祠村

白狐

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1.始

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ここは都会から離れた田舎・・・・・・いや、そこからも遠く離れた山の奥。空を覆う森林が太陽の光を遮り、昼でも暗いトンネルを作り出している。風に揺れる葉の隙間から漏れ出した光が、点々と地面を照らす。そこのくねくね道の山道を、1台の古い田舎バスがカーブを繰り返しながら通り過ぎる。古臭いガタが来ている音に、尋常じゃない排気ガスを撒き散らし、辿って来た後道を黒く濁らせた。車体は激しい地震のように揺れ、いつ故障してもおかしくないスピードで山中を止まらず駆け上がっていく。

 車内では、髪の薄い眼鏡をかけた中年の運転手がハンドルを回す。身なりは汚く、端から見れば、だらしない生活を送っているようなおじさんだ。少し黄ばんだ白いシャツの胸ポケットには、開封済みの煙草がお守りのように収められていた。彼は太い唇を閉ざし、正面から目を逸らさず、黙々と仕事を全うする。

 更にその後ろ、右側の後部座席の1つ前に、1人の乗客が席に腰かけている。運転手とは年が大きく離れた背の低い少年が椅子に腰かけ、自然しかない外を窓越しから、退屈そうに眺めていた。ぼさぼさの黒髪に、目がぱっちりとした精悍な顔つき。チェックのハンチング帽を被り、洒落た茶色とクリーム色のコートで身を包んでいる。まるで探偵のコスプレのような、都会に住む雰囲気を放つ格好だった。

 やがて少年は黄昏るのをやめ、席の上で正しい姿勢を取ると、肩に掛けてあった鞄のボタンを外し、手を入れ中身を漁る。取り出したのは1枚の書き切れで、クシャクシャにあちこちが曲がり、へこんでいる。二枚折りに畳んであったそれを広げ、書かれている文字の内容を目線で読んだ。



千歳 唯月くんへ

唯月くん、久しぶりだね?元気にしてた?こっちは不便ながら、一生懸命やってます。
それはそうと、中学校卒業おめでとう!唯月くんが高校へ進学すると聞いた時は、嬉しくて飛び上がりました。
私の家族も、君の成長を喜んでいたよ。

そのお祝いとして、私の家でパーティーを開く事を決め、この手紙を書きました。
最後に会ってから、もう4~5年ぶりになるかな?久々に会える事を、凄く楽しみにしています。
本当は私がそっちに行きたかったんだけど、忙しくて村を離れられないんです。無理を頼んでごめんね。
東京の景色、私も見たかったなあ・・・・・・いつか、ディズニーランドにも行きたい!

ちなみに私の住んでる場所、どこだか覚えてますか?
○○県の△△市の外れにある山奥の村、『祠村』です。
道中に気をつけてきて下さいね。たくさんのご馳走を作って待ってます。


                           立華 小鳥より



「小鳥お姉ちゃんも元気に過ごしているみたいだね。僕も会えるのが楽しみだな。5~6年かあ・・・・・・あれからそんなに経つんだ。でも、祠村ってどんな所だっけ?」

 唯月は顔をほころばせ、読み終えたばかりの手紙を再び鞄の中にしまう。窓の手前にある溝に肘を乗せ、頬を手の乗せると、再び木々と草花しかない景色を眺める。


 あれからしばらくしても、バスは進み続け、山の奥のさらに奥へと入り込んでいく。さっきまであった、ふもとに広がる広大な景色は、既に見えないほどに遠ざかっている。雑草のように生い茂る無数の木々の壁が、隙間をも遮りどこまでも並ぶ。歩道には人の姿はなく、こんな所に道路が敷かれているのが妙な違和感を作り出す。

 昼が夕方に少し近づいた頃、やがてバスは道路の脇ある一本のバス停に行き着いた。聞き心地の悪い、甲高いブレーキ音と共に停車し、前の扉が外への出口を繋ぐと

「お客さん、着きましたよ」

 運転手が到着を告げる。唯月は席から立ち上がると運転席まで行き、整理券と1260円の代金を支払う。お辞儀とお礼を同時にして、バスから降りようとした矢先

「お客さん、ちょっといいか?」

 不意に運転手から、ただならぬ剣幕で呼び止められる。出入り口の階段に片足を乗せ、唯月は横顔だけを振り返らせた。

「その洒落た服装、あんた都会の人間だな?しかも、子供が1人でこんな山奥に立ち入るなんてそうそうない事だ。念のために聞くが、ここには何のために来た?」

 真剣な眼差しと、訝しげの問いに圧倒され、唯月はすぐには答えられず返答に苦悩した。とりあえず、重い空気を和ませるため、温和な態度で訳を話す。

「この先の村に従弟が住んでいるんです。手紙を貰ったから、これから久々に会いに行こうと思って・・・・・・」

「そうか、ならいいんだ。ここは人が滅多に立ち入らない山奥だからな。人の恐さを知らない獣も多い。迷わないよう気をつけてな」

 真面目な注意を促した運転手は、口を閉ざし何度か頷く。たった1人の乗客を外に下ろすと、扉を閉ざしハンドルを握る。乗客のいないバスはエンジンを鳴らして動き出しその場から立ち去って行った。

「さてと、ここからは歩きだ」

 唯月は軽い運動で、凝った体をほぐすと、気紛れに深い森林を見回す。ひんやりと涼しい環境が心地よく、都会とは裏腹の新鮮な空気を胸いっぱい大きく吸い込んだ。そして、鞄から取り出した地図を頼りに、目的地に足を進める。
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