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使徒とアップルパイと
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満天の星空。
そこに僅かな歪みが生まれると。
星々の煌めきが大きく揺らぎ、巨大な宇宙船が姿を現した。
やがて、空間の歪みはその周囲にもおよび、数万もの大艦隊が出現する。
その全てがたった一つの惑星を取り囲むように。
「提督。全艦、目標座標に到着しました」
大艦隊の司令船、メインブリッジにオペレーターの声が響き渡る。
「よろしい…引き続き、第一級戦闘配備のまま待機」
「了解。全艦、第一級戦闘配備のまま待機」
提督と呼ばれた男が正面スクリーンに映る惑星を凝視する。髪を短く刈り上げた、五十代前半のいかにも軍人という容姿の男。
「……あれが、禁断の星ゼドルドか。外見は典型的な岩石惑星だが…。マナの濃度はどれぐらいある?」
「……平均で50万ゲルム。一部700万を突破している地点も確認出来ます」
「「「おお…」」」
思わず、メインブリッジ内に驚嘆の声がこだまする。
……その訳は。
「……平均で50万ゲルムか。通常の生物なら数分で死に至るレベルだな」
「かの魔獣が棲む惑星に匹敵するな…」
しみじみとそう言ったのは彼の後ろに座るロワード監察官。白髪混じり初老の男、提督の相談役であり古くからの友人でもある。
「……こんな星に知的生命体を芽生えさせるなど、正気の沙汰ではないな」
「それぐらい、当時の統治者たちは追い詰められていたのだろう…まさに大戦の遺物だよ」
「……まさか、千年も経ってそんなものの処理をさせられるとはな」
「仕方あるまい。その千年後に活動を再開したオブジェクトが一斉に停止したのだ。偶然というにはあまりにもな…。だからこそ、第二陣としてあれだけ数のオブジェクトが送り込まれたのだよ、ウォルデン」
「……ふむ、だが…。その後続のオブジェクトはいったいどこに行ったのだ?……惑星上には確かにいくつか大規模な戦闘の跡は見られるようだが…」
「……確かに」
「オブジェクトの識別反応が確認出来ません」
オペレーターから戸惑いの声が。
「何?!……一つもか?」
「……皆無です」
「……いったい、この惑星で何があった…」
『惑星上に僅かな歪みがあります。北緯30度付近』
提督の隣にいた女性が無機質に口を開く。美しい顔立ちをしているがその容姿もどこか無機質めいている。
彼女こそ、アリアと呼ばれる統合意志の代弁者である。
「調べろ」
メインスクリーンにカムフラージュされた巨大な物体のシルエットが表示される。
「……これは」
『……ロストアーク』
その言葉に提督が眉をひそめる。
「……反逆者どもに奪われたプラント船か」
「未だに存在していたとは驚きだな」
「……まさか、アグルの民がオブジェクトを全滅させたのか?」
『可能性としては一番高いでしょう』
「……ふむ、思ったより敵は…?!」
スクリーン上のシルエットを挟み込むように幾何学模様が出現する。
「あれは何だ…?」
「わかりません。……ただ、マナの数値が300万を超えています」
「300万だと…?!」
『……あれは、おそらく魔法と呼ばれるものです』
「魔法……だと??」
幾何学模様に挟み込まれ、シルエットがスクリーンから消滅すると艦隊の目前に巨大なオブジェクトが出現した。
「ロストアーク……」
「すると…今のは転移なのか?!」
『……おそらくは』
「……だが。何故、ロストアークが目の前に現れる?……隠れていたのではなかったのか?!……いったい、やつらは何を考えているのだ」
「ロストアークより通信」
「……つなげ」
《偉大なる我らのは創造主よ…。我らに戦う意志はありません…永遠の忠誠をお誓いいたします》
「……何だ、これは…。この期におよんで命乞いだと…??」
《……どうか、寛大なるみこころにてお慈悲を…どうか、どうか…》
「散々オブジェクトを破壊しておいて、何を今さら…」
『残念ですが…。統合意志において、あなた方の生存は許可されません』
「………」
提督を差し置いてアリアが無慈悲にそう宣言する。統合意志の決定は絶対だ、誰も異論を差し挟む事は出来ない……いや、しないのだ。
『破壊してください、提督。これはすでに決定事項です』
それは私とて例外ではない。統合意志の正統性を疑う事など我々には決してないからだ。
何故なら…統合意志こそが我々の神、我ら全ては神の使徒なのだから。
「……わかった。全艦攻撃開始、ロストアークを破壊、アグルの民を殲滅せよ!!」
幾筋もの光の帯がロストアークへと注がれる。
だが、意外にもアグルの民が使うシールドは我々の粒子ビームの砲火に耐えていた。
「……驚くべき技術力だな」
「だが、それも時間の問題だ」
少しずつシールドが弱まってゆく…持って、後数分というところだろう。あの技術自体は少々惜しいが、魔力を利用したものでは我々にとっては宝の持ち腐れだ。
「…?!」
先ほど見たものと同じような幾何学模様がオブジェクトの表面に出現した。
「転移で逃げるつもりか…。重力弾に切り替えろ、一気に破壊するのだ!」
「了解!!」
重力弾は易々とシールドを通過、オブジェクト表面に穴を開けた。やはり、多少の性能の違いはあっても基本的なコンセプトは同じようだ。あのシールドはエネルギービームの類いは防げても実弾は防げない。
転移するひまもなくあっさりとアグルのオブジェクトは宇宙のチリとなった。
「粒子ビームを防いのは少し意外だったが……最後は呆気ないものだな」
「提督、ロストアークが停泊していた地点に不可思議なモノが…」
「……不可思議なモノ?」
「一辺が500メートルほどの立方体ですが…何も観測出来ないのです」
何も観測出来ない立方体だと?
「スクリーンに出せ」
画面に映し出されたのはうっそうとした森だけだった。
「……どこにそんな立方体がある??」
「赤外線映像に切り替えます」
するとそこには確かに立方体の形状をした闇が映し出されいた。
「……これは」
「可視光以外全てで同一の物体を検知して……いえ、ここだけ何も検知出来ません」
「……何なのだ…これは?」
「わからんが、アグルと何か関係があるのかもしれん」
ふむ、アグルも中々厄介なモノを残してくれたな。
「……まあいい、この物体の詮索は後回しだ」
それより問題はアグルが造ったという惑星上の民だ…。
「……無垢の民を根絶やしにしなければならないというのは酷な話だが…」
これも統合意志の…神の決定だ。断固たる意志を持って行わなければ。
『従来通り、宣言は私が行いましょう』
「よろしく頼む」
……殲滅宣言などしたくはないからな。
ふっ……それを行うのは我々だというのに…バカな話だ。
※
艦隊より世界中に向けて宣言のようなものが発せられていた。
《リエエズナ、バデルラーデルトモズマ…》
「ふむふむ、やっぱり古魔族が彼らの言語らしいわね」
さして興味もなさそうにヒルダが言う。
「何と言っているのですか?…真なる姉上」
「我々は束ねられし思考…神の使い。アグルの造りし人間…汝らアグルの深き罪…生存は許される事なき。…が、慈悲を与える…苦しみなく眠る事…約束する……こんなところかしら?」
「お見事ですな」
魔族の王が感心したように言う。
《ダガルマドナ…》
「……どうやら繰り返すみたいだから。翻訳して、みんなにもわかるように聞かせてあげましょう」
パチンと軽く指を鳴らすと。
《……我らは統合意志たる神の使徒である。アグルの民の造りし魔の民族たちよ、汝らは反逆者アグルの原罪であり、その生存は決して許される事はない。が、汝らには罪はない。せめてもの慈悲として苦しむ事なく眠りつかせる事を約束しよう、安らかなれ》
「……ま、要するに私たちの絶滅宣言ね」
まるでつまらないギャグの説明でもするように肩を上げておどけて見せる。
「……何だ、これは」
「神…使徒だって?」
「さっきのアグルってやつは違うのか?」
「いったい、何がどうなってんだよ!!」
なんか、外野が混乱してきたわね。
「どうするのですか?…真なる姉上」
「そんなもん、徹底抗戦に決まってるじゃない。……いや、ちょっと違うわね。徹底殲滅戦よ!」
「「……殲滅戦??」」
「だいたい…私に喧嘩売って、ただで済むとでも思ってんの…少し言い返してやるわ」
宣言は終了した……後は殲滅戦に移行するだけだ。
何度か行ってきた事だが…正直、気が重い。統合意志の正統性は理解しているが…。
《言いたい事はそれだけかしら?》
……何?!
メインスクリーンに少女の姿が映り込んできた。
ふんぞり返って腕組みをした十代前半ぐらいの可愛いらしい女の子である。
「……これは、何だ??」
「惑星上から本艦の通信システムに割り込んできています」
……何だと。
《黙って聞いてれば偉そうに…さすがアグルの創造主ね。いけすかないところがそっくりだわ》
実に流暢な言葉使いで我々に抗議している。
これはどういう事だ…。アグルの創造した民族は何も知らないはずではなかったのか?
「………」
アリアが先ほどからずっと彼女を凝視している……いや、本星と意志の疎通をしているのか。こんなにも長く統合意志が考えを巡らせているなど初めてだ。
『……あなたは何者です?』
「……?!」
アリアが少女に応えた……だと?!
統合意志の代弁者たる彼女が。つまり、神が彼女に応えた事になる。
《あら、意外ね……返事が返ってくるとは思わなかったわ。私はヒルダ、みんなには『迷いの森の魔女』と呼ばれているわ》
『……魔女。……あなたはこの惑星の代表ですか?』
《さぁ、それはわからないけど…あなたたちが送り込んで来たオブジェクトをお掃除したのは私の家族とお友達よ♡》
そう言って手のひらの上に巨大なオブジェクトを転移させてみせる女の子。
バカな、生身で転移が使えるのか…。超能力者でも補助機器がない限り不可能なのだぞ。
『……あなたは人ではありませんね』
何だと?!
《そうね、確かに違うかもしれない。私は箱庭を造る為に自分自身すら組み換えてきたもの》
「……何という…そんな事が本当に可能なのか?」
「わからん…魔法と呼ばれる技術体系は我々にとっては全く未知の分野だからな。高魔力下での生物体変異は観測されてはいるが…実証された事はない」
「……そうだろうな」
そもそもが高魔力下での生物の生存など不可能なのだから…。
だからこそ、ここは禁断の地なのだ。
さしずめ、この地に住む人間は魔人と言ったところか。
『……箱庭とはアグルの民が停泊していた地点の真下にある不可思議な立方体の事ですか?』
《ええ、そうよ》
……何、あの奇妙な立方体はあの子が造ったモノなのか。
『……あれは何です?』
《何でも出来る…私のお家よ》
『……何でも出来る…家』
《そんな事より、あなたこそ誰なのかしら?》
『……私はアリア、12の統合意志の代弁者です』
《統合意志…ねぇ。惑星規模の知性意識の集合体かしら?……つまり、それが神という訳ね》
『ご推察の通りです、あなたは賢い……統合意志が脅威を感じるほどに』
《ありがとう♡》
『二、三質問があります』
《いいわよ、どうぞ》
『アグルの民を我々の前に引き出したのはあなたですね?』
……何だと?
《ええ、そうよ。さんざん裏でコソコソしてたくせに…正体がバレたら偉そうに神様気取りして、我に従え!みたいな態度を取ったから。偉そうにしてる証拠を見せてもらおうって事でかつてのご主人様とご対面させてあげたの♡》
……アグルの不可解な行動は自分たちの意志ではなく、この少女の仕業だと?!
惑星上ならともかく…彼女の力は宇宙空間にまで及ぶのか……信じられん。
『なるほど、それで逃亡を妨害したのですね?』
《当たり前よ、あれだけ偉そうにして…いざ、自分たちのご主人様に会ったら平謝り、しかも言い訳が通らなければ逃げの一手なんて…。お天道様が許しても私が許さないわ!》
あの時、転移が間に合わなかったのではなく、彼女が妨害までしていたのか…。いや、という事は惑星上からオブジェクトの転移を妨害していた事になる。
そんな事が…。
『……あなたはとても危険な存在ですね、私個人としては決して敵対したくはないのですが…』
……個人だと、統合意志の代弁者が。
『12の統合意志はすでに判断を下してしまいました』
《あら、それは残念ね》
『私もそう思います。あなたと敵対するのはあまりにもリスクが高過ぎます…ですが、神の決定は絶対です』
《では、物別れって事ね》
『そういう事です』
通信が切れると同時にアリアが叫ぶ。
『すぐに臨戦体制を!直ちに攻撃を開始してください。彼女はすぐにも…』
スクリーンに閃光が浮かぶ。
「12番アルゴスクラス級戦艦大破!!」
「何だと?!」
スクリーンには真っ二つになった戦艦とオブジェクトの残骸が映り込んでいた。
「……何だ、これは……いったい?」
『地上からです。彼女が転移で直接こちらの艦船を迎撃しています!!』
「……何?!」
まさか、オブジェクトを転移でぶつけているのか?!
何というデタラメな戦法…。
「そぉ~れ、もういっちょう♡」
手元を転移させたオブジェクトを投球モーションからさらに宇宙へと転移させる。
……と、空の彼方で閃光が。
「命中でぇ~す♡」
『お見事です、お母様♡』
「さすが真なる姉上♡」
「さすがはビックマム♡」
家族とチャラ男二号には大好評。
「「♡」」
ソルとルナもおおはしゃぎで喜んでる。
……一方。
「「「ヒィ~~!!」」」
周りにいた一般人はみんな頭を抱えてしゃがみ込んでる。
「……大丈夫よ、ちゃんと周りに気をつけて投げてんだから♪」
「何という…何という…」
「……ムチャクチャ過ぎる」
「大丈夫ですか、陛下…??」
アデリナのお爺さんと魔族の二人まで…。
だから、大丈夫だって言ってるじゃないの。
「大げさなんだから…もう」
『……お母様、もう少し常識を踏まえて行動してください』
「………む」
なんか、オフェリアにまで文句言われた。
まあいいわ、このまま『地上からオブジェクト投つけ』大作戦で宇宙船どもを撃破してやる。
「……あらら?!」
宇宙戦艦群がチカチカと光り出し、空一面が真っ白に染まった。
『ビーム撃ってきましたね、お母様』
「……やっぱりビームなんだ」
「……ななな…空が真っ白にぃ~!!」
「世界の終わりだぁ~!!」
「ひぃ~~!!」
相変わらず外野がうるさい。
そもそもが…その様子を見てられるんだから、何も問題ないでしょうが…。世界の終わりだったら、もう死んでるつーの。
「大丈夫なのか、オブジェクトとの時より規模が…」
「大丈夫よ、予想通りだから」
ただのビーム。やっぱり、あいつらは魔力を利用出来ない。そんな純粋エネルギーだけの攻撃では私の魔力結界を破れはしない。
……それに。
白一色だった空が再び青に変わる。
「……ビームが…」
「……止んだ…のか?」
空の彼方では宇宙艦船が煙を吹いている。
「使徒の船が…」
「……これはいったい??」
「フッフッフッ♡」
『うまく行きましたね、お母様♡』
『……お母様ったら、結界を改造したんですか?』
「……何ごとか…??」
友軍艦数百隻が煙を吹いている……そんなバカな。
まさか、こちらの攻撃と同時に敵も攻撃してきたのか?
……くそぉ、まさか…いきなり相討ちとは…。
「友軍の損害は?」
「高速艇82隻中破、巡洋艦43隻同じく中破。他、7千隻の艦船に軽微の損害!!」
「敵はそんなに大規模な攻撃しかけてきたのか…」
いったい、どこからそんな攻撃を…。
改めて惑星を見てみれば、大気の色が紫に変わっている。
「……あれは何だ?」
『シールドです』
「……何だと?!」
「惑星上に強力なエネルギーシールドを確認、全域をカバーしています!!」
「……全域だと」
確かに惑星全域が紫に染まっている。あれが全てシールドだと…?!
「……バカな、惑星規模のシールドなど…」
「我らの本星に匹敵するほどの技術力だ…」
「敵は攻撃と同時にシールドを展開したのか??」
『いいえ、シールドを張っただけです。敵からのビーム攻撃は一切ありません』
「何をバカな…見方の艦船がこれほどの損害を受けたのだぞ?」
これで攻撃されていないだと…。
『……あのシールドには外部からのエネルギーを反射させる機能があるようです』
「……な…に…?!」
……シールドがエネルギーを反射??
そんな機能聞いた事もないぞ。
「……すると我々の艦船は見方の撃ったビームで被害を受けたのか…?」
『……そうなります』
「………そんな」
「……なんて事」
……これが魔法なのか?
魔法の力だというのか…。
「……ビームを跳ね返した??」
「そんな事が…」
「おお~…なんという結界……なんという魔法水準の高さ…」
……ん~、お掃除したところにオブジェクトが入り込まないように造った結界だけど。
「意外と役に立ったって感じね♡」
「……意外って」
「ハハハ…」
「……凄過ぎじゃろ」
『……はぁ』
うんうん、おおむね一般大衆にも大好評かな。
……ところで、なんでオフェリアはため息吐いてんの?
……さてと。
これでビーム攻撃はもうして来ないでしょう。
それにしても、あんまり大した事ないわね。アグルの創造主って。
でも、オブジェクトですらあれだけ戦法を変えてきたんだから…すぐにも直接攻撃に変更してくるかな?
よし、先に攻め込んじゃおう♡
いちいち待ってるのもめんどくさいし。
「オフェリア、アップルパイが焼き上がるまで、後どれくらい?」
『……そうねぇ、母上が調理場に向かったのはアグルが来る前だから…後20分ぐらいかしら』
「よぉ~し、後20分はモチベーションを維持出来るわね♡」
「「「「ええ~~?!」」」」
……なんか、外野から変な声がもれてきた。
「世界の危機ですぞ?」
「その通り、今まさに…」
「………」
……何言ってんの、こいつら。
「そんなの関係ないわね」
私にとって重要なのはアップルパイだけよ。
「「「「ええ~~?!」」」」
何でそこで『ええ~?!』なの、アップルパイは大事でしょうが!!
『…………お母様、そんな身も蓋もないことを堂々と』
「さぁ~、やるわよ♡……アップルパイの為に!!」
『お母様、建前を言いましょう♡…建前を♡』
「……堂々と建前と言っている辺り。彼女とあまり変わらないと思うが…」
『ええ~~?!……お母様のせいで私まで』
「……何で私のせいなの?」
おかしくない?……まあいいわ、時間もないし。
「……と、その前に。魔王~!」
《お呼びですか?》
ヒルダの前に魔王の映像が浮かび上がる。
「「「……な?!」」」
「念の為にガーディアンを出しておくから、あいつらが直接攻撃をしてきたら対応しといてちょうだい♪」
《承知致しました、マスター》
「これでよし、二人とも行くわよ」
『ラジャーです、お母様』
「エブリンは合体。パーフェクトタイプで来なさい」
「ラジャーです♡」
「合体…??」
「パーフェクトタイプ…?」
『エブリンはゴーレムだから』
「……何と?!」
「……人間しか見えんが」
『お母様の最高傑作ですもの♡』
「合体~~♪」
「「合体~~♪」」
ソルとルナがジャンプして丸くなると、黒い球体に包まれてエブリンの両肩の上に浮かぶ。さらに横に亀裂が入り巨大な目が開く。
「パーフェクトエブリン~~♪」
『ソルとルナは元々エブリンのオプションパーツなの。だから、あれが本来の姿』
「…………何とぉ…」
「……不気味な」
「……さて♡」
目深に被っていたフードを外すとコメカミの部分から翼が伸び、髪が白く透き通ってゆく。
「……姿が」
「変わってゆく…」
『あの状態のお母様は箱庭の力を100%引き出せるの』
「……な?!」
「……まだ実力を出し切っていなかったのか?!」
「……む、まだちょっと数が多いわね。手短に済ませる為にこっちも数で行くわ」
「……数??」
「……まだ何か出すのか?」
「分身~~♪」
叫び声と共に100体に分裂するヒルダ。
「なぁ~~?!」
「……何とぉ~?!」
「姉上がこんなにたくさん♡」
「さすがビックマム♡」
「突貫~~♪」
「『ラジャー♪』」
わきゃぁぁ~~♡
ロアンナとエブリンを引き連れ、100体のヒルダが空に舞い上がる。
「転移~~♪」
上空に転移陣が出現するとその中に次々と消えてゆく。
『お母様ったら、ホントにアップルパイが焼き上がる前に決着をつけるつもりね』
「「………」」
《…では、これより各主要都市防衛の為、ゴーレムを配置します》
『よろしくね』
「……ああ、そういえば…魔王がいたな」
「……驚きの連続で忘れていましたね」
王都の上空に転移陣が浮かぶと巨大なゴーレムが。
「……な?!」
「……こんな近くに!!」
「「「ヒィ~~!!」」」
「……何とぉ~」
だが、巨大ゴーレムは王都上空で静止していた。
「「「「………」」」」
「……グライアッド」
「……はい」
「……もう心配するのは止めようと思う」
「……そうですね」
メインスクリーンに映る紫色の惑星。
あのシールドがある限り、粒子ビームよる攻撃は出来ない。
……グレーザーならば。あのシールドを破る事も可能かもしれない。
……が。
もし、破れなかった場合……見方の損害は計り知れない。
やはり、ここは手堅く実弾による攻撃しかあるまい。
「重力弾に変更、北緯30度にある都市を目がけ集中砲火」
「惑星上に転送魔法を確認!」
……何?!
「どこだ?」
「各主要都市の上です、その数12」
今度は何をするつもりだ?
「未確認物体出現……大きい」
「……何だ、あれは?」
都市の上空に金属製の巨大物体が浮かんでいる。
その形に統一性はなく様々な形態をしていた。
人型をしたもの、獣のようなもの、鳥の形や虫の形、果てはオブジェクトのような単純な形状のものなど様々だ。
それらが全てが都市を防衛するかのごとく、上空に静止している。
『おそらく、実弾攻撃に対抗する為の兵器でしょう』
「……そんなものまで…。いや、そもそもあんな巨大なモノをどこから」
『……例の立方体と関係がありそうです』
「……あれか、厄介な」
ともかく、今の時点では探りようがない。目の前のやつをどうにかしなくては。
「あの物体は何の金属で出来ている?」
「……未知の金属です。該当するものがありません」
くそ、こっちも何もわからんか。とりあえず攻撃してみるより他ないな…。
「全艦、都市上空の巨大物体を攻撃せよ!」
凄まじい数の重力弾が発射された。
宇宙空間において実弾に射程はない。力場の干渉を受けない限り一度発射されればどこまでも飛んでゆく。
ましてや、今回は惑星に向けて撃たれたもの。重力による加速も加わり凄まじい威力になるだろう。
例え未知の金属といえど貫けぬ訳が…。
「未知の兵器、エネルギー数値上昇!」
「……何?!」
謎の巨大兵器が眩いばかりの光に包まれると…四方に向けもの凄い量のビームが放たれた。
次々と重力弾が撃ち落とされてゆく。
「……バカな…こんな事が」
その直後。
ズズゥゥン!!
ドズゥゥン!!
遠くから鈍い振動が伝わってきた。それも複数。
「今の衝撃は何か?!」
「7番重巡オクタシア。および、12番要塞空母ゼロス、25番装甲戦艦ガドルマ、71番高速艇ビドール大破!!」
「……何?!」
同時に四隻も攻撃されたのか?
「艦艇の間に無数の魔力反応を確認。敵はゼロ距離攻撃を敢行しています!」
「何だと?!」
「……およそ百体はいるかと」
百体だと……そんな数の兵器を一気に転送してきたのか?
くそ、未知の兵器に気を取られ過ぎた。
相手は攻守を同時に行っていたのか…。これでは地上を攻撃しているどころではない。
「スクリーンに出せ!!」
くそ…今度はいったい、どんな兵器が…。
………。
「………え?」
スクリーン上に映っていたのは大きなトカゲに乗った女の子の集団だった。
しかも、その姿はあの時の少女そのもの。
それがこんなにもたくさん…。
「……そんな」
「……何だ…これは……兵器を転送してきたのではなかった…のか??」
「バカな…生身で宇宙空間に……あり得ない」
これが魔法と呼ばれる未知の技術なのか?!
こんな、バカげた光景が。
『……何という事』
「…?!」
アリアまでが目を見開いてスクリーンを凝視している。統合意志ですら驚嘆に値するほどなのか…。
『あれはおそらく、ビルドバンデンスバッチの幼体でしょう』
「……何?!」
あのトカゲのようなものは…かの魔獣なのか?!
我々ですら利用出来ない代物を飼い慣らしたというのか!!
いや、そもそもが…。
「何故、全て同じ姿をしている……クローンなのか?」
『……それに類するものだと』
くそ、何という事だ…。
「真空中でも活動可能なクローン兵とは…」
……少しばかり敵を侮り過ぎていた。いや、あまりにも想定外過ぎて対応が追いつかないのだ。
やつら…自由自在に艦艇の間を動き回っている。いったい動力は何なのだ??
いや、乗っているのも、乗せているのも生き物だ…。動力などあろうはずが。
くそ、くそ、頭がおかしくなりそうだ。
「すぐにバトロイドを出撃させろ。艦艇の武装ではどうにもならん!!」
次々と人型の有人機が飛び出してゆく。
……だが、あまりにも標的が小さ過ぎる。歴戦のパイロットでもあれを撃ち落とすのは至難の業だろう。
おまけに相手は減速なしで方向転換までする始末。
予想通り、かなり苦戦している。
……まずい、スピードも相手の方が上のようだ。このままではバトロイド部隊が壊滅するのも時間の問題だぞ。
少しでも欠点を見つけようと、食い入るように画面を見ていると…。姿かたちの違う個体が目に入った。
「待て!!…今のところをもう一度出せ!」
明らかに違う個体が一つ混じっている。そのすぐそばに量産タイプと異なる黒いクローン兵が寄り添っている。
おそらく、あれが司令塔だ。そして、そばいるのは…その護衛役に違いない。
「あの個体を集中的に攻撃するよう指示を出せ!」
「了解!!」
「……ふ」
恐るべき敵だが、攻略の糸口が見えてきたぞ。
「痛、痛、痛いですぅ。マスタァァ~!!」
エブリンが集中的に攻撃を受けて涙目になっていた。
『お母様、エブリンが集中攻撃されています』
「なんですって!!」
「エブリンが?!」
「おのれ、卑怯者めぇ~!」
「「「卑怯者めぇ~!!」」」
「弱い者苛めぇ~!」
「「「弱い者苛めぇ~!!」」」
「やっちゃえ、やっちゃえぇ~!」
「「「やっちゃえ!やっちゃえぇ~!!」」」
みんなでエブリンを攻撃してる連中をタコ殴りだ~。
司令塔を攻撃していた機体が反対にクローンの集中攻撃を受けている。
「……くそ、推測は正しかったようだが……対応が恐ろしく早い」
「提督、このままではバトロイド部隊が持たないぞ!!」
「わかっている…」
……だが、いったいどうすればいい。
この距離では艦艇の砲撃は出来ない。同士討ちになってしまう。敵はそれをわかった上でゼロ距離で攻撃してきたのだ。
何という事だ…。全てが後手後手…しかも対応しきれていないとは…。
「………」
だが、先ほどから何かがおかしいぞ……何かが。
クタール、シェーラ、エルザムの三人はバトロイドのエースパイロットである。数々の戦場を駆け回り、不可能と言われたミッションの全てをクリアしてきた。
それが今…。
「何だこれは…」
女の子の集団に取り囲まれていた。
「……ウソでしょう、何で女の子のなの?!」
数多くの人型兵器を見てきた彼らにも今回の敵は理解出来なかった。
「そういう見かけになっているだけだ…騙されるな!!」
「悪趣味過ぎるだろ!!」
わきゃぁぁ~♡
機銃もミサイルも簡単にかわされてしまう。
「くそ、何でこんなに速いんだよ」
「……何が動力なの?」
「魔法だって話だ…」
「魔法…??」
しかも攻撃は手に持った黒い金属製の棒状のもので相手をぶっ叩くだけ。先端が丸くて平たい、まるで柄の長いフライパンのような武器。
「……あれって、まさかフライパンじゃないでしょうね?」
「そんな訳あるか!!」
「フライパンを振り回すトカゲに乗った女の子……冗談だろ、まるで!!」
わきゃぁぁ~~♡
「……信じられない。何であの加速で曲がれるの?」
「こなくそぉ~~!!」
わきょ?!
バトロイドの一機がついにクローンを捕まえた。
「やったぞ、クタールが一体捕まえた…」
「よし、この距離なら外さねぇぞ。食らいやがれ!!」
ゼロ距離でのミサイルの発射、爆発で腕が吹き飛ぶ。
「クタール、ムチャをし過ぎよ!!」
「…構ってられるか!!」
「……仕方ないさ…こうでもしないと」
爆煙の中から四散した物体が見えた。
「初黒星♡」
「やったぞ♪……ざまぁ」
……だが。
わきゃぁぁ~♪
爆煙の中から現れたのは四散した残骸などではなく無数に分裂した女の子の集団だった。それが一斉に襲いかかって来る。
「……何だとぉ~?!」
「え?え?え?」
次々とバトロイドにしがみつき装甲を引き剥がしてゆく。
「…何だ、これは…。何なんだよ…これ…?!」
ミサイルの直撃だぞ……何故バラバラにならない。何んで増えてんだよ…?!
「クタァァ~ル!!」
コントロールを失ったバトロイドが煙を吹いて、あらぬ方角に飛んでゆく。
「……やはり、おかしい」
スクリーンを見ながら眉をひそめる提督。
「どうかしたのか、提督?」
「……クローン兵どもの数が……増えていないか?」
「……言われてみれば……確かに」
画面上のクローンの数は百体では利かないほどいる。
「敵兵の数は?…おおよそでいい、すぐに確認しろ!」
「…あ、はい。敵クローンの数は……300を超えています!!」
「……バカな、最初に確認した数の3倍ではないか…!!」
くそ……いつの間にそんな数の増援が…。
「やつらは転送されて来た……おそらく、戦闘の最中も繰り返し転送され続けてきたのだろう」
「……?!」
何という事だ…。あの数は目眩ましでもあったのか。その影に隠れて少しずつ数を増やしてきたのか……くそ。
「まんまとしてやられたな…。敵は想像以上に戦い慣れしているようだ…」
『その推測は間違いです、監察官』
「……何?……それはいったいどういう意味…」
《ウォルデン、大変だぞ…》
スクリーン上に友軍から通信画面が表示される。
第三艦隊の司令からだ。
「ミクスか?」
《……敵の数が増えている》
「ああ、こちらでも今確認したところだ…。いつの間にか増援を転送して…」
《そうじゃない……分裂しているのだ。攻撃を受ける度に!!》
「バカな…何を言っている……そんな事が?!」
『彼の言う事は真実です』
「……バカな、あり得んだろう!!」
《私だって、こんなバカげた事…信じたくはない!!……だが、事実だ。やつら攻撃を受ける度に数が増えているぞ!!》
「すぐに確認しろ!……戦闘の記録を見直すのだ!!」
攻撃される度に分裂するだと…。そんなバカな話があるか?
「それらしき映像を見つけました」
スクリーンに表示されたのはバトロイドとの一対一の戦闘、ミサイルが命中している。爆煙の中から現れたのは二体のクローン。確かに増えているようにも見えるが…。
「これでは確定的とは言えん…。もっと確かなものを探せ!!」
《…敵が増えやがった!!……誰か、誰か助けてくれ。装甲が剥がされる……誰か!!》
「今のは…クタールか?…すぐに回線をつなげ!!」
《提督…提督ぅ…助けてくれぇ…》
スクリーンに映ったのは手のひらサイズのクローンに攻撃されているクタールの姿だった。
「……何だ??……これは?!」
明らかにサイズが違う…。
《至近距離で爆撃したら…こんなに、こんなに…。ウソだろ…こんな事…あり得ない…!!》
たくさんの小さな女の子がクタールの宇宙服を引っ張っている。
《止めろぉ…ヘルメットが…。助けてくれぇ~!!》
映像が途切れると遠くに爆発が見えた。
《クタールがやられた…》
《チクショォォ~!!》
「……バカな…こんなバカな事…」
『ミサイルなどの爆発物は相手の数を増やすだけです、提督』
あれはいったい何なのだ…。我々は何と戦っているのだ?!
『魔法と呼ばれる未知の現象は我々の技術水準を凌駕しています』
「……何だと?!」
『このままでは全滅もあり得ます』
「……全滅」
あんなものに…。あんなものに我が艦隊が全滅させられるというのか?!
わきゃぁぁ♪
スクリーン上を小さな女の子が縦横無尽に飛び回っている姿が。
その間もあちこちで爆発の閃光がブリッジを照らし出す。
すでに見方の艦船は三割が航行不能になっていた。
三割……たったの10分で三割の損害だと…?!
このままでは一時間と立たずに全滅だぞ。あり得ない…こんな事あり得る訳が…。
「第7艦隊旗艦ディグスが…集中攻撃を受けています!!」
くそ、その前に艦隊の統制が維持出来なくなってしまう…。
「援護はどうした?」
「どこもいっぱいで…」
《……ウォルデン》
メインスクリーン上に友軍から通信画面が割り込んでくる。
大怪我を負った第七艦隊の司令が…。
「ランドルフ…」
すでにブリッジはメチャクチャな有り様だった。
《奥の手を使う…》
奥の手だと…まさか。
「……待て、まだ手立てがあるかもしれん。早まるな!!」
《……もう、この艦は持たない…時間がないのだ》
「……死ぬつもりか」
《ただでは死なんさ…。あの化け物どもを道連れにしてやる!》
『彼の意志を尊重すべきです』
「………」
……彼の意志だと?!
本当にそうなのか?……これは統合意志の決定ではないのか?!
「……後を頼んだぞ、ウォルデン」
「……わかった」
スクリーン上で笑うランドルフ。
通信が切れるや否や…大爆発が。
それもすぐに超重力によって収縮する。疑似ブラックホールが見方の艦船数隻と数十体の敵を巻き込んで消え失せた。
「……ランドルフ…おまえの死はムダではなかったぞ。見ろ、やつらの数があんなにも減った。この戦法は有効だ…。すぐに無人艦船に超重力爆弾を装備させてあの化け物どもに食らわせてやれ!」
「局部重力震を観測!……疑似ブラックホールの消滅地点からです!!」
「……何?!」
まさか、超重力空間から脱出するつもりか?
いや、そもそもがまだ生きているのか…?!
空間が大きく揺らぎ、巨大な腕のようなものが現れる。
「……な?!」
ばぁ~~♡
おどけた表情で巨大化した女の子が姿を現した。
「…な…な…な…」
何だ、これは……何故、こんなに…でかくなっている??
移動要塞よりでかいぞ!!
「……あらら、凄い事になってるねぇ」
地上から大乱戦の様子を見上げるアルベルト。
「……あのどでかいヒルダはいったい何??」
カルカも半ば呆れている。
『たぶん、相手のエネルギーを吸収したのだと思うわ』
お母様ですもの…それぐらいは簡単にやるわ。
……にしても。
「……ヒルダ、分裂する度に幼くなってない?」
「そうだね、攻撃も稚拙なってきてるし…」
……確かに。もう素手で叩いたり、引っ掻いたり…挙げ句、噛みついてるし。
「………何かグダグダな感じになってない?」
キャサリンの言う通りすでに。
『……グダグダね』
このままだと収拾がつかなくなりそう。
「うわ、うわ、うわぁ…助けてくれぇ~…」
数人のマイクロヒルダに引きずり回されて残骸の中で悲鳴を上げるクタール。
「クタールだわ、まだ生きてる!」
「何だって」
「くぉらぁぁ~~!!」
叫び声を上げて、レーザーソードを振り回しながらバトロイドで突進すると。
意外にも蜘蛛の子散らすように逃げて行った。
「……まるで子供ね」
「止めろ…止めろ…」
それでもまだ一体残っててクタールを引っ張っていた。
「くぉらぁ~~!!」
バトロイドで摘まみ上げるとしきりにイヤイヤをしている。
「………まるで駄々っ子だわ。こんなのに私たちはやられちゃってる訳??」
「シェーラ、早くそれを投げ捨ててこっちに来い。やつらが集まってるぞ!!」
「……え?」
わきゃぁぁ~♡
「……ヒィ~!!」
慌てて駄々っ子クローンを遠くに投げ捨てるとクタールを抱えてエルザムと合流する。
「あ、あ、あ、あ、ありがとう、だずがった…シェーラ…」
「これからどうするの?……もう燃料も弾薬も切れそうだわ」
「……母艦はやられちまった。手短な艦艇に身を寄せるしかないな……それに」
わきゃぁぁ~~♡
「まごまごしてるとあの化け物どもに囲まれちまう」
「急ぎましょう!」
くそ、あのバカでかい化け物…装甲戦艦をつかんで投げてやがる。まるで巨人と小人の戦いだ。
『……恐るべき敵です。不死身であり、超重力の莫大なエネルギーすら吸収出来るなんて…』
「……のんびりと感心している場合か、あれは切り札の一つなんだぞ」
それが全く通用しないなんて事が…。
『……あるいは、あれは本体ではないのかもしれません』
「……何?!」
『別な場所に本体があり、あれらをコントロールしているのかも』
「確かに最もらしい考えだが……」
その本体とやらはどこに……?!
「あの立方体か?!」
『おそらく』
ならば、あの立方体を破壊すれば…。
いや、地上には未知の巨大兵器が……どうすればいい。
……方法がない訳ではないが……あれは。
『プランデルタへの移行を提言します』
「………」
やはり、そうきたか…。確かに疑似ブラックホールが通用しない時点で取るべき手段はそれしか残されていない。
それにプランデルタならば……立方体を含め、全てを破壊出来るかもしれない。
……だが。
何という事だ……かつての大戦の悪夢を再現する事になろうとは。しかも、この私の手で…。
しかし、やるしかない……他に方法がないのだから。
いかなる理由があろうとも…あの化け物をこの宇宙に解き放つ訳にはいかない!!
スクリーンには依然として暴れ回る巨大な女の子の姿が。
「プランデルタに移行する。速やかに残存艦の全ては恒星外縁部まで撤退せよ!」
「……プランデルタ…!!」
「復唱はどうした?!」
「は…はい!……プランデルタに移行、速やかに残存艦の全ては恒星外縁部まで撤退!!」
「よろしい!!」
まさか、こんなにも早く最終手段を使う事になろうとは…。
「……?!」
ブリッジの窓を外をあの化け物の一体が通り過ぎようとしている。何げなくこちらを振り向くと私と目が合った。
「………」
化け物はこちらに気づいてはっとした様子で口笛を吹くような動作した。
「まずい、化け物に我々の居場所を気づかれたぞ!!」
「敵クローンの全てが本艦を目指して移動を開始しました!!」
「くそ、ハイパードライブだ。早く、恒星外縁部まで転移するのだ、急げ!!」
「……ハイパードライブが可動しません!!」
「何だと??」
そんなバカな……この状態でハイパードライブが出来なければ、我々は…。
『彼女です。あそこに張りついている敵クローンがハイパードライブを妨害しています』
「……何?!」
確かにブリッジの窓の外側にあの化け物がしがみついていた。
あんなものが……あんなものが、たった一つで我が艦の機能を阻害しているのか?
……おのれ、化け物めぇ~!!
「全員、宇宙服は着ているな??」
ホルスターからレーザーガンを抜くと窓に張りついている化け物に向け構える。
「正気か…提督?!」
「全員、何かつかまれ!」
レーザーがブリッジの窓破り、吹き出す空気が化け物を弾き飛ばした。
すぐに緊急シャッターが閉まる。
多少空気はもれたが問題にならない程度だ。
「ムチャにする…」
『ベストな判断です』
「……こうでもしなければ、あの化け物を引き剥がす事は出来なかったからな。ハイパードライブは?」
「航行可能です!!」
「よろしい、すぐに…。いや、まだだ」
「……え?」
「全艦艇に通達、恒星外縁部まで即時撤退。……我が艦は囮としてギリギリまで残る」
「……提督」
「「「………」」」
「全艦艇に通達、恒星外縁部まで即時撤退せよ。繰り返す、恒星外縁部まで即時撤退!!」
「よろしい」
スクリーンには沸き立つ雲のようにクローンの大群が迫ってくる様子が映し出されている。
わきゃぁぁ~♡
「「「………」」」
「……まだだ…まだだぞ」
わきゃぁぁ~~♡
「「「………」」」
「……まだだ…後少し」
わきゃぁぁ~~~♡
「残存艦艇、転移終了!」
「ハイパードライブ!!」
わきゃぁぁ…。
………。
スクリーンが一瞬白染まると……見方の艦艇が見えた。
「……ハイパードライブ終了…恒星外縁部に到達…」
「……よろしい…よくやってくれた…」
なんとか逃げ切ったな…。
「あ~~逃げたぁ~~!」
「「「あ~~逃げたぁぁ~~!!」」」
「追えぇ~~!」
「「「追えぇ~~!!」」」
わきゃぁぁ~♡
《ロアンナ!!》
『ミランダお姉様』
《お母様たちを回収して!!》
『ええ~こんなに可愛いのに♡』
ロアンナの腕の中には子供サイズのお母様が抱っこされていた。
《……何をしてるの、ロアンナ。……てか、エブリンまで》
「えへへへ♡」
エブリンの腕の中にもちっちゃいお母様が。
《……なんかもうグダグダじゃないの》
わきゃぁぁ~♡
すでに飽きてしまったのか、遊んでる者がいる。残骸の影で寝ている者も…。
わきゃぁぁ~♡
意味なく追いかけっ子をしている者もいる。
ロアンナが抱っこしている小さいヒルダを抱え上げると。
『……お母様』
「なぁに、ロアンナ」
『早くしないとアップルパイが焼き上がってしまいます』
「大変だわ、アップルパイよ!」
《…………お母様》
「ロアンナ、あのいっちゃんおっきな分身に私を投げて」
『わかりました。行きますよ、お母様』
「オッケー♪」
投球モーションから。
『シュートォォ!!』
小さいヒルダを全力投球。
「……ん」
大きなヒルダが飛んできた小さいヒルダに気がついて。
……ぺち♪
虫を叩くように両手で挟み込んだ。
「「「………」」」
《……ヒルダ、潰されちゃったけど?》
《そんな訳ないでしょう、アルベルト》
「………んん~??」
おっきな子供ヒルダがグルグル回り始めると徐々に萎んでゆき…。回転が止まると大人のヒルダが立っていた。
「……ふむ、分裂作戦は失敗だったわね」
《お母様…真面目にやって》
「……私はいつも真面目だけど」
《……お母様》
「……さて」
周りを見回すと。
「あなたたち、合体よ!!」
「おお、合体♡」
「「「「合体~~♡」」」」
わきゃぁぁ~♡
大きく両手を広げると、集まってくる分身を抱え上げるようにして一つになるヒルダ。
「……よし♪」
『大きなお母様も素敵です♡』
「ありがとう、ロアンナ」
そう言ってロアンナを手のひらの上に乗せる。
「マスター、私も♡私も♡」
「はいはい♡」
エブリンも手のひらの上に乗せると再び周囲を見回し、視線を一点で止める。
その遥か先には恒星外縁部まで撤退した艦隊が。
「……逃げたかと思ったら…あんなところにいたわ」
『何をしているのでしょう?』
「増援を待っているとか♡」
「あるいは……まだ、どこかに奥の手を隠しているのかも」
再び周囲を見回す巨大ヒルダ。
一方、外縁部に停泊している艦隊は。
スクリーンに映し出された巨大ヒルダを見つめていた。
『超巨大個体が周囲を見回しているようです』
「我らの策に感づいたのか?」
だが、探したとて見つかりはしないぞ。恒星破壊砲はおまえたちの死角にあるのだからな。
プランデルタ……恒星破壊砲による恒星系そのもの消滅計画。
いくら化け物でも母星を失ってはただでは済むまい。
何しろ、あそこには例の立方体があるのだから。
「恒星破壊砲、カウントダウン…10、9、8、7」
「……変ね、何もないわ。おかしいわね」
何かをしかけてくるとしても視界に入る距離でなければ間に合いはしないはずなのに……でも何か。
「4、3、2、1……恒星破壊砲発射!!」
太陽の向こう側で巨大な宇宙砲台が不気味な青い光を放っていた。
「……?!」
太陽の向こうに何かある?!
「今さら気づいても手遅れだ。自分たちの太陽と共にこの宇宙から消え失せるがいい、化け物ども!!」
そこに僅かな歪みが生まれると。
星々の煌めきが大きく揺らぎ、巨大な宇宙船が姿を現した。
やがて、空間の歪みはその周囲にもおよび、数万もの大艦隊が出現する。
その全てがたった一つの惑星を取り囲むように。
「提督。全艦、目標座標に到着しました」
大艦隊の司令船、メインブリッジにオペレーターの声が響き渡る。
「よろしい…引き続き、第一級戦闘配備のまま待機」
「了解。全艦、第一級戦闘配備のまま待機」
提督と呼ばれた男が正面スクリーンに映る惑星を凝視する。髪を短く刈り上げた、五十代前半のいかにも軍人という容姿の男。
「……あれが、禁断の星ゼドルドか。外見は典型的な岩石惑星だが…。マナの濃度はどれぐらいある?」
「……平均で50万ゲルム。一部700万を突破している地点も確認出来ます」
「「「おお…」」」
思わず、メインブリッジ内に驚嘆の声がこだまする。
……その訳は。
「……平均で50万ゲルムか。通常の生物なら数分で死に至るレベルだな」
「かの魔獣が棲む惑星に匹敵するな…」
しみじみとそう言ったのは彼の後ろに座るロワード監察官。白髪混じり初老の男、提督の相談役であり古くからの友人でもある。
「……こんな星に知的生命体を芽生えさせるなど、正気の沙汰ではないな」
「それぐらい、当時の統治者たちは追い詰められていたのだろう…まさに大戦の遺物だよ」
「……まさか、千年も経ってそんなものの処理をさせられるとはな」
「仕方あるまい。その千年後に活動を再開したオブジェクトが一斉に停止したのだ。偶然というにはあまりにもな…。だからこそ、第二陣としてあれだけ数のオブジェクトが送り込まれたのだよ、ウォルデン」
「……ふむ、だが…。その後続のオブジェクトはいったいどこに行ったのだ?……惑星上には確かにいくつか大規模な戦闘の跡は見られるようだが…」
「……確かに」
「オブジェクトの識別反応が確認出来ません」
オペレーターから戸惑いの声が。
「何?!……一つもか?」
「……皆無です」
「……いったい、この惑星で何があった…」
『惑星上に僅かな歪みがあります。北緯30度付近』
提督の隣にいた女性が無機質に口を開く。美しい顔立ちをしているがその容姿もどこか無機質めいている。
彼女こそ、アリアと呼ばれる統合意志の代弁者である。
「調べろ」
メインスクリーンにカムフラージュされた巨大な物体のシルエットが表示される。
「……これは」
『……ロストアーク』
その言葉に提督が眉をひそめる。
「……反逆者どもに奪われたプラント船か」
「未だに存在していたとは驚きだな」
「……まさか、アグルの民がオブジェクトを全滅させたのか?」
『可能性としては一番高いでしょう』
「……ふむ、思ったより敵は…?!」
スクリーン上のシルエットを挟み込むように幾何学模様が出現する。
「あれは何だ…?」
「わかりません。……ただ、マナの数値が300万を超えています」
「300万だと…?!」
『……あれは、おそらく魔法と呼ばれるものです』
「魔法……だと??」
幾何学模様に挟み込まれ、シルエットがスクリーンから消滅すると艦隊の目前に巨大なオブジェクトが出現した。
「ロストアーク……」
「すると…今のは転移なのか?!」
『……おそらくは』
「……だが。何故、ロストアークが目の前に現れる?……隠れていたのではなかったのか?!……いったい、やつらは何を考えているのだ」
「ロストアークより通信」
「……つなげ」
《偉大なる我らのは創造主よ…。我らに戦う意志はありません…永遠の忠誠をお誓いいたします》
「……何だ、これは…。この期におよんで命乞いだと…??」
《……どうか、寛大なるみこころにてお慈悲を…どうか、どうか…》
「散々オブジェクトを破壊しておいて、何を今さら…」
『残念ですが…。統合意志において、あなた方の生存は許可されません』
「………」
提督を差し置いてアリアが無慈悲にそう宣言する。統合意志の決定は絶対だ、誰も異論を差し挟む事は出来ない……いや、しないのだ。
『破壊してください、提督。これはすでに決定事項です』
それは私とて例外ではない。統合意志の正統性を疑う事など我々には決してないからだ。
何故なら…統合意志こそが我々の神、我ら全ては神の使徒なのだから。
「……わかった。全艦攻撃開始、ロストアークを破壊、アグルの民を殲滅せよ!!」
幾筋もの光の帯がロストアークへと注がれる。
だが、意外にもアグルの民が使うシールドは我々の粒子ビームの砲火に耐えていた。
「……驚くべき技術力だな」
「だが、それも時間の問題だ」
少しずつシールドが弱まってゆく…持って、後数分というところだろう。あの技術自体は少々惜しいが、魔力を利用したものでは我々にとっては宝の持ち腐れだ。
「…?!」
先ほど見たものと同じような幾何学模様がオブジェクトの表面に出現した。
「転移で逃げるつもりか…。重力弾に切り替えろ、一気に破壊するのだ!」
「了解!!」
重力弾は易々とシールドを通過、オブジェクト表面に穴を開けた。やはり、多少の性能の違いはあっても基本的なコンセプトは同じようだ。あのシールドはエネルギービームの類いは防げても実弾は防げない。
転移するひまもなくあっさりとアグルのオブジェクトは宇宙のチリとなった。
「粒子ビームを防いのは少し意外だったが……最後は呆気ないものだな」
「提督、ロストアークが停泊していた地点に不可思議なモノが…」
「……不可思議なモノ?」
「一辺が500メートルほどの立方体ですが…何も観測出来ないのです」
何も観測出来ない立方体だと?
「スクリーンに出せ」
画面に映し出されたのはうっそうとした森だけだった。
「……どこにそんな立方体がある??」
「赤外線映像に切り替えます」
するとそこには確かに立方体の形状をした闇が映し出されいた。
「……これは」
「可視光以外全てで同一の物体を検知して……いえ、ここだけ何も検知出来ません」
「……何なのだ…これは?」
「わからんが、アグルと何か関係があるのかもしれん」
ふむ、アグルも中々厄介なモノを残してくれたな。
「……まあいい、この物体の詮索は後回しだ」
それより問題はアグルが造ったという惑星上の民だ…。
「……無垢の民を根絶やしにしなければならないというのは酷な話だが…」
これも統合意志の…神の決定だ。断固たる意志を持って行わなければ。
『従来通り、宣言は私が行いましょう』
「よろしく頼む」
……殲滅宣言などしたくはないからな。
ふっ……それを行うのは我々だというのに…バカな話だ。
※
艦隊より世界中に向けて宣言のようなものが発せられていた。
《リエエズナ、バデルラーデルトモズマ…》
「ふむふむ、やっぱり古魔族が彼らの言語らしいわね」
さして興味もなさそうにヒルダが言う。
「何と言っているのですか?…真なる姉上」
「我々は束ねられし思考…神の使い。アグルの造りし人間…汝らアグルの深き罪…生存は許される事なき。…が、慈悲を与える…苦しみなく眠る事…約束する……こんなところかしら?」
「お見事ですな」
魔族の王が感心したように言う。
《ダガルマドナ…》
「……どうやら繰り返すみたいだから。翻訳して、みんなにもわかるように聞かせてあげましょう」
パチンと軽く指を鳴らすと。
《……我らは統合意志たる神の使徒である。アグルの民の造りし魔の民族たちよ、汝らは反逆者アグルの原罪であり、その生存は決して許される事はない。が、汝らには罪はない。せめてもの慈悲として苦しむ事なく眠りつかせる事を約束しよう、安らかなれ》
「……ま、要するに私たちの絶滅宣言ね」
まるでつまらないギャグの説明でもするように肩を上げておどけて見せる。
「……何だ、これは」
「神…使徒だって?」
「さっきのアグルってやつは違うのか?」
「いったい、何がどうなってんだよ!!」
なんか、外野が混乱してきたわね。
「どうするのですか?…真なる姉上」
「そんなもん、徹底抗戦に決まってるじゃない。……いや、ちょっと違うわね。徹底殲滅戦よ!」
「「……殲滅戦??」」
「だいたい…私に喧嘩売って、ただで済むとでも思ってんの…少し言い返してやるわ」
宣言は終了した……後は殲滅戦に移行するだけだ。
何度か行ってきた事だが…正直、気が重い。統合意志の正統性は理解しているが…。
《言いたい事はそれだけかしら?》
……何?!
メインスクリーンに少女の姿が映り込んできた。
ふんぞり返って腕組みをした十代前半ぐらいの可愛いらしい女の子である。
「……これは、何だ??」
「惑星上から本艦の通信システムに割り込んできています」
……何だと。
《黙って聞いてれば偉そうに…さすがアグルの創造主ね。いけすかないところがそっくりだわ》
実に流暢な言葉使いで我々に抗議している。
これはどういう事だ…。アグルの創造した民族は何も知らないはずではなかったのか?
「………」
アリアが先ほどからずっと彼女を凝視している……いや、本星と意志の疎通をしているのか。こんなにも長く統合意志が考えを巡らせているなど初めてだ。
『……あなたは何者です?』
「……?!」
アリアが少女に応えた……だと?!
統合意志の代弁者たる彼女が。つまり、神が彼女に応えた事になる。
《あら、意外ね……返事が返ってくるとは思わなかったわ。私はヒルダ、みんなには『迷いの森の魔女』と呼ばれているわ》
『……魔女。……あなたはこの惑星の代表ですか?』
《さぁ、それはわからないけど…あなたたちが送り込んで来たオブジェクトをお掃除したのは私の家族とお友達よ♡》
そう言って手のひらの上に巨大なオブジェクトを転移させてみせる女の子。
バカな、生身で転移が使えるのか…。超能力者でも補助機器がない限り不可能なのだぞ。
『……あなたは人ではありませんね』
何だと?!
《そうね、確かに違うかもしれない。私は箱庭を造る為に自分自身すら組み換えてきたもの》
「……何という…そんな事が本当に可能なのか?」
「わからん…魔法と呼ばれる技術体系は我々にとっては全く未知の分野だからな。高魔力下での生物体変異は観測されてはいるが…実証された事はない」
「……そうだろうな」
そもそもが高魔力下での生物の生存など不可能なのだから…。
だからこそ、ここは禁断の地なのだ。
さしずめ、この地に住む人間は魔人と言ったところか。
『……箱庭とはアグルの民が停泊していた地点の真下にある不可思議な立方体の事ですか?』
《ええ、そうよ》
……何、あの奇妙な立方体はあの子が造ったモノなのか。
『……あれは何です?』
《何でも出来る…私のお家よ》
『……何でも出来る…家』
《そんな事より、あなたこそ誰なのかしら?》
『……私はアリア、12の統合意志の代弁者です』
《統合意志…ねぇ。惑星規模の知性意識の集合体かしら?……つまり、それが神という訳ね》
『ご推察の通りです、あなたは賢い……統合意志が脅威を感じるほどに』
《ありがとう♡》
『二、三質問があります』
《いいわよ、どうぞ》
『アグルの民を我々の前に引き出したのはあなたですね?』
……何だと?
《ええ、そうよ。さんざん裏でコソコソしてたくせに…正体がバレたら偉そうに神様気取りして、我に従え!みたいな態度を取ったから。偉そうにしてる証拠を見せてもらおうって事でかつてのご主人様とご対面させてあげたの♡》
……アグルの不可解な行動は自分たちの意志ではなく、この少女の仕業だと?!
惑星上ならともかく…彼女の力は宇宙空間にまで及ぶのか……信じられん。
『なるほど、それで逃亡を妨害したのですね?』
《当たり前よ、あれだけ偉そうにして…いざ、自分たちのご主人様に会ったら平謝り、しかも言い訳が通らなければ逃げの一手なんて…。お天道様が許しても私が許さないわ!》
あの時、転移が間に合わなかったのではなく、彼女が妨害までしていたのか…。いや、という事は惑星上からオブジェクトの転移を妨害していた事になる。
そんな事が…。
『……あなたはとても危険な存在ですね、私個人としては決して敵対したくはないのですが…』
……個人だと、統合意志の代弁者が。
『12の統合意志はすでに判断を下してしまいました』
《あら、それは残念ね》
『私もそう思います。あなたと敵対するのはあまりにもリスクが高過ぎます…ですが、神の決定は絶対です』
《では、物別れって事ね》
『そういう事です』
通信が切れると同時にアリアが叫ぶ。
『すぐに臨戦体制を!直ちに攻撃を開始してください。彼女はすぐにも…』
スクリーンに閃光が浮かぶ。
「12番アルゴスクラス級戦艦大破!!」
「何だと?!」
スクリーンには真っ二つになった戦艦とオブジェクトの残骸が映り込んでいた。
「……何だ、これは……いったい?」
『地上からです。彼女が転移で直接こちらの艦船を迎撃しています!!』
「……何?!」
まさか、オブジェクトを転移でぶつけているのか?!
何というデタラメな戦法…。
「そぉ~れ、もういっちょう♡」
手元を転移させたオブジェクトを投球モーションからさらに宇宙へと転移させる。
……と、空の彼方で閃光が。
「命中でぇ~す♡」
『お見事です、お母様♡』
「さすが真なる姉上♡」
「さすがはビックマム♡」
家族とチャラ男二号には大好評。
「「♡」」
ソルとルナもおおはしゃぎで喜んでる。
……一方。
「「「ヒィ~~!!」」」
周りにいた一般人はみんな頭を抱えてしゃがみ込んでる。
「……大丈夫よ、ちゃんと周りに気をつけて投げてんだから♪」
「何という…何という…」
「……ムチャクチャ過ぎる」
「大丈夫ですか、陛下…??」
アデリナのお爺さんと魔族の二人まで…。
だから、大丈夫だって言ってるじゃないの。
「大げさなんだから…もう」
『……お母様、もう少し常識を踏まえて行動してください』
「………む」
なんか、オフェリアにまで文句言われた。
まあいいわ、このまま『地上からオブジェクト投つけ』大作戦で宇宙船どもを撃破してやる。
「……あらら?!」
宇宙戦艦群がチカチカと光り出し、空一面が真っ白に染まった。
『ビーム撃ってきましたね、お母様』
「……やっぱりビームなんだ」
「……ななな…空が真っ白にぃ~!!」
「世界の終わりだぁ~!!」
「ひぃ~~!!」
相変わらず外野がうるさい。
そもそもが…その様子を見てられるんだから、何も問題ないでしょうが…。世界の終わりだったら、もう死んでるつーの。
「大丈夫なのか、オブジェクトとの時より規模が…」
「大丈夫よ、予想通りだから」
ただのビーム。やっぱり、あいつらは魔力を利用出来ない。そんな純粋エネルギーだけの攻撃では私の魔力結界を破れはしない。
……それに。
白一色だった空が再び青に変わる。
「……ビームが…」
「……止んだ…のか?」
空の彼方では宇宙艦船が煙を吹いている。
「使徒の船が…」
「……これはいったい??」
「フッフッフッ♡」
『うまく行きましたね、お母様♡』
『……お母様ったら、結界を改造したんですか?』
「……何ごとか…??」
友軍艦数百隻が煙を吹いている……そんなバカな。
まさか、こちらの攻撃と同時に敵も攻撃してきたのか?
……くそぉ、まさか…いきなり相討ちとは…。
「友軍の損害は?」
「高速艇82隻中破、巡洋艦43隻同じく中破。他、7千隻の艦船に軽微の損害!!」
「敵はそんなに大規模な攻撃しかけてきたのか…」
いったい、どこからそんな攻撃を…。
改めて惑星を見てみれば、大気の色が紫に変わっている。
「……あれは何だ?」
『シールドです』
「……何だと?!」
「惑星上に強力なエネルギーシールドを確認、全域をカバーしています!!」
「……全域だと」
確かに惑星全域が紫に染まっている。あれが全てシールドだと…?!
「……バカな、惑星規模のシールドなど…」
「我らの本星に匹敵するほどの技術力だ…」
「敵は攻撃と同時にシールドを展開したのか??」
『いいえ、シールドを張っただけです。敵からのビーム攻撃は一切ありません』
「何をバカな…見方の艦船がこれほどの損害を受けたのだぞ?」
これで攻撃されていないだと…。
『……あのシールドには外部からのエネルギーを反射させる機能があるようです』
「……な…に…?!」
……シールドがエネルギーを反射??
そんな機能聞いた事もないぞ。
「……すると我々の艦船は見方の撃ったビームで被害を受けたのか…?」
『……そうなります』
「………そんな」
「……なんて事」
……これが魔法なのか?
魔法の力だというのか…。
「……ビームを跳ね返した??」
「そんな事が…」
「おお~…なんという結界……なんという魔法水準の高さ…」
……ん~、お掃除したところにオブジェクトが入り込まないように造った結界だけど。
「意外と役に立ったって感じね♡」
「……意外って」
「ハハハ…」
「……凄過ぎじゃろ」
『……はぁ』
うんうん、おおむね一般大衆にも大好評かな。
……ところで、なんでオフェリアはため息吐いてんの?
……さてと。
これでビーム攻撃はもうして来ないでしょう。
それにしても、あんまり大した事ないわね。アグルの創造主って。
でも、オブジェクトですらあれだけ戦法を変えてきたんだから…すぐにも直接攻撃に変更してくるかな?
よし、先に攻め込んじゃおう♡
いちいち待ってるのもめんどくさいし。
「オフェリア、アップルパイが焼き上がるまで、後どれくらい?」
『……そうねぇ、母上が調理場に向かったのはアグルが来る前だから…後20分ぐらいかしら』
「よぉ~し、後20分はモチベーションを維持出来るわね♡」
「「「「ええ~~?!」」」」
……なんか、外野から変な声がもれてきた。
「世界の危機ですぞ?」
「その通り、今まさに…」
「………」
……何言ってんの、こいつら。
「そんなの関係ないわね」
私にとって重要なのはアップルパイだけよ。
「「「「ええ~~?!」」」」
何でそこで『ええ~?!』なの、アップルパイは大事でしょうが!!
『…………お母様、そんな身も蓋もないことを堂々と』
「さぁ~、やるわよ♡……アップルパイの為に!!」
『お母様、建前を言いましょう♡…建前を♡』
「……堂々と建前と言っている辺り。彼女とあまり変わらないと思うが…」
『ええ~~?!……お母様のせいで私まで』
「……何で私のせいなの?」
おかしくない?……まあいいわ、時間もないし。
「……と、その前に。魔王~!」
《お呼びですか?》
ヒルダの前に魔王の映像が浮かび上がる。
「「「……な?!」」」
「念の為にガーディアンを出しておくから、あいつらが直接攻撃をしてきたら対応しといてちょうだい♪」
《承知致しました、マスター》
「これでよし、二人とも行くわよ」
『ラジャーです、お母様』
「エブリンは合体。パーフェクトタイプで来なさい」
「ラジャーです♡」
「合体…??」
「パーフェクトタイプ…?」
『エブリンはゴーレムだから』
「……何と?!」
「……人間しか見えんが」
『お母様の最高傑作ですもの♡』
「合体~~♪」
「「合体~~♪」」
ソルとルナがジャンプして丸くなると、黒い球体に包まれてエブリンの両肩の上に浮かぶ。さらに横に亀裂が入り巨大な目が開く。
「パーフェクトエブリン~~♪」
『ソルとルナは元々エブリンのオプションパーツなの。だから、あれが本来の姿』
「…………何とぉ…」
「……不気味な」
「……さて♡」
目深に被っていたフードを外すとコメカミの部分から翼が伸び、髪が白く透き通ってゆく。
「……姿が」
「変わってゆく…」
『あの状態のお母様は箱庭の力を100%引き出せるの』
「……な?!」
「……まだ実力を出し切っていなかったのか?!」
「……む、まだちょっと数が多いわね。手短に済ませる為にこっちも数で行くわ」
「……数??」
「……まだ何か出すのか?」
「分身~~♪」
叫び声と共に100体に分裂するヒルダ。
「なぁ~~?!」
「……何とぉ~?!」
「姉上がこんなにたくさん♡」
「さすがビックマム♡」
「突貫~~♪」
「『ラジャー♪』」
わきゃぁぁ~~♡
ロアンナとエブリンを引き連れ、100体のヒルダが空に舞い上がる。
「転移~~♪」
上空に転移陣が出現するとその中に次々と消えてゆく。
『お母様ったら、ホントにアップルパイが焼き上がる前に決着をつけるつもりね』
「「………」」
《…では、これより各主要都市防衛の為、ゴーレムを配置します》
『よろしくね』
「……ああ、そういえば…魔王がいたな」
「……驚きの連続で忘れていましたね」
王都の上空に転移陣が浮かぶと巨大なゴーレムが。
「……な?!」
「……こんな近くに!!」
「「「ヒィ~~!!」」」
「……何とぉ~」
だが、巨大ゴーレムは王都上空で静止していた。
「「「「………」」」」
「……グライアッド」
「……はい」
「……もう心配するのは止めようと思う」
「……そうですね」
メインスクリーンに映る紫色の惑星。
あのシールドがある限り、粒子ビームよる攻撃は出来ない。
……グレーザーならば。あのシールドを破る事も可能かもしれない。
……が。
もし、破れなかった場合……見方の損害は計り知れない。
やはり、ここは手堅く実弾による攻撃しかあるまい。
「重力弾に変更、北緯30度にある都市を目がけ集中砲火」
「惑星上に転送魔法を確認!」
……何?!
「どこだ?」
「各主要都市の上です、その数12」
今度は何をするつもりだ?
「未確認物体出現……大きい」
「……何だ、あれは?」
都市の上空に金属製の巨大物体が浮かんでいる。
その形に統一性はなく様々な形態をしていた。
人型をしたもの、獣のようなもの、鳥の形や虫の形、果てはオブジェクトのような単純な形状のものなど様々だ。
それらが全てが都市を防衛するかのごとく、上空に静止している。
『おそらく、実弾攻撃に対抗する為の兵器でしょう』
「……そんなものまで…。いや、そもそもあんな巨大なモノをどこから」
『……例の立方体と関係がありそうです』
「……あれか、厄介な」
ともかく、今の時点では探りようがない。目の前のやつをどうにかしなくては。
「あの物体は何の金属で出来ている?」
「……未知の金属です。該当するものがありません」
くそ、こっちも何もわからんか。とりあえず攻撃してみるより他ないな…。
「全艦、都市上空の巨大物体を攻撃せよ!」
凄まじい数の重力弾が発射された。
宇宙空間において実弾に射程はない。力場の干渉を受けない限り一度発射されればどこまでも飛んでゆく。
ましてや、今回は惑星に向けて撃たれたもの。重力による加速も加わり凄まじい威力になるだろう。
例え未知の金属といえど貫けぬ訳が…。
「未知の兵器、エネルギー数値上昇!」
「……何?!」
謎の巨大兵器が眩いばかりの光に包まれると…四方に向けもの凄い量のビームが放たれた。
次々と重力弾が撃ち落とされてゆく。
「……バカな…こんな事が」
その直後。
ズズゥゥン!!
ドズゥゥン!!
遠くから鈍い振動が伝わってきた。それも複数。
「今の衝撃は何か?!」
「7番重巡オクタシア。および、12番要塞空母ゼロス、25番装甲戦艦ガドルマ、71番高速艇ビドール大破!!」
「……何?!」
同時に四隻も攻撃されたのか?
「艦艇の間に無数の魔力反応を確認。敵はゼロ距離攻撃を敢行しています!」
「何だと?!」
「……およそ百体はいるかと」
百体だと……そんな数の兵器を一気に転送してきたのか?
くそ、未知の兵器に気を取られ過ぎた。
相手は攻守を同時に行っていたのか…。これでは地上を攻撃しているどころではない。
「スクリーンに出せ!!」
くそ…今度はいったい、どんな兵器が…。
………。
「………え?」
スクリーン上に映っていたのは大きなトカゲに乗った女の子の集団だった。
しかも、その姿はあの時の少女そのもの。
それがこんなにもたくさん…。
「……そんな」
「……何だ…これは……兵器を転送してきたのではなかった…のか??」
「バカな…生身で宇宙空間に……あり得ない」
これが魔法と呼ばれる未知の技術なのか?!
こんな、バカげた光景が。
『……何という事』
「…?!」
アリアまでが目を見開いてスクリーンを凝視している。統合意志ですら驚嘆に値するほどなのか…。
『あれはおそらく、ビルドバンデンスバッチの幼体でしょう』
「……何?!」
あのトカゲのようなものは…かの魔獣なのか?!
我々ですら利用出来ない代物を飼い慣らしたというのか!!
いや、そもそもが…。
「何故、全て同じ姿をしている……クローンなのか?」
『……それに類するものだと』
くそ、何という事だ…。
「真空中でも活動可能なクローン兵とは…」
……少しばかり敵を侮り過ぎていた。いや、あまりにも想定外過ぎて対応が追いつかないのだ。
やつら…自由自在に艦艇の間を動き回っている。いったい動力は何なのだ??
いや、乗っているのも、乗せているのも生き物だ…。動力などあろうはずが。
くそ、くそ、頭がおかしくなりそうだ。
「すぐにバトロイドを出撃させろ。艦艇の武装ではどうにもならん!!」
次々と人型の有人機が飛び出してゆく。
……だが、あまりにも標的が小さ過ぎる。歴戦のパイロットでもあれを撃ち落とすのは至難の業だろう。
おまけに相手は減速なしで方向転換までする始末。
予想通り、かなり苦戦している。
……まずい、スピードも相手の方が上のようだ。このままではバトロイド部隊が壊滅するのも時間の問題だぞ。
少しでも欠点を見つけようと、食い入るように画面を見ていると…。姿かたちの違う個体が目に入った。
「待て!!…今のところをもう一度出せ!」
明らかに違う個体が一つ混じっている。そのすぐそばに量産タイプと異なる黒いクローン兵が寄り添っている。
おそらく、あれが司令塔だ。そして、そばいるのは…その護衛役に違いない。
「あの個体を集中的に攻撃するよう指示を出せ!」
「了解!!」
「……ふ」
恐るべき敵だが、攻略の糸口が見えてきたぞ。
「痛、痛、痛いですぅ。マスタァァ~!!」
エブリンが集中的に攻撃を受けて涙目になっていた。
『お母様、エブリンが集中攻撃されています』
「なんですって!!」
「エブリンが?!」
「おのれ、卑怯者めぇ~!」
「「「卑怯者めぇ~!!」」」
「弱い者苛めぇ~!」
「「「弱い者苛めぇ~!!」」」
「やっちゃえ、やっちゃえぇ~!」
「「「やっちゃえ!やっちゃえぇ~!!」」」
みんなでエブリンを攻撃してる連中をタコ殴りだ~。
司令塔を攻撃していた機体が反対にクローンの集中攻撃を受けている。
「……くそ、推測は正しかったようだが……対応が恐ろしく早い」
「提督、このままではバトロイド部隊が持たないぞ!!」
「わかっている…」
……だが、いったいどうすればいい。
この距離では艦艇の砲撃は出来ない。同士討ちになってしまう。敵はそれをわかった上でゼロ距離で攻撃してきたのだ。
何という事だ…。全てが後手後手…しかも対応しきれていないとは…。
「………」
だが、先ほどから何かがおかしいぞ……何かが。
クタール、シェーラ、エルザムの三人はバトロイドのエースパイロットである。数々の戦場を駆け回り、不可能と言われたミッションの全てをクリアしてきた。
それが今…。
「何だこれは…」
女の子の集団に取り囲まれていた。
「……ウソでしょう、何で女の子のなの?!」
数多くの人型兵器を見てきた彼らにも今回の敵は理解出来なかった。
「そういう見かけになっているだけだ…騙されるな!!」
「悪趣味過ぎるだろ!!」
わきゃぁぁ~♡
機銃もミサイルも簡単にかわされてしまう。
「くそ、何でこんなに速いんだよ」
「……何が動力なの?」
「魔法だって話だ…」
「魔法…??」
しかも攻撃は手に持った黒い金属製の棒状のもので相手をぶっ叩くだけ。先端が丸くて平たい、まるで柄の長いフライパンのような武器。
「……あれって、まさかフライパンじゃないでしょうね?」
「そんな訳あるか!!」
「フライパンを振り回すトカゲに乗った女の子……冗談だろ、まるで!!」
わきゃぁぁ~~♡
「……信じられない。何であの加速で曲がれるの?」
「こなくそぉ~~!!」
わきょ?!
バトロイドの一機がついにクローンを捕まえた。
「やったぞ、クタールが一体捕まえた…」
「よし、この距離なら外さねぇぞ。食らいやがれ!!」
ゼロ距離でのミサイルの発射、爆発で腕が吹き飛ぶ。
「クタール、ムチャをし過ぎよ!!」
「…構ってられるか!!」
「……仕方ないさ…こうでもしないと」
爆煙の中から四散した物体が見えた。
「初黒星♡」
「やったぞ♪……ざまぁ」
……だが。
わきゃぁぁ~♪
爆煙の中から現れたのは四散した残骸などではなく無数に分裂した女の子の集団だった。それが一斉に襲いかかって来る。
「……何だとぉ~?!」
「え?え?え?」
次々とバトロイドにしがみつき装甲を引き剥がしてゆく。
「…何だ、これは…。何なんだよ…これ…?!」
ミサイルの直撃だぞ……何故バラバラにならない。何んで増えてんだよ…?!
「クタァァ~ル!!」
コントロールを失ったバトロイドが煙を吹いて、あらぬ方角に飛んでゆく。
「……やはり、おかしい」
スクリーンを見ながら眉をひそめる提督。
「どうかしたのか、提督?」
「……クローン兵どもの数が……増えていないか?」
「……言われてみれば……確かに」
画面上のクローンの数は百体では利かないほどいる。
「敵兵の数は?…おおよそでいい、すぐに確認しろ!」
「…あ、はい。敵クローンの数は……300を超えています!!」
「……バカな、最初に確認した数の3倍ではないか…!!」
くそ……いつの間にそんな数の増援が…。
「やつらは転送されて来た……おそらく、戦闘の最中も繰り返し転送され続けてきたのだろう」
「……?!」
何という事だ…。あの数は目眩ましでもあったのか。その影に隠れて少しずつ数を増やしてきたのか……くそ。
「まんまとしてやられたな…。敵は想像以上に戦い慣れしているようだ…」
『その推測は間違いです、監察官』
「……何?……それはいったいどういう意味…」
《ウォルデン、大変だぞ…》
スクリーン上に友軍から通信画面が表示される。
第三艦隊の司令からだ。
「ミクスか?」
《……敵の数が増えている》
「ああ、こちらでも今確認したところだ…。いつの間にか増援を転送して…」
《そうじゃない……分裂しているのだ。攻撃を受ける度に!!》
「バカな…何を言っている……そんな事が?!」
『彼の言う事は真実です』
「……バカな、あり得んだろう!!」
《私だって、こんなバカげた事…信じたくはない!!……だが、事実だ。やつら攻撃を受ける度に数が増えているぞ!!》
「すぐに確認しろ!……戦闘の記録を見直すのだ!!」
攻撃される度に分裂するだと…。そんなバカな話があるか?
「それらしき映像を見つけました」
スクリーンに表示されたのはバトロイドとの一対一の戦闘、ミサイルが命中している。爆煙の中から現れたのは二体のクローン。確かに増えているようにも見えるが…。
「これでは確定的とは言えん…。もっと確かなものを探せ!!」
《…敵が増えやがった!!……誰か、誰か助けてくれ。装甲が剥がされる……誰か!!》
「今のは…クタールか?…すぐに回線をつなげ!!」
《提督…提督ぅ…助けてくれぇ…》
スクリーンに映ったのは手のひらサイズのクローンに攻撃されているクタールの姿だった。
「……何だ??……これは?!」
明らかにサイズが違う…。
《至近距離で爆撃したら…こんなに、こんなに…。ウソだろ…こんな事…あり得ない…!!》
たくさんの小さな女の子がクタールの宇宙服を引っ張っている。
《止めろぉ…ヘルメットが…。助けてくれぇ~!!》
映像が途切れると遠くに爆発が見えた。
《クタールがやられた…》
《チクショォォ~!!》
「……バカな…こんなバカな事…」
『ミサイルなどの爆発物は相手の数を増やすだけです、提督』
あれはいったい何なのだ…。我々は何と戦っているのだ?!
『魔法と呼ばれる未知の現象は我々の技術水準を凌駕しています』
「……何だと?!」
『このままでは全滅もあり得ます』
「……全滅」
あんなものに…。あんなものに我が艦隊が全滅させられるというのか?!
わきゃぁぁ♪
スクリーン上を小さな女の子が縦横無尽に飛び回っている姿が。
その間もあちこちで爆発の閃光がブリッジを照らし出す。
すでに見方の艦船は三割が航行不能になっていた。
三割……たったの10分で三割の損害だと…?!
このままでは一時間と立たずに全滅だぞ。あり得ない…こんな事あり得る訳が…。
「第7艦隊旗艦ディグスが…集中攻撃を受けています!!」
くそ、その前に艦隊の統制が維持出来なくなってしまう…。
「援護はどうした?」
「どこもいっぱいで…」
《……ウォルデン》
メインスクリーン上に友軍から通信画面が割り込んでくる。
大怪我を負った第七艦隊の司令が…。
「ランドルフ…」
すでにブリッジはメチャクチャな有り様だった。
《奥の手を使う…》
奥の手だと…まさか。
「……待て、まだ手立てがあるかもしれん。早まるな!!」
《……もう、この艦は持たない…時間がないのだ》
「……死ぬつもりか」
《ただでは死なんさ…。あの化け物どもを道連れにしてやる!》
『彼の意志を尊重すべきです』
「………」
……彼の意志だと?!
本当にそうなのか?……これは統合意志の決定ではないのか?!
「……後を頼んだぞ、ウォルデン」
「……わかった」
スクリーン上で笑うランドルフ。
通信が切れるや否や…大爆発が。
それもすぐに超重力によって収縮する。疑似ブラックホールが見方の艦船数隻と数十体の敵を巻き込んで消え失せた。
「……ランドルフ…おまえの死はムダではなかったぞ。見ろ、やつらの数があんなにも減った。この戦法は有効だ…。すぐに無人艦船に超重力爆弾を装備させてあの化け物どもに食らわせてやれ!」
「局部重力震を観測!……疑似ブラックホールの消滅地点からです!!」
「……何?!」
まさか、超重力空間から脱出するつもりか?
いや、そもそもがまだ生きているのか…?!
空間が大きく揺らぎ、巨大な腕のようなものが現れる。
「……な?!」
ばぁ~~♡
おどけた表情で巨大化した女の子が姿を現した。
「…な…な…な…」
何だ、これは……何故、こんなに…でかくなっている??
移動要塞よりでかいぞ!!
「……あらら、凄い事になってるねぇ」
地上から大乱戦の様子を見上げるアルベルト。
「……あのどでかいヒルダはいったい何??」
カルカも半ば呆れている。
『たぶん、相手のエネルギーを吸収したのだと思うわ』
お母様ですもの…それぐらいは簡単にやるわ。
……にしても。
「……ヒルダ、分裂する度に幼くなってない?」
「そうだね、攻撃も稚拙なってきてるし…」
……確かに。もう素手で叩いたり、引っ掻いたり…挙げ句、噛みついてるし。
「………何かグダグダな感じになってない?」
キャサリンの言う通りすでに。
『……グダグダね』
このままだと収拾がつかなくなりそう。
「うわ、うわ、うわぁ…助けてくれぇ~…」
数人のマイクロヒルダに引きずり回されて残骸の中で悲鳴を上げるクタール。
「クタールだわ、まだ生きてる!」
「何だって」
「くぉらぁぁ~~!!」
叫び声を上げて、レーザーソードを振り回しながらバトロイドで突進すると。
意外にも蜘蛛の子散らすように逃げて行った。
「……まるで子供ね」
「止めろ…止めろ…」
それでもまだ一体残っててクタールを引っ張っていた。
「くぉらぁ~~!!」
バトロイドで摘まみ上げるとしきりにイヤイヤをしている。
「………まるで駄々っ子だわ。こんなのに私たちはやられちゃってる訳??」
「シェーラ、早くそれを投げ捨ててこっちに来い。やつらが集まってるぞ!!」
「……え?」
わきゃぁぁ~♡
「……ヒィ~!!」
慌てて駄々っ子クローンを遠くに投げ捨てるとクタールを抱えてエルザムと合流する。
「あ、あ、あ、あ、ありがとう、だずがった…シェーラ…」
「これからどうするの?……もう燃料も弾薬も切れそうだわ」
「……母艦はやられちまった。手短な艦艇に身を寄せるしかないな……それに」
わきゃぁぁ~~♡
「まごまごしてるとあの化け物どもに囲まれちまう」
「急ぎましょう!」
くそ、あのバカでかい化け物…装甲戦艦をつかんで投げてやがる。まるで巨人と小人の戦いだ。
『……恐るべき敵です。不死身であり、超重力の莫大なエネルギーすら吸収出来るなんて…』
「……のんびりと感心している場合か、あれは切り札の一つなんだぞ」
それが全く通用しないなんて事が…。
『……あるいは、あれは本体ではないのかもしれません』
「……何?!」
『別な場所に本体があり、あれらをコントロールしているのかも』
「確かに最もらしい考えだが……」
その本体とやらはどこに……?!
「あの立方体か?!」
『おそらく』
ならば、あの立方体を破壊すれば…。
いや、地上には未知の巨大兵器が……どうすればいい。
……方法がない訳ではないが……あれは。
『プランデルタへの移行を提言します』
「………」
やはり、そうきたか…。確かに疑似ブラックホールが通用しない時点で取るべき手段はそれしか残されていない。
それにプランデルタならば……立方体を含め、全てを破壊出来るかもしれない。
……だが。
何という事だ……かつての大戦の悪夢を再現する事になろうとは。しかも、この私の手で…。
しかし、やるしかない……他に方法がないのだから。
いかなる理由があろうとも…あの化け物をこの宇宙に解き放つ訳にはいかない!!
スクリーンには依然として暴れ回る巨大な女の子の姿が。
「プランデルタに移行する。速やかに残存艦の全ては恒星外縁部まで撤退せよ!」
「……プランデルタ…!!」
「復唱はどうした?!」
「は…はい!……プランデルタに移行、速やかに残存艦の全ては恒星外縁部まで撤退!!」
「よろしい!!」
まさか、こんなにも早く最終手段を使う事になろうとは…。
「……?!」
ブリッジの窓を外をあの化け物の一体が通り過ぎようとしている。何げなくこちらを振り向くと私と目が合った。
「………」
化け物はこちらに気づいてはっとした様子で口笛を吹くような動作した。
「まずい、化け物に我々の居場所を気づかれたぞ!!」
「敵クローンの全てが本艦を目指して移動を開始しました!!」
「くそ、ハイパードライブだ。早く、恒星外縁部まで転移するのだ、急げ!!」
「……ハイパードライブが可動しません!!」
「何だと??」
そんなバカな……この状態でハイパードライブが出来なければ、我々は…。
『彼女です。あそこに張りついている敵クローンがハイパードライブを妨害しています』
「……何?!」
確かにブリッジの窓の外側にあの化け物がしがみついていた。
あんなものが……あんなものが、たった一つで我が艦の機能を阻害しているのか?
……おのれ、化け物めぇ~!!
「全員、宇宙服は着ているな??」
ホルスターからレーザーガンを抜くと窓に張りついている化け物に向け構える。
「正気か…提督?!」
「全員、何かつかまれ!」
レーザーがブリッジの窓破り、吹き出す空気が化け物を弾き飛ばした。
すぐに緊急シャッターが閉まる。
多少空気はもれたが問題にならない程度だ。
「ムチャにする…」
『ベストな判断です』
「……こうでもしなければ、あの化け物を引き剥がす事は出来なかったからな。ハイパードライブは?」
「航行可能です!!」
「よろしい、すぐに…。いや、まだだ」
「……え?」
「全艦艇に通達、恒星外縁部まで即時撤退。……我が艦は囮としてギリギリまで残る」
「……提督」
「「「………」」」
「全艦艇に通達、恒星外縁部まで即時撤退せよ。繰り返す、恒星外縁部まで即時撤退!!」
「よろしい」
スクリーンには沸き立つ雲のようにクローンの大群が迫ってくる様子が映し出されている。
わきゃぁぁ~♡
「「「………」」」
「……まだだ…まだだぞ」
わきゃぁぁ~~♡
「「「………」」」
「……まだだ…後少し」
わきゃぁぁ~~~♡
「残存艦艇、転移終了!」
「ハイパードライブ!!」
わきゃぁぁ…。
………。
スクリーンが一瞬白染まると……見方の艦艇が見えた。
「……ハイパードライブ終了…恒星外縁部に到達…」
「……よろしい…よくやってくれた…」
なんとか逃げ切ったな…。
「あ~~逃げたぁ~~!」
「「「あ~~逃げたぁぁ~~!!」」」
「追えぇ~~!」
「「「追えぇ~~!!」」」
わきゃぁぁ~♡
《ロアンナ!!》
『ミランダお姉様』
《お母様たちを回収して!!》
『ええ~こんなに可愛いのに♡』
ロアンナの腕の中には子供サイズのお母様が抱っこされていた。
《……何をしてるの、ロアンナ。……てか、エブリンまで》
「えへへへ♡」
エブリンの腕の中にもちっちゃいお母様が。
《……なんかもうグダグダじゃないの》
わきゃぁぁ~♡
すでに飽きてしまったのか、遊んでる者がいる。残骸の影で寝ている者も…。
わきゃぁぁ~♡
意味なく追いかけっ子をしている者もいる。
ロアンナが抱っこしている小さいヒルダを抱え上げると。
『……お母様』
「なぁに、ロアンナ」
『早くしないとアップルパイが焼き上がってしまいます』
「大変だわ、アップルパイよ!」
《…………お母様》
「ロアンナ、あのいっちゃんおっきな分身に私を投げて」
『わかりました。行きますよ、お母様』
「オッケー♪」
投球モーションから。
『シュートォォ!!』
小さいヒルダを全力投球。
「……ん」
大きなヒルダが飛んできた小さいヒルダに気がついて。
……ぺち♪
虫を叩くように両手で挟み込んだ。
「「「………」」」
《……ヒルダ、潰されちゃったけど?》
《そんな訳ないでしょう、アルベルト》
「………んん~??」
おっきな子供ヒルダがグルグル回り始めると徐々に萎んでゆき…。回転が止まると大人のヒルダが立っていた。
「……ふむ、分裂作戦は失敗だったわね」
《お母様…真面目にやって》
「……私はいつも真面目だけど」
《……お母様》
「……さて」
周りを見回すと。
「あなたたち、合体よ!!」
「おお、合体♡」
「「「「合体~~♡」」」」
わきゃぁぁ~♡
大きく両手を広げると、集まってくる分身を抱え上げるようにして一つになるヒルダ。
「……よし♪」
『大きなお母様も素敵です♡』
「ありがとう、ロアンナ」
そう言ってロアンナを手のひらの上に乗せる。
「マスター、私も♡私も♡」
「はいはい♡」
エブリンも手のひらの上に乗せると再び周囲を見回し、視線を一点で止める。
その遥か先には恒星外縁部まで撤退した艦隊が。
「……逃げたかと思ったら…あんなところにいたわ」
『何をしているのでしょう?』
「増援を待っているとか♡」
「あるいは……まだ、どこかに奥の手を隠しているのかも」
再び周囲を見回す巨大ヒルダ。
一方、外縁部に停泊している艦隊は。
スクリーンに映し出された巨大ヒルダを見つめていた。
『超巨大個体が周囲を見回しているようです』
「我らの策に感づいたのか?」
だが、探したとて見つかりはしないぞ。恒星破壊砲はおまえたちの死角にあるのだからな。
プランデルタ……恒星破壊砲による恒星系そのもの消滅計画。
いくら化け物でも母星を失ってはただでは済むまい。
何しろ、あそこには例の立方体があるのだから。
「恒星破壊砲、カウントダウン…10、9、8、7」
「……変ね、何もないわ。おかしいわね」
何かをしかけてくるとしても視界に入る距離でなければ間に合いはしないはずなのに……でも何か。
「4、3、2、1……恒星破壊砲発射!!」
太陽の向こう側で巨大な宇宙砲台が不気味な青い光を放っていた。
「……?!」
太陽の向こうに何かある?!
「今さら気づいても手遅れだ。自分たちの太陽と共にこの宇宙から消え失せるがいい、化け物ども!!」
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