流刑王ジルベールは新聞を焼いた 〜マスコミの偏向報道に耐え続けた王。加熱する報道が越えてはならない一線を越えた日、史上最悪の弾圧が始まる〜

五月雨きょうすけ

文字の大きさ
19 / 65
第四話 三年目のスキャンダル

三年目のスキャンダル⑥

しおりを挟む
 レイナード家は由緒正しい騎士の家系だ。

 男児は騎士となるべく英才教育を施され、10歳になれば軍の幼年学校に通い、15歳になれば騎士団の入団試験を受ける。
 俺も他の兄弟たちと同じように決められた道を歩んでいた。
 他の兄弟たちと異なったのは、剣の才に恵まれていたことだ。
 他の兄弟たちは寝食を忘れて稽古に没頭してようやく学年で十傑にかかるかかからないかというところだったが、俺は幼年学校に入って二年目から修了まで学校一の剣の使い手の座を明け渡しはしなかった。

 騎士団に入ってからも破竹の勢いで先輩方を追い抜き『レイナード家の最高傑作』と呼ばれるほどだった。
 
 そのように称えられることに馴れていた俺だが、王宮務めの近衞騎士に選ばれた時は流石に歓喜した。
 向上心の低い同僚は、

「良いよな。王宮勤めならモンスターと戦うことはないし安全で」

 などと羨んできたがそれは勘違いというものだ。
 近衛騎士に敗走、撤退は決して許されない。
 王家の方々をお守りすることが何よりも優先される。
 最後の壁として戦い抜く胆力とどのような刺客が現れても打ち勝つことができる実力がなければ務まらない。
 一人の騎士としてこれ以上の評価はなく、この大任を授かったことを光栄と思った。

 だが、往々にして理想と現実の間には埋めがたい差があるものだ。



「くれぐれも人に漏らさないように。
 騎士爵ごとき私からすれば平民と変わらないんだから。
 親兄弟が罪人として市中に首を転がされるのは嫌でしょう?」

 皆が憧れる美貌の王妃フランチェスカ様は自分の密通を隠すために俺を脅迫された。
 国王と不仲だとは聞いていたが、まさか他の男と情を交わしているとは思わなかった。
 それも一人や二人ではない。

 好みは筋骨隆々とした巨躯の男。
 年齢は30~40歳頃。
 肌や髪の色にこだわりは少ないようで浅黒い肌をした南方の男や顔の彫りが浅く平たい顔をした男もいた。
 さらに言えば身分も微妙な男ばかりだった。
 流石に平民こそ混じらなかったが、爵位を継げなかった貴族の次男や三男が多く、中には部屋住みのものまでいた。

 こんな爛れた火遊びはいずれバレる、と思っていた。
 人の口に戸は立てられない。
 誰かがマスコミに情報を売りに出れば一発だ。
 新聞屋はこぞって国王陛下の粗探しをしている。
 王妃が寝取られたなんて、いかにも下衆が好みそうな話題だ。

 だが、王室の闇というものは俺が想像していた以上にドス黒く受け入れ難いものだった。

 その日も王妃は自室で浮気相手と情事を愉しんでいた。
 しかも真昼間からだ。
 嫌々ながら扉の前に立っていると、

 ガンッ!!

 強く扉を一回叩かれた。
 これは王妃からの緊急事態の合図である。

「陛下!?」

 俺は勢いよく扉を開けて、室内に飛び込んだ。
 そこには裸の王妃が扉の裏側に立ち、ベッドの上に座っている男を睨みつけていた。
 均整の取れた豊満な裸身を膝掛け布一枚で隠しながら俺に命じた。

「サリナス。あれは賊よ。
 首を跳ね飛ばしなさい」

 彼女の言葉に男は仰天する。

「ま、待ってくれ!?
 何故だ!? ついさっきまで貴女だって愉しんで」
「やりなさい!! サリナス!!」

 悪鬼のように顔を真っ赤にして吠える王妃。
 俺は理解した。
「死人に口なし」。
 それが王妃流のリスク管理というやつなのだろう。
 反論に意味などない。
 俺が切らなければ俺以外のやつがこの間男を殺すし、俺も死ぬ。

 心を殺し、俺は剣を抜き、狼狽える男の首を跳ね飛ばした。
 その日から俺は寝室の番だけでなく王妃の忠実な飼い犬として人を斬る仕事も与えられた。
 俺が斬った死体は王妃が最も信頼している侍女が始末する。
 王宮のトイレから流されるのは糞尿だけでなく砕かれすり潰された死体が混じることを知った。
 
 俺は後悔していた。
 こんなことならば騎士などやめて辺境で冒険者をやった方がマシだ。
 だが、王妃の秘密を知っている俺が逃げられる訳がない。
 よしんば俺が助かってもレイナード家の一族郎党は見せしめのため皆殺しだ。
 いつか、この寝室の前に王妃の命を狙う暗殺者が現れたとして俺は命懸けで剣を振るうことは出来るだろうか?
 俺は闇の中で自分の道をすっかり見失ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...