幸狂曲第5番〈Girasole〉

目玉木 明助

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第一楽章 カルマファミリー編

11、取り扱い注意のディアボロ

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オッドーネファミリーのアジトに向かったは
いいものの、当のアジト内はもぬけの殻だった。


ーー構成員に探らせた結果から、一番人が集まるのは金曜日だと踏んでいたのだが。


 結局、恵業を筆頭としたカルマファミリー精鋭部隊は、不完全燃焼のまま本拠地へ帰ることを決めた。


 *

(……一体、何がどうなってやがる)

 ファミリーの中でも屈指のマッスルボディを持つ3人の男たちが、情けなくも地面にひれ伏していた。

 警備を任せていた3バカと連絡が取れないので、宿舎に来てみたら案の定このザマだ。

「信濃! 利根! 石狩!」

 恵業は心配そうに彼らに駆け寄り、胸元に耳を当ててみせる。

「ーーうん、とりあえず息はあるみたいだな。
誰にやられた?」

 恵業は振り返らず、厚い信頼を置く影助に尋ねた。

「……わざわざウチの兵力が手薄になるタイミングを狙ってンだ、計画的な凶行で間違いないと思いますよ。
 それこそオッドーネの"スパイ"、とかね」


 理性を保ち、冷静にそう告げる。
 が、感情には抗えない。


「テメーら、ぼさっとしてンじゃねぇよ! とっととヨウを見つけ出せッ‼︎」

 いつまでも動こうとしない構成員たちに命令を下すと、影助は激しく舌打ちを鳴らした。


__________________________________________


 寝室も風呂も屋上も見て回ったが、陽は一向に見つかる気配がない。
もちろん、トランシーバーも繋がらない。


もしも誘拐なら、すでに連れ去られた後だというのか。

 影助は苛立ちを抑えるように前髪をかき上げる。

「なあ、えいすーー」

 恵業は一瞬、声をかけるのをためらった。

「影助。ヨウなんだが、どうやらこの"宿舎には"いないらしい」

「……っス」

「まだ探してないところ、あるだろ? ーー陽ヨウの居場所は多分、本社の方だと思うんだ」

 影助えいすけはバッとこちらを振り向く。

「競歩大会やりましょうよ、ボス」
「若いお前のほうが有利に決まってんじゃねえかよ」

 恵業はそう言いつつ、勝負事では決して手を抜かない主義だった。

(背中、広くなったなあ。影助)

しみじみと思う。

 恵業は、思春期の息子を見守るような優しい眼差しで、影助の後ろ姿を見つめた。



 *


 執務室まで行くと、陽は全身黒ずくめの男に抱きかかえられるようにしてソファに座っていた。

ーーどこか、うつろな目をしている。

 普段の覇気など微塵も感じられなかった。


「そいつにはまだ莫大な借金が残ってンだよ。テメェ、ヨウに何した?」

「おやおや。初対面の人間に機関銃を向けるだなんて。
ーー僕、歓迎されちゃってます?」

 男は、おどけた様子で降参のポーズを取る。


「マトモな人間なら、まずは自己紹介からですよね。
 僕の名前は聖田きよだ おぼろ。以後、お見知りおきを」

ーーきよだ、おぼろ。
 どこかで聞いたことのあるような名だった。

「まさかお前……聖田朧ディアボロじゃねえだろうな」

 恵業が重い口を開く。

「ああーー僕個人としては肩書きに興味などありませんが、そう呼ばれることもあるようですねえ」

「はは、自覚無しかよ。巷じゃ"拷問のスペシャリスト"で通じないヤツはいないんだぜ」

 恵業は乾いた声で笑う。



「突然ですが、"エンジェルストランペット"ってご存知でしょうか?」
 
 かわいい名前でしょ、と聖田は陽の口を動かす。

「ああでも、野蛮な貴方がたには、"キダチチョウセンアサガオ"とでも言い換えてあげなければ分からないですかねえ。」

 先ほどからずっと、生気のない陽。

「テメェ、ヨウにクスリ盛ったな⁈ ぶっ殺してやる」

 影助はたまらず、ついに動き出してしまうが、恵業に片手で制される。

「……何が目的だ」

「うーん、目的というか、今日はちょっとお願いをしにきたんですよ」



「僕を、カルマファミリーの仲間に入れてください」

 でないと、と聖田が続ける。


日楽あきら はるさんが本物の天使になってしまうかも」

 聖田はくすくすと可笑しそうに笑う。

「エンジェ……キダチチョウセンアサガオって普段はそうでもないんですけど、処方して何十分かすると、猛毒になりかねないんですよ。ひどい方だと、幻覚作用や行動異常なんかが見られますがーー彼女はどうかな」

 陽は机に置いてあった果物ナイフを手に取り、自身の喉にそれを突き立てようとする。
まるで、操り人形になってしまったかのようだった。刹那、影助の中で何かが炸裂する。

(やめろおォォォーーーー!)

「僕なら彼女を助けてあげられますが……どうします?」

 おっと、と聖田はつぶやく。

「驚きました、聞くまでもなかったようですね」

 気がつくと影助は、陽の果物ナイフを素手で掴んでいた。じわじわと血が滲んでくる。

「影助、お前! なんて無茶を。

ーー聖田朧ディアボロさんよォ、悔しいが、契約成立だ」





ありがとうございます、と聖田は微笑む。

「僕、ちゃんとお土産も用意していたんですよ。そちら、僕の雇用主だったモノです。ーー欲しがってたでしょ?」


 聖田が、アタッシュケースをこちらめがけて投げてくる。


 中身を開けると、オッドーネファミリーのボス・アントーニオ・オッドーネの生首が、見るも無残に押し込まれていた。
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