箱庭魔女の魔王奮戦記

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オブジェクトVS 箱庭軍団(みんなでお掃除大作戦)

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 エブリンとロアンナを連れて箱庭出口へと向かう。私の周囲にはおびただしい数の映像が表示されている。娘たちは頑張っている様子。魔王も中々活躍してる感じ。
「エブリン、現状は?」
「はい、マスター。現在、敵総数の7%を撃破。19%が交戦中、残りの12%が月面に、20%が魔王迷宮に、42%が箱庭上空に移動中です」
「……大体はこっちの思惑通りかな。これなら、ソルとルナを呼び戻してもいいわね」
「了解です、マスター」
 すでに地上に降り立ったオブジェクト以外は移動している。直接攻撃タイプならラキやピトリリンでも十分に対応可能だ。
 ……でも。
 思ってたよりラフツールに向かったオブジェクトの数が少ない。
「神に反逆した最初の民の割には大した脅威とみなされていないのかなぁ…」
『実際、大した事ありません。お母様が落っことしたオブジェクトに未だ苦戦しているのですから』
 そうなんだよね…。まだ、あの壊れかけのオブジェクトとビームの撃ち合いをしてる。
「図体の割には見かけ倒しな連中ね…」
『仕方のない事です。千年も歳月が経っていたら相手側もそれなりに進歩します。未だに千年前のモノを使っているようではせいぜいあの程度です』
 ……確かにね。そこら辺はある程度予測はしてたんだけど、かなり情けない実状。アグルの実力って想定よりずっと下なのかな。
 あるいは、わざとやっている可能性もある…。何せずっと裏でこそこそしてた卑怯な連中だし。そこら辺は注意しといた方がいいかな。
 ……でもまあ、せいぜい嫌がらせ程度に巻き込んだだけし…。アグルの民に期待してた訳じゃない。
 ソルとルナが戻ってきた。
 相変わらず、グッてな感じで親指立ててる…。ちょっと呆れていると。エブリンが同じようにグッて親指立てて応じてる…。
 ああ、それ教えたのおまえか…。てか、どこで覚えた…それ。
 まあいいわ……なんか、気にしたら負けな感じがしたので放っとく事にしよう。それより…さっさとお掃除、お掃除…と。
 エブリンたちにもモヘちゃんクローンを渡しておく。賢さを増し増しにした飛行可能タイプ。みんなで、これに乗っかって出陣。
 それと転移陣内蔵型のお掃除グッズ一式。これでオブジェクトを超重力空間に送り込んでスクラップにしてやる予定。
「さぁ、行くわよ」
 ……って。上を見上げてみれば。
 せっかく、邪魔なデカブツを退けたのにびっしりと隙間無くオブジェクトが浮かんでる。
 ああ~もぉ!!
「邪魔くさい!!」
 あそこら辺は箱庭で直接で潰しておこう。
 両手と連動させて、箱庭アームを伸ばすと数百程度のオブジェクトを一気に握り潰す。
「……よし」
 これで見通し良くなった。
『……お母様』
「……何?」
『今の要領でオブジェクトを片づけた方が早くないですか?』
「………」
 ……確かに。
 でも、それだと私一人で全部やんなきゃなんないじゃん。
 ……だから。
「……それはダメ!」
 ……絶対。
『………お母様、楽したいのですね』
「うん」
 その通り、そこは否定しない。
『ズボラなお母様も素敵です♡』
「………そぉ?」
 なんか、ロアンナが変なとこで感心してる…。後ろのエブリンたちもうなずいてるし…。
 ……まあいいわ。
 それじゃ改めて。
「お掃除部隊出陣~!!」
「「「『ラジャー♪』」」」
 モヘちゃん軍団にまたがって、箱庭を出る。
 ちなみに私の武器はフライパン……これしかなかった。
 何しろ、この身体は規格外の代物。ロアンナを圧倒的上回るハイスペックボディ。並み武器だと全力を出した瞬間、木っ端ミジンコになってしまう。
 しょうがないので以前作ったポップコーン用のフライパンを持ってきた。これは超超超超頑丈に出来てるから、私がちょっとやそっと乱暴に扱っても壊れない。
 これでオブジェクトを殴り壊して、後はエブリンたちのホウキでスクラップ空間に転送する予定。
 あ~あ、こんな事ならラブリーでカッコいい武器の一つぐらい作っておけば良かったなぁ…。
 てか、この身体で戦うとか…かなり想定外だったし。
 それもこれもアグルのせい。後でぶん殴り行ってやる。
 まあ、生き残っていたらの話だけど。
「さぁ~やるわよぉ!!」
「「「『ラジャー♪』」」」

 ※

 魔族領王都。
 先ほどからオブジェクトの大移動が続いている。一部はエンギルの地へ向かったようだけど。大部分は箱庭に向かっている。お母様の思惑通りかな。
 こっちは結構苦戦している。
「ああ~もう…何でこんなに硬いの!!」
 キャサリンのエアカッターが弾かれた。
『魔力の集積が甘いわ』
 彼女を潰そうと脚を振り上げたところにアルベルトとカルカが水と雷の魔法を集中させる。むき出しになった関節部分を狙って双刃剣を叩き込むと…ようやく脚の一本を斬り飛ばした。
 ……実に効率が悪い。
「わかってる…わよ……でも、こんなに…次から次に相手してたら…」
 キャサリンの息が荒い。
 攻撃もだいぶ雑になってきてる…無理もない。これで何体目だろう……40体は倒したはずだけど。
 それでも全体の二割ほど……まだまだたくさんいる。
「表面に…結界らしいものが張られているしね…」
「お陰で…中々攻撃が通らない。ホント…厄介な連中だね」
 残りの二人も肩で息をしてる…かなりきつそうだ。
『次、同時に行くわよ!!』
「「オッケー!!」」
 キャサリンの魔法に合わせて三人で同時攻撃。
 ようやく、オブジェクト表面に穴が空いた。
 すかさず、アルベルトとカルカが融合魔法を叩き込むと煙を上げてオブジェクトが停止した。
「……こいつら…千年前のやつに比べて……かなり…性能がアップしてるわね」
『そりゃそうでしょう』
「千年は…長いものね」
「……確かにね」
 ……確かに千年は長い。けれど、千年でこの程度なら。
『お母様から連絡があったわ。おじ様が無事にリビアーネとティティリナを回収したそうよ』
「ようやく、ヒルダの実力が見られるね」
「彼女、どれぐらい強いの?」
『私たち姉妹の軽く一千倍かな』
「……マジで?!」
「「「…?!」」」
 急激に箱庭の魔力が高まった。
 一瞬で箱庭が黒く染まる。真っ黒な立方体が迷いの森の中央に出現したみたいに…。
 さらに、音もなく真っ黒で巨大な二本の腕が上空に伸び上がってゆく。
 そして、一気に数百ものオブジェクトを握り潰した。
「…………何なの、あれ…」
「……これは…また」
「…………凄い…ね」
 キャサリンたちも思わず引くほどの驚愕の光景。
 オブジェクトすら一瞬立ち止まるほど…。
 私も初めて見る。
『あれが箱庭そのものの力…』
「……箱庭って、空間じゃないの?」
『あんな風にお母様の意志で自在に変形もするのよ、驚くでしょう?』
「驚くなんてレベルじゃないわ」
「ホントにねぇ…」
 黒い腕が箱庭に戻ると再び表面がクリアになる。入れ違いにお母様たちがモヘちゃんに乗って飛び出してきた。
 お母様を先頭に、大きく旋回しながら次々と上空のオブジェクトを叩き潰してゆく…。
「無茶苦茶でしょう、私が結構必死で戦ってる相手をあんな簡単に…」
『……そうよね』
 ホントに呆れるぐらい簡単に片づけてゆく。
 次第に旋回が大きくなって、お母様たちが地平線の向こうへ消えて行った。
「……行っちゃったわよ?」
『……すぐに戻って来るわ』
 やがて、消え失せた反対側の地平線からお母様たちが姿を現した。
「……ウソ、まさか世界を横断してるの?」

 ※

 人族領、王都。
 先ほどの凄まじい魔力に皆が戸惑っていると…。
 地平線の彼方から、お母様の一団が空の上を駆けて来た。オブジェクトの一群を蹴散らしながら。
『お母様が来たわ』
 まあ、わかってはいたけど、お母様の力は桁が違う。
 何しろ、オブジェクトがゴミ扱いなんだから。
「……あれが君たちの言う『お母様』なのか…」
「……なんと?!」
「……あれが」
 皆が驚愕しながら空を見上げていると。
「あら、私がどうかしたの?」
「「「『…!!』」」」
 いつの間にか母上が後ろにいた。いや、よく考えてみると今までいないかったっけ……忘れてた。
『……いえ、母上の事ではありません。私がヒルダお母様と呼んでいる方です』
「まあ、オフェリアったら…。私以外に、お母様を作ったの?」
 なんか言い得て妙な発言。
『……てか、今までどこにいたんですか?』
 息子の結婚式ほっぽらかして。
「ほらほら、これを持ってきたのよ、オフェリア♡」
 母上の手の中にはお見合いパンフが山のよう。
『………ええと』
 それを持って来んが為に今までいなかったと…??
 つーか、息子の結婚式当日に娘のお見合いパンフ持って来るか?……フツー。
 ……てか、前より増えてね?
『……パスで』
「ええ~?!」
 ……ええ~?!…じゃなくて。何で、この人はこんな時までマイペースなのかな。
「ところでお空に何かいっぱい浮かんでいるけど、あれはオフェリアが造ったの?」
『……違います!何か変なモノがあると全部私のせいするの止めてください』
 そんな私と母上の呆れた会話をよそに。
 凄まじい勢いでお母様の一団が王都の上を通り過ぎてゆく。
 お母様がオブジェクトを殴り飛ばして、エブリンたちがホウキで転送してゆくと。その後ろからロアンナが広域結界用のゴーレムをばらまいている。
 これで一度お掃除した場所にはオブジェクトが移動出来ない。ホント、お母様は合理的よね。
「あれがお母様なの?……ずいぶんと幼い方なのね」
 確かに、ヒルダお母様の年齢は十代前半の設定だし。
「……でも、オフェリアの小さい頃によく似ているわ♡」
 そりゃそうよ。何しろ本人なんだから…。
 あっという間に王都上空をお掃除して、地平線の向こうに消えて行った。
「……もう、行っちゃいました」
 お母様たちが消えて行った方角を見ながら、アデリナが呆れた顔をしてる。
『……ホントにね』
 私だって呆れちゃうほどのスピードだもの。
 ……でも、すぐに戻って来るから、さらに呆れると思う。
 ……ほら。
「……なんと?!」
「さっき現れた方角から…また来たぞ?!」
「ええ~?!」
『そりゃそうよ…何せ、この世界を一周してるんだから』
「「「…はぁ?」」」
『世界が丸いのは知ってわね、アデリナ』
「……はい、あまり実感はありませんが…お爺様から教えてもらいました」
『…で、こんな風にリンゴの皮を剥くみたいな感じで』
 手元に惑星の立体映像を表示して、その表面を指でなぞるようにくるくると回して説明すると。
「……まさか、オブジェクトを蹴散らしながら…本当に世界を横断しているとは…」
「……ななななんとぉ!!」
『……ヒルダお母様は合理的だから』
「いや…そういうレベル?」
「確かに合理的ではあるが…」
「そもそも出来んじゃろ。フツーの人間には…」
 確かにフツーは出来ない……そこをやってしまうところがお母様のもの凄さ。ものの数分で世界を横断して戻って来るとか…。実際に目の当たりにするとかなり引くレベル。
 またしても、あっという間に私たちの上を通り過ぎて行った。
「……それにしても、何故オブジェクトは消え失せてしまうのじゃ??」
『あのホウキはお掃除グッズだから…』
「「「お掃除グッズ?」」」
『転移陣が内蔵されてて、あれで掃くとゴミが特定の場所に転送される仕組みなの』
「まあ、便利ね♡」
「……便利なのか?」
「……いえ、そんなしょうもない事に転移の魔法を使ったりしませんよ、普通は…」
 うん、確かにそう。あのホウキを見せられて、便利でしよう?とか訊かれた時は素直に同意出来なかったし。
 何しろ転移魔法って、使えるだけで大したものなんだから。

 ※

 エルフ領王都。
 現在、王都はエレノアが造った巨大な土のドームに覆われている。その中に全エルフが避難している。
 私たちもドームの中でしばし休息中。
 幸い、エルフ領に押し寄せて来たオブジェクトの数は少ない。おそらく、人工に比例した数が配置されたのだろう。
 それも先ほどの大移動で地上降りた直接攻撃タイプだけになった。
 ……それでも、二人で蹴散らすには数が多い。
 なので…こうして、休み休み撃退している訳。
「うわぁ~!なんか、真っ黒な手が出て来たぁ~!!」
 ドームの隙間から外の様子を覗いてたミューレが大騒ぎしている。
 先ほど、大きな魔力の変動を感じた。
 おそらく、お母様が何かしているのだろう。
『どれどれ?』
 ドームの隙間から外を見てみれば。箱庭に巨大な手が引っ込む様子が目に映った。そして、その上空にはポッカリと何もない空間が。
 どうやら、お母様が直接箱庭の力を使ったらしい。
「凄かったんだよ~!あの手が!あの手が!」
 ミューレが目を丸くして盛んに騒ぎ巻くっている。
 かなりインパクトのある事をしたらしい。
 黒かった箱庭が元通りになると、お母様の一団が姿を現した。
 ここからでもよく見える。どうやら箱庭から円を絵描くようにオブジェクトを一掃してゆく作戦のよう。
 ホント、お母様らしい合理的な戦法……いや、お掃除法かな。
「うわ~!うわ~!うわ~!」
 さらに騒ぎ巻くるミューレ。
「……何という」
「すげー」
「呆れた連中だね」
 みるみるオブジェクトの数が減ってゆく。
 皆、驚きながら…お母様たちのする事を眺めている。
 と言うか、あれなら…。
「……ヒルダ一人でよくない?」
 エレノアが呆れたように言う。
『………まあ』
 ……確かに、私もそう思った。でも、めんどくさがりのお母様が一人やるはずがない。
「それにしても凄いハイペースね…ヒルダ張り切ってるわ♪」
『……たぶん、あまり時間をかけたくないんだと思う』
「確かにね。あれだけの力を行使するのは大変よね」
『……いや、そうじゃなくて』
「……何?」
『あまり時間をかけると…お母様飽きてしまうの。特に、興味のない単純作業とかは…』
「………………え?」

 ※

「また、戻って来たぞ」
「もはや、言葉がないな…」
「……まったくです」
「……でも、凄いです」
 またしても、もの凄い勢いで王都の上空を通り過ぎて行った。
「また、地平線の彼方に…」
『それじゃ、お母様の位置を表示しておきましょう』
 球体世界地図を浮かべると、お母様とオブジェクトの位置を光の点で表示してみました。
「この青い五つの光点がお母様たち、その周りにウジャウジャいる赤い光点がオブジェクトよ」
「まだ、こんなにいるんですか?」
『そうね…それでも全体の六割ぐらいは倒せたかしら』
 ほとんど、お母様が一人でやったんだけど。
「あらあら、すっかりお空がキレイになったわね♡」
 母上の言う通り、たった三回…お母様たちが通り過ぎただけで上空のオブジェクトはほぼ一掃されてしまった。
 すでに空はキレイに晴れ渡っている。さっきまでひしめき合っていたオブジェクトは一つも無い。
「…は…ははは」
 魔族の王様はひきつった笑顔を浮かべている。
 空が晴れ渡ると同時に月が見えた……銀色に染まった月が。無数の光点に包まれながら。
 ……あれがラフツール。大き過ぎて背後の月が見えない。
「……お姉様、月が…月が銀色に」
「……何と?!」
「これはいったい…」
『あれは月じゃないのよ、アデリナ』
「……え?!」
『あれはラフツール…かつて神様がこの世界を訪れた際に持って来た最古のオブジェクト。そして、最初の民アグルが住まう場所でもあるの』
「……そんなモノが」
「……最初の民アグルって?」
『神様が造った最初の人間…。他の種族はアグルから生まれたとされているわ。……あるいは造ったと』
「……造った?」
『神様の諸行を真似てね』
「バカな…そもそもアグルの民など聞いた事もないぞ」
『……そう、誰も覚えてないのよ。地上の人々はアグルの民の事を…。私たちだって精霊騎士に会うまで知らなかったもの。でも海人族には代々伝わっていたようよ』
「そんな伝承が海人族に…」
『……さらにアグルは神に反逆した民。オブジェクトはアグルを討伐する為に神様がこの世界に送り込んだモノなの』
「神様の使いって、そういう意味だったのですね」
『でもアグルの民は自分たちだけ月に逃げちゃったの。私たちを置いてきぼりにしてね』
「ヒドイです」
『……そうよね、私も大嫌いだわ』
「何という事じゃ…おとぎ話に過ぎないと思っていた魔王の伝承にそんな真実が隠されておったとは…」
「……それにしても口惜しい。このような大事にただ黙って見ている他ないとは…」
「……陛下」
『………』
 どうやら、魔族の二人は戦いたいらしいわね…なら。
『戦いたいですか?』
「無論だ、ただ見ているだけなぞ…魔族の王として」
『なら、これどうぞ』
 例のネックレスを二人に渡した。
「……これは?」
「マジックアイテムのようだが…」
『魔力増幅器です、戦える者がいれば渡して欲しいと、お母様から預かったもの。これがあればオブジェクトとも対等に渡り合えます』
「……かたじけない!!」
「感謝いたします」
「おお、我ら三賢者にも力をお貸しくだされ」
『勿論♡』
 アデリナのおじ様たちにもネックレスを渡すと。
『弟たちの力になってあげてください、お願いします』
「無論!」
「必ずや!!」
『ご武運を…陛下』
「……う、うむ。行くぞ、グライアッド!!」
「お供いたします、陛下!!」
「さぁ、儂ら三賢者もやるぞ」
「「おお~♪」」
 いってらっしゃぁ~い♪
 これでウィルたちも一安心かな。二人だけだと結構不安だったしね。
 なんて思っていると。
「……お姉様、ああいった方が好みなんですか?」
 なんて、アデリナが尋ねてきた。別にそういうつもりはなかったんだけど…。
『………そうね』
 ……少しいいかも♡
 共に駆ける陛下の口元が少し揺るんでいた。
「陛下…気に入りましたか?……あの方が」
「…あ、うむ、そうだな…うむ、少し…」
 陛下にしては珍しく口ごもっておられる様子、これは…。
「……少しですか?」
「……いや、かなり気に入っておる。民から反感を買うと思うか?」
「問題ないでしょう、魔族は実力主義ですからね。あの方ならば誰も文句を言う者はいないでしょう。むしろ、問題はミディール公かと…」
「…ふ、そうだったな……それはかなりの難関だな」
「…ええ」
「まあ、今は戦いに赴くとしよう。話は勝ってからだ!!」
「御意!!」
 陛下につき従い、ミディール公の元へ向かった。

 ※

 獣人領、ウドルゲの森。
 私は今、焦っている、何故なら。オブジェクトとかいうやつがムチャクチャ硬いから。
「うぉりゃあぁぁ~!!」
 ガギャァァン!!
 爪が簡単に弾かれる…なら頭突き攻撃!
 ドゴガァン!
「……硬いわ~~!」
 頭蓋骨が割れるぅ~!!
「文句言うな、レイダ。硬いのは始めからわかってただろ!!……獣人族ならば、黙って…ひたすらに打つべし!打つべし!打つべしぃ~!!」
 ガゴン!ドゴン!ズゴン!
 音の割りには凹んでない……つーか。
「涙目になってんぞ、族長!!」
「うるさい、痛いもんは痛いんだ!」
 こんな感じで苦戦しっぱなし…。
 ……なのに。
『ダラッシャァァ~~!!』
 ドグワァシャァァン!!
 隣で平然とそれを叩き潰しているやつがいる。
「「………」」
「何であいつは何でもないんだよ?!」
「アタシに訊くな!……だから、あいつは変だって言ったろ!!」
「変過ぎるわ。こんな硬いの平然とぶん殴るとか」
『あ、お母様だ』
「「……え?」」
 ラキの視線を追うと、地平線の彼方からトカゲに乗った女の子の集団が空を駆けて来るのが見えた。
 凄まじい勢いで空に浮かぶオブジェクトを叩き潰しながら、こっちに向かって来る。
「「……ええ~?!」」
 何…あれ…。つーか、お母様とか言ってなかった?
「……あれがお母様??」
「……てか、どれ?」
『先頭にいる人』
「一番若くね?」
「そもそも、獣人じゃねぇし!!」
『お母様、少し手伝ってよ。レイダと族長がサボってばっかで全然倒せてないんだよ』
「ちょっと待てぇ~、サボってないだろ~が。苦戦してんだよ!苦戦!」
「どう見たら、サボってるように見えんのさ!!」
《……しょうがないわね…。ロアンナ、少し手伝ってあげて》
《わかりました、お母様》
 一番後ろにいた女の子が逆さまになって爪を伸ばすと、通り過ぎながら十数体のオブジェクトを斬り刻んでゆく。
《では、後よろしく》
 抑揚のない声でそう言うと。
 まるで何事もなかったかのように平然と飛び去って行った。
『サンキュー♪』
「「………」」
「何?……あいつ何?」
「……いったい何者??」
『あれはロアンナ。私の妹でバンパイア』
「「はぁ~~??」」
『あ、ロアンナと私を比べんなよ。あいつはフツーじゃないから』
「「……いや、おまえも十分フツーじゃないぞ」」

 ※

 ……むむ?!
 前方にオブジェクトの大群を発見。
 なんか、いっぱい集まって小生意気にもフォーメーション組んでる。しかも丸いのが全体についてるやつ。
 ……これって。
 ドズゥゥン!!
「うぉぉ…やっぱり…超音波攻撃…」
 ズズゥゥン!!
「あ、でも…なんか全身の凝りが解れていい感じ♡」
『おがぁざまぁぁ…』
「レロレロレロレロ♪」
「「ピロピロピロピロ♪」」
「ああ?!」
 ロアンナとエブリンたちがピンチになってる?!
「オブジェクトシールド!」
 手短にあったオブジェクトをひっつかんで盾代わりに。
 さらに…。
「ダークスフィア大量散布!!」
 超重力球体で一気に超音波オブジェクト群のエネルギーコアを破壊。かなり地上に落っこっちゃったけど、仕方ない。
「あなたたち大丈夫?」
『……助かりました、お母様…』
「レロレロレロ…♪」
「「ピロピロピロ…♪」」
 ……エブリンたちはまだちょっと変。
『ミランダお姉様が苦戦したのもうなずけます』
 なんて言って、ロアンナが頭を振ってる。さすがの彼女も少し堪えた様子。
 今のはちょっと失敗だったわね。私は全然平気でも後の三人には結構キツめの攻撃だったらしい。
 さすがに千年後の最新鋭タイプ。

 ※

 妖精国、精霊殿前。
『トリプル妖精パァ~ンチ!』
 ガゴギン!
『ダブル妖精キィ~ック!』
 ゴゴガン!
『妖精インパクトォォ~~!』
 ドゴガン!
『あははは、全然効かね~!!』
 空にいたビームを撃ってくるオブジェクトはいなくなったけど…。地上降りて来たやつが硬い。てか、サイズ的にキツイ。
 ギッション!!
『おぶし!』
 攻撃が通じず、一方的に踏まれるロリアーナ。精霊殿で一部始終を見ていた女王が思わず顔を手で覆う。
「おお、ロリアーナが…妾のロリアーナが…」
「「「おお…」」」
 周囲からも悲嘆の声がもれる。
 ……が。
 オブジェクトをひっくり返して、怒り心頭で出て来た。
『踏んだなぁ~!……おまえ、今踏んづけただろ~~!!』
「……おお、まだ生きておった♡」
「「「おお~♡」」」
『お母様、まだぁ~?…サイズ的にキツイから…サイズ的に』
「…おお?!……何じゃ、あれは?」
 その時、空の彼方から飛んで来る女の子の一団。
『お母様が来た♪』
 その隙に再び踏まれるロリアーナ。
『おぶし!!』
《大変です、お母様。ロリアーナお姉様がオブジェクトに踏まれてます》
《…ええ?!》
 あの子、何やってんの。小さい代わりに丈夫には造ってあるけど、踏まれれば痛いんだから。
 しょうがない、直接助けよう。
 低空飛行でオブジェクトの群れを一気に薙ぎ払う。
 ゴワシャァァン!!
 フライパンのひと振りでオブジェクトが無くなった。
『お母様♡』
 やっぱりピンピンしてた。とはいえ一応、注意はしとこう。
《小さいんだから無理しちゃダメよ》
『うん♡』
《さぁ!次よ》
『えへへ、やっぱりお母様だ♡』
 ピンチの時はちゃんと助けに来てくれる。
「おお~ロリアーナ~!!」
 女王様が走って来た。
 そのままタックルするみたいに私を抱きしめると。
「ロリアーナ~!!」
 泣き出してしまった。
「そなたがいなくなったら妾は…妾は…」
『大丈夫…大丈夫だから……ね♡…ね♡』
 ちょっと心配をかけちゃったみたい…気をつけないと。

 ※

 ドワーフ領、半地下都市。
『………お母様、早く来ないかな』
 目下、絶賛デコイ中…。
 来るわ、来るわ、オブジェクトの大群。
 その攻撃をひたすらガードし、隙を見つけてはピッケルでぶっ叩く。正直、あまり効率的とは言えない。
 しかしながら、私はドワーフなので防御主体で戦わねばならない。それでも二つほど仕留めた。
 私は姉妹の中で一番頑丈なので、この戦法を続けていれば被害はほとんど無いんだけど。
「ピトリリン、大丈夫か~?」
『大丈夫だよ~』
 ……ただ、持久戦はキツイ。動けないとなおさらに。
 でも、ここから動くと地下街が攻撃されるので、ひたすら動かず防衛戦あるのみ。
『………お母様、まだ?』
 地平線の彼方を埋め尽くしていたオブジェクトがごっそりと消え、女の子の一団が空を駆けて来る。
「……何じゃ…あれは…??」
《ピトリリン》
『お母様♡』
 あっという間に地上のオブジェクトを一掃すると風のように去って行った。
『ホントにもう♡』

 ※

 ……む!!
 またしてもオブジェクトのフォーメーション。
 てか、その周りを巨大な鳥みたいのがいっぱい飛んでる。
 頭と尻尾がイモムシになってて可愛くない。
 ……これって、ひょっとして召喚タイプ?
 そう言えば、おじ様が最初に出て来たのは鳥みたいな魔獣だったって言ってたっけ。
 ……ならば。
「何回かやっつけてるとモヘちゃんが出て来るかも♡」
『別バージョンとかあるかもしれませんよ、お母様』
「おお~♡」
 別バージョンのモヘちゃん欲しいかも♡
「よぉ~し、やるぞぉ~♪」
 手っ取り早く、巨大鳥を重力魔法で一気に撃滅。
 すると、オブジェクトが新たな魔獣を召喚。
 現れたのは背中がイソギンチャクの巨大ゴリラ。
 ……で、落っこちた。
「………」
『………』
「「「………」」」
 ………空の上なのに。
 ……下で潰れてる……キモい。
 元のモヘちゃんぐらい大きさなら落っこちても平気だろうけど…。オブジェクトって、あんまり融通性がないらしい。
 まあいいわ、落っこちたのはゴリラだし…。次に期待しよう。
 続いて出て来たのはオッサンの顔がついた巨大ヒトデ。
 ……しかも笑ってる。これまた可愛くない。
 当然、落っこちた…笑いながら。さっきのゴリラよりはずっとおっきいけど…。やっぱり下で潰れてる。
「………」
『………』
「「「………」」」
 ……オブジェクトを造ったやつって…かなりマヌケ。
 次に出て来たのは……よくわかんない何か。
 なんか長い…んでもって、シワシワ…。所々に丸い袋みたいのがいっぱいついてる。さっきのヒトデよりさらにおっきい。
 ……でも、やっぱり落っこちた。
 ここまでくるとギャグ。
『……ひょっとして、あのオブジェクトは陸戦用なのでは?』
「………」
 なるほど、一理ある。
 てか、ダメじゃん。陸戦用が空の敵と戦ったら。
 さらに続いて出て来たのは……翼のあるブタ。
 …………たぶん、ブタ。……いや、ブタっぽい何か。
 全体的に丸っこい。ブタっ鼻がついてて、目玉が飛び出てて、まだらに毛が生えてる。とにかく可愛くない。
 でも、ようやく飛べそうなのが出てきた。羽ばたいてる。
 ……なのに、落っこちた。
 どうやら本気で陸戦タイプらしい……ダメじゃん。
 おじ様たちって律儀に地上で戦ったのかな?
 とにかく下は死屍累々な感じ…。あれって回収しないとダメかもしんない。全部腐ったらとんでもない事になりそう。
 てか、モヘちゃん全然出て来ないじゃん!

 ※

 オブジェクトの数が中々減らない。
 無理もないか…みんな限界が近い。
 キャサリンもアルベルトもカルカもかなり疲弊してる。
 ここは箱庭に近い分、オブジェクトの数が多い。
 空の分はお母様が一掃したけれど、地上にはまだかなり数が残ってる。
 モーブレフ公も戦闘に参加してくれたけど、予断を許さない状況が続いている。
 ホント、私の担当って貧乏クジばっかりね。
 そんな事を思っていると、馴染み魔力が近づいてきた。
「よぉ、姉さん。助太刀に来たぜ♪」
『……遅くわよ、レクマ』
「すまねぇ…避難に手間取っちまって」
「儂らの分はちゃんと残っておろうな♪」
「……勿論、嫌になるぐらいね」
 レクマとオブロック公が到着した。
「そりゃいい、ちっとは活躍しねぇと十士族の名が廃るぜ!!」
「せっかく、こんなモノをもらった事だしな!!」
「……うむ」
「やって見せよう」
 それに他の十士族もそろった。ようやく勝機が見えて来たかな。
「やっと援軍が来たね」
「楽出来そうかな…」
「ようやくね…」
『……そうね』
 キャサリンが少し安堵した表情になったんだけど…。少し気になる事が発生した…いや、発生しつつある。
「……浮かない顔ね。どうしたの?」
『……お母様が飽きてきたみたい』
「…………え」
『かなり不機嫌な感じ…』
「お掃除早かったけど…飽きるのも早いわね…」
『お母様ですもの。「ラフツール殴りに行ってもいい?」…とか言い始めたら、まずいわね。決定的に』
《ラフツール殴りに行ってもいい?》
『もぉ?!』

 ※

「お姉様、ヒルダお母様が一ヶ所でじっとしてて動かなくなりましたよ?」
『……え?』
「周りにオブジェクトがいっぱい集まってます」
 確かに、青い光点が動かない。その周りが真っ赤になるほどオブジェクトが集まってる。
『………』
 ……これって。
「…囲まれて身動き取れなくなってしまったのでしょうか?」
『……違うわね』
「……え?」
『……まあ、見てみればわかるわ』
 すぐに結界ゴーレムを通じてお母様の様子を映像で表示。
『……やっぱり』
 そこにはお茶してるお母様たちの姿が。しかもオブジェクトの集中砲火を浴びてる真っ最中。
「…………え?!」
 当然だけど、お母様の絶対結界が全ての攻撃を防いでいる。
 てか、こんな状態でお茶する?
『……お母様、真面目にやってよ。アデリナが呆れてるじゃない』
《……む。息抜きぐらいいいじゃない》
『……まだ、10分しか経ってないでしょう?』
《むぅ~…だって、飽きちゃったんだも~ん》
『も~ん…じゃなくて!!』
なんか、ふてくされてティースプーンでお茶をグルグルかき回してる。
《だいたい、魔獣いくら倒してもモヘちゃん出て来ないし…》
『……はぁ??……何の話なの?』
《今回の召喚オブジェクトは別な場所から魔獣を呼び寄せていたらしく。「いつまで経ってもモヘちゃんが出て来ない~!!」って、お母様がヘソを曲げてしまいました》
 ロアンナが事情を説明してくれたんだけど。
『そんなしょうもない理由なの?』
《……だぁってぇ~~》
「まあ、ホントにちっちゃい頃のオフェリアにそっくりね♡」
『ええ~私って、あんなだった?』
「ええ、そうよ。興味のない事はすぐに飽きちゃってね。ホント、機嫌を取るのが大変だったわ」
『ええ~なんかショック~!!』
「そうだ。私がアップルパイ焼いてあげるから…もう少し頑張ってちょうだい♪」
《え、ホント♡》
「ええ、ホントよ♪」
《やったぁ~♡》
《良かったですね、お母様》
《よぉ~し、さっさと終わらせて母上のアップルパイ食べるわよ♪》
《了解です》
「ふふふ♡ホント、オフェリアみたい」
 ……いや、みたいじゃなくて本人だから。
 ……てか。
『……お母様、ちょろ過ぎ…』
 そうこうしてる内に。
 ついに地上に降りたオブジェクトも残り僅かになってきた。
 結構あちこちはげ山にはなったけど、人的被害はほとんどない。このまま終わってくれるといいんだけど。
 まさかとは思うけど、増援とかないよね。
「お姉様、月が…!!」
『…?!』
 ラフツールが次第に大きくなってゆく。移動しているの?
『お母様、ラフツールがこっちに向かって来るわ』
《ラフツールが?!…どこ?どこ?》
《お母様、ここはちょうど反対側です。ラフツールは見えません》
《あ、しまったぁ~!!》
 こっちのお母様も結構マイペース…。
『……出来たら、急いでくださいね』
《だいたい片づいたから…今、そっち行くわ》
 突然、目の前の街路樹の幹に扉が出現して、それを開けてお母様たちが出て来た。
「よいしょ…っと!!」
『……え?』
「……ええ?!」
「何とぉぉ~!!」
「ただいま~♪」
『何でそんなとこから出て来るの!!』
 周りの人たちが驚くでしょう。
「ゲートの魔法って黒い穴みたいで不気味だってキャサリンが言うから…。扉をつけてみました~♡」
『……そうじゃなくて、何で木の幹から出て来るのよ。しかも唐突に扉が現れるし!!』
「……じゃ、この扉はこのまましとくわね。始めからそこにあれば誰も変に思わないでしょう?」
『……だから、何で木の幹……ああ、もういいわ。それよりラフツールよ!ラフツール!!』
「……あれね」
 ゆっくりとラフツールが降りて来る。
 その場にいた全員が空を見上げて驚愕の表情を浮かべている。巨大にも程があるってサイズ。たった一つで辺りが真っ暗になるぐらい。
『ホント、バカみたいにデカイわね』
 てか、未だにオブジェクトがまとわりついてるし。
『……苦戦している割には意外と損害が少ないようね、お母様』
「……そうね」
 やっぱり、手を抜いて戦ってたな……食えない連中。
 さてさて、今度はいったい何をするつもりかしら。
 ……すると。
《我はアグル。神である!!》
「………は?」
 いきなり、とんでも発言をぶちかましてきた。
 何、その唐突にして大々的な神様宣言は。しかもスゲー偉そう。
 ……何なの、このヘチャムクレは。今までずっと裏でこそこそしてたのに居場所がバレたとたんに神様気取りなの?
 ちょっと呆れていると。
「おお…偉大なる神よ…」
「神が我らの前にそのお姿を…」
「おお~何と神々しい」
 変なリアクションが周囲からもれてきた。
『お母様…!!』
「………」
 おまけに私たち以外の全員が土下座まで始める始末。
 ……これは。
 思ってたよりずっと強力な精神支配ね。ちょっと驚きだわ。
 ……ま、私たちには全然効かないんだけど。
「……これはいったい?」
「何故、皆が平伏している…」
 魔族の二人が驚きながら辺りを見回している。
 まあ、何も知らないとそういうリアクションになるよね。
「精神支配よ。アグルの民は自らの被造物に対して絶対的な優位に立てるの。あなたたちは私があげたマジックアイテムがあるから影響を受けないのよ」
 何しろ、精霊騎士のおじ様たちでさえアグルの民を崇拝してた…。純粋に高い魔力だけではあの精神支配は防げない。
 あれが通じないのは異質な魔力の海人族と箱庭の庇護下にある者だけ。
「……何?!」
「そんな事が…」
「……精神支配ですか、厄介ですね…姉上」
「おそらく、そういう風に造ったんでしょうね…」
「……造った…だと?!」
「……では、本当に神なのか?」
 そんなに驚く事?
 生き物を造れたからと言って、すぐに神って事にはならないでしょう。
「錬金術だってホムンクルスを造れるのよ?」
「……確かに」
「かなり制限はあるが…あれも命あるもの。すると我らは錬金術でかの者に造られたのか?」
「まあ…そんなとこかしら…」
 彼らが使う技術は魔法とは無縁だから、100%錬金術と言い切れない。
《我を前に不遜であるぞ、頭を垂れよ!!》
 未だに平伏しない者がいる事に苛立ってるみたい。
「……何を今さら、偉そうに」
《愚かなる者らめが、偉大な我の言霊に従わぬと言うか》
「威張りたいなら…。まずは周りにたかってる雑魚をなんとかしたら?」
 私が皮肉を言うと。
《良かろう、神の力を知るがいい!!》
 ラフツールの周囲に凄まじいエネルギーが。
「……これは?!」
「何をする気だ?」
『お母様!!』
「呆れたわね、あのボッコレ神」
 すぐさま、王都周囲の結界を強化。直後、凄まじい雷撃が周りのオブジェクトを粉砕した。
「……何と」
「これが神の力…」
「おお~神よ」
「偉大なる我らの神アグル」
 周辺の地形が変わるほどの攻撃…。やっぱり、手の内を隠してた。効果的な使い方をする為に。
 ……てか。
 逆に限界を吐露しちゃったわね。余裕でそんな事が出来るならとっくにやってる訳だし。
 そうしなかったのは残りのオブジェクトを呼び寄せてしまうと対応しきれなくなるから。
 つまり、これは精一杯の虚勢。
 ……にしても。
「何してくれちゃってんの。せっかく周辺に損害を出さないようにお掃除してたってゆーのに。こんなに散らかして、後でちゃんとキレイにしてくれるんでしょうね!」
《神の力を目の当たりにしても、まだそんな暴言を吐くか。つくづく愚かな小娘が、身の程をわきまえよ!!》
「……はぁ?偉そうにしたいだけで辺りをさら地にするとか、バカじゃないの。あなたたちもいつまでもエセ神に平伏してるんじゃないわよ!!」
『そうそう、あんなの神でも何でもないわ!!』
 私とオフェリアで周りの連中を一括すれば。
「主に向かって何という暴言!!」
「愚かな魔女どもが!」
「身の程知らずが!!」
 たちまち、大ブーイング。
「……お姉様…神様ですよ。早く頭を下げてください!!」
「何と…我が孫娘までおかしくなっておる」
 しかも、アデリナまでエセ神の信奉者になってるし。
「だいたい、今さらやって来て何を…」
《そなたらを救ったのは我である》
「……は?」
《我が行使した偉大な力をこの魔女めらが…さも自分たちがしたよう見せただけなのだ!!》
 こいつ、言うに事かいて……私たちの苦労までかっさらうつもりなの?
 なんつー図々しさ。なんつーセコさ。
「他人の手柄まで横取りとはずいぶんセコい神様も居たものね!!」
《下賤な魔女の言葉に惑わされるでないぞ。我の言葉にウソ偽りがあろうはずがない。我こそが神である!!》
 ……うわ~スッゲー。こんな図々しいやつ見た事ない。
 てか、こんなやつが創造主とか絶対にヤダ!
「おお、この場に及んでも…何という恥知らずな暴言を。ぺてん師どもが…」
「こんな魔女どもは捕らえて縛り首にしろ!」
「そうだ、そうだ!!」
「魔女どもを捕まえろ!!」
「お姉様ぁ~~!!」
 またしても大ブーイング。
『……どうしますか、お母様?』
「……ん~」
 ……要するに民衆を盾に私たちを従わせたい訳ね。まあ、正義とか大義名分とかで動いてる連中には堪えるだろうけど。
 私は何ともないんだよね~別に。
《今すぐに頭を垂れよ。さすれば、例え下賤な魔女風情であっても寛大なる目こぼしをしてやろうぞ》
 ほら、来た。やっぱり、私たちの力を利用したいのね…思惑が丸見えじゃない。
「おお~何という慈悲」
「神よ、我らがアグルよ」
「さぁ、神の慈悲にすがるなら、今の内だぞ!」
「そうだ、そうだ、この下賤な魔女どもが!!」
「身の程を知れ!」
 再びの大ブーイング。ホント一般大衆って…。
「……ヤダ!」
「「「「………」」」」
 私の簡素な返答に一瞬辺りが静まり返った。
《…愚かな…実に愚かなる者らめが!!》
『……言ったの、お母様なのに…。私たちまで愚か者扱いなってるしぃ~!!』
「……別にいいじゃない、あなただってそう思ってたんでしょう?」
『……そりゃそうだけど』
「何という愚かな魔女ども!!」
「神の慈悲がわからぬとは!!」
「こんなやつらに火あぶりにしてしまえ!!」
「「「「おお~~!!」」」」
「お姉様ぁ~~!!」
 なんか、ブーイングを通り越して周りにいた連中が一斉に襲いかかって来たぞ。
「……これは…まずいですね」
「うむ、無垢な民たちを傷つけるのは…」
 ……しかも、魔族の二人があんな事言ってるし。
 ……けど、そんなの私には関係無し!
「重積波」
 辺りの連中全てに超重力魔法をお見舞いして地面に這いつくばらせてやった。一応アデリナとご両親は抜かしてある。
「「……え?」」
 なんかスゲー唖然とした表情で二人がこっち見てる。
《……何だと…?!》
 エセ神まで驚いてる。
「私が手を出さないとでも思った?
「「………」」
《………》
「さすが真なる姉上♡」
 ウィルだけが私の事を絶賛してる。
「………」
《………》
「私は別段、正義の味方でも何でもないの。今回の事は弟の結婚式を邪魔されてちょっとムカついただけだし…」
「「ええ~?!」」
『(……お母様、魔王の一件もあるんだから…一応は大義名分を示さないと…)』
「……そんなの関係ないわね。だいたい、あいつら、私の娘に手を出そうとしたのよ。あなたは妹がイジメられても平気なの?」
『……そりゃまあ…そうなんだけど…』
「……う…動けない…」
「……いったい…何が…」
「……神よ、お助けください…」
「我らを…お救いくださいぃ~」
「神よ…我らのアグルよ…」
「……どうか救いの手を…」
「……お姉様どうなっているのですか?」
「「え?え?」」
 這いつくばってる連中が必死に懇願してる。
 何ともなってないアデリナと彼女の両親はキョロキョロしてる。
「どうしたの?……早く助けてあげたら?……あなたたちの大切な信奉者たちが救いを求めているじゃない?」
《……貴様》
「出来ないわよねぇ…さっきのはウソっぱちだもの♪」
《愚か者が…神の怒りを知るがよい!!》
 再び、凄まじいエネルギーが。ロアンナが前に出ようするので手を上げて牽制しとく。
『わかりました、お母様』
 そう言って、一歩下がるロアンナ。
 直後、私に向けて凄まじい雷撃が放たれた。先ほど、オブジェクトの一群を破壊した、あの一撃が。
「……な?!」
「……く!!」
「いかん!!」
「…なんとぉ」
 魔族の二人と三賢者はとっさに身構えたが…。当然、私の家族は平然としてる。チャラ男二号も。
 私が指一本であっさりと雷撃を止めて見せると。
《……バカな!》
 予想通り、自称神様のマヌケな一言が。
「さすが真なる姉上♡」
「さすがビッグマム♡」
「……バカじゃないの?……この程度の攻撃で私をどうこう出来ると思っていたの?」
《……そんなはずは…こんな事が…あり得ない…》
「……私だって、今まで手の内を隠しておいたのよ。あなたたちは盗み見が得意らしいから♡」
《……バカな…バカな…》
 ……あむ♡
 指先に集めたエネルギーを圧縮して頬張って見せる。
《……な?!》
「……純粋にエネルギーだけね…。魔力は少しも混ざってないわ。こんなんじゃ、私の罰を与えるなんて…夢のまた夢よ♡」
《………》
「……さて」
 指を鳴らして広域魔力結界を作動させ、同時に重力魔法を解く。
 ……とたんに我に返る人々。
「あれ…動ける??」
「……なんだ?」
「おお…立ち上がれるぞ!!」
「「「おお~!。」」」
 自由になって、騒ぎ始めたけど…誰もこっち向かって来ない。
「ウィル様~♡」
「ああ、アデリナ…」
 アデリナはさっそくウィルの元に駆けてった。彼女の両親も後を追って駆けてく。
《……何を…何をしている!!……早く、その不心得者どもを取り押さえよ!》
 一方のエセ神は表向きは偉そうだが、かなり焦った感じになってる。
「……え?」
「何…??」
「……ウソ?!」
「さっきまでの神々しさが…」
 みんな訝しげな顔でラフツールを見上げている。
《………何をした。下賤な魔女風情が!!》
「あなたたちが自らの創造主にしたのと同じ事よ」
《……何?!》
「魔力が創造者と被造物との絶対優位性を覆す。あなたたちはそれを知って創造者の軛を外したのでしょう?」
《……バカな、何故…その事を…》
「バカはあなたたちの方よ。自分たちという実例があるのに私たちをいつまでも支配出来ると思っているんだもの」
《……バカな……おまえたちが知っているはずが…そんな事…ある訳が…》
「あなたたち…本気でバカなの?」
《……な?!》
「例え知らなくたって、ちょっと考えればわかるじゃない。それに海人族を残しておいたのはまずかったわね」
《……あの…実験体か…くそ…》
 あ~あ、本音が駄々もれじゃないの。
「あなたたち、少しばかり私たちをバカにし過ぎよ♪」
《……おのれ…魔女が……下賤な被造物の分際で…》
「その王公貴族みたいな物言いがすでに神様っぽくないわよ」
《貴様!貴様!貴様ぁ~!!……創造主にこのような真似を…許されると思って…》
「その言葉、そっくりあなたたちに返すわ。許すか許されないか、自分たちで証明して見せなさいよ」
《……何を》
 ラフツールの背後に無数の飛行物体が出現した。
「「「「おお~~?!」」」」
 新たに出現した飛行物体に驚愕する人々。
 明らかにオブジェクトとは違う形状のそれが何万と空の彼方に浮かんでる…。
 この世界を……この惑星を取り囲むように。
《………そんな…》
 ……あれは間違いなく、オブジェクトを送り込んだ張本人たち。何せ、オブジェクトと同じように…この世界の外からやって来たのだから。
「ほぉら、来たわよ。あなたたちの創造主が♡」
《……バカな。何故…神が今さら…戻って来るのだ?…あり得ない。こんな事あり得るはずが…》
 もはや、大パニックなアグルの民。
「墓穴を掘ったわね。神の神なんて…ホント、お笑い草だわ」
《……貴様…神が戻って来る事を知っていた…のか》
「当たり前でしょう。オブジェクトの大群が押し寄せて来たのよ、後続があるかどうかぐらい調べるわよ。むしろ、そんな事を予見出来ないあなたたちの方がどうかしてるわ」
《……バカな…バカな》
「さぁ、神様気取りのヘッポコ創造主様。今、そのメッキをはがしてあげる♪」
《……何を》
 ラフツールの周囲に転移陣を構成して一気に転移させる。彼らの創造者の元へ。
《……貴様…ああ…なんという事を…ああ…》
「頑張ってね♡」
 ラフツールの姿を映像でみんなに見せてあげた。
 たぶん、これが最後だから…記念にね♡
 大艦隊の真ん前に転送されたラフツールはさしずめ裁きの間に引き出された犯罪者の心境かな。
《ラウ…アドナ……キラトゥエル……モナカトラ…ギリム…メナ…メナ…》
「……古魔族語ね。おそらく、これがアグルの神の言葉なんだと思う」
「……何と言っているのですか、姉上?」
「一生懸命に命乞いしてるわ。偉大なる我らが創造主とか…永久の忠誠を誓うとか…。バカじゃないの、散々裏切っておいて…今さら忠誠とかないでしょう」
《ドラハマナウ!!》
「……残念、命乞いは無駄だったみたい」
 直後、凄まじいビームの嵐にさらされて、あっという間にラフツールが粉みじんになってゆく…。
 ……あ~あ。
「あっさりとやられちゃって…ホント、どうしようもない創造主様ね」
『それは無理というもの。ラフツールとあの艦隊とでは性能面での差があり過ぎます』
 確かにね……まあ、わかってて矢面に立たせたんだけど。
「まあいいわ、少しは役に立ってくれたから…お陰で創造主の神とやらの実力が理解出来たしね♪」
『お母様、エグい事するわね』
「「「「………」」」」
 魔族の二人を含め、この場にいた全員が信じられないないモノを見るかのように私を見てる。
 そんな凄い事した覚えないんだけど…。
「どぉ?……スッとした?」
 ちょっとミランダに訊いてみた。一連のやり取りは見せていたし…そもそも襲われたの、この子だしね。
《……ちょっと可哀想になるぐらいにね》
 ……そうなの?
 なんか娘にまで引かれた感じになってる…。ちょっと釈然としないわね。
 まあいいわ、私は他人の評価なんて小さい頃から気にしてないから♡
「……さてさて」
 神様のこれまた神様は私たちをどうするつもりかしら。
 こっちも何か言ってくるかな?
 そしたら……せいぜい、ご高説を拝聴しようじゃないの♪
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