幸狂曲第5番〈Girasole〉

目玉木 明助

文字の大きさ
16 / 18
第一楽章 カルマファミリー編

14、幸福のクレッシェンド

しおりを挟む



 陽と聖田は指切りを交わした後、本日開催されるというカルマファミリーの加入儀式に向かっていた。

 ちょうど加入時期の近かった陽と聖田。それならば儀式をまとめてやってしまおう、ということらしかった。






 雑談をしながら歩いていると、廊下で影助に出くわした。先日の件もあって、今は少しだけ気まずい。
 陽には、血の海がフラッシュバックする。


「あ、お、おはようございます。影助さん。ーーって、どうしたんですか⁈ そのケガ!」

 影助の左手には、包帯がぐるぐると巻かれていた。

 陽は近づいて包帯のほつれを直そうとすると、影助から手を振り払われてしまう。

「……オレらのこと、気絶するくらいヤになったんじゃねーの」

 陽は予想だにしていなかった発言に度肝を抜かれた。

「なっ⁈ こんなひどいケガしてるのに、敵も味方もありませんよ!」

 見るからに消毒はしていなさそうだったので、陽は常備の消毒液を取りに行こうとするが、陽さん陽さんーーと、耳元で聖田にこそこそ囁かれる。

(え? なになに⁇  ……ふんふん、なるほどそうか!)

「えっと、たしか患部には"塩水"がよく効くって聖田さんがーー!」

「オレは因幡の白ウサギかよ」

 影助は陽に、強めのデコピンを食らわせる。

 それとーーと影助は、ニコニコ顔の聖田をジトリと睨む。

「クソ悪魔はオモテ出なァ」

 指をくいくいさせる影助のうしろには、見えないはずの炎が燃え上がっていた。



 *


 紆余曲折はあったものの、会場の執務室に着くと、恵業が誰かと通話しているようだった。

ーーカルマファミリーには、現在3人の幹部がいるらしい。まずボスの恵業、次にアンダーボスの影助。そして、あと1人……には、陽はまだ出会ったことがなかった。

 ちょうどいいタイミングだったな、と恵業がこちらを見やる。

「今日は別の任務で来れないが、コイツが3人目の幹部・『文堂ふどう セイコ』だ」

 陽は、顔の見えない相手に礼儀正しく初めましてを言う。

『お、そのコが例のヨウちゃん? あーあ、せっかく今まで紅一点ポジだったのになあ。……なんてね』

『それからーー聖田朧ディアボロさん? 噂は聞いてたよー。わーお、これは早くも幹部入りまったなしじゃなあい?』

 トランシーバー越しに、大人の女性の声がする。なんとなく、美人の横顔が想起された。


「時間も時間だしな、そろそろ始めるかい?」

 加入儀式はあくまで儀式であり、決して歓迎会のような楽しいものではない。

 厳かな様子で式が始まった。

 部屋の明かりが消され、代わりに一本の蝋燭が立てられる。

「これより、日楽あきら はる、及び聖田きよだ おぼろの、カルマファミリー加入の儀を開始する」

 いつもより低く通る声で、影助が凛と告げた。


『一つ、仲間を家族とし、これを守れ』

「一つ、我らが首魁・恵業けいごう 笛吉郎ふえきちろうに命を以もって忠誠を尽くせ」

「一つ、マフィアたるもの、名誉ある"漢"として恥ずべき行動を取るな」

 影助、セイコ、恵業の順で、親指に針を刺していく。セイコはもちろん、端末の向こう側で済ませたようだ。



 聖田もそれに倣い、片膝を立てながら、ぷつりと少量の血を出した。

「次は陽さんの番ですよ」

 聖田が陽に耳打ちしてくる。学芸会でセリフを忘れた子に、こっそり教えてあげる先生のように。



 みんなの所作を見ていたおかげで、やるべきことは分かる。が、陽はたちまち狼狽してしまう。

(いざというときになって、私はどれだけちっぽけな人間なんだろうって思った)

 結局、陽は犯罪組織に加担してしまったからと言って、責任を感じて自決するほど崇高な人間ではなかったというわけだ。




ーーお嬢さん、ありがとうね。若いのに優しいねえ

 いつぞやの電車のおばあさんが、陽の脳内に語りかける。

(おばあさん、ごめんなさい。)

(私、ホントのホントは優しくなんてなかったみたいです)

 陽はおばあさんの見せてくれたあの笑顔に、胸が締めつけられる。
 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


(だって私は、これからも美味しいご飯を食べたいし、トランペットも吹きたいし、親孝行もしたいから。)

ーー生きていたいから。

   
だからこそ。

(せめて今は、目の前のことを、頑張って頑張って頑張るんだ)

 陽は親指に針を一息に刺す。
 鮮血が下へ下へと落ちていった。


不思議と痛みは感じなかった。

みんなの血が溶け合い、交わる。

これにて、陽と聖田は正式にカルマファミリーに加わったことになった。

 恵業は穏やかに微笑み、陽に告げる。

「ヨウがラッパを吹いてる間、俺らは派手に動き回れるからな。期待してるぞ」

ーーこれから私は、カルマファミリーで、マフィアとして生きていく。


(とにかく今は、未来の私に恥じないように、前を向いて歩いていこう。)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...