祠村

白狐

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2.祠村

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「・・・・・・ん?」

 でこぼこの悪路を歩き始めてから5分、唯月はある物に目が留まった。道の端に、木で造られた小さな建物が置かれている。苔が生え、石台の上に塔のような屋根を持つ、神社に似た形状。近づいて確認すると、それは何十年も前に建てられただろう、古い『祠』である事を知る。

「祠がある・・・・・・そういえば、僕が今行こうとしているところの名前も祠村・・・・・・多分、これに由来してるんだね。こういう物はテレビで見るだけで、実物を目の当たりにしたのは初めてかも知れない。記念に写真でも撮ろうかな?」

 物珍しさの興味本位を抱き、祠の前で立ち止まると暫し、それをじっくりと観察し始める。祠の扉は開けられ、屋根にはしめ縄、その下には火のない溶けた蝋燭。カメラ機能に切り替えたスマホを向けた時、

「仏じゃない・・・・・・これは何かの動物・・・・・・?」

 唯月は、異様な物を映し出したスマホを、手前から下ろす。祭壇に祀られていたのは、神の像ではなく、見た事もない動物の置物だった。獅子の顔、虎の胴体、熊の手足を持ち、尾は狼を思わせる容姿を模っている。そして、その前に供えられているのは・・・・・・

「何これ・・・・・・肉・・・・・・?」

 蝋燭の間に置かれていた得体の知れない生肉に気づく。肉は数週間放置されたのか、腐敗しハエの幼虫が無数に湧いている。異臭を放つ黒い肉汁が溢れ、祠を濡らしぽた・・・・・・ぽた・・・・・・地面に垂れ小さな血溜まりを作っていた。

「うぇ・・・・・・気持ち悪い・・・・・・こんな物を供えるなんて、この村の風習ってちょっとやばいんじゃ・・・・・・こんなの家族や友達には見せられないよ・・・・・・」

 吐き気に苛まれた口を覆い、取り出したばかりのスマホをしまう。ぞっとした寒い感触に苛まれながら、一歩、また一歩と引き下がる。気分を害した唯月は、祠から目を逸らし、そそくさと逃げるように先を急いだ。


「ここが祠村・・・・・・」

 十分に堪能した森を抜けると、ようやく目的地である祠村へと辿り着く。唯月はそう独り言を呟き、目と口を丸くすると、真顔の表情を浮かべる。だが、すぐに彼は孤独という不安から解放された事に相好を崩した。村の出入り口には酷く錆びた門が聳え、外部の人間を歓迎するように開いている。その両端にも、さっきと同じような見るに堪えない祠が真ん中の道を挟むように並ぶ。

「・・・・・・ねえ、そこのあんた!」

「・・・・・・!」

 門を潜るといきなり誰かの声が響く。無意識に振り返ると、村人らしき中年の女性の姿があった。掃除の最中だったらしく、隣にはかき集めたたくさんの落ち葉が、脚の高さまで盛り上がっている。彼女は箒を構え、身を守る姿勢を取りながら警戒している様子で

「その派手な格好、あんたこの村の人間じゃないね?どこから来たの?」

 と率直な質問をされた。

「あ、えっと・・・・・・僕は東京から・・・・・・」

 唯月は緊張のない返事を返し、女性は驚いた顔を近づけ

「と、東京・・・・・・!?あんな遠いとこから1人で!?あんた子供でしょ!?ここには何しに来たの!?」

 さっきのバスの運転手とほぼ変わらない質問に、思わず苦笑してしまう。唯月は態度を改めると、先ほどと、ほぼ変わらない台詞で村を訪れた理由を述べる。

「ここに住んでいる立華小鳥って人から手紙を貰ったんです。だから久々に会いに行こうと思って、この祠村を訪れたんですが・・・・・・?」

「立華小鳥・・・・・・あんた、小鳥ちゃんの従弟か何か・・・・・・?」

「はい、そうですけど?あれ?おばさんも小鳥お姉ちゃんの知人ですか?」

 すると、女性はあっさりと気を許し、わざわざ用心した自分の行為に面白おかしく笑った。腹部を叩き、終いにはいかにも中年らしい笑い声を吐き出し

「えひひひ・・・・・・ごめんなさいね、別にあんたを笑ったわけじゃないわ。たちの悪い勘違いをした自分がバカらしくて・・・・・・ええ、知ってるわよ。この村は意外と小さいから、住人の名前は全部覚えてるわ。小鳥お姉ちゃんに会いに来たのね?家はどこか分かる?」

「家ですか?ああ・・・・・・そう言われてみれば、どこだろう?手紙には書いてなかったな・・・・・・」

 真剣な唯月に対し、女性はツボに入ったまま遠くを指差し

「あそこの坂の上に、松の木がある家が見えるでしょ?あそこが小鳥ちゃんの家よ。多分、あの子も家に・・・・・・ぷっ、あはははは!」

 相変わらず笑いを堪えられない女性に、唯月もしぶしぶ表情を合わせる。とりあえず、案内をしてくれた事に礼を言うと、その場を後にし、村の内側へと足を進めていく。
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