国一の猛者とうたわれるグランプトン卿ですね」
チラリと横目で見れば、二人がかなり焦ってコントローラーをガチャガチャ動かしている様子。
「これはちょっと困りましたね。ウィルマス様が先陣となれば火竜では役不足…」
あっという間に半数近くのドラゴンが倒されてしまいました…。
「「………」」
ああ、二人が泣きそうな顔でこっちを見ています。
「仕方ありません。奥の手を出しましょう!」
「「♪」」
意外にも後方は善戦している様子。おそらくはあのミディール公の軍だろう。
「フッ……人族も中々どうして、捨てたものではないな」
陛下の口元に笑みが浮かぶ。
「さぁ、我らとて遅れを取る訳にはゆかぬぞ!!」
「御意!!」
魔剣を構え、ギラデムに真っ向から挑む陛下。
その後ろに私と老師が並ぶ。
「こうしておると、先代とともにベヘモスを討伐した時を思い出すわい♪」
老師もやる気満々と言ったところだ。
「遅滞、申し訳ございません!!」
「申し訳ございません!!」
さらにオブロック公とレクマティアが加わった。
「良い…それより覚悟せよ、二人とも。相手は魔王四天王ぞ!!」
「「おお!!」」
さて、戦意は十分。……だが、果たして、我らの力が何処まで通用するのか…。
しかし、その時。
ゴゴゴゴゴゴ!!
後方から地響きと大地を震わせるほどの振動が…。
「「「「…な?!」」」」
とっさに我々が後ろを振り返ると…。
そこには目を疑うような光景が…。
黄金のウロコに覆われた巨体がゆっくりと地面を押し退けて持ち上がってゆく…。
でかい……なんて大きさだ…。人がアリのように見える。
あれもドラゴン……なのか?!
……さらに。
ゴガァァアア!ガァァアア!グァァアア!!
重なるように三つの唸り声が…。
同時に巨大な翼と三つの首が持ち上がる。
「何じゃ…あれは…」
「……バカな」
「三つ首のドラゴン…」
「あれも魔王の配下だと言うのか…」
黄金に輝く三つ首のドラゴンが…遥か下に我々を見下ろしていた。
「気を散らすな、我らの相手は目の前ぞ!!」
「「「「?!」」」」
陛下の怒鳴り声に、我に返って正面を向く。
そうだった、我々の前には四天王が…。
「「「「申し訳…」」」」
「来るぞ!!」
こちらもまた……ゆっくり降りて来る。溶岩の台座に乗ったまま余裕綽々と。
くそ…何という魔力…。陛下を含め、我ら全員の数倍…いや、優に10倍はあるだろうか。
笑みを浮かべたまま、上げた両手には火球が。
一見、ロースペルのファイアボールのようだが。感じる魔力は確実にハイスペルクラスだ。
おまけに呪文詠唱がない、おそらくエレメント魔法…。
あれをまともに食らう訳にはいかない。
「あれは儂がなんとかする!」
言うや否や、冷気魔法の術式を展開する老師。
「術式増幅を頼むぞ、グライアッド!!」
「承知!!」
すぐ様、老師の隣に並ぶと魔法増幅の詠唱始めた。
《…ふ♪》
不敵な笑いを洩らすと両手の火球を握り砕くギラデム。
「「何?!」」
何故ここで魔法を消すのだ??
予想外の行動に面食らったが…。
飛び散った火球の破片は不規則な軌道を絵描いてこちらに飛んで来た。
「「「「!!!」」」」
またしても予想外…こんな魔法が。
「冷気陣!!」
だが、相殺魔法陣の展開が間に合った。
「増幅!!」
凄まじい熱と冷気のぶつかり合いで辺りが真っ白になるほどの蒸気に覆われた。
《…ぬう?!》
その隙をついて、左右からオブロック、レクマティアが大斧と扇剣で斬りかかる。
《…ふ》
余裕の笑み。事実、二人の攻撃はあっさりと両手で受け止められた。
だが…。
《…むむ?!》
さらにその隙を突くように、正面下方から陛下が魔剣で斬り上げる。
…ガギン!!
《甘いわ!!》
しかし、その攻撃すら足で受け止めるギラデム。
「「「…?!」」」
驚く三人の隙を今度はギラデムが突いた。
間髪を入れず、三人を次々と吹き飛ばすと。
《なんともお粗末だな…》
実に忌々しい一言を放った。
「「「…くっ!!」」」
口惜しそうにほぞを噛む三人。
《これが我らを封印した魔族の末裔か…。その程度では、とてもオブジェ…いや、魔王陛下には遠く及ばんな》
「……ぬう」
「おのれぇぇ…」
「くそぉぉ…!!」
さらに悔しがる三人。
……だが、あいつ。今…何と言いかけた…?!
魔王ではなく…オブジェ…?
まるで魔王以外に何かがあるかのような口振り…。先の闇メイドの時といい気になる。
……何かを隠しているのか?
……だが、いったい何を…。
『……………』
「…?!」
老師が身体強化の術式を詠唱し始めていた…。慌てて、強化魔法の詠唱を重ねる。再び構える三人。
「…まだだ!」
「「おう!」」
「身体強化・絶」
最大クラスの強化魔法だ。
三人の身体から蒸気が立ち上る。
……そして。
ドドン!!
爆音を放って、先ほどの数倍という速度で一気に三人が駆け出した。
同時に老師と私とで援護の魔法攻撃を行う。効果は期待していない、あくまでもめくらましが目的だ。
今度は三方から三人同時の攻撃…。
だが…。
《ダメ♪ダメ♪ダメ♪》
人差し指を顔の前で振って見せると。
瞬間、やつの足元の溶岩が身体全体をすっぽりと覆っていた。
「「「!?」」」
それでも怯む事なく武器で斬りつける三人……が。
それは呆気なく弾き飛ばされた。まるで溶岩に弾力があるかのごとく…。
「「「…?!」」」
一瞬怯んだ三人に向かって溶岩が伸びる。不規則曲がりくねり、まるでヘビのごとくに…。
「…くそ!!」
「おのれぇ…」
「ウソ…?!」
辛くも身をかわした三人。慌てて距離を取るが、足の下からさらに溶岩の追撃が…。次々と赤く輝く槍が地面から突き出て来る。
「…く!!」
オブロック公が避け切れなかった。左足が焼け焦げている。
「オブロック!!」
「伯父貴!」
陛下が牽制しつつ、レクマティアがオブロック公を担いで後退する。
駆けよって、すぐに治癒魔法をかける。
「すまん…年かな…」
冗談半分にそんな減らず口を叩くが顔色はさえない。
なんとか大事には至らなかったが…。先ほどまでの動きは出せないだろう…。
かなり不利な状況だ。
「……伯父貴」
「情けないな…」
そう吐き捨てるオブロック公。
……だが、そうではない…。
決して、彼が劣る訳ではない……相手があまりに強過ぎるのだ。
ある程度予想はしていたが……この差はあまりにも大きい。
「………」
それに、先ほどから拭っても拭っても汗が目に入ってくる。全員の息もかなり荒くなってきている。
本当に、なんという暑さだ……体力が削られる。
温度変化を軽減するマジックアイテムは身につけて来たが…。それはあくまでも炎や冷気の魔法の副産物を防ぐ為のもの。常時放出される溶岩の熱を防ぐようには出来ていない。
水のエレメンタラーのビーム攻撃も凄まじいものがあったが…。こいつはその比ではないぞ。
それに四天王は他にも二人いる…。魔王に至ってはそれ以上の存在だろう。
「………」
後方での戦闘はまだ続いている。あの化け物を相手によく善戦しているものだ……が、それも時間の問題か。
全く、絶望的な状況だな…。思わず、諦めにも似た笑みが浮かぶほど。
(グライアッド…)
(……老師?!)
老師が念話で話しかけてきた。
(今、陛下と他の二人とも話した…。魔法剣を使うぞ)
(……魔法剣?!)
それは文字通り剣技に魔法を上乗せする術だ……が。
それは同時に禁忌でもある。それほどまでに負荷の大きな技だ。
陛下は今まで何度かそれに挑んできたが、今まで一度も成功した事がない…。
(……無茶だ。危険が大き過ぎ…)
(やるのだ、グライアッド。それしか、あいつに対抗する術はない。それに、この暑さ…。このままではこちらが先に参ってしまう)
(……陛下)
(頼む…グライアッド)
あの陛下が頼むとまで…。それほど…。
ここは臣下として、思い止まらせるべきなのだろう…。
しかしながら、陛下のご気性を考えればそれは難しい。それにこの暑さは限界だ…。
何より…私も強く思うのだ。あの男に一矢報いたいと…。
(……わかりました、陛下)
(うむ!!)
私は臣下失格だな。
『…………』
老師が詠唱を始めた…。陛下と相性がいいのは風の魔法。決して火属性に対して有利とは言えないが…。
陛下が魔剣を構える。
私以下、オブロック公、そしてレクマティアも術式増幅に全魔力を込める。
それ以外、この戦いに参加した全ての魔法使いが集まり、陛下に身体強化の魔法を付与する。
《……ほぉ?!》
ギラデムが感嘆の声を上げた。
この魔法を知っているのか…あるいは単にその魔力の大きさに感心しただけなのか…。
いずれにしろ、我々に残された対抗手段はこれだけだ。これが通用しなければ、文字通り打つ手無しだ。
陛下の魔剣が青白く光り輝く…。
さらにその身体から青白い蒸気が立ち上る。
《なるほど…少しは見直してやろう》
「それは少しばかり早いな…」
言うや否や、陛下の身体が霞む。
ドンッ!!
と言う爆音を残して…。
同時に全ての魔力を使い果たして、他の全員がその場にへたり込んだ。
……成功だ…始めて…この土壇場で。いや、だからこそ出来たのかもしれない。
もの凄い加速で陛下本人を確認出来ない。ただ、青白い魔剣の光跡だけが目に焼きついていた…。
凄まじい剣撃の連続。衝撃がここまで伝わってくる。
……それでも、あのギラデムと言う男は…最小限の動きだけでその攻撃を全て避け切っていた。
「……なんという…」
「これが四天王…」
「……ウソだろ」
「……これでも、届かないのか…」
驚愕と絶望が心を塗り潰す…。
《中々見事だ、先ほどの詫びに少し実力を見せてやろう》
そう言うと拳を構え、笑みを浮かべる。
そして、拳が赤く光り輝くと。
《炎撃掌》
静かに呟いて、陛下以上の速度で拳を振った。
瞬間、陛下の身体が霞み…我々の遥か後方の地面に叩きつけられていた。
ドゴォォン!!
全ての音が重なり…たった一つの轟音だけが耳に響く。
「「「「陛下!」」」」
「……ま…まだ…だ」
我らの悲鳴にも似た叫びになんとか立ち上る陛下…。だが、すでに満身創痍だ。
《安静にしていたまえ、もう戦える身体ではない》
「そんな…」
「もうダメだ…」
周囲から諦めの声が…。
私自身もすでに立っているのがやっとだ…。
万策尽きたか…。
そう覚悟を決めた瞬間。
「「「「?!」」」」
『!!』
我々とギラデムの間に立つ人物が…。
一刀を手にしたその後ろ姿は。
「ミディール公?!」
「…何?!」
「マジ…?!」
あり得ない、何処から現れた…。
そもそも、あの3つ首のドラゴンは…??
後ろを振り返り、さらに驚く。
ドラゴンの首が一つしかなかった。
あのデタラメなドラゴンの首を二つも斬り落としたのか?!
「ここは私に任せて、早く陛下を安全な場所へ」
「…ま…待て」
「済まない…ミディール公」
強引に陛下を連れ、部隊を下がらせる。魔力の尽きた我々に出来る事は足手まといにならないようにする事だけ。
彼ならば…ひょっとして…。そんな淡い期待をさせるほど、この男からは覇気を感じる。
ミディール公が一歩前に出ると。
ギラデムも溶岩の台座から地上に降り立った。
まるでそうしなければ、この男と互角には渡り合えないとでも言うように。
ミディール公が剣を構える。瞬間、凄まじい加速をしてギラデムに斬りかかる。
……早い、驚くほど。限界まで身体強化した陛下と同じくらいに。そればかりか…所々姿を見失っている。
あり得ない、それこそ……転移でもしない限り。
ギラデムは防戦一方だ、信じられない。
両者がぶつかり合い度、衝撃と閃光が走る。
「凄ぇ…」
レクマティアから感嘆の声が洩れる。
当然だ、魔族ならいざ知らず…。人族に出来る芸当ではない。
それに……ギラデムは先ほどから溶岩によるガードを続けている。それが見事に一刀両断されているのだ。
だが、いったいどうやって…??
「……空間魔法じゃ」
老師が呻くように言った。
「……まさか」
斬撃と見せかけて空間魔法で溶岩を一刀両断しているのか…。確かに空間ごと斬られてはガードのしようがない。
それにしても空間魔法とは恐れ入る…。魔族でも使える者は稀な最高難度の魔法だぞ。
……空間魔法か…。先ほどから姿を見失っているのは…転移?!
いや、それこそまさかだ…。戦いながら転移するなど。
「…にしても、驚くほど鮮やかな手並みだ。実際に剣で斬っているようにしか見えない…」
「……当然だ。実際に…斬って…いるの……だからな…」
私に支えられながら、荒い呼吸を繰り返しつつも陛下がそう仰った。
「……バカな?!」
あの溶岩は単純な斬撃では斬れなかったではないか……となれば。
「あれは…魔法剣…?!」
「あり得ない、魔族の禁忌だぞ……人の身で」
「マジかよ…」
つくづく人間離れした男だ…このミディール公は。
ギラデムは驚愕し…同時に困惑もしていた。
あらかじめ、ヒルダから彼に大怪我をさせてはならないと警告されていた。その上で腕がたつので苦戦するかもと注意を受けてもいた。
……だが、彼の実力は予想の遥か上をいった。超がつくほどの剣技、そして転移魔法を使った足さばき。とても人族とは思えない。さすがマムの弟君。
一瞬でも油断すれば、深手を負ってしまうだろう。
……さらに。
ウィルマスは事の真相を知らないはず…。だが、先ほどから後悔の入り交じった複雑な表情をしているように見える。
何故なのか…。実際、ほぼ互角の腕前…。ともすれば勝ちを拾えるくらいだというのに…その表情は暗い。
何か理由があるのか…。
話す事は禁じられていたが、どうしても気になる。
…そこで。
《さすがは彼女の弟君だ》
周りには聞こえない小声でかまをかけてみる。
「姉上を知っているのですか?」
《……少しね》
「……姉上には申し訳なく思っています」
……やはり、ある程度は事情を知っているようだ。
ならば…。念話を使って訊いてみてもいいだろう。
(一つ訊きたい、君は姉君の真意を何処まで理解している?)
(残念ながら、今までかなり誤解していました…。ですので、その謝罪も含め、命懸けの茶番を演じたいと思います)
その言葉からは覚悟が伝わってくる。
(……そうか。嫌いではないぞ、そういうのは)
(ありがとう)
彼は熱い男だ、ならば手加減は失礼に当たるだろう。約束を違える事にはなってしまうが……俺も男だ!
(では、俺もその意気に命懸けで応えよう)
「……………………は??」
現在、バンドル山脈全域が私の感覚フィールド内にある。従って、そこでの光景、及び会話…念話も含めて、全て私に筒抜けになっている訳なんだけど…。
……何言ってんの、この二人はぁぁ!!
命懸けとか…バカじゃね。茶番劇に命を懸けるな~~!
《エブリン、すぐに二人を止めて!》
《ええ~~?!》
ええ~?!
……いや、おまえら…エコーみたく言うな。ソル、ルナ。
《無理ですよぉ、無理!無理!無理!増幅器を使ってもウィル様と互角なんですよぉ。なのに二人を止めるとか、無理くり過ぎですぅ!!》
過ぎですぅ!!
だから、おまえら…エコーはいいって。
……ああもう、しょうがない。ここは私が直接言ってやろう。
《こぉらぁぁ~~!止めれ、おまえらぁぁ!!》
《…む?!》
《…ぬ!!》
互いに向かい合ったまま動きを止める二人。
周囲の者たちにはいよいよ決着をつける時が来たのか…と誤解されていたが。
《何訳わかんない事やってんの、すぐに止めなさい!!》
実際は叱られていた。
《止めないでください、姉上。これは弟としてのけじめ…》
……は?!
何を神妙な顔で訳わかんない事言ってんの!!
《マム…その心意気に応えるのもまた漢!》
……いやいや。
おまえも訳わかんないぞ!
てか、誰がマムか、誰が。
つーか。
《おまえら、アホかぁぁぁい!!》
男とは時にバカな生き物なのです!!
二人して、アホな言動をハモるな!!
結果、周囲の期待通りの展開になっていた。
「魔法剣、時空斬!!」
『奥義、大火炎強羅掌!』
ああああ…なんか、二人で必殺技の構えまでしてるし…。
《エブリィィン!!》
《ええ~?!》
ええ~…じゃない。
《こっちから干渉して威力を抑えるから…》
《ああ、なるほど…》
《決着ついたら、すぐにチャラ男二号を回収して!!》
《ウィル様は…??》
《あの子まで回収したら、私の計画がバレちゃうでしょう。大丈夫、死なない程度まで抑えとくから…。それに味方が大勢残ってるし、すぐに治療してもらえるわ》
《ラジャーです!!》
ラジャー!!
魔法を乗せた凄まじい剣と拳のぶつかり合い。どうやらやつの使う魔法も空間に干渉しうるらしい。
目の前の光景が歪む…。
光が歪み、音が歪み、魔力の気配さえまともに感知出来ない。
「……本当に凄ぇぜ」
「うむ…」
「……なんという戦い」
「見事だ…」
陛下までが感嘆の声上げていた。
「「「「おお………」」」」
周りにいた魔法部隊の者たちも驚愕したまま、事の成り行きを見守っている。
…………。
やがて、目の前の景色が急速に元に戻ってゆく。
「「「「「………」」」」
沈黙が辺りを支配していた。
「……終わったのか」
誰かの声と同時にすっかりと元通りになる景色。
そこには……互いに膝をつき、荒く息をする二人の姿が…。
「「「「………」」」」
息を殺して見守る一堂。
……やがて、ギラデムがゆっくりと崩れ落ちた。
「……おお」
「…やった」
「勝った…」
「「「「うおお~~~~♪」」」」
割れんばかりの大歓声が辺りを包み込んだ。
やった…本当に。人族が勝ったのだ…四天王に。
「……フフ、大したものだな」
陛下の口にも笑みが浮かんでいた。
……が。
「「「「…?!」」」」
上空に巨大な転移陣が。……そして。
いつの間にか、ギラデムの前にあの闇メイドの姿が…。
《エブリンちゃぁぁん♡》
《ハイハイ、帰りますよぉ♡》
ハイハイ♡
「…………は?!」
「「「「……………」」」」
先ほどまでとは打って変わったギラデムの姿に少し…いや、かなり呆気に取られていると…。
闇メイド三人がギラデムを抱えて…。
《撤収~~~~♪》
しゅう~~♪
そう言って、転移陣の中に消えて行った。
…………。
…………。
「……しまった!!」
「「「「おお?!」」」」
ようやく我に帰って、事の重大さに気づいた…が。
すでに後の祭りだった…。
なんという事だ…。呆気に取られている間にすっかり逃げられてしまった。
「……良い、見事やつらの鼻を明かしてやれたのだ。今日のところはそれで良いではないか。……それに、余も少しばかり呆気にとられてしまったわ…」
苦笑いしながらそう言われる陛下に。
「……そうですね」
私も思わず笑い返してしまった。
「誰か、魔力の残っている者は居らぬか?……早く彼を治療してやってくれ」
陛下の言葉に魔法部隊の面々が我先にとミディール公の治療に当たっていた。
支えられながら皆に運ばれてゆくミディール公。
「……僕は少しは役に立てたでしょうか…」
焦点の定まらない目でそんな事を言っていた。
「十分だとも!!」
私は彼にそう言ってやった。
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「……良かった……姉…上…」
多少の誤解も受けながら…ウィルマス・ディオル・ミディールはこの日、英雄になったのだった。
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