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厳しい現実

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「誰かの携帯が鳴ってるわ」

桜田のその言葉を聞き、皆は自分の携帯を確認する。

「私じゃないです!」

「妾も違うぞ?」

そのことから導かれるのは、鳴っているのは周の携帯という事だ。
レーネは、周の服のポケットをまさぐり携帯を取り出す。

「冒険者連盟からじゃ」

皆にどこからの電話かを報告してから、電話に出る。

「エーデル・レネットだ」

レーネは、電話に出て話を聞いている。
少し顔が歪み、急に怒り出す。

「そんなの今は無理じゃぞ!もう話すことは無いからの!」

レーネは怒りながら電話を切った。

「なんの電話だったの?」

「合同で、SSランクダンジョンを攻略する話があったじゃろ?」

「すっかり忘れてたわ」

「そんな話があったです!」

後から入ってきた面子は、なんの話しかわからず、ぽかんとしている。

「その日程が決まったらしいのじゃ」

「へぇー、それでいつなの?」

「一週間後じゃ.......」

「じゃあ、周が一週間後までに目覚めないと、周抜きで行かないとだめってことです?!」

「そういう事になるな.......」

3人の顔が少し曇る。
レラは少し勘づいたようだが、翠蓮姉妹はまだ話が飲み込めていないようだ。

「なにか不味いことがあるんですか?」

風音がしびれを切らせて、3人に問掛ける。
それにサリーが答える。

「今あるダンジョンで、攻略されてる最高ランクはSなんです」

「そしてこれから攻略しようとしてるは、SSランクなの」

風音は頷きながら、話を聞いている。
この説明を聞いてもまだピンと来ていないようだ。

「要するに、難しいということですよね?」

「まぁ、簡単に言うとね」

時音が、風音のフォローに入る。

「ちなみに、妾はSSランクダンジョンのボスじゃぞ?」

「えー?!って事はレーネさん並に強いのを倒さないとだめってことですか?」

「そういう事になる」

「そんなの無理ですよ!」

やっと風音も、状況が把握出来たようだ。
そして無理という言葉を聞いて、みんな黙り込んでしまう。

「じゃが、我らだけで挑戦するわけじゃない。少しは勝機があるかもしれぬ」

「それなら行けるかもしれないですね!」

風音が急に元気になる。
異常なまでの切り替えの速さだ。

「まぁ、周がいなくても行かなくてはならないのじゃ。それまでに出来ることをするしかないのかもな」

「そうね、文句を言っても現状は何も変わらないわ」

「ですです!」

皆は無理矢理にでも、やる気を出した。
そうでもしないと、周が居ないという不安に押しつぶされそうだったからだ。
やはり、これまでいくつものピンチを切り抜けてきた周が居ないというのは、皆の心に雲をかけていた。

「期日が決まったのじゃ、明日からはペースを上げて、もっと訓練を厳しくするからの。覚悟しておけよ、小娘たちよ」

皆の背中に、寒気が走る。

「攻略までに、みんな死んじゃうんじゃないですか?」

何としても、1週間で戦力を大幅に上げなければならない。
皆は焦っていた。
だが、今はやれる事をやる以外に、皆にできることは無かったのだ。
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