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ユキさん

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第11話 ~ギルドの個室にて

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ーティルー



…というわけで、エイミーさんの案内にてギルドの個室へ。個室へ入った俺はその設備の良さに感心、流石はギルドの個室というわけか。エイミーさん曰く、共同作業場は個室よりも二回り近く設備が劣っているらしい。そのことを考えると、如何に俺がギルドから期待されているのかが分かるというもの。重いけど、師匠達の名だけは汚さぬようにしないと。



個室の設備を確認したのだから、早速作業を始めようではないか。因みにエイミーさんは戻らずに、俺の仕事ぶりを見るらしい。一流職人の弟子がどれ程のものかをその目で見たい…か、美少女に見られながらとかって緊張する。……ということはなく、俺は黙々と作業を続けるのだった。



狼戦でボロボロとなったウサギセット、それを修繕し改造することが一番の目的。素材は昨日倒したウサギの物を中心に、ユニークの狼素材もせっかくだから少し使う。そしてそれらを使い修繕改造した物がコレだ!



〔ラビットレザーセット改+3(特殊)〕かなり丁寧に修繕改造された革鎧一式。ホーンラビットの素材を中心に、草原狼の素材も少量だけ使用されている。 ヘッド DEF+6/ボディ DEF+17/ズボン DEF+13/アーム STR+25・DEF+9/ブーツ STR+9・DEF+10(フルセット装備ボーナス:AGL+15)【製作者:ティル】



ある程度貯まったウサギの皮を丁寧に鞣した後、数枚を重ねて修繕に使用した。よって修繕前と比べてかなり丈夫に、草原の魔物程度の攻撃なら余裕で防ぐことが出来るだろう。アームに取り付けられていたメリケンサック状の鉄板も、ユニークの素材である狼の爪に変更。今回は殴るから切り裂くへ攻撃手段を変更、そのように狼の爪を加工した。攻撃力がグンッ! と上がったみたいだが、使い勝手が良いか悪いかは戦ってみないと分からない。殴ると切り裂くとでは攻撃のモーションが違う、そのことを念頭に要検証といったところかね。



後はコレだな、イカスなアクセサリー。



〔草原狼の首飾り+3〕丁寧に磨かれた草原狼の牙で作られたワイルドな首飾り。 STR+15・DEF+6・AGL+7【製作者:ティル】



狼の牙をやすりで磨いて作ったこの首飾り、3つのステータスが上がる高性能なアクセサリーとなった。そして思う、狼の牙を使ったただの首飾りなのにステータスが上がる謎。…それを考えたら全てが謎になってしまうが、何となく考えてしまったのだから仕方がない。まぁそういう仕様でファンタジー、そういうものなのだと思うようにする。そんな無駄なことを考えている俺に、



「何とも凄いとしか言い様がありません、こんな短い時間でこれほどの物を仕上げるとは。〔職人達の弟子〕というのは伊達じゃないですね! それに、ティルさんが手に持つ首飾りの牙って…。」



恐る恐るといった感じではあるが、様子を窺っていたエイミーさんが声を掛けてきた。俺の職人としての腕に驚き、手の中にある〔草原狼の首飾り〕が気になっているようだ。その前にもウサギセットの修繕改造時に爪を見てソワソワしていた、…ユニークの素材であると見抜いていたのだろうか?



見抜いているのなら隠しても意味は無し、それに俺の専属ということだから素直に言うのが良いのだろうな。



「北の草原で討伐したユニーク、草原狼の牙だ。…と言っても、エイミーさんは気付いていたのだろう? これが草原狼の素材なのだと。」



そう言えばエイミーさんは、



「はい、ティルさんが言われた通り気付いてはいました。生産ギルドの職員として〈鑑定〉を所持していますからね、見たことの無い素材でしたので職員として一応確認とのことで。そうしたら草原狼であると知りました! その素材をお持ちであるティルさんにも確認してみようと思ったのですが、やっぱり草原狼で間違いがなかったんですね! 凄いです、草原狼を討伐するなんて!」



前のめりで興奮するエイミーさん、やはり草原狼と気付いていたか。見知らぬ素材があれば確認するのも職員としての役目、…何ともモヤモヤしないでもないが仕事ならば仕方がないのかな? そうしなければいけない理由があるのだと思う。



それは追々考えてみるとして、



「狼…、草原狼との一対一の戦いは厳しいものがあった。」



狼との戦いを思い浮かべ、なかなかに辛く厳しいものだったと語る。その前にライアンとの出会いと突撃があったわけだが、別にエイミーさんへ語る意味が無いから伏せておく。だが…ライアンの突撃があったからこそ狼の必殺モーションが分かった、そのお陰で俺は死に戻ることなく討伐が出来たのも事実。俺よりもLVが高いであろうライアンが殺られ、俺が勝てたのは薬のお陰もあるしフルセット装備ボーナスの恩恵も良かったのだろう。狼の奴…素早かったからな、後は俺の作戦勝ちなところもある…と思う。思い返してみれば運が良かった、…それが一番の理由だな。



狼戦を思い浮かべていると、



「一対一…? えっと…もしかしてですけど、草原狼を一人で討伐したんですか? …PTではなくて?」



エイミーさんが俺を窺うようにそう聞いてきた。…PTか、…PTであったのならあそこまで苦戦はしなかっただろう。…ライアンさえ突撃しなければ! …あのバカ助め!



「勿論俺だけ、…ソロで討伐したがそれが何か?」



今度会ったらイジりまくってやる! そんなことを考えながらソロで倒したと伝える。俺の返答を聞いたエイミーさんは、ポカーンと大きく口を開けて固まった。やはりユニークというだけあって、本来はPTで討伐するのが普通なのだろうか? そこまで驚くということはきっとそうなのだろう、俺ってば常識外れ?



数秒後、固まっていたエイミーさんが復活する。



「普通の冒険者では絶対に討伐することが出来ず、神からの使者である客人冒険者のみが討伐可能のユニークモンスター。客人冒険者がPTでやっと討伐出来ると言われているユニークモンスターを、ティルさんは一人で討伐をしたと言うのですか!? 生産者である筈のティルさんが? 一人で? …これが客人冒険者の力、神からの使者たる所以!?」



復活しても困惑しとる、その中で重要度の高い情報が紛れていたが…。ユニークというのはNPCが討伐することが出来ない魔物であり、俺達PCのみが討伐出来る魔物…ということだな?



「…何にせよ、ティルさんは英雄ですね! ユニークモンスターに殺される冒険者は多くいますし、街の人も被害に遭っていた不殺の魔物を討伐したのですから! 北の草原は平和になりました、…他の魔物は出ますけど!」



ユニークを倒せばNPCの犠牲者はなくなる、…俺ってば良いことをしたわけだな? …それ故にエイミーさんのはしゃぎよう、…納得である。













興奮覚めやらぬエイミーさんを放置し、練習の為に販売用の装備やアイテムを素材がある限り量産しよう。それが終わり次第、考えていたアイテムを作ってみよう。それを作ることが出来たら、戦闘の幅が広がると思うんだよね。そんなわけで先ずはアイテムボックスから素材を取り出し、それぞれで使う物に分けようか。そうした方が時間の短縮にもなるし、仕事もしやすくなるからな。え~と…。



…ブツブツと呟きながら素材を分けていると、やっとこエイミーさんが正気に戻り…、



「…はっ! 私ってば何とも恥ずかしいことを! …ティルさんも酷いです、声の一つでも掛けてくれたってバチは当たりませんよ? …そういうことですので、先程の遅れを取り戻す為に手伝わせて貰います。仕事をしないと怒られてしまうので、…私は何をすればいいのでしょうか?」



顔を赤くしながらも手伝いを申し出てくれる、それはありがたいことなのだが、



「いや…、手伝ってくれるのはありがたいことなのだが、受付業務は大丈夫なのか? そこの担当だったんだろう? エイミーさんはさ。」



仕事をしないと怒られるのであれば、俺のことよりも本来の職務である受付に戻るべき。そういう思いを込めて言えば、エイミーさんはやれやれだぜ…といった感じで、



「最初に言いましたけど、私はティルさんの担当…専属となりましたのでお手伝いは職務となるのです。ティルさんが生産ギルド内にいる限り、ティルさんの傍に控えて行動を共にすることが今日からの私の職務となります。そしてここが重要になるんですけど、ティルさんが活躍すればするほど専属である私の評価も上がるわけでして。…ですので、精一杯お手伝いをさせて貰います。」



なんてことを言ってきた。俺の傍にいることが仕事で、それがエイミーさんの評価に関わること。寄生することはなく手伝いという形で貢献するから、…俺に頑張れってこと?



…まぁただいるだけではなく手伝ってくれるのならありがたい、それが仕事であるのなら遠慮なく手伝って貰うぜ? それが互いの為になるってことだろ、…たぶん。



「因みにティルさんが拠点を変える場合は、きちんと生産ギルドの受付か専属である私に報告して下さいね? 次の拠点となる支部に連絡をして個室を確保して貰わなくてはなりませんし、支部を拠点としなくても居場所を報告しなくてはいけないんですから。今日から私とティルさんは一心同体みたいなものになったんです、…当ギルドと私はティルさんに期待しています!」



「え…? 何それ恐い…。」



めっちゃ生産ギルドに目を付けられとるがな、逃げ場無しということやんけ。…せめてもの救いは、一心同体? となるのが美少女であるエイミーさんであることか。これがおっさんだったら、どんな手段を使ってでも逃げるところだったぜ?



「さぁさぁティルさん、明るい未来の為に頑張りましょう!」



どうにも明るいとは思えんのだが、ふんす! と気合を入れるエイミーさんを見て、



「…なるようになれでいくしかないな。」



と面倒事が起きた時に色々と考えよう、…ってことで作業を再開させた。













ビビりまくりからややビビり、そしていつの間にかビビらなくなったエイミーさん。この短い時間に何があったのか? 狼討伐を知った辺りからだよな? たぶん。それほど狼討伐というのは、NPCにとってありがたいことなのだろう。…そう考えると、各フィールドにいるであろうユニークを討伐すれば、NPCからの好感度が上がるってことになるよな? NPCと仲良くなれば、自身に色々な恩恵がもたらされる。現に俺はヒックスとウエンツのお陰でシグルゥと出会い、クエストイベントをこなしつつ師匠達と出会って今の俺となったわけで。…機会があれば狙っていきますか、ユニーク討伐ってヤツを!



そんなことを考えつつも生産に励み、あっという間に夕方となりました。持っていた素材はほとんど使ってしまい、残っているのは狼素材のみ。ユニークだけあって1匹から多くの素材を入手出来ており、使ったのは牙と爪のみである。牙と爪を使ったのだがそれらもまだある、しかし全てを使うのはもう少し先にしようと思う。この先より良い素材が入手出来ると思うし、草原程度の素材と組み合わせるのは勿体ない。…が草原にはレアが出現するようになったみたいだから、ソイツがどんな奴か確認してからだな。ユニークと同じ狼系だったらいいな、そうすれば狼のみで装備が作れるだろう? とりあえず草原へ行ったらあの時と同じシチュエーションを作ろう、そうすればユニークと同じようにレアが出るかもしれん。



因みに狼を討伐して称号を入手した、効果は…、



〔ユニークを狩りし者〕ユニークモンスター・レアモンスター等の稀少なモンスターの出現率が上がる。



であるからして、レアの出現率が上がる。故に草原で試してみようかと、…レアも狼系だったら本当に嬉しいんだけどな。



ユニークとレアについて考えながら、作った物を整理整頓しながら確認していると、



「お手伝いをしながら作業を見させて貰いましたが、流石というか…手際がとても良いですね! 真摯に作業をする様は惚れ惚れするまであります、…お見事です!」



エイミーさんが作った物を見ながら、作業中の姿を思い出して頻りに感心している。師匠達の下でみっちりと修行をした身、これぐらい出来て当然である。それと称号効果も合わさって、見事なまでの手際で作業をしていたのだろう。



〔職人達の弟子〕生産系全てに+補正が掛かる。生産活動を行う時に限り、控えにある生産関連スキルのみが未セットでも発動される。その際、スキルLVもきちんと上がる。



生産者ならば喉から手が出る程欲しいと思うであろう称号である、これがあれば生産スキルを全て控えに置いていても発動出来るという優れもの。生産スキルをいちいちセットしなくてもいいっていうのが素晴らしい、セットし忘れというミスをしないで済むのだから。このミスは戦闘時に起きたら悲惨だ、セットされているスキルが生産系だけになっていたら勝てる戦いも勝てない、…ということも起こりうるのだから。それと生産スキルが上がりやすいのも、素材を無駄にせずほぼ想像通りの物が作れるのも称号効果なのだろう。生産速度にも影響を与えているな、後…生産ギルドからの待遇が良いのもか?



…最終的に言えることはイベントありがとう! 辛いクエストありがとう! …ってところかね?













とりあえずエイミーさんが手伝ってくれつつ、俺の実力がきちんと発揮されて作られた自慢の品を数点紹介させて貰おうか。



〔鉄の剣+3〕かなり丁寧に作られた鉄製の剣。通常よりも斬れ味が良い。 STR+16【製作者:ティル】



〔ラビットシールド+3〕ホーンラビットの革をかなり丁寧に貼り付けた盾。 DEF+9【製作者:ティル】



〔ラビットレザーセット+4〕ホーンラビットの素材を生かして作られた革鎧一式。 ヘッド DEF+5/ボディ DEF+12/ズボン DEF+9/アーム DEF+6/ブーツ DEF+7(フルセット装備ボーナス:AGL+10)【製作者:ティル】



〔スライムピアス+1〕スライムの核を加工して作られた耳に優しいピアス。 DEF+3【製作者:ティル】



〔投擲ポーション+1〕投擲用に加工した回復薬。HPが35回復する。【製作者:ティル】



〔投擲マナポーション〕投擲用に加工した回復薬。MPが30回復する。【製作者:ティル】



こんな感じの物を作りまくった。この他にも回復薬各種に鉄製武器各種、草原素材の防具各種と色々な物を作った。ほぼ毎日…生産をしていたせいか、我ながら良い腕を持っていると思う。午前中に作った自分用ウサギセットには劣るが良い物だ、攻撃力は無いけれど並みのウサギセット以上の防御力はある。その他の物も品質が上がっており、自身の能力と称号効果に驚くばかりである。



想像通りの投擲用回復薬が作れたことに満足している、コイツさえあれば回復魔法が使えなくとも間接的に回復が出来る。空き瓶という名のゴミも出ない優れた回復薬であり、間違いなくコイツは冒険者にはやると思う。〔投擲ポーション〕を見ながらニヤついていると、



「ティルさんティルさん、何をニヤついて…ってこの丸いゼリー状の物って何ですか? …回復薬の類?」



エイミーさんが〔投擲ポーション〕に興味を持ったみたいだ。…ならば説明しようじゃないか!



「聞いて驚くといい! コイツは〔投擲ポーション〕といって、対象にぶつけて使用する回復薬だ。戦闘中に回復魔法を使えなくとも、間接的に味方を回復出来る優れた回復薬なのである。デメリットとして、装備している防具によっては回復効果が弱まるというものがあるけれど、それでも! コイツがあれば戦闘時での生存率が高まると俺は信じている!」



俺が熱弁すると、エイミーさんが再度興奮し始める。



「鑑定させて貰いましたけど〔投擲ポーション〕ですか、…これは凄い物ですよ! 未登録アイテムですし、ティルさんのようにコレが広まれば冒険者の方々の生存率は高まります!」



俺と同じようにエイミーさんもそう思ったようだ、しかも未登録…俺ってば凄いじゃないか!



「この〔投擲ポーション〕を登録しましょう! ギルドへ登録すればこの〔投擲ポーション〕が広まりやすくなりますし、ティルさんにもお金が入りますよ!」



ギルドへ登録すれば広まって金が手に入るか、…それはいいな。生産ギルドへレシピを渡さなければならないが、NPCの生存率が高まりつつ定期的に金が手に入るっていう左団扇は魅力的だ。



…俺なりに計算し、メリットの方が多いとのことで登録することに決めた。



「そうだな、この〔投擲ポーション〕を登録して人々に貢献することこそ生産者冥利に尽きるというもの。エイミーさん、登録の為に現物とレシピを2つずつ渡そう。足りなかったり、レシピに不備があったりしたら遠慮なく言ってくれ!」



そう言って、〔投擲ポーション〕と〔投擲マナポーション〕の現物とレシピをエイミーさんに渡した。そして一応、



「因みにこのレシピは登録されるまで秘密にしておいてくれよ? 登録や検証の為に已む無く生産するっていうのなら仕方がないけど、その時は信用の出来る人だけにしてくれ。登録が完了した後には広めても構わないけどな、まぁ…その時は俺に一報を頼む。」



俺の知らない内にレシピが広がるっていうのはイヤだし、俺を出し抜いて登録されちゃあ腹が立つ。それを未然に防ぐ為にはそう言っておかないとな、…生産ギルドに裏切られたらお手上げだけど。…俺のバックには師匠達がいるからそんなことは起きないとは思うけど、馬鹿な奴は何処にでもいるわけだし。それに俺としても、登録前に売り捌いて反応を見つつ儲けたい。そこんとこは分かってくれるよな?



「それは勿論ですよ! これらは当ギルドが厳重に守りますし、ティルさんを通して一流の方々を敵に回したくありません。…ティルさんの信頼を決して裏切らないと、私如きで失礼ですが約束させて貰います!」



キリッ! と真剣な顔でそう言うエイミーさん、…信頼させて貰うぜ?



そんなわけで、俺の作った物が金のなる木(仮)になった。大金が手に入る可能性かぁ~…、くははははは! 笑いが止まらなくなるかもな!
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